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ボーイズ・バンド・スクリーム

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第8話 海が凪ぐ Part.1

 
前書き
みなさん、おつマグです!今回からデート回です!カップリング書くのが好きなので…それではどうぞ! 

 
「サンキューな。急に誘ったのに来てくれて」

「いいよ、今日は暇だったし」

日産のスカイライン車内にて。運転しているのは瑞貴だ。助手席には桃香。今日は2人で横浜・八景島シーパラダイスに向かう。オーシャンブルーのボディが日光に反射して輝いていた。新品のようだが、どうやって買ったのかと彼女は尋ねる。

「じいちゃんが金くれた。ワイスピにハマっててさー。俺は車、詳しくないけど」

「太っ腹だな?!そっか、若いなー」

助手席に座る桃香は先ほどから気もそぞろに、もじもじしている。

「なんだ河原木?小便か?」

「おまっ、デリカシーデリカシー」

「そんなもん、母さんの腹ん中だって」

「ぷっ、何だそりゃ!違うって、その…今日の格好どうかなって思ってさ」

そう尋ねる桃香はスカイブルーのノースリーブワンピースに白いマウンテンパーカーを羽織り、足元はコンバースのハイカットを履いている。髪型は髪の長い左側をシュシュで留めてサイドテールにしている。いつものカジュアルめな服装と比べるとワンピースは新鮮に映るが非常に似合っていた。水族館もさりげなく意識したカラーリングでレベルが高い。

「うん、可愛いぞ。正直、運転ほったらかして今すぐ抱きしめたい」

「か、かわっ?!えっ、えっ!?」

瑞貴が率直な感想を言うと桃香は照れていたが、その後に眉を吊り上げる。

「…白石この前のライブ後、すばるの脇見てただろ?むっつりすけべって言われてたもんな」

「うっ…」

「すばるがさ、あれから煽ってくるんだよ。『桃香さんの色気が足りないんじゃな〜い?』って。だから、なんか見るんなら私の脇にしとけよっ、みたいな妙な対抗心湧いてきて。でも似合ってるか不安だったんだ」

「俺も時々、悲しくなるんだよな…」

「そうか?私はむしろ安心するけどな。白石も男なんだな〜って」

「河原木…」

「けど私が好きなんだったら、あんまりよそ見して欲しくないっていうか…」

「はい、すみません…」

2人の間を絶妙に気まずい空気が流れる。瑞貴は場面展開を図った。

「お、音楽流してもいいか?」

「うん」

「…」「…」

クイーンのアイ・ワズ・ボーン・トゥ・ラブ・ユー。プレイリストは基本シャッフルだが恥ずかしさを助長してしまった。そして2曲目に流れて来たのはダイヤモンドダスト版、空の箱。

「むっ…私がいた頃のダイダスが好きなんだろ?なんで他の子のなんか…」

「勘違いすんなよ?入ってる曲はバンドメンバーのもあるから。健斗が新しいボーカルの子、ヒナだっけ?推してて。グッズとかアホほど買ってるしな…まあ俺も、こっち聞いてモモカンバージョン聴くと改めて良さが感じられるからいいかなって」

「モモカン言うな!健斗って確かドラムの子か?推し活みたいな?」

「ああ。ライブ、来てくれたんだな?声かけてくれたらよかったのに」

「お前がっ、あの新曲歌うからだろっ?!」

瑞貴はアザレアのことか、と思い桃香に平謝りする。やはりラブソングだというのは気づかれてしまった。

「ま、まさか来てくれるなんて思わなくて…あの曲、次のアルバムに入れたいんだけど、俊哉さんあたりが反対しそうなんだよな。バンドのコンセプトとはズレてるし」

「それはなんていうか、ごめん。私は好きだけどな、あの歌。アルバム入れて欲しいなあ…」

「だったら嬉しい。ま、相談してみる」

「俊哉さんはベースの人か?」

「そうそう。完璧主義者だから、な。何曲ボツにしたことか…ま、不満はないよ。俊哉さん目当てで客足が伸びるし。ベース歴2年目らしいけど」

「あのレベルで2年目?!末恐ろしい…」

「他のバンドメンバーみんな『楽器お化け』って陰で呼ぶんだけど…俺、楽器やらないから分からないんだよ」

「うん、お化けだな。あれは常人なら10年レベル」

「えっ、そんなにか?!凄ぇな」

瑞貴は楽器の演奏経験がないためメンバーの熟練度がわからないが、楽器隊に非常に恵まれているのだと再認識した。

「ああ。そう言えば、この前、仁菜と喧嘩したんだって?大丈夫か?」

「えっ、そんなことまで知ってるのかよ。私は大丈夫。ありがとう」

「おう。健斗が登利亭でバイトしてんだ。あそこ住み込みだし。賄いもたまにもらえるみたいでさ。『瑞貴さん瑞貴さん!この前ライブ観に来てくれたお姉さん、おさげ髪の女の子と飲み物ぶっかけ合ってましたよ!ちじょーのもつれってやつっすかね?!』とかアホなこと言ってたな」

「ははっ…健斗って歳は?」

「17歳。声優の養成学校に行きながらドラム叩いてる」

「仁菜とすばると同い年か。なんか経歴も似てるな」

「言われてみれば確かにな」

3曲目はスリップノットのピープル・イコール・シット。激しいバスドラムとコリー・テイラーのシャウトが車内に流れる。

「またずいぶん激しい曲が来たな」

「俺、大好きでさ。俊哉さんは『そんな不協和音の塊ドブに捨てて来いや』ってお気に召さなかったんだけど。最近は受け入れてて『おい、瑞貴。知ってるか?ヘヴィメタルとクラシックって親和性があるんやで』とか言い出して」

「互いに影響し合ってるんだな」

「ま、バンドの良いところだな。刺激があって楽しいよ」

「バンド、か…」

一瞬、桃香の顔が曇る。ダイヤモンドダストを脱退していることや新しいバンドで活動していることに何か思うことがあるのかもしれない。

「河原木、あのさ…」

「おっ、そろそろ着くんじゃないか?」

「そうだな、行くか!」

「おう!」

どうやら目的の水族館が見えてきたようだ。今日が桃香の息抜きになればいいと思いながら残りの距離を走らせた。 
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