学園黙示録 Highschool Of The Dead ~壊れた世界と紅の狼~
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蒼騎真紅狼の過去
~真紅狼side~
取り敢えず、状況を確認しよう。
まず、平野。
なんでかは知らんが魂が飛んでる。
自然治癒できるから、放っておこう。
次に孝。
何故かタオル一枚の静香先生を背負っている。
視線から『HELP』と訴えていたので、しょうがなく俺が代わりに請け負った。
どうやら、孝も男として色々と限界を迎えていたらしく、平野の共に見張りと言う名の頭冷やしに行ったみたいだった。
これも自然治癒できるから放っておこう。
そして俺。
おそらく………というか、100%だが静香先生は風呂上がりに酒を飲んだっぽい。つーか、飲んだな、こりゃ。
そのほろ酔い状態の先生を背負って、下に降りようとした時、いつのまにかラフ姿の麗が目の前に居た。
「真紅狼」
「んー? って、麗!? な、なんだ?」
麗は結構独占欲が強いんだよな、この状況大丈夫かな。
という俺もメチャクチャ独占欲が強いんだけどねー。
「………あー、真紅狼が五人に増えたーー!!♪」
「お ま え も か !!」
「ふにゃ………」
麗は一気に力が抜けて、座ってしまった。
静香先生を寝かしてきてから、麗のケアだな。
俺は寝てしまった静香先生を起こさない様に階段を下りて、寝かしてあげてから風邪を引かない様にタオルケットを被せてあげた。
………ふむ、『水も滴るイイ男』って言葉があるが、この場合だと『水を滴らせるエロい女』と言った方がいいかもしれん。
まぁ、そんなことどうでもいいんですけどねー!
俺はその場から離れて、冷蔵庫から何か飲み物を取った時、台所から良い匂いがしたので毒島先輩が余った食材で何か創っているのかと思って声を掛けようとして振り向くと………………
「毒島先輩、何……を…………………ぶはっ!?」
「ん? ああ、蒼騎くんか。今、夜食と明日の昼食を創っているところだ。ってどうかしたかね?」
「………なんで、そんな姿で料理してるんです?」
その姿と言うのは、裸エプロンであった。
これ、平野が見たら血が止まらないんだろうな。
「ああ、どうもサイズの合う服がなくてな、服が乾くまでこの姿でいようと思ったのだが、はしたな過ぎたようだな、すまない」
「いや、まぁ、俺はその程度じゃ欲情するわけでもないんで、大丈夫ですけどね。孝達が見たら確実にノックアウトですよ?」
「では、キミだったら、どれぐらいのラインで欲情するんだい?」
女性が普通そういうもんを聞くことじゃないと思うんだが………
「その辺は秘密ってことで………」
「それは残念だ」
くすりと軽く笑っていた。
へぇ、いい笑顔だ。
『真紅狼ー! 真紅狼ってばーー!』
麗の叫び声に、俺と毒島先輩は苦笑し合う。
「行ってあげたまえ。時に、女とは可弱く見せたいモノなのだよ」
「毒島先輩もですか?」
「友人には、私の事は“冴子”と呼んで欲しいな」
「分かった、冴子。俺の事は………まぁ、“真紅狼”と呼び捨てで。“くん”づけは止めてもらえますか?」
「ふむ。分かったよ、真紅狼」
『真紅狼ったらー!!』
麗の声がどんどん高くなっていくので、向かう事にした。
「では、行って来るんで」
「ああ。頼んだよ」
「こう言っては気分を悪くするかもしれないが、女の扱いは慣れてるんで」
そう言ってその場を後にして、麗の元に向かった。
「真紅狼ったら、何してたのよー!」
「ハイハイ、ゴメンな?」
「謝ったって許さないわよー。抱きつかせてくれるなら許してもいいけど!」
「おう。いつでも好きな時に抱き付きな」
「えへへ♪」
麗は俺の左ももに座る。
お早いことで………
「で、何故飲んだし?」
「疲れちゃったのよ、永は死んじゃうし、世界は壊れるし………」
「………俺はここに居るから、泣ける時に泣いとけ。そんでもって、笑顔だ。女は笑顔が一番似合うぞ」
「………うん。あとで泣くから、そんときはよろしく。でも、今は真紅狼に聞きたいことがあるの」
「俺に聞きたいこと? なんだ?」
麗には秘密は重要な部分以外は全部話した筈だから、質問になるような疑問は無いと思うけど………
「さっき、お風呂の時に静香先生が推測で話してくれたんだけど………」
「うん? なんだ?」
「………真紅狼って心が壊れてるの?」
………っと、そういう話しか。
こりゃ、表情だけで読み取られたかな?
