Fate/WizarDragonknight
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子守り
爆発の余波は止まるところを知らない。
園児たちはそんな爆発を、花火やお祭りと勘違いし、はしゃぎ、時に小さな火花による火傷ですら気にしない。
『ディフェンド プリーズ』
防御の魔法を最大限展開。保育園全体を守る大きさを発揮させるものの、長く維持することはできない。
「どうすればいいんだ……」
「んなもん、こっちが知りてえよ!」
『ファルコ ゴー』
オレンジのハヤブサのマントを背中に付けたコウスケは、大きくそれを振るう。すると、発声したオレンジの暴風が、爆発の火花を瞬時に掻き散らす。
さらにコウスケは、付けたままのハヤブサの指輪をダイスサーベルに装填。
『2』
「もうちっと欲しかったぜ!」
『2 ファルコ セイバーストライク』
ダイスサーベルから現れた二体のハヤブサが、それぞれ大型の蝶と鳥へ激突し、ともに爆発していく。
「ふむ。やはり君たちは、非効率な戦い方をしているようだ」
顎に手を当てるパピヨンは、じっと地上のハルトたちを見下ろしている。
「関係のない人間など、さっさと見捨ててしまえば楽だろうに」
「早々割り切れるものでもねえんだよ!」
コウスケは風を巻き起こしながら叫ぶ。
「人間皆兄弟ってな! こういうので誰かの生活を壊すのを見過ごすことなんざできねえんだよ!」
「くだらないな。所詮、人間賛歌か。なら、こうすればどうなるかな……?」
パピヨンはにやりと笑みを浮かべながら、指を鳴らす。
すると蝶の一団は、密集し、地上の___参加者ではない、祐太、香子、ひなへ向かっていく。
「……!」
魔法では間に合わない。コウスケにアイコンタクトを送ったハルトは、即体内の魔力を部分的に開放。赤い眼となり、人間を超えた速度で祐太たちの前に躍り出る。
「はああ……ッ!」
両腕を鉤爪が特徴的な前足に変形させ、蝶の大群へ突き刺す。左右へ一気に切り裂き、誘爆を最低限に抑えた。
だが。
「ひなっ!」
「ひなちゃん!」
祐太と香子の悲鳴。振り向いた瞬間、ハルトの顔面が蒼白になる。
「しま……っ!」
至近距離で発生した爆風に煽られ、吹き飛ばされたひなが宙を舞っていたのだ。幼い彼女は自らに何が起こったか理解しておらず、空中で笑顔で自らの体を動かしている。
「あぶねえ!」
それに対し、コウスケは反射的にジャンプ、吹き飛ぶひなを抱き留める。
「コウスケ!」
「大丈夫だ! ひなちゃんはオレが守るから、お前は二人を!」
「分かった!」
ひなを抱きかかえたままのコウスケの姿が、爆炎に隠れて見えなくなる。そんな幼子の姿を見て、祐太と香子が同時に叫ぶ。
「ひな!」
「ひなちゃん!」
「! 二人とも待って!」
ハルトが二人の腕を掴む。同時に、二人の目と鼻の先に、デイダラの鳥たちが降下、爆発。
爆風に煽られながら、ハルトは背後に回した二人へ警告する。
「今はコウスケに任せて! 動かないで!」
「でも、ひながっ!」
祐太がハルトへ訴えるような目線を投げる。
だが、目の前で爆発物を操る能力者たちは、巻き込んだ一般人のことなど意に介さない。
「芸術は爆発だ!」
デイダラは更に爆発する鳥の数を増やしていく。彼が乗る鳥が動けば、その軌跡に無数の白い爆弾が散布されていく。
『フレイム シューティングストライク』
ハルトはルビーを読み込ませたウィザーソードガンで発砲。
ドラゴンの形をした炎の弾丸が、いくつもの生きる爆発物を飲み込んでいく。それは、偶然斜線上にいたデイダラへ迫っていく。
「おおっと……」
