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神葬世界×ゴスペル・デイ

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第一物語・後半-日来独立編-
  第十八章 無意味な会議《1》

 
前書き
 会議の始まり。
 話し合いが多いですね、では始まります。 

 
「長はいないようだな」
 警報が鳴り終わり、言葉を発したのは髭を生やした葉木原だ。
 言葉は低く、しかしはっきりとしたものだ。
 風を呼び、社交院に植えられている植木の葉が風に巻かれ円内に立つ二組の間を抜ける。
 覇王会はその言葉に、身を正し会議の態勢へと移る。
 飛豊は吹いた風を吸うように、息を肺へと送り込んだ。
「負傷中でして、今は病院の方です」
「知っている。では早速、今後の日来について会議を始めようか」
 冷静な物言いで、葉木原は目の前に立つ覇王会に告げる。
 お、から始まる声を住民は漏らす。
 社交院の建物に対し横に並ぶ二組の間に、二つの映画面|《モニター》が表示される。
 それは社交院側に立つ、侍と呼ばれる女性が表示したものだ。
「会議で使う映画面は社交院側ので宜しいか?」
「貴方は確か魅鷺の姉の――」
「登吊・鷹代だ。妹から聞いてはいるだろうが、私から名を教えるのは初めてだったな」
「ああ、映画面はそちらので構わないが、一応こちらと共通化してくれないか?」
 鷹代は葉木原に視線を向ける。葉木原は頷き、それを了承と捉え、
「了解した、そちらの映画面を表示してくれ」
 言われレヴァーシンクが映画面を表示、それを社交院の映画面に近付ける。
 遠くから自身の映画面を操作し画面に共通化進行中と表示され、二つの映画面の間に幾つもの青の線が接続される。
 共通化完了の文字と共に、レヴァーシンクは自身の映画面を手元に戻す。
 確認するには社交院が表示したものでいいが、共通化することでこちらも映画面に情報を書き込めるようにした。これは万が一のための保険だ。
 こちらの様子を確認するように見る葉木原に、飛豊は社交院に向かい口を開く。
「会議の内容はまとめているのか?」
「ああ、表示するから少し待っていろ」
 鷹代は映画面を操作し、三つの映画面に会議をする内容が提示される。
 それはたった一つだけ。今後の日来について、ただそれだけだ。
 一瞬驚いたが、それはすぐに消えた。
 これは社交院が決めたもので、必然と社交院側が有利な立場となる。
 更にシンプルゆえに、選択肢によっては会議が複雑になるだろう。
 関心と恐れを持ち、覇王会は社交院と相対する。
「ええ、まあ、見ての通り内容は今後の日来ですな。これは住民も気にしていることでしょうし」
 カバみたいな特徴のある顔の倉澤が、笑顔のまま軽い口調で言う。
 何かと覇王会関係の資料提出の先が彼なので、その顔には既に慣れた。
 双方は自身の立場を示すために、まずは社交院側が、
「社交院側の立場は日来の独立宣言撤回、そして奥州四圏の指示に従い他勢力群|《イレギュラー》に移住することだ」
 葉木原がはっきりと、力強く言う。
 映画面には覇王会、社交院の二つの枠が設けられ、社交院の枠のなかにその言葉が表示される。
 聞き、飛豊はすぐに、
「覇王会側の立場は日来の独立宣言をそのままに、本格的に独立体制に入る」
「ふむ、つまりお前達は世界を敵に回すの言うのだな」
 独立とは神州瑞穂からではないことを彼方は知っているだろう。意図的な解釈の違いだ。
 あちらはこちらを試している。
 甘く見られたものだ、と飛豊は思う。
「それは間違いだ。日来が独立するのは奥州四圏からだ」
「どういうことだ?」
 それを理解している上で、こちらに問い掛けている。
 こちらの真意を探る為なのだろう。
「日来は奥州四圏から実質的な支配を受けている。覇王会が言う独立とは、その支配からの脱退だ」
「だが、それは日来がアマテラス系加護を使用しているためだ。確かに日来は奥州四圏から実質的な支配を受けているが、その代わり日来の警護や貿易相手になり日来を安泰へと導いているが?」
「だが今ではあちらは日来を捨て、他勢力群|《イレギュラー》所属の調と日来を取り合えようとしている。既に日来は見捨てられたと言っていいだろう」
「ならば加護を変えればいいだけの話だな。アマテラス系加護は唯一、流魔を生成出来る加護だ。これにより他国からも警戒されている、つまりはこの加護が無ければ奥州四圏も日来を支配する意味が無くなる」
「だが武装関係で劣る日来はどちらにしろ奥州四圏には利益にならないだろう」
「食糧生産量はいい武器になると思うが?」
「攻めこまれたら防衛のための武装が無い日来は容易く落ちるだろう。いくら生産量が高くとも、被害を受けてしまってはどうにもならない」
 飛豊と葉木原の言葉のやり取りが、流れるように飛び交う。
 昼前の風は冷たく、彼らを吹き抜ける。
 まだどちらが有利とはなってはいないが、経験の違いで社交院側がいい波に乗っているように思える。
 住民は口を開かず、それをただ見ていた。
 そのとき、深い息を吐く音を聞いた。
 葉木原が出した音だ。
「武装もろくに無く、アマテラス系加護のせいで他国に狙われる。こんな日来でどう奥州四圏からの支配から脱退しようというのだ。本格的に独立したならば敵と見なされ、被害が広まるだけだと思うが?」
「なら奥州四圏の言いなりになり、他勢力群へと移住すると言うのですか?」
「被害が広まるよりはいいだろう。それに奥州四圏は、住民は必ずしも日来と運命を共にしろとは言っていない。日来の移住に不安があるのならば、他勢力群ではない他へと移住も出来る。
 お前達が住民に言っていることは、先行きの見えない日来と運命を共にしろ、だ。さすがにそれは治安を担当する学勢院の代表、覇王会でも言い過ぎではないのか?」
「それはおかしいよね」
 飛豊が言ったのではない。覇王会戦術師のレヴァーシンクだ。
 映画面に今まで言っていた言葉の列を、それを見ている住民が理解しやすいように打ち込んでいる。
 打ち込みながらも、手と口を動かす。
「だってこっちも日来と運命を共にしろ、何て言っていなんだから。独立した日来に不安定があれば、そのときは別に他へと移ればいい。それよりもまず、この日来にいる者達はそんな日来と共に行くことを選んだ者だけだ。未来に不安がある者達はすでに移住したと思うけど?」
 決め顔で告げるが、周りのウケはあまり良くない。
 中二病の人は理解されないことが多いので、可哀想だと思いながらも飛豊は要らぬ同情をする。
 だがレヴァーシンクが言っていることは確かだ。今、日来に在住している者達は如何なる運命が待ち受けようとも、それでも日来に残ると決めた者達だけだと個人的に思う。だからこの会議はよく考えれば必要ないし、社交院が何故覇王会に敵対意識を持っているのか解らない。
 独立のために動くのならば社交院も一緒にやった方が効率が良いし、戦闘になった場合も他とは引けを取らないだろう。
 なのに何故、意味の無い仲間割れをするのか。
 疑問に思いながらも、それを今は忘れるように飛豊は言葉を加える。
「と、言うことだ。日来在住を強制するわけではない」
「なら武装の無い日来はどのように動くというのだ?」
 独立した場合の今後を、あちらは問い掛けてきた。
 だが、その問いを答えずに新たな問いが跳ね返された。
 レヴァーシンクが先程のことを気にせずに、社交院に言葉をほおったのだ。
「それを言う前にそっちの場合の今後をもっと詳しく聞かせてくれないかな。こっちは色々と壮大な今後でね、それを聞いたら建物のなかにいる黄森の隊員がこの会議を中止にするかもしれないから」
 左に建つ建物を指で差し、その方向にこの場にいた者達は視線を動かした。
 学勢領と同じ配置の形で立つ建物のなか、カーテンで外と室内を遮っている。
 殆どの者はそこを見て、理解出来ず不思議な思いでいた。
 そこに半獣人族のネフィアが、閉じていた口を開いた。
「三階に一室一名、それが六室ありますから六名いますわね。一階には十名、二階には五名の合計二十一名」
「これはさすがだ、やはり気付いていたようだったな功一郎」
「神崎、何時も葉木原と呼べと言っているだろう」
 葉木原は左に立つ神崎に笑われながら、自身の肩を叩かれている。
 外の様子に、窓の内側に掛けられていたカーテンが微かに揺れた。
 存在に気付かず、普通に見ていればそれには気付かなかっただろう。
 ははは、と笑いながら手を叩く神崎が頬を上げながら言う。
「すまないね、あの人達がいると緊張して上手く話せないと思ってね」
「気遣い感謝します。しかし、そんなことをしなくてもこちらは平気ですので」
「そうかい? まあ、彼ら達は監視が仕事だからほっおいておこう」
 丸眼鏡の向こうの目を細め、仮面を被っているように感情を隠す。
 話しによれば、昔は相当の実力者だったらしいが今はただの一家の黒柱となっている。
 彼の子が確か高等部二年生にいたことを、向こう側にいる神崎を見て飛豊は思う。
 ここでこれまでの空気を払うように、葉木原は咳払いを一つする。
「立場を弁えろ神崎」
「うちの子が彼らの一つ下でね、応援したくなっちゃうんだよねえ」
「無駄話は後にしろ」
 そう切り捨て、話を戻し、
「こちらの場合の今後を詳しく言うと、独立宣言を撤回し素直に奥州四圏の言う通り他勢力群へと移住する。
 こうした場合、ある程度の手助けを奥州四圏から受けることができ、被害を出さなくていいからな」
「そうすれば日来は無くなり、皆散りじりになってしまう」
「お前達の場合でも結局はそうなるだろう」
 慣れた口調で、言葉の意味を打ち消す。



