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ボーイズ・バンド・スクリーム

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第7話 ワンズ・クライ・アウト

 
前書き
みなさま、おつマグでございます。今日はワンクラのライブ会です!ええ瑞貴たちも、まごうことなきバンドマンですとも!たまにはライブも書かないと!前置きが長くなりましたが、どうぞ! 

 
桃香は単身お忍びで横浜のライブハウスに来ていた。ONES CRY OUTのワンマンライブを見るためだ。ネットを見る限り都市部での活動が中心のようだ。公式ホームページもある。ソールドアウトしているライブも多かった。

「こんばんはー!みんな元気か〜!?ONES CRY OUTのMC兼ムードメーカーのイケメンドラマー、健斗でっす!いやはや人気者ってつらいな〜!」

短めの茶髪をワックスで少し逆立てている。仁菜やすばると同い年ぐらいかもしれない。童顔で垂れ目。ニカッと笑うと八重歯が見えた。人懐っこい子犬みたいな顔だ。瑞貴が以前ハマれば強いと言っていたドラムだろう。

「ドアホ担当の間違いやろ?相変わらずうっさいなー」

ドラムに話しかけたのは180cm以上はあろうかという長身に銀色の長髪。瓜実顔の美形だが男性のようだ。関西弁を話している。彼が話した瞬間、女性の黄色い声が上がった。バンドメンバーの中でもかなりの人気があるのだろう。

「あ、いっけね!ドアホ係も兼務してたわ!今のナイスツッコミがベースの俊哉さん!そしてキーボードの陽貴さん!」

観客から、どっと笑いが起こる。元気印の、お調子者といった感じだろうか。素だとすれば良いキャラをしていると桃香は思った。

「ど〜も〜、みんな楽しんでますか〜?んじゃ、トリ頼むわ元生徒会長!」

そして工藤陽貴。瑞貴の高校の同級生で腐れ縁だ。短髪の黒髪で男前というほどではないが顔は整っている。

「生徒会長はよせよ…っと。ボーカルの瑞貴だ!今日はライブに来てくれてありがとう!初めましての人もそうでない人も今日は俺たちと一緒に暴れてくれ!」

「うっわ〜出たよマジメ瑞貴さん。そういえば、あの初恋の人に会えた話はしなくていいんすか!?」

「おいこら健斗!今その話すんな!」

「ひゅ〜ひゅ〜!」「照れてる!うぶだな〜」「初恋の相手って、もしかして私?!」「はよ付き合えー!」

「うっせぇぞ!お前ら!」

(やっぱり照れくさいって…)

瑞貴は揶揄われたりヤジを飛ばされたりで耳まで真っ赤になっている。健斗はしてやったりの顔だ。桃香たちで言うと、すばるのポジションに近いのだろうか。まさか桃香がライブに来ているとは夢にも思っていないだろうが。

「あの、僕の紹介は…」

「あ、忘れてた!ギターはピカイチ!でも言動は残念!宇宙人こと金清!」

「誰が宇宙人だ!誰が!」

「いいぞー!」「はよ弾けー!」「マッシュドポテト!」

「おい、それ絶対悪口だろ!誰が芋男爵だ!このブロッコリーども!」

少々、独特な話し方をしているのはギターの少年。古風な名前をしている。前髪で顔が隠れるマッシュルームヘアーが特徴的だ。マッシュドポテトは通り名だろうか。桃香はギタリストであるため彼の腕前に個人的に興味が湧いていた。

「…ったく!MC長ぇって、またネットで叩かれる前にやんぞ、ほらっ!」

「ぷっ、何だそりゃ」

ワンクラのMCがタラタラと長いとネットで叩かれているのを見たことがある。そのことすらネタにしてしまう瑞貴の言葉に桃香は吹き出した。彼の乱暴な話し方が心地いい。彼女の目の前にいるのは、あの頃の落ち着いた委員長じゃない。紛れもないロックバンドのボーカルだ。

「まずはデビュー曲から。終わりの先へ。俺たちの叫びを聞け!」

『終わりの先へ』は王道ロックといった感じの曲だ。ムラがあると聞いていたが、ドラムのハマりも良さそうだ。金清のギターソロは思わず引き込まれる。俊哉のベースはとにかく乱れない。熟練の域だ。陽貴のキーボードは性格無比だ。桃香は詳しくは知らないが、彼は幼少期にコンクールで受賞を連発していたと音楽界で話題になっていた。実力に裏打ちされた迷いのない鍵盤叩きだ。繊細なタッチも難なく、こなしている。瑞貴のボーカルは高低差はあまりないが、とにかく抑揚のつけかたが上手い。さすがは演歌歌手の孫といったところだろうか。

「お前ら、今日はありがとな!最後は新曲やるぜ!それでは聞いてください…アザレア」

瞬く間に時間は過ぎていく。4曲披露していたが、ドラムの調子に左右されるというのを加味しても全体のレベルが非常に高い。そして『アザレア』は、これまでのアップテンポの曲とはうって変わりミドルテンポの曲だ。キーボードとボーカルの掛け合いが良い。アザレアは川崎駅のアゼリアから取ったのだろうか。ちなみにアゼリアとは川崎市の花で西洋ツツジを意味する。

(これ、もしかしてラブソング…か?)

桃香は路上ライブをしたことを瑞貴に話している。ツイッターを見て場所を知ったのかもしれない。ただ彼と会ってから数日しか経っていない。大学通学の合間を縫って新曲を作ったのだとしたら、かなりハイペースだ。完成していた曲に歌詞を乗せたのかもしれない。

「最初からやれー!」「モア新曲プリーズ!」「アンコール!アンコール!」

「殺す気か、お前ら!」

最後まで愛のあるヤジが止まらない。瑞貴の乱暴な言葉遣いもファンとの信頼関係があってこそだろう。桃香は奇妙な気恥ずかしさもありつつ、満たされた気持ちでライブハウスを後にするのだった。 
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