炎の弾丸に気付いたデイダラはその場を飛び退く。シューティングストライクは、そのまま彼が乗り物として利用していた鳥に命中、爆発して消えていく。
着地したデイダラは、爆発した鳥を見上げ、「ほう……」と感嘆の息を吐く。
「いい爆発じゃねえかウィザード。アートって奴、分かりそうじゃねえか、うん」
「ウィザード?」
香子がその名前に疑問符を浮かべる。
だが、彼女の疑問に答えることなく、ハルトはすでに発生させたベルトのハンドオーサーを起動させる。
「冗談でしょ。いい加減それを辞めないと、本気で倒すよ」
『シャバドゥビダッチヘンシーン シャバドゥビダッチヘンシーン』
ウィザードライバーの詠唱。知らぬ者からすれば、それが呪文のためのプロセスだと知る由もない。
ハルトはそのまま、左手に付けたルビーの指輪、その飾りを下ろす。
「変身!」
『フレイム ドラゴン』
赤い魔法陣がハルトを通過。すると、魔法陣を通じ、赤いドラゴンの幻影が出現した。
『ボー ボー ボーボーボー』
ハルトの体を回転し、その姿はウィザード フレイムドラゴンへと変わっていく。
デイダラは、ウィザードの深紅の姿を見て「ほう」と感嘆する。
「前に比べて、チャクラの量が膨大になってるじゃねえか、うん」
「……どうも。一応確認しておくけど、戦いを止める気は……」
「芸術家に創作を止めろってか? そいつは死ねって言ってるようなもんだな、うん!」
「……お前の芸術は、芸術じゃないよ」
「センスのねえ奴には、何も分からねえよ。うん」
ウィザードは剣を構え。
デイダラは、そんなウィザードへ粘土を放ったのだ。
「おい、平気か?」
コウスケは抱きかかえたひなを地面に下ろす。
爆風によって宙を舞ったひなだが、彼女はやはり自身の危機を理解していないようで、むしろ「もういっかい! もういっかい!」とねだっている。
「もう一回ってなあ、あれは危ねえから……!」
「子守りで戦うつもりかい? ビースト」
上空から舞い降りてきたパピヨンが、つま先立ちで着地する。
「パピヨン……!」
「デイダラがウィザードのところに行ってしまったからね。折角だ、君とでも戦おうじゃないか……どうやらランサーはいないようだが」
「だったら?」
コウスケはひなを背中に回りながら、指輪を付けなおす。
「やるのか?」
「ああ。高らかに人間賛歌を謳う者が、か弱き少女を見殺しにしてしまった時、どんな表情になるのか見て見たい」
「悪趣味野郎が」
『ドライバーオン』
コウスケはそう言いながら、指輪を腰にかざす。
出現したビーストドライバー。獣の咆哮が響くのと同時に、コウスケは左手に付けた指輪を天高く掲げる。
「吠え面かかせてやる! 変~身!」
『セット オープン』
慣れた手つきで、両腕を回転させ、指輪をビーストドライバー上部のソケットに挿入させる。指輪がビーストドライバーの解錠キーとなり、古の魔道具がその姿を現す。
『L I O N ライオーン』
金色の魔法陣が、コウスケの体を通過し、魔法使いビーストに変えていく。
「そんなに戦いてえなら、オレが満足させ……っとと!」
手にしたままのダイスサーベルでパピヨンへ駆けだそうとするが、そのとき右足に何かに締め付けられる感触に襲われた。
「らいおんさん!」
見下ろせば、ひながビーストの姿に目を輝かせていた。ビーストの右足にしがみつき、キャッキャと笑顔で何度も叫んでいる。
「らいおんさん! らいおんさんだ!」
「ら、そ、そうだ。ライオンさんだぞ」
ビーストはそのまま「がおー」と両手を構える。
すると、何がひなのツボに刺さったのか、「らいおんさん!」と何度も手を叩いている。
「ほ、ほら。危ないから、ちょっと下がってな」
「らいおんさん! がおーっ! がおーっ!」
「が、がおー」