 円の外。
 三年一組は一つに固まり会議を見ていた。
 二列に分かれ、後列の者は前の者の背にもたれ掛かるように身を倒す。
 後列にいる恋和は、そのクリーム色の長髪をなびかせ、
「意味の打ち消しね」
「それは何ですか?」
 横にいるロロアが、彼女の前にいるルヴォルフに完全にもたれ掛かりながら問う。
 周囲の住民は彼らから一線を置いており、それで出来たスペースで最大限広がっている。
 そのなかで、恋和は答える。
「簡単に言うと、相手が言ったことに対してこちらは反対の言葉を言うのよ」
「理解出来ません」
 はっきりと告げるが、それを恥とは恋和は思わない。
 下手に知った被りしている方が恥だと感じ、解ろうとすることは関心に値する。
 横の彼女を見ながら、
「解りやすいのは告白かしらね」
「告白?」
「セーランの告白を例えにすると、告白のときセーランが宇天の長に好きだって言ったけど、宇天の長は嫌いだって言ったわよね? そうすると、セーランは好きだけどあちらは嫌い。好きの反対は嫌いだから、反対の言葉を言うと先に言った言葉の意味を無効果するのよ。
 だから結婚するには片方ではなく、双方の愛が必要でしょ?」
「おお、解りやすい説明有り難う御座います。結婚の例えで理解出来ました」
「恋和さんて色々なこと知ってますよねえ。本当不思議です」
「まあ、日来に来るまでは色々とありましたからねえ」
 美兎の言葉に恋和は照れながらも、会議の様子を伺う。
 言葉が流れ、身振り手振り体を動かしている。
 声は叫ぶのではなく、訴えかけるような問い掛けに近い感じ。言葉は目の前の相手に、しかし会議を見ている者にも向けられている。
 彼らは今、日来を導こうと言葉を紡いだ。



