戦国異伝
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第八十六話 竹中の献策その七
「後は戦がはじまりそれを進めるだけじゃ」
「若し咄嗟のことが起こればですか」
「その時は」
「わしが動く」
他ならぬだ。信長がそうするというのだ。
「戦に咄嗟のことは付きものじゃがな」
「その際は殿がですか」
「果たされますか。では」
毛利と服部はここまで聞いてだ。そうしてだった。
彼等は信長の左右につきだ。こう言うのだった。
「周りはお任せ下さい」
「我等が御護りします」
「頼むぞ。わしとてここで倒れるつもりはない」
まだ先を見ているというのだ。遥かな。
「その時が来れば動くぞ」
「はっ、では我等もまた」
「殿と共に」
毛利と服部は再び信長に応える。彼等も己の責を全うするつもりである。そしてその中でだ。服部は先程の軍議からだ。こう言うのだった。
「しかし三好の先陣とは一体」
「その者じゃな」
「はい、面頬で顔はわからぬといいますが」
それで余計にだった。彼はいぶかしむのだった。
「一体何者でございましょうか」
「わからぬな。しかしじゃ」
「しかしとは」
「三好家の譜代の者ではないやもな」
信長はその鋭い勘からこう察していた。そして言うのだった。
「先陣を務めておるにしてもじゃ」
「三好譜代の者ではない」
「そうなのですか」
「三人衆は当然本陣におる」
他ならぬだ。彼等はそこにいるのはわかっていた。
「そして主だった者達も既に居場所はわかっておるがじゃ」
「先陣のあの者はですか」
「わかっていないのはあの者だけだというのですな」
「では譜代の者ではあるまい」
そうしたことまで踏まえての見方だった。
「おそらく浪人者の中で名のある者じゃろうな」
「浪人で名があるといいますと」
「それは一体」
「さてな。わしもそこまではわからぬが」
信長もだ。まだそこまではわからなかった。彼にしてもだ。
「先陣を任されておるとなるとそれなりに名のある者じゃろうな」
「ううむ、では我等の知っている者でしょうか」
「その者は」
「そうやも知れぬ」
その可能性もだ。信長は否定しなかった。
だがそれでもだった。実際にどういった者かというとだった。
「しかしやはりわからぬ」
「左様ですか」
「その面頬の者は」
「しかし戦は進める」
敵の将がわからないという不安要素があってもだ。それでもだというのだ。
「このままじゃ。よいな」
「はい、ではこのままですな」
「戦に入りましょう」
毛利と服部は主の言葉に応えた。そうしてだった。
織田軍はそのまま前に出た。それを見てだ。
三好軍の本陣にいる三人衆は円陣の様に座ってだ。そのうえで話していた。彼等の顔の色はあまりよくはない。むしろ土色になっていた。
そしてその土色の顔でだ。こう話すのだった。
「播磨、そして大和からも来ておるしのう」
「ここからは織田の主力じゃ」
「ここで負ければ後がないが」
「若し勝てたとしてもだ」
それでもだった。彼等の置かれた状況は。
「まだ播磨、大和から来るからのう」
「それでじゃな」
長逸が言った。
「その敵の動きで国人共も動揺しておる」
「それもあるのう」
政康は彼の言葉に対して言う。
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