「随分とその子供に懐かれているようだね、ビースト」
だが、そんな微笑ましい様子は、パピヨンにとって格好の的でしかない。
指に乗せた蝶を見つめながら、パピヨンは告げた。
「果たしてその子を守りながら、戦えるのかな?」
パピヨンの手から離れ、低空で飛来する蝶。それがひなに向かっていることを察したビーストは、彼女の盾になるように膝を曲げる。
「ぐあああああっ!」
その直後、ビーストの鎧に容赦なく炸裂する。火花が飛び散り、ビーストの体が大きく揺らぐ。
「クソが……!」
「らいおんさんもはなび!」
「あ、ああ。たまやー。……肝っ玉座ってんな」
痛みに堪えながら、ビーストは右手に猛牛の指輪を付け替える。
『バッファ ゴー』
発動した魔法により、ビーストの右肩に牛のオブジェとマントが装着される。
「ふん」
さらに追撃してくる蝶の大群。
ビーストはマントを広げ、ひなを守るように覆う。直後、ビーストを嘲笑うように蝶のミサイルが無数に爆発を繰り返してくる。
「ぐ……うああああああああああっ!」
連続する痛みに悲鳴を上げながら、ビーストの体からぐったりと力が抜ける。
「らいおんさん?」
「へへ、だ、大丈夫だ。怖くないからな」
ビーストは仮面の下で笑顔を作り、自らのバッファマントを剥ぎ取る。
あまり何度も聞きたくないような音が自身の体から響くが、構うことなくビーストはそれを日菜に纏わせる。
「ほら、かっこいいぞ? マントが付いていると、お嬢さんもお姫様みたいだ」
「ひな、おひめさまー!」
無邪気な笑みを見せるひな。
ビーストは安堵し、パピヨンへ振り替える。パピヨンは少し浮かび上がりながら、その手を額に当てている。
「喜べ、ビースト。君が俺の初勝利の相手となる」
「初勝利が子供を守っている相手でもいいのかよ」
「命がチップだ。卑怯だろうが何だろうが、勝つために動くさ」
パピヨンはにやりと笑みを浮かべ、指を鳴らす。
同時に、ビーストは自らの姿が何者かの影に隠れていくことに気付いた。
「なっ……! 何だあれは……!」
ビーストの目線の先にあるのは、空をびっしりと埋め突くす量の蝶。 ビーストだけでは、そしてウィザードだけでは、ひなやこの保育園を守ることは難しい。
「デイダラに対抗しているんだ。これだけの数を用意するのは当然だろう?」
「お前、ふざけんなよ……!」
「今俺を攻撃したところで、もう止まりはしない……さあ、ここまでの事をする参加者もおるまい!」
あたかも勝利を確信したかのように、パピヨンは両手を上げる。
そして、華麗なる爆発物は、この保育園一体を焦土へ変えるために。
「……何?」
だが、パピヨンは顔を顰める。
「なぜ爆発が……」
「あれは……!」
その正体は、ビーストがいち早く理解した。
蝶たちは、動きを止めていたのだ。あたかも時が止まったかのように空中に固定されている蝶たちを凝視すれば、それが半透明の物質に閉じ込められているのが分かる。
「ちめたい! ちめたい! あははは!」
半透明の物質は、そのまま保育園の温度を下げる機能もあるようだ。保育園をドーム状に覆うそれは、そのままパピヨンの蝶も、デイダラの鳥もその厚みに閉じ込めている。
半透明の冷気をもつもの。すなわち氷。
「この氷は……!」
それはもう、この一か月間寝ても覚めてもそのものの事しか考えていなかった。
いつ、どこから訪れていたのだろう。
「パピヨン……お前も懲りないな」
「おーやおや、これはこれはゲートキーパー。こんなところで出会うとは」
白きウサギと氷の化身、フロストノヴァ。
鋭い目で、パピヨンの背後からその白い姿を現していた。
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