 葉木原は目の前にいる覇王会に向かって、そして住民に向かって言葉を発する。
 日来を動かすのは自分ではない。自分はただ今後を提示するだけで、日来を動かすのはそれを見た住民達だ。
 だから彼は前に立つ覇王会ではなく、住民へと疑問を投げ掛けるつもりで話す。
「独立行動を起こせば、ここに存在する皆全てに被害が及ぶ。戦う気の無い者達をお前達は争いへと導くのか?」
「だからそれは――」
 他へと移住すればいい、と言おうとした口を飛豊は閉ざした。
 これを続けていれば、こちらは住民のことをどうでもいいと勘違いを抱かれる可能性がある。
 危なかった、とは思わない。そう言うように、彼方がそう仕掛けて来たのだ。
 言ってしまったら彼方はそこを突いて来ただろう。そうなっていたら、こちらはかなり不利になっていただろう。
 迂闊だった。自然と警戒を緩めていた。
 自身の未熟を感じながらも、飛豊は息を飲み言葉を改めた。
「……いいや。戦いたくない者は私達が守ってみせる」
「お前達のような未熟者にか」
「ちょっと宜しくて?」
 肘を曲げることで手を挙げ、金の瞳を社交院へとネフィアは言う。
 前置きの無い、突如の言葉を投げた。
 細身の体を社交院側に向けたまま、
「戦うのはわたくし達だけじゃありませんのよ?」
「どう言うことだ」
「軍事を主としている貴方達、社交院にも戦闘には参加してもらいますわ」
 日来の独立には、外交と軍事を主とする社交院の協力が必要不可欠だ。
 高等部から軍事に関わるが、正直学勢だけではさすがに他とはやり合うことは出来ない。
 経験を積んでいる社交院がいなければ、日来は戦闘に入った場合はすぐさま沈むだろう。
 それを聞き、口を動かしたのは葉木原ではなく鷹代だ。
 血色の良い唇を動かし、
「社交院と共同で戦闘を行うと?」
「そうですわ。これは他でもやっていることですので自分達にも出来ますわ。それに普通は手の出せない学勢院と社交院ですが、学勢院は覇王会が、社交院は防衛のための戦闘ならばお互いに手を交えることが出来ますので」
「成程。しかし、攻め込むときはどうするのだ? 守ってばかりが独立ではないだろう、それとも攻め込まれるのをわざわざ待つのか?」
「それは場合によって違いますので、そのときの判断となりますわ」
「考えていないと取らることも出来るが、まあ、いいだろう」
 会議が進んでいるが、未だ手応えが掴めていないことを飛豊は感じる。
 まだ始まって数分と言ったところだろう。
 しかし、早くしなければ宇天長の救出までの時間が短くなるだけだ。
 多めに取れるなら取っておきたい、そんな焦りから心地の悪い汗が額から頬へと落ちた。
 会議はまだ始まったばかりだ。
 気を落ち着かせるため、一つ。大きく息を吸い込み、それを腹の奥から吐いた。
 この会議の存在自体に疑問を感じながらも、目の前の状況を目に捉えながらどうするかを考えた。 
 

 
後書き
 会議だよ、会議。
 読むの面倒だと思いますが、まだ続きますので頑張って下さい。
 作中で飛豊が「この会議意味無くね?」、などと言ってましたがまさにその通り。
 日来は独立することを考えて今日まで行動してきたのなら、そのまま突っ切ればいいだけ。なのに何故意味の無い会議をするのか。
 タイトルはそこから来てます。 
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