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IS《インフィニット・ストラトス》‐砂色の想い‐

作者:グニル
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力を合わせて

チャプ……チャプ……

「う……」

 体中が……痛い……意識を戻したくない……
 そんな私の意思に反して意識はドンドン覚醒してくる。

「あー……」

 今の私はただただ海の上で漂っているだけ。視界がはっきりしない。いくらISに身を包んでいても操縦者の意識が飛んだ後では脳と体の問題だから……これはしょうがない。

「……うん……痛い……」

 予想通り、指一本動かそうとしただけでも体中痛い。
 それに私を守ってくれたISもボロボロ。見ただけでもダメージレベルがCを超えているはず。

「ごめんね……」

 痛む右手で左肩の装甲を撫でる。私が未熟なせいでこんな傷を負わせてしまった。謝っても返事が返ってこないのは分かってるけどそう言わずにはいられない。一年以上付き合ってるこのISは私の相棒みたいなものだから。

 そういえば、私が落ちてからどれだけ時間が経ったんだろう……?

 そんな私の意識を読み取ったのか、ISが時間を表示してくれた。

―現時刻、一七三二―

 そう、ありがとう……

 一七三二……? ……ってことは私が意識を失ってから2分しか経っていない!? 寝てる場合じゃない!

「福音は……!?」

 動かせない体をISで無理やり起き上がらせながら上空を見上げる。
 銀のISは……まだ健在だ。飛んでる。でも……戦ってる? 誰と?
 戦ってるのは赤いISじゃなくて……白?

 まさか……あれは……

「『白……式』?」

―データ照合終了、『白式』と確認―

 そんな……じゃああれは一夏さん!? あの大怪我は……でもあの動き、さっきまで大怪我を負っていた人とは思えない。

 むしろいつもより速い!?

 それにあの左腕……あんな爪みたいな追加装備今まで無かったし、白式も全体的に変わっているように見える。多分。
 まだ視界がはっきりしない。

 次第に視界がはっきりしだしたところで、一夏さんに向かって福音がエネルギー弾を降らせる!

「危な……」

 叫んだところでどうにもならないのは分かってる。でも叫ぶしかなかった。
 でもそのエネルギー弾はほとんどが消滅した。
 一夏さんがクローを展開し、その表面に現れた光の膜に当たった瞬間に文字通り消えました。

 見たことある光を発し続ける膜は……まさか……

「『零落白夜』の……シールド展開?」

 しかもその後の追撃の速度。少なく見積もっても30%以上は速度が上がっている。でもあれ……すごい燃費悪そう。
 刀一本のときでさえエネルギー切れを起こしていたのに、それに加えてシールドと翼みたいな大型ブースター。燃費の悪さも3割り増しって感じかな。
 それにしても形状の変化に追加武装……これってもしかしなくても

「まさか……第二形態移行(セカンドシフト)……?」

「あんたも気づいた?」

「鈴さん? 大丈夫なんですか?」

 声の聞こえたほうを見ると私とほとんど変わらずボロボロになった鈴さんが、その後ろにはセシリアさんとシャルロットさんがラウラさんを左右から支えながらこちらに来ていました。
 それとほぼ同時に箒さんもエネルギー切れを示すようにゆっくりと海上を飛んでいきます。

「皆無事か!」

「ええ、何とか」

 そう答えた途端、ISが警告音を発した!

―警告! 敵ISエネルギー弾発射体勢!―

 その場にいる全員が上を見上げると、福音が翼で自分の身体を包みこみ球体状になりつつある。あれは……広範囲高密度の殲滅攻撃!
 それを見た一夏さんがろくに動けない私達を庇うために福音と私たちの間に入ろうとする。

「何やってんのよ! あたしたちは代表候補生よ! 自分の身ぐらい自分で守れるっての! 集中しなさいよ!」

『お……おう! 分かった』

 鈴さんが声を上げると同時に、それに押されるように一夏さんが福音に向かって再度攻撃を開始する。
 その突撃を遮るように福音がエネルギー弾の一斉射撃を開始しようと翼を広げ始めた。

「お2人とも! 何でもいいから銃を貸してくださいませ!」

「「え!?」」

 私とシャルロットさんが同時にセシリアさんの方を向く。

「あの密度に対応するのはそれなりの弾幕を張るしかありませんわ!」

「それに我々の遠距離武器はもう使えないからな」

「早い話が遊ばせてる銃をよこせってこと!」

 ラウラさんの言葉に今の状況を把握する。セシリアさんはライフルを折られているし、鈴さんも衝撃砲を3つ失っている。ラウラさんは『ブリッツ』を両方とも失っているし一番ボロボロだ。箒さんも既にエネルギー切れで2本の刀からの射撃を行うことが出来ない。
 つまり私とシャルロットさんの実弾装備の武装を渡すしかない。

