その答えを探すため(リリなの×デビサバ2)
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第10話 逢”魔”時(1)
「ねぇ、将来の事って考えてる?」
なのはがそう友人たちに聞いてきたのは、始業式が終わって数日してからの昼休みの事である。
「うちは会社経営だし、ちゃんと勉強して、後を継げるようにって感じになると思うわよ」
「私は、機械系が好きだから…、専門職になって、そう言う事に関われたらなぁって」
少し悩んだけど、さらりと答えるアリサとすずか。
「じゃあ、純吾君は?」
「……板前。親方、とってもかっこよかった」
純吾も、前2人よりも悩みはしたが、しっかりとした口調で答える。
「へ~え、皆すごいなぁ。もうそんなに考えてるんだ」
「そう言うけど、なのはだって翠屋の2代目じゃない」
「にゃはは、勿論、翠屋のことは大好きだよ? けど、私にできること、私にしかできないことって何かないかなぁって。私、お母さんや純吾君ほどお料理もできないし、何も特技がないなぁって」
少しさみしそうに笑うなのは。
「……ジュンゴ、いっぱい修業した」
それに対してふんす、と純吾が少し得意げに答える。
あまりの返し方に、少しの間世界が止まった
と、いきなりベチン、とレモンの輪切りが飛んできて
「ちょっとは空気読みなさいよバカ! 今どう考えたって、なのはを慰めるとこでしょうが!!」
輪切りを飛ばしてきたアリサが、思いっきり純吾の頬を引っ張る。ムスっとしている様な表情のまま、口だけ釣りあげられている顔は、アンバランスな感じが何とも笑いを誘う顔になっている。
「……あ、アしゃリン、いひゃい」
「ア・リ・サ! アリサよ私の名前は!! 毎日顔合わせてるんだからいい加減覚えなさいよ!」
更にそんな漫才まがいな話をしだすから、
「ふふっ、ホント、純吾君とアリサちゃんがいると面白いね」
「にゃはは、もうこれってお約束みたいなの…」
と、すずかとなのはに苦笑されてしまっていた。その事が更にアリサをヒートアップさせる。周囲に笑いは絶えなかったのだが、なのはの笑みにある陰りは、消える事は無かった。
◆
放課後、わたしとすずかちゃん、アリサちゃんの三人で塾に向かって歩いてるの。
ほんとは純吾君も誘いたかったんだけど、翠屋での料理修業の方が大事、って言われたのと
「しっかし、あんなのほほんとした雰囲気出してるのに、どうして勉強できるのかしら?」
「あはは、人は見かけによらないって言うし、純吾君もそうなんだよきっと……」
ぷんぷんって怒ってるアリサちゃんが言ってる事、純吾君って頭もすっごくいいからいらないっていうの! 先生の質問にちゃんと答えちゃうし、すずかちゃんはそう言ってるけど、ほんと羨ましいなぁ…
「まぁ良いわ、今に見返してやるんだから!! ……って訳で、早く塾行きましょ。」
ぐって手を握って気合いを入れるアリサちゃん。
……うん、そうだよね! 羨むんじゃなくて、自分にできる事をまずはしっかりしないと
―――助けて
!! 誰なの!?
「今、なにか聞えなかった?」
「何か?」
「何か、声みたいな…助けてって」
「別に、そんな声聞えなかったわよ」
すずかちゃんとアリサちゃんには聞えなかったみたい、だけど…
―――――助けて!
やっぱり!
「なのは!」「なのはちゃん!」
2人がびっくりしてるけど、本当に声が聞こえる、助けを呼んでるの!
声が聞こえてきたような場所へ向かって、必死になって走っていると………
「え、君が…?」
道の真ん中に、綺麗な赤い宝石を首にかけた、一匹のフェレットさんがいたの。
フェレットさんは普通喋れないけど、絶対呼びかけてきたのはこの子。だって、怪我してるんだもの!
