IS《インフィニット・ストラトス》‐砂色の想い‐
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日常への帰還
「作戦完了……と言いたい所だが、お前達は独自行動による重大な違反を犯した。学園に戻り次第始末書、反省文提出と懲罰用の特別メニュー。言い訳があるなら聞くがこれは決定事項だ」
『はーい……』
命を賭けた作戦が終了して帰ってきた私たちを待っていたのは織斑先生の叱責でした。
まあ仕方ありませんよね。いくら本国からの命令といっても今の私たちはIS学園の生徒。原則外部との接触を禁じている限り、IS学園の先生に従わなくてはいけないのは明らかです。
今現在私たちは30分近く正座で織斑先生の言葉を聞いています。
セシリアさんは正座に慣れていないのか既に顔は真っ青で……でも私も慣れてないから足が……足……がああ……
「あ、あの、織斑先生? もうそのへんで……け、怪我人もいますし、ね?」
「ふん……」
山田先生の言葉に織斑先生が体ごと背ける。うう、申し訳ないです。
「しかしまあ……全員よくやった。無事に帰ってきて何よりだ」
あ………体ごと背けたのは顔見られるの恥ずかしかったからなんですね。
少しホッとしてしまいました。
織斑先生もやっぱり、お姉さんなんですね。
「じゃ、じゃあ、一度休憩してから診察しましょうか。ちゃんと服を脱いで全身見せてくださいね。当然男女別ですよ! わかってますか、織斑くん!」
「大丈夫です」
山田先生の言葉にセシリアさんやシャルロットさんが少し体を隠しました。うーん、乙女チック。
そう言う私は……もう耳まで真っ赤ですよ! 一緒にお風呂入ったの思い出しちゃったじゃないですか……
「とりあえず水分補給ですね。夏はその辺りも……ってカルラさん顔真っ赤じゃないですか! さ、これを!」
「あ、ありがとうございます……」
山田先生が脱水症状と勘違いしたのか私にスポーツドリンクを渡してくれました。
でも助かりました。正直顔暑くてしょうがなかったんです。
程よく冷えたスポーツドリンクを少しずつ口に含むと、空っぽだった喉と胃に水分が染み渡っていくのが実感できる。
ほう……落ち着いた、かな。
「じゃあ診察をしますから織斑くんは外に出ていてくださいね」
「あ、はい」
山田先生の言葉に一夏さんが部屋を出て行く。そう言えば一夏さんの怪我って結局どうなったんだろう? この中では一番重傷だったはずなのに……
「あのー、カストさん? オルコットさん? 早く脱いでください」
山田先生の言葉に我に帰ると既に皆さん下着姿になっています。
ああ、そうでした。診察するんですから脱がないとですよね。
私は正座した足を何とか崩して……
「お~……」
足がビリビリする~。
「あ、足痺れてるんでしょ?」
「は、はい。でも立つくらいなら」
鈴さんが私の言葉に何故かニヤリと笑うと私の後ろに回りこんできました。え、なんで?
「そりゃ」
「はにゃあ!」
り…りりりりり、鈴さん!? 足を突っつくのはやめ……ひあ! やめてくださいってば!
「そりゃそりゃ」
「ふにゃあああ~……」
鈴さんは私の反応が面白いようで連続で突っついてきました!
こ、声が出ません。否定が出来ません! 誰か助けて!
「はいはい凰さん。進まないのでその辺りで」
「ちぇ、はーい」
山田先生の制止の声にようやく鈴さんが指を止めてくれました。
た、助かりました。山田先生、ありがとうございます。
鈴さんの責め苦から解放された私は何とか立ち上がって服を脱ぎます。
「あれ、セシリア? もしかしてセシリアも?」
「さ、触らないで下さいませ! 今は……本当に……!」
シャルロットさんが近づこうとするとセシリアさんが手だけ前に出して近づこうとするのを妨げようとしています。
キュピーン!
あ、鈴さんの目が……
「もらったぁ!」
「り、鈴さ……ひゃあああああああああああああああ!」
鈴さんがセシリアさんの足をつついた瞬間、セシリアさんが悲鳴を上げました。
こ、これは痛みを分かっている身として止めないと!
「鈴さん!」
「何よカルラ。止める気?」
「か、カルラさん……」
セシリアさんが涙目になって私を見上げてきます。
あ、なんだろうこれ。
すごい弄りたい!
