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Fate/WizarDragonknight

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当て

 
前書き
最近難航が続いております……
大変お待たせしました! 

 
「「……」」

 見滝原大学の食堂。
 昼食時のピークを過ぎ、学生の姿もまばらになって来た頃合。
 食堂の机で突っ伏しているハルトとコウスケは、それぞれ消え入りそうな声で会話していた。

「なあ……今日どうする?」

 ほとんどしわがれ声のハルト。
 顔だけを動かし、伏せているコウスケの脳天に向けてハルトは尋ねた。一方コウスケは頭を転がし、テーブルに顔を擦りつけたまま応えた。

「どうするもこうするもねえ……引き続きフロノヴァのマスター探しだ」
「フロノヴァって……フロストノヴァのこと?」
「他に何があるってんだよ」

 コウスケの返事には、もう覇気はない。ただ頭を右へ左へ動かしながら、ほとんど脳を動かさないで返答しているように見えた。
 そのまま数秒、ハルトは周囲の雑踏に耳を貸す。やがて体を起こし、コウスケを見下ろす形となった。

「そういえば、手がかりが何人かいたんだよね。今どんな感じ??」
「ラスト一人。もしそいつを外したら、今度こそ手がかりナシだ」
「振り出しに戻るって意味?」
「そ」

 コウスケの肯定の言葉に、ハルトは大きくため息を付いた。

「そうなのか……昨日俺がグレムリンと戦っている時に、そっちもアウラと戦っていたって聞いたけど、アウラと遭遇したのも、手がかり探しの最中だったんだっけ?」
「ああ。元々三人候補がいて、うちオレが知る二人は外れ。っつうわけで、手がかりはラスト一人なんだが、ソイツのこと、オレ知らねえんだよな」

 コウスケがようやく顔をこちらに向けた。
 死んだ魚のような目をしている彼に、ハルトは肩を窄めた。

「……ってことは、フロストノヴァのマスターを探すよりも先にマスター候補を探すところから?」
「ああ。だから今日は午前の抗議全部すっぽかしてずっと探し回ってんだ」
「学生って大変だね……」

 ハルトはそう思いながら、ラビットハウスに勤める学生である可奈美やココアたちのことを思い浮かべる。
 彼女たちも(可奈美は現在休学中だが)定期的に勉強に追われるのと同様に、コウスケも勉強に追われる立場なのだろう。

「そっちが忙しいなら、昨日みたいに教授の手伝いも難しくなる?」
「多分な……フロノヴァマスター探しを優先してえ」
「てことは、お前がフロノヴァマスター……言い方移っちゃったよ……フロストノヴァのマスターを見つけるまで、教授の手伝いは……」
「一人で頼むわ」
「あああああああああああああああああああ……」

 ハルトは頭を抱え出す。

「お前は昨日の有様を知らないから簡単に今日休むなんて言えるんだよ。あの凄まじい書類の量を一回でもいいから見てみなよ……」
「オレも最初の方一緒に見たぜ」
「あれが毎日更新されてるんだよ。おかしくない?」
「……フロノヴァマスター見つけても今度はそれが待ってるってことか?」
「うん」
「……」

 白目を剥いたコウスケは、口から泡を吐く。
 水を口に含んで、せめてもと平静さを取り戻したハルトは、大きく息を吐いた。
 その時。

「こ、コウスケ? 生きてるか?」

 恐る恐るの声色で、コウスケの横から声が聞こえてきた。
 目を移せば、そこにはこの場に相応しい、男子大学生の姿があった。
 オレンジのパーカーが目立つ青年。平凡な顔付きだが、その表情には心配な心境が現れていた。