「どうしたのよいきなり!」「なのはちゃん!……その子、どうしたの!?」
アリサちゃんとすずかちゃんが後ろから追いついてきた
「と、とりあえず病院にこの子運びましょう!」
その後はすずかちゃんが病院を探してくれたので、みんなで一緒に病院まで走っていったの。フェレットさんは怪我はあったけど、ちゃんと治るって獣医さんが言ってくれて、とってもほっとしたの。
◆
「フェレット?」
「そう、フェレット。なんでか分からないけど、とっても酷い怪我をしてたから、慌ててみんなで病院まで運んだの。ちゃんと怪我は治るみたいだけど…、ちょっとびっくり」
すずかが珍しい事があったとそんな事を話していたのは、夕方遅くに翠屋から純吾が返ってきてからの事である。
「けれども、そのフェレットを見てると、純吾君と似てるなって」
「? ジュンゴ、フェレットじゃないよ?」
「ふふっ、違う違う。純吾君も、初めて会った時、酷い怪我してて、フェレットも怪我をしてて、その怪我も治るっていうし、色々と似てると思わない?」
おかしそうにそう話すすずかと、それを聞いてフムと考え込む純吾。
「……リリー」
「は~い、いつもあなたの傍に這いよる(夜・這・い、的な意味で♪)仲魔、リリムちゃんですよ~」
どこからともなく音もなく、唐突に表れるリリー。
「ん…。フェレット、ジュンゴと似てないかな?」
「う~ん。……あっ、可愛らしいってことは似てるわね!」
顔をあげ真剣な顔をして疑問を言う純吾に、どうだ、と言わんばかりの顔でとんちんかんな返答をするリリム。すずかが呆れ果てた目でそれに答えた。
「リリーさん、純吾君は酷い怪我を負ったフェレットも、純吾君みたいな事を経験したんじゃないかって聞きたかったんだと思うんですけど……」
「そうなの? だって可愛いしか思いつかなかったんだもん。
…けど、ジュンゴと同じ境遇ねぇ。フェレットなんだし、野良相手に傷を負ったりするんじゃないの? それに、ジュンゴの事は悪魔の私から見たってレアな境遇よ? そんな事簡単に起こし得る存在がそう都合よくいるとは思えないわね」
ひょいと純吾の後ろに隠れる事ですずかの嫌な視線を躱しつつ、リリーが今度はまじめに答えた。
それを聞いて、「そうですか…」と、すずかは悲しげに顔を伏せる。
彼女は優しい。そう都合のいい事はないだろうとは思ったが、そう希望通りには世の中はいかないようで、純吾の帰れる方法は、彼の身内自身に否定されてしまった。それが、悲しい。
けど同時に、彼がいなくならない事に安堵している自分も見つけてしまっていた。悲しい事は本当だ、だけど、こんな事考えていると知られたくなくて、顔をそらしてしまったのだ。
すずかにつられて純吾も悲しげな顔をする。しかし純吾はフェレットすら見ていないので帰れる事に対してどうしてもリアリティーを感じれなかった。
彼の場合は、突然悲しそうな顔をするすずかの事を純粋に案じての事である。
突然暗くなる場の雰囲気。
と、そんな様子に飽きたのか、純吾の後ろに回ったリリーは、後ろから彼に抱きついてご満悦の表情になった。
純吾はいきなり後ろからのハグに目をきょろっとさせ驚き、すずかはそれに怒ったような呆れたような顔をして「もぅ…」とため息。
ハグするリリムに驚く純吾、それを嫉妬のような呆れたような複雑な思いで見つめるすずか。どんな悪い雰囲気になっても、こうなってしまえばそれはお終い。それは割と最近だが、いつもの月村邸の風景であった。
純吾の携帯が突然、鳴り出さなければ。
携帯を取り出し、差出人を確認する純吾。……差出人【Nicaea】
伝達事項【死に顔動画@高町なのは】
更に動画を確認。そして携帯を見て深刻な顔になった彼を見つめるすずかに、一言
「…すずか。そのフェレット、いま、どこにいる?」
◆
はぁ、はぁ…。はぁ、はぁ、はぁ………。
も、もうあのお化けから逃げる事はできたかな?
それとも、まだ追って来ているんだろうか?
みんなでフェレットさんを病院に運んで行って、家に帰ってきたけど、やっぱり「助けて」の言葉が気になっちゃった。夜になって、ご飯を食べて眠る前になってもそれは変わらなかったの。
そしたら、昼間の声と同じ声で、やっぱり助けてほしいって声が聞こえたの!
