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ソードアート・オンライン~黒の剣士と紅き死神~

作者:ULLR
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After days
spring
  ―閑話―~日常への道~

 
前書き
新章第一弾……の前のお話。 

 


《ALO事件》終息、一週間後。俺はホークスのラボに引き籠っていた。



「隊長さーん、いい加減休みなよ」

「さっき休んだよ。2時間」

「仮眠じゃなくて、まとまった睡眠取れって言ってんの」


かれこれ4日は日の光を浴びていなかったが、今はそれどころではない。
目の前にある3つのディスプレイを見比べながらキーを叩いては上手くいかなさに嘆息する。


「……それはそうと笠原。お前、仕事は終わったんだろうな?」

「愚問っすね。……あー、で、聞きました?『トライデント』の件」

「ああ、ったくお前らがもうちょっと仕事熱心だったら楽なのにな」

「……いやー、大惨事ですね。まったく」


顔を背けて白々しくとぼける笠原を半眼で睨み、本日何回目とも知れぬため息をつく。


「……お前、暇だったらコイツの調節やっといてくれ。お前なら余裕だろ」

「超給手当てを申請しま~す」

「残念ながらうちは労基法の対象外だ」


まったく、ブラック企業もいいところである。






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4日ぶりに浴びた日の光(夕陽)は空を真っ赤に染めていた。
今日はもう帰宅することにして駅へ向かう道を歩いていくと、電気屋のテレビが例のALO事件について報道していた。


首謀者の須郷は足掻きに足掻いて小耳に挟んだ情報では茅場に責任を押し付けようとしているらしい。
責任問題でレクトプログレスは諸問題を解決後、解散が決定し、本社もかなりのダメージを負ったらしいが、こちらは社長以下の経営陣を刷新するようだ。

ALOは現在、サービス停止状態で、多くのメディアではVRゲームそのものの存続が難しいと報じられている。

テレビでは須郷の公判が4月に決まったことを報じていた。検察は傷害罪に加え、略取監禁罪の成立も目指すようだ。


あの雪の日の出来事は一部を除いて闇に葬られた(つまり、和人に対する『傷害罪』だけを明るみに出した)。翌々日に和人と共に事情聴取に出頭したのだが、須郷の怪我は『正当防衛』と認められ(させ)たので、大したことは聞かれなかった。


ニュースが変わり、エンタメものに変わったのを機に俺は再度、帰路に着いた。







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4日ぶりに帰宅した実家で夕食を食べ終えると、蓮兄の食後の運動に付き合うべく、道場に向かう。手前にある小部屋で胴着に着替え、道場に入ると住み込みの門下生達が汗を流していた。


「……よーやるもんだ」

「お前がドライ過ぎるんだよ」


感心半分呆れ半分の声色で呟くと、既に着替えて待っていた蓮兄が諭すように言ってくる。

「あっそ」と答えると、互いに竹刀を下段に構えて対峙する。


余談だが、何日か前に沙良と蓮の2人を下した螢だが、あれは戦術を『体術』だけに限定したからだ。『剣術』オンリーなら蓮に劣り、『組手』なら沙良に劣る。
次期当主候補の序列はあくまで総合的な視点からの判断だ。

故に、竹刀を使って蓮に勝てる道理は無いのだが、無論、簡単に負けるつもりはない。


「言っとくが、『剣道』じゃなくて『剣術』でいくからな」

「分かってるよ……」


例のごとく好戦的な兄にやや辟易しながら、食後の運動は始まった。







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強かに額をひと突きされ、勝敗が決したところで切り上げ、俺は自室でニュースサイトで取り上げられているVRゲームに関する情報を探っていた。


「にしても……」


あれだけ大きな事件が立て続けに起きても世間のVRゲームの需要は根強いようだ。

掲示板などで盛んに論議が交わされているが、VRゲーム容認派と反対派の比率は五分五分だ。

俺は脇に置いてあるナーヴギアに目を移す。塗装が剥げ落ちたヘッドギアは薄暗い部屋にごく自然に溶け込んでいる。

入手した医療用フルダイブ機《メディキュボイド》は現行の家庭用フルダイブ機《アミュスフィア》の姉妹機と言った所だろうか。《メディキュボイド》の原型は《アミュスフィア》ではなく《ナーヴギア》でもし仮に、メディキュボイドでVRゲームをするとしたらナーヴギアに匹敵するクリアな映像が楽しめるだろう。





だからこそ、《終末期医療》に用いられるのだが……。




《終末期医療》という言葉に歯噛みし、イライラと端末の電源を落とすと、後方の寝床に倒れ込み、そのまま眠りに落ちていった。






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翌日、朝っぱらから菊岡に呼び出された俺は銀座にあるおしゃれな喫茶店に足を運んでいた。

1人ではとても入る気にならないような高級感溢れる外装だが、中で待ち合わせであるため、仕方なく入る。

案内された席には忌々しいメガネの役人がにこにこしながら待ち受けていた。


「ご足労ありがとう、螢君。すまないね。わざわざこんなところまで」

「だったら何でこんなとこ呼んだんだよ……」

「いや~、この間フラッとこの店に入ったらおいしいの何のって。気に入っちゃってね。交際費が経費で落ちるときはいつもここにしてるんだよ」

「………………」



税金泥棒め、と言いたいが、自分自身も似たようなものなので、黙ってメニューを開く。

経費で落ちるとは言っても値段が値段なので、迂闊に頼むのをためらってしまう。朝食はちゃんと食べて腹も膨れていたため結局、紅茶とサンドウィッチに落ち着く。合計は800円弱だ。