「私も混ぜてください!」
「へ!?」
「その心意気や良し!」
鈴さんがセシリアさんを押さえ込んで私が足に回ります。
「いや! 離して! 離してくださいませ!」
「大丈夫よ、痛いのは最初だけだから」
「いきまーす」
プニ
あ、セシリアさんの足の裏柔らかい……
「いひゃああああああああああああ! らめえええええええええ!」
お、おお! これはやばいです! すごい楽しいです!
「えいえい」
プニプニ
「や、止め……」
既に叫ぶ気力もなくなってしまったのかセシリアさんが突っつくごとにビクンビクンと跳ねています。
「さっさと準備せんか馬鹿どもが!」
スパコーン!
素晴らしい音と共に私と鈴さんの頭部が横に吹っ飛びました。
――――――――――――――――――――――――――――――
「ねー、カルカルー。教えてよー」
「だからダメですってば」
夕食が終わってから、私は部屋に戻り……同室の人たちに揉みくちゃにされています。
特にのほほんさんは纏わりつかれまして……もう猫みたい。戦闘で負った打撲が痛いのでペシペシ叩いてくるのとか勘弁してもらえませんでしょうか。
「私のポックーあげるからー」
「ダメです。っていうかそれ食べかけじゃないですか!」
せめて真新しいものを用意しましょうよ。用意されても教えませんけど。
「ぬふー、カルカルのエッチー」
「え!?」
「んー」
な、何でそこで自分の口に銜えて私の口に寄せてくるんですか!
「ポックーゲームー。先に多く食べた方の勝ちなのー。私が勝ったら教えてー」
「ダメです!」
「ケチー」
ケチとかの問題じゃないんですってば! ていうかそれ絶対ルール違いますよね! 最初から半分以上口に含んでる時点でのほほんさんの勝ちじゃないですか!
「ばれたら政府の監視付くって言ってるじゃないですか!」
「バレなきゃ大丈夫ー」
他の人はこれで諦めたのにのほほんさんだけ頑なです。何でなんでしょうね、もう。本当に頑固なんですから。
「カルラ、少しいいか?」
「箒さん? はい」
入り口のところで箒さんが私のことを手招きしていました。のほほんさんを文字通り引き剥がして立ち上がります。それを不満に思ったのかのほほんさんが口を尖らせます。
「むー、私と言うものがいながらー。浮気者ー」
「はいはい。後でお菓子あげますから」
「わーい。じゃあそれで我慢するー」
のほほんさんはそう言うとその場にちょこんと座りました。やっぱり猫みたいですね。
とりあえずその場は納めて箒さんの待っている廊下に出ます。最初からお菓子あげるって言ったら離れてくれたんでしょうか?
廊下に出ると箒さんが着いて来いという風に私に背を向けて先行していくので私もその後に続きます。
着いたのは、更衣室?
「あのー、箒さん?」
そこまで着いていって私は始めて声を出しました。
「う、うむ。ちょっと見て欲しいのだが……」
「え?」
そう思った瞬間に箒さんは服を脱ぎ始めました。
下着も……ってええ!?
「ちょ! 何してるんですか!」
「いいんだ! ちょっと待っててくれ!」
いやいやいや! 良くないですって! 服着てください!
