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戦国異伝

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第三十七話 二つの砦その四


「どうにもな」
「しかし焦っても仕方ありませんぞ」
「それはわかっているのだが」
 それでもだというのだ。
「殿は動かれるのかどうか」
「動かない筈がありませんがな」
「そうじゃな。では今は焦らぬのが吉か」
「そうでござる。平手殿ならともかく」
 信長に対して諌めを言うのなら彼だ。信長もその言葉にはどうも弱いのだ。
「新五郎殿がそれをされてもです」
「どうにもならないな」
「そうです。落ち着かれましょう」
「わかった。それではだ」
「それでは?」
「何か食べるとしよう」
 林は少し落ち着いた赴きになってだ。こう話すのだった。
「今からな」
「では何を食われますかな」
「とりあえず城の外に出てじゃ」
 そうしてだというのだ。まずは城の外に出てだ。
 そのうえでだ。食べるといえばだ。
「酒を飲まれますか」
「どうじゃろうか、それで」
「酒といえば肴でございますが」
「豆を適当にかじるか」
 それを肴にするというのである。
「それでどうじゃ」
「そうでござるな。ではそれで」
「二人で飲むとするか」
「いやいや、二人で飲むよりもでござる」
 柴田は大きく笑いながら林に言うのであった。
「大勢で飲んだ方がいいですぞここは」
「大勢でか」
「そうでござる。他に誰か呼びますか」
「そうじゃな。誰も呼んでな」
「それでは」
「うむ。ただしだ」
 ここでだ。林は一旦眉を曇らせてだ。そのうえでだ。
 こんなこともだ。言うのだった。
「慶次が来たらじゃ」
「新五郎殿もあ奴には」
「そうじゃ。この前悪戯をされた」
 林にもだ。そういうことをしっかりとする慶次だった。
「草履の裏に油を塗っておった」
「ではそれを履こうとして」
「つるっと滑ってこけてしまったわ」
 実に慶次らしい悪戯だった。彼にとって悪戯は生きがいなのだ。
 しかしそれをされた林はだ。怒ることしきりだった。
 それでだ。こう言うのだった。
「一度しっかり怒っておくか」
「あ奴は懲りませぬなあ」
「全くじゃ。幾ら叱っても懲りはせぬ」
 それが慶次なのだ。
「どういう奴なのじゃ」
「いやいや、わしにしてもござる」
「権六も大層怒っておるな」
「しかし聞きませぬ。おまけに近頃では」
 ここでだ。もう一つ厄介なことが話されるのだった。
「才蔵もおりますし」
「あ奴か」
「あ奴は悪戯はこれといってしませんが」
「とにかく喧嘩が好きだからのう」
「強そうな奴にはすぐに喧嘩を売ります」
 それもまただ。困ったことだというのだ。
「ごろつきを見つけたらすぐにでございますから」
「ごろつきなぞ放っておいてもよかろうに」
「どうも許せぬようで」
「殿は才ある者を集められるが」
「癖の強い者も多いでございますな」
「うむ。あの猿といい」
 林はふとだ。木下の話を出したのだった。
「変わり者も多いな」
「あの猿は確かに」
 柴田の顔がだ。木下の名前を聞いて微妙なものになった。
 そうしてだ。彼はその顔でこんなことを言うのであった。 
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