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戦国異伝

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第八十六話 竹中の献策その五


「ならばよい」
「左様ですか」
「してどれだけじゃ」
 兵の数だった。今度問うたのは。
「三好の今の数は」
「はっ、それですが」
 伝令の侍頭が答える。
「およそ五万かと」
「ふむ。ここに来るのは三万と思っておったがのう」
「まさに死力を出してきましたな」
 今言ったのは生駒である。
「その銭も何もかも出してですな」
「浪人達を二万も雇ったか」
「浪人だけではないやも知れませぬな」
「百姓はおったか」
 生駒の今の言葉を聞いてすぐにだ。信長は眉をぴくりと動かした。
 そしてそれから即座にだ。また侍頭に問うたのだった。
「その中に」
「いえ、粗末な具足や旗の足軽はおりましたが」
「百姓上がりじゃな」
「そうかと。しかし百姓はおりませんでした」
「ならよい」
 信長は侍頭の言葉を聞いてすぐに笑顔になった。そうしてこう言った。
「百姓がおらぬのならな」
「やはり本願寺はおりませぬか」
「彼等は」
「うむ、それならよい」
 こう言ったのである。竹中と生駒に対して。
「思う存分戦えるわ」
「どうも浪人だけでなく百姓にも銭を渡して具足を着せているようですな」
 森が話を聞いて彼等の分析をしてみせた。
「そうまでして数が欲しいですか」
「そうであろうな。しかしじゃ」
「しかしですか」
「そうした者達はどうということはない」
 全く重視していなかった。何一つとしてだ。
「一喝すれば立ち去る。烏合の衆に過ぎんわ」
「では銭で雇われた浪人達もですな」
「その者達にしても戦に負けるとなればすぐに逃げる」
 金で忠誠は買えない。そういうことだった。
「ならば気にすることはない」
「ではやはり問題なのは三好の者達だけですな」
 池田がこう言ってきた。
「そうなりますな」
「そうじゃ。まあ兵は五万じゃな」
 信長は敵の数は的確に頭の中に入れた。
「今の我等とほぼ互角じゃ」
「では殿、この度はどう戦われますか」
 竹中が軍師として問うてきた。
「やはり正面からでしょうか」
「半兵衛はどう思うか」
 信長は答えずにだ。竹中に問い返したのだった。
「兵は数ではほぼ互角じゃ」
「はい、しかしです」
 竹中も信長に応えて言うのだった。彼の考えを察したうえでだ。
「その質は大きく違います」
「我等の兵は弱いがそれでもじゃな」
「三好の兵も強くはありませぬ」
 竹中はこう看破していた。そしてこうも言ったのである。
「我等とほぼ同じ程度です」
「近畿の兵は弱いというのじゃな」
「左様です。近畿の兵も尾張の兵と同じ様なものです」
「では個々では同じ程度じゃな」
「それならば重要になるのは武具です」
 兵の強さが互角程度ならばそれが問題になってくる。竹中はそうしたところも見てそのうえで信長に答えるのだった。
「こちらは多くの鉄砲に長槍があります」
「そして弓もあるのう」
「具足もよいものです」
 織田家は具足も考えていたのだ。その青い具足は他の家のものに比べて軽くしかも小手もあれば足も守っている。無論草履もはいているのだ。足軽に至るまでだ。
 そうしたものまで頭に入れてだ。竹中は信長に答えていく。
「その強さは三好の兵を凌駕しております」
「では正面からぶつかっても勝てるな」
「いえ、それでは死ぬ者が多く出ます」
 竹中がこう言うとだ。信長はにやりと微かに笑った。しかし今は語らない。竹中に対して語らせるままにしてだ。聞き続けるのだった。竹中もそれを受けて話していく。 
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