戦国異伝
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第八十六話 竹中の献策その四
「それは敗北の第一歩です」
「わかっておる、侮ってはおらんわ」
「だといいうのですが」
「その三好じゃが」
「はい」
「確かに兵の数はそこそこじゃ」
そもそも近畿のかなりの部分を掌握していた。それ故の言葉だった。
「数はそのまま力じゃ」
「しかしなのですね」
「うむ、戦は数だけでもない」
信長はこのことも忘れていなかった。
「そこに智恵や食い物もある」
「そうした全ての要素を確めたうえで、ですね」
「戦を挑まれますか、三好と」
「そうしますか」
「無論じゃ。もう決めておった」
三好との戦はだというのだ。
「美濃を出た時からのう」
「ではその時からですか」
「今の様に領土を拡げられ」
「そして摂津、河内、和泉も手に入れる」
「そこまでのことを」
「うむ、決めておった」
考えとしてだ。定めていたというのだ。
「だからこそ六万の兵で都まで進んだのじゃ」
「都も掌握されて、ですか」
「そこから四方に手も伸ばされたのですか」
「うむ。ただその時から本願寺はのう」
どうしてもだ。信長は本願寺への警戒の念を弱められなかった。
だからこそだ。三好を見ながらもこう言うのだった。言わずにはいられなかった。
「どうしたものかと思っておった。それで三好が来ておるのじゃな」
「率いているのは三人衆です」
他ならぬ彼等だというのだ。
「彼等がまた来ております」
「左様か」
「ただ。先陣はです」
戦ではこれも大事だ。誰が先陣を務めているかどうかを知ることもだ。だが生駒はこのことについてはだ。首を捻ってこう主に話したのだった。
「どうも。急に三好に入った様で」
「知らぬというのか」
「申し訳ありません。どういった者かです」
わからないというのだ。それも全くだ。
「兜に面頬していますので」
「それ故にさらにわからなくなっておるのじゃな」
「まさにその通りです」
「確かに厄介じゃのう。相手が見破れぬまで上手に化けておるかどうかはわからんが」
忍者を使っていると考えているからこその言葉だ。
「だがそれでもじゃ」
「はい、三好との戦に勝ち」
「あらたに三国を加えましょうぞ」
こう話してだった。彼等はだ。軍を先に進めていく。そうして程なくしてだ。その三好の軍勢と対峙したのだった。しかしその数はだ。
思ったより多かった。信長は竹中から聞いたのだった。
「急に兵を集めた様です」
「浪人を大勢雇ったか」
「はい、どうやら」
竹中はここでその整った顔を歪めさせた。彼にしては珍しく。
そしてそのうえでだ。こうも言ったのだった。
「ここで浪人達を雇うとは」
「三好もそれだけ必死ということじゃな」
「思えば三好にはまだ力があります」
そしてその力が問題なのだった。
「浪人達を大勢雇い入れるだけの銭があります」
「そうじゃな。伊達に近畿を掌握してきた訳ではない」
それだけにだ。銭も蓄えてきていたというのだ。
「そして家宝なり何なりを売ればじゃ」
「また銭ができますか」
「そうじゃ。わしもこれは考えておらんかった」
信長もそうだったのだ。まさかここで彼等がそうしてくるとは思わなかったのだ。だが兵が増えていることは事実だった。それで信長はここでこう言ったのである。
「しかしこのことはよい」
「宜しいのですか」
「言ったところで三好の兵が減る訳ではない」
だからだ。いいというのだ。
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