「でも私2つしかありませんよ!?」

「ならカルラは一つ誰かに渡して! 残りは僕が!」 

「はい! 箒さん、これを!」

「お、おう!」

 シャルロットさんに促されて一番近くにいた箒さんに『エスペランス』を渡します。箒さんも一夏さんと同じで射撃武器は慣れてないはずです。大して狙いをつけなくてもいい散弾銃の方が使い勝手はいいでしょう。
 シャルロットさんはセシリアさんに狙撃ライフル、鈴さんに重機関銃、ラウラさんにマシンガン2丁の使用許可を出し手渡すと、自身もアサルトカノンを2丁構える。

「来るぞ!」

 ラウラさんの声に福音のいるはずの上空を見上げると、そこにあるのは空を覆いつくすほどの白いエネルギー弾の雨。
 
「なるべく一箇所に集まって!」

 私の声に全員がその意図を読み取って一箇所に集まる。あれだけの弾幕はこちらも一箇所に攻撃を集中しなければ突破できない。少しでも攻撃を集中してこちらの被弾面積を少なくするためには一度にやられる可能性があっても一箇所に集まるしかない。
 全員が背中合わせに円を描くように一箇所に集まり、迫りくる死の雨に向かって銃を構える。

「まだだ! 引きつけろ!」

 ラウラさんの声が聞こえる。こんなに力が入ったら指がつるんじゃないかって言うほどに引き金にかけた指に力が入っている。自分たちに当たる弾だけを見定めて誘爆を誘い、無駄弾を無くすっていうのは分かるんですがこれは……!

 さっきから敵弾接近の警報がなりやまない! 攻撃範囲は全方位!

 もう……無理!

「今ですわ!」

「撃てぇ!」

 私の指が引き金を引く直前にセシリアさんと鈴さんが叫びそれぞれの武装の引き金を引いた。それにつられるように全員が一斉にそれぞれの銃の引き金を引く。
 周囲から耳を潰さんばかりの銃声が鳴り響きその銃弾が降り注ぐエネルギー弾に吸い込まれるように射線を描く。

 次の瞬間に……空が光った。

 迫っているエネルギー弾にそれぞれの銃弾が接触し誘爆を起こし、その爆発が近くのエネルギー弾に、さらに近くのエネルギー弾にと次々引火していく。

『やったか!?』

『まだですわ!』

『次が来るよ!』

『このぉ!』

 銃声と爆音のせいですぐ近くにいる皆さんの声も聞こえず通信越しになっています。
 それぞれが次々に近づいてくるエネルギー弾を迎撃する。ふと、隣で二丁のマシンガンを乱射するラウラさんが目に入った。いつもの冷静な風ではなく、少しだけ焦りを含んでいる。内心はもっとでしょうか。でもなんでしょう。あの時を思い出してしまいますね。

『なんだ!?』

「え!?」

『用があるなら撃ちながら言え!』

 ラウラさんが全くこちらを見ずに言ってきました。ISあるから普通なんですけどちょっとビックリしてしまいましたよ。

「いえ、あの時のゲームみたいだなって」

『何?』

「水着買いに言った時の帰りですよ!」

『はあ?』

 流石のラウラさんも私の言葉が以外だったらしくて、聞いたことのないような間の抜けた声を上げました。数秒は銃声だけが響き渡って……

『ふ、ふふ……はははは! そうだな! 確かに的撃ちだ!』

 急に笑い出したと思ったらラウラさんがこちらに顔だけ向けてきました。

『なら私と勝負するか? あの時と同じように私の勝ちだと思うがな』

「是非!」

 ラウラさんが口の端を意地悪気に吊り上げてニヤリと笑う。私はそれに空になったマガジンを装填しながら答えます。

「そうは言っても二人とも」

「残念ながらもう終わりみたいですわね」

「え?」

 後ろからシャルロットさんとセシリアさんに言われた声に顔を上げると確かにそうだ。さっきまで空を覆っていた光の弾は全て一夏さんに向かっていて私たちの方に来る物は無くなっていました。
 一夏さんは善戦しているようですけど、福音に分厚い弾幕を張られて思うように近づけないでいるみたいです。

