戦国異伝
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第三十七話 二つの砦その五
「背は低いし顔はまずい。しかも武芸は全く駄目ときております」
「しかし頭は回る」
「おまけに話しておると妙に憎めない」
「変わった奴じゃのう」
「わしは実は好きではありませぬ」
柴田はその木下への感情をありのまま林に話した。
「どうにも。ああした者は」
「しかし嫌いでもないというのじゃな」
「不思議とそこまではいきませぬ」
まさに竹を割ったかの如き性格の柴田もだ。そうだというのだ。
「あれはわからぬ者です」
「その猿が今鷲津におるが」
「どうなりますかな、一体」
こんな話をしてだった。林は柴田と共に城を出た。その際に多くの者を集め飲むのだった。その城ではだ。
信行がだ。旗本達の話を聞いていた。彼等もその不安を見せていた。
「今川が来ますが」
「果たしてどうなるでしょうか」
「殿は今だに動かれませんが」
「どうされるおつもりなのか」
「一体」
「何、焦ることはない」
しかしであった。信行はだ。
蟄居になる直前のままの冷静な様子でだ。こう彼等に言うのだった。
「極端なところこの清洲にまで来る」
「そして城を取り囲んでもですか」
「よいというのですね」
「それならそれでやり方があるからな」
そのやり方はだ。何かというとだ。
「何しろ美濃との境に平手の爺が率いている兵がおるではないか」
「我が織田家の主力のですか」
「あの者達が」
「そうよ、今ここで我等が何かを言っても仕方がない」
これが信行の彼等への言葉だった。
「全くな」
「では殿が動かれるその時をですか」
「待っていればいい」
「そう仰るのですか」
「では聞くがだ」
信行は己の前に集う彼等にだ。こう問うのだった。
彼からだった。問い返して言うのであった。
「ここで我等が騒いで何になる」
「それは」
「そう言われますと」
「新五郎が言っても全く動かなかったのだ」
その気配すらなかった。全くだ。
それではだ。彼等が言ってもだった。
「我等がここであれこれ話をしてもだ」
「何にもならない」
「そうなのですか」
「そういうことだ。そんなことを話す暇があればだ」
どうするべきか。信行はその話をするのだった。それは。
「英気を養うべきだ」
「然るべき時に備えて」
「そうしてですね」
「そういうことだ。美味いものを食べ」
そうしてだというのだ。
「剣を振り弓でも射ることだ」
「身体も鍛えよと」
「それも忘れるなというのですか」
「ここで騒いでも何にもならん」
これはだ。間違いないというのだ。
その言葉には。彼等も言うのだった。
「そうですな。そんなことを話すよりも」
「いっそのこと馬でも駆ればいいですな」
「それとも泳ぎますか」
「そうしますか」
「うむ、わしもここはじゃ」
信行自身もだ。どうするかというのであった。
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