「どうなの?」
「ここじゃ………」
「答えて、真紅狼」
麗は俺をまっすぐ見てくる。
………はぁ、そうまでして見つめられたら答えざる負えないか。
しょうがない。
「まぁ、異常なぐらい壊れてるんじゃないかねぇ。………ちょっと待ってろ、飲み物取って来る」
「うん」
俺は、階段を下りて冷蔵庫の前から缶ビールを数本取り出す。
「冴子も聞きたいんだろう?」
「……私は、別に構わないのだが………?」
「二度手間は嫌いなんだ」
俺は再び冷蔵庫からジュースを数本取り出して、麗や冴子に渡す。
缶ビールを開けて、半分ほど一気に飲む。
「ま、そんなに面白い話でもないが、いいんだな?」
「「ええ」」
「まったく物好きだね、お二人さん」
そう呟き、俺は前よりもさらに前の世界、つまり俺が本来産まれ住んでいた世界の時の記憶を引っ張り出し、懐かしくそして寂しく語ることにした。
―――俺が心を壊したのは10歳の時だ。
10歳の時、俺は小学校に両親は共働きだった。その為か、帰ってきても両親がいないなんてことはよくあったが、必ず夜七時には帰って来ていたのでさほど辛くはなかったんだがな。
とある休日、父さんと母さんは俺に内緒でこっそりと買い物に行っていたんだよ。
その日は俺の誕生日だったから、おそらく誕生日プレゼントを買いに行ったんだろう。そして、帰り道に運悪く交通事故に遭った。
警察から電話が来た時は、最初は対応できなかったな。
なんせ、電話越しでいきなり『キミの御両親が交通事故で亡くなりました』って言われても実感が湧かねぇし、そこまで理解力が追い付く訳もない。
取り敢えず、その時俺が出来ることと言ったら、受話器を置いて、家の鍵を閉めて最寄りの交番に行くことだった。
俺は交番に行って、事情を話したらすぐに警察署の人間がやってきてな、パトカーに乗せてもらって安置室に連れて行かれた。
そんで部屋に入って、見た物は父さんと母さんが冷たく横たわっていたよ。
白い布を顔に被せられていて―――
そこで、麗が手を引っ張ってきた。
目には涙を浮かべて、口には出さず『もういい』と語って来ていた。
「まぁ、最後まで聞いてくれ」
「―――真紅狼、キミは………」
「冴子、俺は『両親が死んだから心が壊れた』と思っているようだが、それは違うぞ?」
「なんだって?」
「それは、ただの“きっかけ”だよ。本当に壊れた理由はその先(・)だ。………続けるぞ?」
―――――両親の死んだ理由は相手の注意不足による激突し、その上、激突後に轢き潰されたことによる圧迫死。
要はよ、激突した後、その事に気が付いた容疑者が怖くなって轢き殺したんだってよ。
もちろん、激突時に既に死んでいたらしいんだけどよ。
最初は、マスコミの各方面はこのネタに馬鹿みたいに飛び付いて連日報道。
もちろん、ウゼェぐらいマスコミ連中が家にやってきてな………ただでさえ、両親が死んでまもないって言うのに、連中はおかまいなくやってくるもんだから精神的に疲れたな。
