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さらば鳴尾浜

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第六章

「本拠地が変わらないのもね」
「珍しいわね」
「うん、その甲子園はね」
「同じだけれど」
「二軍はね」 
 今自分達がいるこちらはというのだ。
「変わってるし」
「鳴尾浜もそうで」
「その鳴尾浜っていったら」
 まさにというのだ。
「井川さんでね」
「その井川さんが出て来てくれて」
「それでね」
 そうであってというのだ。
「本当にね」
「相応しいね」
「そう、そして」
「井川さん投げてくれるわね」
「あの人も最初は」
 入団当初はというのだ。
「ここで練習してね」
「マウンドで投げていたわね」
「そうだったしね」
 だからだというのだ。
「ここで投げるんだよ」
「そうなのね」
「最後にね」
「有終の美ね」 
 千佳は微笑んで言った。
「これは」
「うん、本当にね」
「三十年色々あって」
「沢山の選手が汗を流してね」
「成長していって」
「そしてだよ」 
 そのうえでというのだ。
「ここでの若虎の歴史は終わって」
「次の歴史がはじまるのね」
「尼崎でのね」
「頑張ってね、カープもね」
 千佳は自分が心から愛するチームの話もした。
「二軍で育っていって」
「戦うっていうんだな」
「また黄金時代を迎えるわよ」
「三連覇の時みたいにか」
「そうよ、巨人は未来永劫最下位に落として」
 巨人にはそれが相応しいと目で言っていた、そこには純粋に悪に対する怒りがあった。巨人という絶対悪に対して。
「そのうえでね」
「カープ優勝か」
「勿論阪神も倒すわよ」
「その台詞そのまま返すからな」
「受けて立つわよ」
 兄妹で笑って話してだった。
 井川投手の最後のピッチングにだった。
 他の全てのセレモニーを観て二人で鳴尾浜を後にした、そして家に帰ると寿は千佳に対して尋ねた。
「気が晴れただろ」
「凄くね、阪神もいいチームだしね」
「そうだろ」
「二軍も絵になるわね」
「それが阪神だよ、何があってもな」
 それでもというのだ。
「絵になって華があるんだよ」
「勝っても負けてもで」
「練習する姿もな」
 それもというのだ。
「寮でも施設でも設備でもな」
「その通りね、その阪神と戦って勝つ」
「それがいいんだな」
「そうよ、勝つのはカープよ」
「阪神に決まってるだろ」
「その言葉そのまま返すわよ」
 今度は妹が言った、見ればその顔は笑顔であった。そしてその笑顔のままそれぞれのチームを応援していくのだった。


さらば鳴尾浜   完


                     2024・9・28 
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