「えっと……コウスケの知り合いか?」
「ん? ……ああ、祐太か」

 顔を上げたコウスケは青年の姿を認める。
 お互いに軽く手を上げた挨拶を交わし、祐太と呼ばれた大学生は席に座ることなく「何してんだよ」とコウスケに尋ねた。

「そんな死んだような目して……あ、初めまして。コウスケの知り合いですか?」
「どうも。松菜ハルトです」

 おそらく彼はハルトを大学生だと解釈したのだろう。「どうも」と会釈をしたところで、コウスケが彼を紹介する。

「ハルト。コイツは瀬川祐太。ダチで……ほら、この前大学で保護した子いただろ?」
「大学で保護した子? ……ああ、えりかちゃんに会いに来た時の」

 大学で迷子になっている女の子の姿を思い返しながら、ハルトは頷いた。

「それじゃあ、あの子が言っていたおいたん……?」
「ああ。俺のことだ」

 祐太は頷いた。

「叔父と姪が日常的に一緒にいるのってなかなかないよね……」
「アンタがひなを助けてくれたんだ。ありがとうな」

 ハルトの呟きは、周囲の喧騒で祐太には届かなかったようだ。思わぬプライバシーへの配慮のなさを誤魔化せたことに内心安堵しながら、ハルトはほほ笑んだ。

「うん、何もなくてよかったよ」
「本当にありがとう。何か礼をさせてくれないか? 飯でもおごらせ……」

 それ以上彼が何かを言うよりも先に、コウスケがその腕を掴んだ。ぎょっとした顔を浮かべた祐太は、「こ、コウスケ……?」と口を震わせる。
 だが、祐太の「礼」という言葉を彼なりに都合よく解釈したのだろう。鬼気迫る表情で、祐太へ詰め寄る。

「祐太! 情報! 情報を……情報をよこせ!」
「何々!? 落ち着けって!」

 祐太がコウスケの肩を抑えるが、文字通り獣のような目つきのコウスケは

「探してるヤツの情報を求む!」
「何なんだよ、それにお前じゃなくて、ひなを助けた松菜さん……でいいよな? そっちにお礼をしたいんだからさ!」
「あー、いいよ。俺の代わりに、コウスケの望みを叶えてあげてくれると俺も助かる」

 それを言った途端、ハルトは失言だったと後悔した。
 ハルトの許しを得たコウスケは、より祐太へ顔を近づける。

「なあっ! 祐太! 花園って奴知らねえか!?」
「近い近い離れろって!」
「頼む祐太!」

 懇願してくるコウスケに、祐太は顔を引きつらせながら「分かったよ」と頷いた。

「で? 誰を探してほしいんだって? 聞き逃した」
「花園ゆりねって奴だ」
「花園? ……一年の花園ゆりねのことか?」

 まさに探していた名前を、祐太の方から口にした。
 その事実に、ハルトとコウスケは同時に目を張った。

「知ってるのか!?」
「お前今日はどうしたんだ?」

 再びコウスケを宥め、祐太は大きくため息を付いた。

「ったく。逆にお前は知らないのかよ。結構有名人だぜ? ゴスロリ衣装の眼帯ちゃんって」
「オレ見たことねえけど」
「もうちょい見ようぜ、周りを」

 祐太はそう言いながら、ポケットからスマホを取り出した。

「ちょっと待っててくれ。花園に連絡するから」
「お前花園の連絡先知ってるのか!?」
「ああ。前に同じ講義で協力したことがあってな」

 ポチポチとスマホの画面を操作する祐太。そんな彼を見上げ、ハルトとコウスケは目を合わせた。

「探していたものは、すぐ近くにあったのか……」
「灯台下暗しってことか。……まあ、色々すっ飛ばせてよかったんじゃない?」
「……今までのオレの頑張りは何だったんだよ」

 コウスケの口から魂が出そうになっているのを眺めているところで、祐太がスマホの操作を終えた。

「今日この後大丈夫だってよ。家の住所も送られてきた」
「……頼んでおいて何だけど、その子のセキュリティ意識大丈夫?」

 昨今の個人情報への危機管理意識としては甘いのではないのかと思いながら、ハルトは苦笑する。
 祐太も苦笑いで返事をしながら、自身の時計を確認する。

「そろそろ時間か」
「時間?」
「ひなを迎えにいくんだけど、丁度花園の家、保育園までの途中にあるんだ。一緒に行くか?」
「マジか? ありがてえ!」

 コウスケは感極まり、コウスケへ抱き着いた。

「おい、引っ付くなよ暑苦しい!」

 コウスケを引き剥がそうとする祐太だが、喜びに満ちたコウスケに歯止めは効かない。周囲の目にも目を配ることなく、コウスケはピョンピョンとはねている。
 そして。

「祐太から離れなさい!」

 突如として、コウスケの襟首が掴まれる。ハルトが「お」と呟いている間にも、コウスケの体が祐太から引き離され、宙を舞う。
 突如として背後より現れたブロンドの美人女性が、コウスケを当て身投げで放り投げたのだ。
 食堂のど真ん中に背中から墜落したコウスケが「ウゲッ!」と悲鳴を上げる。
 見れば、祐太を救出した女性は、コウスケに代わり祐太に張り付いた。

「大丈夫祐太? 何アイツ、変なことされてない?」
「落ち着いてくれよ。ほら、コウスケだって。俺の友達の」
「……誰?」
「加賀お前! またオレのこと忘れてるんじゃねえか!」
「……」