多分、その頃からかねぇ………“感情”というモノが無くなっていったのは。
両親を殺した容疑者はすぐに見つかったんだがな、その容疑者ってのが国家議員のドラ息子だったらしくて、親に頼んで捕まらない様に根回しをしていたらしい。
その為か、警察が令状を持って身柄を拘束しても、無罪放免というあり得ない結果で終わったのを覚えている。
警察の人達は、どうにかして捕まえようとしてくれたらしいが、そこは力が有無を言わせる世界だ。
どうにもならなかったんだよ。
その時、俺は無意識の内に分かってしまったかもしれない。
『この世は、理不尽で力の強い奴だけが世の中を動かせる』ってのをな。それで、俺は確実に歪んだ。それも歪な程に。ナニカが歪んだんだ。
それが“心”なのか“人間”としてなのか、分からない。
それが分かった次の日、俺は捜査している警察の人に捜査をやめる様にお願いした。
捜査に当たっていた刑事達は、驚いていたな。
必死に説得して来たのを思いだすよ。
『御両親を殺した人達をそのままにしてていいのかい!?』とか『必ず捕まえて見せるから』とか言ってきたが、俺はそれを一蹴させた。
彼等は、渋々受諾してくれた。そして、その日俺は誓ったね。
“警察が捕まえられないなら、自分でやるしかない”
と、ね。
そこから、俺は親戚に引き取られるようになるんだが、まぁ、そこも色々と酷かったな。
まず、引き取って来る時の態度がやたらと10歳の子供に対して下手に出ていた。
俺の手元には莫大な遺産が入ってきてたからな、引き取る親戚連中はそれが目当てで近づいてきた。
俺はすぐに気が付いた。
だから、引き取られて間もなく、そこの御両親に言ってやった。
『どんなに下手に出ても、遺産は上げません』と。
そうしたら、掌を返す様に酷く扱ってきたよ。
気にいらなければ、瓶で殴るなんて日常茶飯事。
殴る、蹴るという暴行を受けながらもたらい回しにされてから、二年間耐え忍んだ。
そして俺の13歳の誕生日に……………………………………人を殺した。
人を殺したら、普通は罪悪感とかが出てくるが、俺は出てこなかった。
逆に、『人って簡単に殺せるんだな』って思ったのが最初に考えたことだった。
そこからは、俺の長くて短い復讐記だよ。
手始めに、親戚を全員(・・)殺しまわった。
俺よりも年下の子供が居ようが殺し、手足の不自由な老人が居ようが殺し、障害を患っている青年が居ようが殺し、新しい命を授かった妊婦すら殺した。
殺す基準は、とにかく親戚の関係者であるならば、殺す対象だったな。
たった一年で、殺した人数は100人を優に超えたよ。
そこから、次はあの事件をもみ消そうとした連中を一人ずつ殺していった。
男だろうが女だろうが関係なく……………
残酷に!
残忍に!
残虐に!
苛虐に!
無残に!
冷酷に!
苛酷に!
酷薄に!
暴虐に!
悲惨に!
非道に!
無慈悲に!