箒さんの豊満な体が……
私は思わず顔を背けてしまいます。
「ど、どうだ……変ではないか……?」
「え……?」
そう言われて背けていた顔を元に戻して箒さんを見ると、そこにはあの大胆なビキニに着替えた箒さんが恥ずかしそうに立っていました。
「大きい……」
「ば……! どこを見ているどこを!」
「あ! す、すいません!」
箒さんが両手で胸元を隠してしまいます。
で、でもそこに行くのはしょうがないかと……同世代でその大きさは正直反則級なんですよ。
ゴホン
「大丈夫です。似合ってますよ。でもどうしてこんな時間に着替えるんですか?」
「う、むう。先ほど一夏が泳いでいるのが見えて……な……」
そう言ってモジモジする箒さんはなんと言うか、乙女です。
「では行ってらっしゃい」
「お、お前はいいのか? 行かなくても」
何でこういうところ遠慮するんでしょうかね? 出し抜くくらいの気持ちで行けばいいのに。まあそういうところが箒さんのいいところでもあるんですけど。
「前から言ってるじゃないですか。私は一夏さんのことは友達として好きなんです。異性としてはまだ、ですね」
「まだ?」
「ですから、私が好きになる前に箒さんが一夏さんと恋人になってくれればいいんですよ」
「う、むう………」
恋人と言う単語に箒さんが顔を真っ赤にして俯いてしまう。相変わらず可愛いんだから。私は箒さんの後ろに回ると背中を押して更衣室から箒さんを出しました。
「ほら、行った行った。他の人にばれる前に行かないとまた邪魔されますよ?」
「わ、分かった! 分かったから押すな!」
「はいはい」
「押すなと言うのに!」
浜辺への出口から箒さんを押し切ると後はその場で手を振っておく。箒さんは時々こちらを振り返りながらも浜辺へと降りていきました。
ふと空を見ると、雲ひとつ無く満月が明るく海を照らし出しています。
うん、完璧なシチュエーション。神様も粋な計らいをしてくれます。この状態で告白されたら誰でもOKしてしまいそう。
「一夏はどこだぁ!」
遠くから聞こえる鈴さんの叫び声。少し訂正。邪魔が入らなければ、OKしてしまいそうですね。
「ふふ、元気だね。あんなことがあった後なのに」
「シャルロットさん?」
いつの間に来ていたのか、後ろから聞こえた声に振り返ると浴衣姿のシャルロットさんとラウラさんが立っていました。
「少し聞きたいことがある」
「はい、何でしょう?」
ラウラさんがこちらに少し近づいてきて尋ねてきました。
顔が……軍人の顔です。その顔に私も思わず姿勢を正してしまいます。
「例の密漁船、どうなったか知っているか?」
「……いえ、私も詳しいことは。先生からは破壊されたとしか」
「む……では質問を変える。あの船に何か特別なことは無かったか?」
ラウラさんの言葉に思い当たる。そう言えば……
「ありました」
「なんだ」
「船、というか一瞬ですが船のいた場所からISの反応が出ました」
その言葉を聞いた瞬間ラウラさんの眉がピクリと動く。シャルロットさんも同じように厳しい顔つきになって私の言葉を聞いています。
「どこのだ?」
「米国第2世代型IS『アラクネ』です。米軍の援軍かと思ったんですけど、反応は一瞬で直ぐにステルスモードで離脱してしまいましたから多分偵察か何かではないかと」
「……そうか」
ラウラさんはそれだけ言うと顔を顰めます。一体何が気になるのでしょう? その後米軍のアプローチも何もなかったので気になるのは気になるんですけど。
「その時は気にする余裕もありませんでしたし詳細は分かりません。織斑先生にも報告はしましたが、それが何か?」
「いや……こちらのことだ。気にするな」
そんな訳にはいかないじゃないですか。でもラウラさんは聞きたいことは聞いたとばかりに私に背を向けるとそのまま旅館に戻っていってしましました。
「一体なんなんですか?」
「さあ、僕にも話してくれなかったからよく分からないよ」
シャルロットさんはいつもの人懐こい顔に戻って肩を竦めています。うーむ、私も気になりますし少しこちらでも調べておく必要があるんでしょうかね。
「あ、そう言えば篠ノ之博士知らない? 消えちゃったんだ」
「消えた?」
しまった……本国でも確保命令を出てる人をロストするなんて。また怒られる要因が増えるなあ。
「うん、山田先生の話だと何か福音の完全停止が確認された途端忽然と姿を消しちゃったみたい」
「そうですか」
よく考えれば世界中が血眼になって探している人をいくらISを持っているからって数人で監視しておけるわけ無いですよね。別に監禁してるわけでもないんですから尚更です。
「それにしても第4世代か~。今回は驚くことばかりだったね」
「ええ、本当に」
シャルロットさんが私の横に来て軽く髪の毛を掻き上げた。いつもと違いお風呂に入った後なので髪は結んでおらず、見事な金髪が月の光を反射してキラキラと輝く。羨ましいくらい綺麗。