 じっとコウスケの顔を見つめる加賀と呼ばれたこの女性。
 綺麗な人だな、とハルトが感じていると、彼女はポンと手を叩いた。

「田中君!」
「前も同じ名前で間違ってなかったか!?」
「泥棒猫の名前なんてどうでもいいのよ!」

 ぎゅっと祐太を抱きしめ、加賀は「シャーッ!」と猫のようにコウスケを威嚇する。

「ど、泥棒猫だァ!? オレは男だぞ!」
「どうかしらね!? いい? 祐太は大学を卒業したら一流商社で部長へ昇進して、年に十二回は海外旅行へ行って、月に四回は一族総出でパーティを開いて、お爺ちゃんおばあちゃんになったら軽井沢で穏やかに過ごすのよ!」
「何かいきなり俺の人生プランまで練られてるんですけど!?」
「……あの人、お手軽修羅場製造機かな」

 ハルトはそう呟くと、席を立つ。

「そんな祐太の人生を邪魔するあなたは……つまるところ、私の(ライバル)!」
「じゃねえよ! なんで男のオレが! なあ、ハルト! お前もあの女を止めてくれよ!」
「ハイハイ。食堂の皆さんに迷惑だからその辺にしようね」

 ハルトは手を叩きながら、コウスケと加賀の間に割って入る。

「ええと、加賀さん、だったっけ? 驚かせてごめんね。その……祐太さんには、色々道案内してもらいたくて」
「そんなの、地図でも貰って貴方たちで勝手に行けばいいじゃない」
「折角ダチと目的地が一緒なんだ。一緒に行ってもいいだろ」

 コウスケが口を尖らせる。
 加賀はきっとコウスケを睨み、噛みつきそうになるが、その前にハルトが切り出す。

「えっと、コウスケがごめんなさい。でも、俺たちが会いたい人を知っているのが祐太さんだけなんだ。加賀さんが思うようなことは誓ってないから」
「……どうだか。こんなに可愛い祐太を狙う可能性だって大いにあるわ」
「ねえよ!」

 コウスケのツッコミを無視し、加賀はハルトに対して鼻を鳴らした。

「まあいいわ。祐太を貸してあげる。その代わり、私も付いて行くから」
「付いて行くって、香子さんこの後講義なかった?」
「祐太の貞操の方が大事よ」
「だから男同士だって言ってんだろ!」

 聖杯戦争の参加者探しなのに、結局二人を巻き込んでしまった。
 こうなると、花園ゆりねが外れ(・・)であることを祈ろうと、ハルトは思った。

「アイツ、何でそんなに花園に会いたいんだ?」

 食堂を出る時。
 そんな祐太の疑問の声へ、どうやって言い訳しようかハルトは逡巡し始めるのだった。 
 

 
後書き
ココア「チノちゃーん! 見て見て!」
チノ「どうしたんですかココアさん、その望遠鏡!」
ココア「押入れの奥にしまってあったんだよ! これでいつでも天体観測できるね! 新しい星を発見して、私も街のバリスタ弁護士小説家にさらに天文学者の名前も追加するよ!」
チノ「どんどん増えて行ってどうするんですか。でもこれ、相当年季が入っていますね」
ココア「きっとチノちゃんのお父さんが使っていたものだね」
ティッピー「最高の年代物じゃ」
チノ「でもココアさん、見滝原ではあまり星が見えません。使うなら山奥にでも行かないと」
ココア「……私の実家じゃ、結構見えたんだけどなあ……」
チノ「でも、確かにこれで天体観測をするのもいいかもしれません。是非計画してみましょう」
ココア「やった! それじゃあ、可奈美ちゃんやハルトさん、千夜ちゃんシャロちゃんに、響ちゃん友奈ちゃん、コウスケさんに真司さんも誘っちゃおう!」
チノ「ひ、響さんも来る……!」
ココア「あ、天体観測ってことで、今回のアニメはこちら!」



___見たことのないもの見つけてゆきたいな 輝く意志を拾い集めて___



ココア「恋する小惑星(アステロイド)!」
チノ「2020年1月から3月放送ですね」
ココア「新しい小惑星を求める二人の女子高生の出会いと青春の物語だよ!」
チノ「くじら座の一等星、ミラと同じ名前の主人公みらさんが、もう一人の主人公、あおさんの名前を新発見した星に名付けようと奮闘しています」
ココア「最近原作も終了したんだけど、何と! ほぼ同時期に新発見の星に本当に「Ao」と名付けられたんだよ!」
チノ「作品が現実を変えた瞬間です」
ココア「私も新しい星に、「Chino]って名付けるよ!」 
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