下品に殺した。
そして、気が付いたんだよ。
俺は人を殺している方が生きていることを実感できると。
でだ…………遂に、両親を殺したドラ息子を殺す日が来た、俺は殺し方だけは色んな方法を熟知していたからな。
その全てを、そいつの身体が壊れるまで順番に続けていったな。
最後は…………これは、言わない方がいいな。
そこで、復讐記は終了した―――
「―――これが、俺の心が壊れ、人を殺すことに躊躇いもない理由だ」
喉が渇いたので、残りを一気に飲み干して、二本目を開けた。
二人は黙っていた。
まぁ、当然か。
こんな話をされちゃあ、誰でも口はおろか声すら出せないだろう。
俺は、席を外そうと缶ビールを持って平野達が見張ってるベランダに向かおうとした時、上がってすぐ孝に出会った。
どうやら一部始終を聞いていたらしく、恐ろしい目で俺を見てきたが別に気にもしないので普通に受け流した。
「おう。平野、どんな感じだ?」
「あ、蒼騎って、酒飲んでるの?」
「俺はガキのころから酒を飲んでるから、こんなのはジュースと一緒だ」
「ハイハイ。状況はさっきと変らず。だけど、どんどん地獄に近づいて来てるかな?」
「“地獄”ねぇ………。ま、人生は楽しんだモン勝ちだし、楽しもうぜ」
「真紅狼は、この世界を順調に慣れていってるね」
「………元より、俺はこちらの世界の住人(・・)だよ。ま、ちょっと仮眠してくるから、なんかあったら起こしてくれ」
「分かったよ」
俺は、傍にあったベッドに寝転がった。
~真紅狼side out~
~麗side~
真紅狼の過去話は壮絶で辛く悲しい内容だった。
少しでも真紅狼の精神的な支えになればいいと思っていたが、そんなのは無理に等しかった。
最初から、真紅狼と私が住んでいる世界が違い過ぎていた。
10歳の子供が世界の理を悟ってしまうなんて、どこまで歪められたらそうなるのか想像が付かない。
もし、私なら………精神が擦り切れて死んでしまうかもしれない。
そう思うと、震えてきた。
「宮本くん、大丈夫かね?」
「そういう毒島先輩は大丈夫なんですか?」
「十全とはいかないが、大丈夫だよ。でも、結構堪えているがね。彼の過去は重すぎる。まるで“闇”そのものだ」
“闇”………確かにそうなのかもしれない。
でも、真紅狼は私を受け入れてくれた。
だから、今度は私の番。過去が深くて昏いモノでも私も全てを受け入れる。
私は、立ち上がって真紅狼の後を追うと、孝がそこに立ちつくしていた。
「何やってんの、孝?」
「いや………」
「ちょっとしっかりしてちょうだい」
私は孝の横を通り過ぎ、ベッドに寝っ転がっている真紅狼の横に座る。
孝が近くにいるので、嫉妬されても困るからキスは諦めることにして私は、真紅狼の腕を枕代わりにして、寝させてもらった。
「………真紅狼の味方になるって言ったもんね」
そう呟き、目を閉じた。
~麗side out~
~孝side~
真紅狼の過去を盗み聞きではあるが、一部始終を聞き僕は何とも言えない恐怖感を覚えた。
話し終えると、真紅狼は上がってきて僕は不意に睨んでしまった。
だが、真紅狼はその睨みすら軽く受け流して、ベランダで見張ってる平野の元に向かっていった。
その後、数分後に麗が真紅狼の後を追い掛けていき、そこのベッドで添い寝していた。
僕は、取り敢えず飲み物を取りに行こうとした時、毒島先輩と出会った。
「小室くんか」
「毒島先輩も聞いていたんですか?」
「ああ。ついでに聞いとけって言われてな。小室くんは………途中からかな?」
「ええ、まぁ。出ようにも出れない状況だったので、盗み聞きって形になってしまいましたが………」
そこで、お互い黙ってしまうが、少ししてから毒島先輩が口を開いた。
「真k………蒼騎くんのことが怖いかい?」
「いや、その、まぁ、少しは………」
「小室くん、キミは正しい反応だから、別に負い目を感じなくていい。だが、ああいう人間も居ることを分かって欲しい」
「………はい」
その時、突然家の前で犬が吠えていた。
わんっ! わんっ! わんっ! わんっ!
「犬の鳴き声?」
「これは………結構近いな………」
「まさか………!!」
俺は急いで二階に上がり、平野の元に向かった。
「平野!?」
「小室………ヤバいよ」
僕達は初めての夜を体験することとなった。
~孝side out~
後書き
今回は蒼騎真紅狼の過去話です。
次回は、真紅狼が大暴れします。
………少しだけですけどね。
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