「遠慮しなくていいのに」


そう言って菊岡は1500円相当を躊躇なく注文する。


「……で?何の用だよ。生憎、今立て込んでるから面倒事は御免だぞ」

「分かってるよ。ちょっと訊きたいことが有ってね」







――わざわざ朝っぱらの空いている高級喫茶店に呼び出して話さなければならない話。





「面倒事は御免だと言ったはずだが?」

「螢君、僕は今、君に『総務省の役人』の菊岡誠二郎ではなく、『友人』の菊岡誠二郎として会いに来ているんだよ」

「………交際費は経費だろ?」

「そんなものは建前さ」


職権濫用とはこの事だ。まあ、何はともあれ『友人』の頼みだ。聞いてやらんこともない。

だが、面倒なのは事実なのでぞんざいに先を促すが、菊岡は気分を害した様子もなく話始めた。



「この間渡した《10代SAO被害者のための学校案内》ってあるだろ?」

「ん?……あ、ああ」


身構えてた割りに衝撃が少なかったので、思わずどもった答え方をしてしまう。


「都立校の統廃合で廃校舎になった建物を使うことになってるのは知ってる?」

「ああ。概要に書いてあったな」


何だろうか。まさか廃校舎で幽霊がでるらしいから確かめて来い的なアレか?

だが、それは早計というものだった。






「それがさぁ~、何か環境テロリストの根城になってるみたいなんだよね」





………はい?




「スマン、もう一度言ってくれ。疲れが取れて無いっぽい」

「何か環境テロリストの根城になってるみたいなんだよね」

「警察行けっ!!」


恐らく、ここがSAOやALOだったら青筋の一つでも浮かんでいるに違いない。


「あのね、螢君。僕だって警察の存在を知らない訳じゃないよ?でもね、問題は《SAO被害者のための学校》という部分にあるのさ」

「……というと?」


何やら複雑な理由があるようなので、一旦落ち着く。


「SAO事件は社会を揺るがした大事件だ。それが見事、ALO事件を経て解決した。さらに、この生還後の異例の厚待遇。秘密裏に抑えられている報道も含めれば、君達は相当悪目立ちしている」

「悪目立ち?何故だ?」


菊岡は彼にしては珍しく呆れた様子で言った。


「生還者も一枚岩ではないってこと。ネットで体験記なるものを公開して有ること無いことをばらまいてるのさ。『喉元過ぎれば~』ってやつだね」

「なるほど、ここで警察が校舎に乗り込んだりしたら騒ぎになりかねないと?」

「……あくまで懸念、何だけどね。上も同意見さ。そうなると『法外集団』と揶揄される君達に頼むのもやむ無し、と思うがね」


菊岡がホークスを揶揄する言葉にしてその存在の本質を端的に示す単語を口にしてニヤリとする。


菊岡の依頼を要約すれば、『公的機関を動かせば面倒事になるから、非公的に事を終わらせてれ』ということだ。


「言わなくても解っていると思うが、その『法外集団』に依頼するってことは、露見した場合、その全責任はお前達が負うことになるんだぞ?」

「覚悟の上さ。それに……」




――この程度のことでヘマするわけないだろう?





その言葉は紡がれることはなかったが、言いたいことはよく分かった。









その日の夕方、

東京のとある拘置所に一台の護送車が裏手から入り、何人かのうなだれた人影が建物の中に入ったことは誰にも知られることはなかった。






_______________________________________








翌日、



「ほら、着いたぞ。いつまでグロッキーになってんだ」

「リアシートがこんなに怖いものなんて知らなかった……」


僅かに青ざめている和人を厭きれ半分、面白半分で見下ろす。


「怖ぇぞ、って言ったんだがな?」

「ぐ……」


目的は明日奈のお見舞いだが、和人のテンションが著しく下がっているのは俺の脇に停めてある大型バイクのせいだろう。

形こそ石油燃料型と変わらぬものだが、エネルギーをバイオ燃料と電池に置き換えたハイブリッド型だ。

その大型バイクにリアシートを付け(違法改造)、川越から翔ばしてきたのだが……。


「ほら、約束まであと10分しかないぞ。紳士たるもの時間にルーズであってはだめだぞ」

「お前に時間厳守を諭される日が来るとはな……」


そう言われると言い返せないが、俺もたまには時間通りに行動できる人なのだ。



(……あと2ヶ月か……間に合うのか?)


さっそく今日から廃校舎の整備が始まるらしく、菊岡は忙しそうにあちこちへ連絡をしていた。


「……間に合うかな」


そんなことを考えていたときに和人がいきなりそんなことを言うので、ぎょっとして振り返る。


「な、何がだ?」

「え?……ああ。明日奈のリハビリだよ。入学式までに間に合うかな、って」

「……お前が付いてれば間に合うさ」


勘違いに苦笑しつつ、不安そうな和人を励ます。







そう、この2人ならどんな困難にも打ち勝てる。




大きな可能性という翼がこの2人にはあるのだから……。








過去に片翼を失った少年は早歩きになった少年を小走りに追い掛けて行った。





 
 

 
後書き
次回からが本番。

『Happy Valentine』お楽しみに! 
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