だからこっそり家を出て、フェレットさんのいる病院へ行ったら……
そこには、フェレットさんを追いかける、お化けが、ば、化け物がいたの!
フェレットさんがいきなり話しかけてくるのにも驚いたけど、化け物が自分で倒した木に挟まれて動けない間にそこから逃げ出して、今も逃げ続けているの。
その途中フェレットさんに、「君には、資質がある」とか「ここではない世界から来た」って言われて、にゃぁぁ、本当に頭がぐるぐるするよぅ!
けど、突然フェレットさんが手から飛び降りて言った言葉が、私の足を止めた。
「だから、僕の力を使って欲しいんです! ……僕の力を、魔法の力を!」
「ま、魔法……?」
さっきからずっと良く分からないことばっかりだったけど、魔法? 魔法が、本当にあって、私が、それを使う事が出来るの……?
って、後ろからすごい音!
電柱のうしろにしゃがみ込んで、風をやり過ごす。フェレットさんがまだ何か言ってるけど、それは後!
振り返ってみると、道路に大きな穴が出来ていて、その真ん中で化け物がグネグネ動いている。道もまっすぐな一本道しかなくて、隠れる事も、逃げる事なんて出来ない…
「もぅ、どうしたらいいの……?」
涙が出そうになっちゃう、ホントに、どうしたらいいか分からない。お父さん、お兄ちゃん、誰でもいい……誰か、誰か助けて!!
「リリー、【ジオ】!」
いきなり大きな声が聞こえたと思ったら、斜め上から雷が化け物を貫く。
雷の威力で、バウンドしながら吹き飛んでいく化け物。…って、へ? 何が起こったの?
「なのは!」
「なのはちゃん!!」
頭の上から声が聞こえる! この声って…
「純吾君! すずかちゃん! それに、……えぇ! リリーさんに、な、何なのそれ!?」
上から2人の声が聞こえると思ったら、純吾君も、すずかちゃんも、鹿みたいな魚みたいな、何か変な生き物に乗ってるの!
そ、それにリリーさん! とっても美人だけど、普段から純吾君にいっつも抱きついて、変な事言ってばかりだったけど、普通のお姉さんだと思ってたら、翼が、コウモリみたいな翼があるの!
それに、……すごい、すごい冷たい目をして化け物を見てる。お父さんや、お兄ちゃんが怒っても、あんなに冷たい目はしない。…なんだろう、今のリリーさん、とっても怖い。
「ありがとう、マカラ」
「カマワン、オレサマノ仕事、運ブコト。サマナー、 アトハウマクヤレ」
あの鹿さん、マカラって名前みたい…にゃっ! 鹿さんが消えたの!
「召喚、マハカーラ。…すずか、なのはといて」
「う、うん。純吾君、気をつけてね。マハカーラさん、よろしくお願いします。」
「承知。主の命に従いて、汝らを助けん!」
って、今度は青い肌のおっきな人が出てきた! 純吾君が「召喚」って言ってるけど、私たちを助けてくれるのかな……?
「なのはちゃん、大丈夫だった?」
「すずかちゃん…、うん。怪我とかしてないし、ほら、フェレットさんも」
「そうだね。間にあって、本当に良かった…」
間に合うって、どうしたんだろう? …いや、それよりも!
「そ、それよりすずかちゃん! 純吾君危ないの! 早く連れ戻して、一緒に逃げないと!」
「えっと、……純吾君なら、大丈夫だよ。ほら」
そう答えてくれたすずかちゃんの指差した方向を見ると、そこには終始化け物を圧倒する純吾君に、羽の生えたリリーさん。2人とも、すっごい息があってるように見える。まるでずっと一緒に戦ってたみたいに、本当に息がぴったし。
横に視線を戻すと彼らの事を心配そうな、けど信頼をした眼差しで見つめるすずかちゃん。
「純吾君……、頑張って…………」
手をぎゅっと握って、私に気づかないすずかちゃんの視線は、どこか物語のヒーローを見つめる様な、そんな風に見えた。
それが私、高町なのはが、“魔”法と、悪“魔”に出会った、初めての夜の出来事でした。
後書き
~スキル紹介~
【ジオ】
雷の魔法。運が良ければ、相手を感電させ(SHOCK状態)、物理攻撃を必ずクリティカルにする効果を伴う。
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