そのまましばらくシャルロットさんと私はその場で海を眺める。月に照らされて目の前に広がる海は先ほどまでの出来事が無かったかのように静かに波の音だけを立てている。風に乗って微かな塩の香りがした。
明日でここともお別れか……色々ありすぎて疲れちゃった。
「少しさ……考えたんだ」
「はい」
そんなことを考えているとシャルロットさんが呟くように言ったので私も呟くように返す。
「いつかさ、豪州に行ってみても……いいかな?」
「え?」
私がシャルロットさんの方を振り向くと慌てたようにシャルロットさんが顔の前で振る。
「あ、モチロンまだ亡命とかは考えてないよ! 直ぐでもないしもう少し考えたいんだ。でも……今まで故郷の土地しか知らなかったから色々見てみたいなー、って。ダメ、かな?」
そう言ってシャルロットさんは手を後ろに回して胸を張るように月に向かって伸びをする。
私も釣られるように同じ風に伸びをしてから答えます。
「構いませんよ? 赤道連合は来るものは拒まず、ですから。それに……」
「それに?」
首を傾げるシャルロットさんに向けて飛び切りの笑顔で答える。
「友達に故郷を自慢できます」
「くすっ、そうだね。いつになるかは分からないけど楽しみにしておくよ」
その後互いに笑いあった後は就寝時間前まで他愛無い雑談をしていました。
旅館に戻ったら何故か一夏さん、箒さん、鈴さん、セシリアさんがロビーで織斑先生に正座させられてお説教を受けていましたけど……
――――――――――――――――――――――――――――――
窓から差し込む太陽が眩しい……現在時刻は午前10時。ほぼ全ての生徒が帰りのバスに乗り込んで後は発車を待つばかり。
「うあ……あー……」
そして前の席から響き渡る声はまるで映画のゾンビのように朝の日差しを台無しにしてくれています。声の主は何故かボロボロになった一夏さんから。あの後箒さんと何かあったんでしょうか。箒さんは箒さんで話してくれません。
いつも健康優良児な一夏さんがゾンビ状態なのは昨日だけ徹夜に近いお説教を受けていたからでしょう。勝手に旅館を抜け出した罰とか。当然のようにセシリアさんたちも同じ罰でしたので今は完全にグロッキー状態。鈴さんはバスが違うのでどうかは分かりませんが朝ちょっと会ったときは顔が青かったのであっちも同じような状態だと思います。
箒さんは流石と言うか、昨日の出来事を思い出しているのか時々顔を赤くしています。激しく気になりますが日本には人の恋路以下略ですので聞きません。
「あー、すまん。誰か飲み物持ってないか?」
との一夏さんの言葉に……
「ねぇ? 今の言葉聞こえた?」
「聞こえてない」
「な、何か言いましたの……?」
「私のログには何もありませんね」
上からシャルロットさん、ラウラさん、セシリアさん、私。箒さんは顔を真っ赤にしながら自分の飲みかけのペットボトルを手の中で遊ばせています。
あ、ちなみに私は巻き込まれたくないからでセシリアさんは本当に聞こえていなかったようです。これバス動いても大丈夫ですよね? 酔ったりしませんよね?
「ねぇ、織斑一夏君っているかしら?」
「え……あ、はい、俺ですけど……」
不意に掛けられた声に顔を前に向けると青のオシャレなカジュアルスーツを着こなした綺麗な金髪の女性が乗り込んできていました。
あれ、あの人どこかで……
「私はナターシャ・ファイルス。『銀の福音』の操縦者よ」
「え……」
その言葉に近くにいた全員が固まった瞬間、
ちゅっ
その人は、いきなり一夏さんの頬に軽く口付けた。
まあ……欧米ではよくある挨拶と言うかなんと言うか……隣の箒さんからヒシヒシと殺気が伝わってくるんですけど!
「助けてくれてありがとう、白いナイトさん?」
「え、あ、う?」
「じゃあ、またね」
そう言いながらファイルスさんはバスを降りる。あの、一応私たちもいたんですけど……いいですけどね。お礼が欲しくてやったわけじゃないですし。頬へのキスは厚意を示すものですしファイルスさんの行動は何も間違っていません。でも……ね。
「一夏……」
「浮気者め……」
「もてるんだねえ、一夏って」
「後で詳しくお聞きしますわね。ええ、後で……」
戦場の予感……先に逃げておこうかなあ。
触らぬ神になんとやら、ですね。
んー、でもナターシャ・ファイルス……? ファイルス……アメリカのファイルスってまさか!
窓の外を見るとファイルスさんは織斑先生と何かを話しているようでした。けどその顔が……先ほどまでの優しい顔ではなく、厳しい顔つきに。分かりやすく言ってしまえばラウラさんのような感じです。軍人のそれでした。
確かファイルスさんはアメリカの国家代表だったはず。これはまた……色々今からありそうですね。
って箒さん痛い痛い! それ刀の柄じゃなくて私の腕、腕!だからそのまま抜こうとしてないで! 腕が抜ける! 抜けちゃうううううううううう!
後書き
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