さらば鳴尾浜
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第五章
「そのうえで応援していくんだ」
「阪神を」
「そうだよ、ここは三十年あって」
今度は年数の話をした。
「本当に色々な人達が育ったよ」
「ずっとここにあって」
「うん」
感慨に満ちた言葉で言った。
「三十年、多くの阪神の選手が練習して試合して」
「育って」
「活躍したんだよ」
「そうよね」
「井川さんだって」
左のエースとして二度の優勝に貢献した彼もというのだ。
「ここにいたんだよ」
「あの人ずっと寮にいたのよね」
「オフはもう寮の部屋に篭って」
そうしてというのだ。
「ゲームしてたんだよ」
「それでいい加減出ろって言われたのよね」
「ずっと寮で暮らしていたから」
「それも凄いわね」
「その寮もだよ」
「これでお別れね」
「そうなるんだよ、井川さんのいた部屋は」
そこは何処かというとだ、寮のある部屋の方を指差して言った。
「あそこだね」
「チェックしているのね」
「誰が何時どの部屋にいたか」
それはというのだ。
「はっきりとはわからないけれど」
「プライベートのことだしね」
「おおよそのことはね」
「わかるのね」
「何となくね」
「それはもう特殊能力ね」
「けれど千佳もだろ」
「まあね、カープの二軍の方行ったら」
広島まで行ってだ。
「寮も見るし」
「外からな」
「それで誰がどのお部屋か」
「わかるな」
「直感でね、けれど寮には近寄らないわ」
「僕もだよ。プライベートだから」
「それは大事にしないとね」
選手の人達のそれはというのだ。
「絶対に」
「そう、ファンとしてね」
「マナーは守らないとね」
「常にね」
こうした話もした、そしてだった。
二人でセレモニーを観るのだった、そこで。
その井川が出て来てだ、寿は思わず唸った。
「まさかだよ」
「井川さんが出て来られるなんて」
「思わなかったよ、けれど」
「それでもよね」
「ここに長い間いた人だから」
「エースになっても」
「だからね」
そんな人だからだというのだ。
「もうね」
「今日ここに出て来られて」
「相応しいってね」
その様にというのだ。
「思うよ」
「そうよね、私もね」
千佳もまさにと応えた。
「そう思うわ」
「そうだよね」
「鳴尾浜の幕引きには」
「井川さんだね」
「ええ」
まさにというのだ。
「この人よ」
「そうだね」
「阪神の歴史は長くてね」
「二軍の施設も変わってるよ」
「そうよね」
「甲子園は変わらないけれどね」
本拠地はというのだ。
「ずっと本拠地が同じなのも珍しいよ」
「球団が出来てから同じなのは」
「それも八十九年の間ね」
巨人創設の翌年に誕生したのだ。
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