「セシリアさん、援護に回れませんか?」

「申し訳ありませんけど狙撃ライフル程度では……」

 私の言葉にセシリアさんは狙撃ライフルのマガジンをシャルロットさんから受け取りつつ答えてくれました。『スターダスト・シューター』や『ブリッツ』の直撃でもダメージを与えられなかった福音に普通の狙撃ライフルの銃弾が通用するとは思えませんし……

「それにあの機動性では逆に一夏さんの邪魔をしかねませんわ」

 そう言われて『ストライク・ガンナー』を改めてみてみると各部のスラスター、ブースターの損傷が目立ちます。参戦できてもあの2機の速度にはついていけないことは明白。下手をすれば誤射の可能性もあるとそういうことでしょう。

「打つ手無し……か」

「うん、悔しいけど僕たちは見てることしか出来ないみたい」

「くっ!」

 シャルロットさんの言葉に箒さんが悔しそうに唇を噛み、その強さから血が垂れてくるのが見えた。
 その途端……箒さんの体が光った!?

「え!?」

「な、何!?」

 『紅椿』の展開装甲の隙間から赤い粒子に混じって金色の粒子が溢れ出し、その粒子が箒さんに纏わり突くことで箒さんが輝いているように見えたんだ。

「こ、これは……!?」

―『紅椿』のエネルギー再充填を確認―

 エネルギーの再充填!? 何……それ! そんなの聞いたことない……! まさかこの金色の粒子が!
 まさかこれって、『紅椿』の単一仕様能力? そんな、だって箒さんの『紅椿』の稼働時間なんてまだほんの1時間前後のはずですよ!?
 そんなわずかな時間で単一仕様能力が発動するなんて一夏さんの『白式』以外で聞いたことが無い!
 とするとやっぱり束博士自らが作ったって言うのが関係してる!?

「すまん! 私は行く!」

 損傷のほとんどない箒さんが金と赤の粒子を散らしながら一夏さんの元へと飛んでいってしまった。

「はあ、何と言うか……」

「落ち着きがありませんわね」

「そうね」

「うん」

 鈴さんとセシリアさんの言葉に私とシャルロットさんが同意します。声の聞こえなかったラウラさんの方を向くと、その顔は厳しい顔をしていました。
 言いたいことは分かりますよ。皆言わないだけで内心思ってることですからね。
 唯一男性でISを扱える一夏さん、専用機を持っているのに所属国家が無い箒さん。さらに使用しているISはどちらも束博士が自ら手がけた第4世代型IS。それに加えてどちらも極めて短い稼働時間で単一仕様能力を開花させた。
 これは下手をすれば……ううん、どう転んでも世界に影響を与える。
 それにこの状況は既に世界に広がっているはずだ。福音を見つける際に監視衛星に見つかったと言うことは、ほとんどの国の衛星で、少なくともここにいる5人の代表候補生の国にはリアルタイムで見られているはず。

『おおおおおおおおおおおおお!』

 オープンチャンネルを通じて聞こえた雄たけびに顔を上げれば、一夏さんが『零落白夜』の刃を福音に突き立てたところでした。
 それでも止めには浅かったのか、一夏さんの首元まで福音は手を伸ばし……その手が届くか届かないかのところで……福音は動きを止めた。

 『零落白夜』の効果によりエネルギーを失った『銀の福音』がゆっくりと一夏さんから離れると自然落下を開始する。
 その途中でISのアーマーが解除されて、中から操縦者が落ちてくる!

「まずい!」

 一夏さんの位置からじゃもう間に合わない!
 周りの私たちもまともに動ける人なんて……

『全く、一夏はツメが甘いんだから』

 その声が聞こえると同時に、いつの間にか回りこんでいたシャルロットさんが操縦者を海面すれすれでキャッチしました。
 そう言えばシャルロットさんのISは一番被害少ないんでしたね。

「はあ……終わりましたね」

「ああ、終わったな」

 ラウラさんの厳しい顔は変わらないけど……今だけは終わったって考えてもいいんじゃないですかね。

「おーい! お前ら大丈夫か!」

 聞き覚えのある声に顔を上げると一夏さんと箒さんが寄り添って下りてくるところでした。
 『紅椿』の金色の粒子は既に無くなっていて、それで補助していたエネルギーが切れているのか動きがすごく鈍い。
 既に夕方を過ぎて黄昏時の光を反射して赤く染まった2機のISは何ていうか……お似合いでしたよ? 
 

 
後書き
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