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戦国異伝

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第五十一話 堅物のことその五


「是非な」
「左様ですな。そうすればよいですね」
「そうじゃ。わしはあの方はよいと思っている」
 そうだというのだ。義輝はだ。
「公方様に相応しい」
「だからですか」
「御会いしてわかった。あの方はよい方じゃ」
 信長はそのことをよく見ていた。そしてなのだ。
 林にだ。こう言うのだった。
「だからこそ。何かあれば」
「その時は何としても」
「お救いしたいな」
「左様ですな。それでは」
「うむ、手筈は整えておけ」
「はい」
 林が応えてだった。このことも決められるのであった。
 信長は美濃だけを見てはいなかった。天下全体を見てだ。そのうえで考え動いていた。
 そしてだ。林が去るとだ。今度は池田恒興だった。
 彼はだ。信長にこのことを話したのだった。
「四国ですが」
「土佐からじゃな」
「はい、長宗我部です」
 この家がだというのだ。
「紫の鎧や旗で飾りです」
「土佐を一つにしてじゃな」
「三好の讃岐や阿波を窺っております」
「ふむ。四国はこれまでのところ」
 どうだったかと。信長は話すのだった。
「三好が讃岐と阿波を治めてじゃ」
「土佐や伊予は多くの国人に分かれていました」
「そうじゃった。しかしあの家が出てじゃ」
「それが一気に変わったというのだ。その家こそが。
「長宗我部家が出てからです」
「その通りじゃ。しかも今の主」
 その主がだ。誰かというと。
「元親といったな」
「はい、その者です」
「鬼若子というが」
「かつては姫若子と呼ばれていました」
「そうじゃったな」
 このこともだ、信長は知っていた。多くの国のことを調べている故にだ。
「初陣まではとても弱々しく頼りなかったと聞くが」
「しかし初陣で、です」
「槍を手に縦横に暴れたそうじゃが」
「その強さは鬼の如きだったとか」
「それで忽ち姫が鬼になったのじゃな」
「その通りです」
「わからぬものじゃ」
 信長はここまで聞いて静かに述べた。
「人は急に化けることもある」
「それは長宗我部殿も同じだったというのですね」
「そうじゃ。まさにその通りじゃ」
「それでその元親殿ですが」
 池田は彼の話をさらにしていく。その話の中身は。
「阿波、讃岐を手中に収めれば」
「後は伊予だけじゃな」
「四国を手中に収めることになります」
「それで終わりではないじゃろうな」
 信長は池田にこう話した。
「それからもじゃ」
「では。四国から」
「そうじゃ。都を狙う」
 長宗我部もだ。それを狙っているというのだ。
 そのことをだ。信長は池田に話すのだった。
「間違いなくじゃ」
「ううむ、ではあの者は」
「よい。特に始末することはない」
 それはいいというのだ。 
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