戦国異伝
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第五十一話 堅物のことその四
「わしも同じ考えじゃ」
「ですな。あの者はどうも出自がはっきりしませんが」
「しかしそうした者だからこそじゃ」
「家を乗っ取る」
「そうして上を目指すのであろう」
信長は今はそう見ているのだった。松永という男をだ。
そしてだ。その松永についてだ。彼はこうも話した。
「蠍じゃな」
「あの毒を持つという虫ですね」
「明や天竺におるというな。それじゃ」
「毒蛇と同じだけ剣呑と聞いておりますが」
「大和の蠍じゃ」
信長はまた話した。
「それじゃろうな」
「ではその蠍は」
「一度見てみたいものじゃな」
「なっ!?」
ここでだ。林は松永を取り除くべきと言おうとした。しかしだ。
信長はこう言った。主のこの言葉にだ。
驚きを隠せずにだ。こう返したのだった。
「また突拍子もないことを」
「ははは、驚いたか」
「今回もですな」
己の主に対して驚いたことは一度や二度ではない。そうした意味では慣れてはいた。
だがそれでもだ。彼は今も驚かざるを得なかった。そしてこう言った。
「突拍子もない」
「蠍を殺さずに会うことがか」
「そうです。その様な危険なもの」
「会って確かめずにはおれん」
これが信長の考えだった。
「是非な」
「ううむ、それがしは」
「賛同できんか」
「左様です。若し殿に何かあれば」
「何、前には蝮と会っておる」
ここで話したのは道三だった。彼の義父である彼のことだ。
「ではじゃ。蠍と会うのもじゃ」
「よいと言われますか」
「面白そうじゃ。それもな」
「殿らしいですな」
林は信長のその言葉を聞いてだ。今度はこんなことを言った。
「そうしたところがまた」
「ははは、そうじゃろう」
「納得はしております」
何だかんだでだ。主の突拍子のないことを理解してのことだ。
だがそれでもだとだ。彼はまた言うのだった。
「しかし。それでもです」
「賛同はできんか」
「できるものではありません」
そうだとだ。難しい顔ではっきりと話した。
「真に。何かがあれば」
「蠍には刺されなければよいのじゃ」
これが信長の言うことだった。
「蝮には噛まれずにじゃ」
「では。刺されぬようにして」
「見てみたい」
また言う信長だった。
「是非な」
「左様ですか。しかし松永めはまことに」
「それは非常に危うい」
また将軍のことについての話になった。それにだ。
「何時どうなるかわかったものではない」
「ではどうされますか」
「人をやるか」
信長はこう林に話した。
「何かあれば都を出てじゃ」
「そのうえで、ですな」
「我が家が御護りしよう」
そうするというのだ。
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