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第53話「テレサと、地球の真実」

 
前書き
ネオ・代表05−1です。第53話「テレサと、地球の真実」となります。
どうぞ、ご覧ください。 

 
 ―――ガミラス 駐地球大使館。

 月面大使館は名前の通り月に置かれており、それは月の裏側に存在する。月が誕生してから永い年月の間、その裏側には多くの隕石が衝突している。地球の大地から見る月は美しい一方、その裏側は多くのクレータが形成されていた。ガミラス帝国の月面大使館は、そうしたクレーターの一つに置かれているのだ。

 そんな月面大使館のとある通路を歩く、2人の若い男がいた。1人は青い肌を持つガミラス人―――クラウス・キーマン、金髪で美男子とも言える容姿をしており階級は中尉。もう1人は地球人で名を古代進といい、元〈ヤマト〉のクルーだ。

 古代は、キーマンに案内されている最中だ。ガミラス特有の内部意匠である通路を、無言のまま案内をされている。
 案内されている古代は、追憶していた。自分は輸送船〈きさらぎ〉のコンテナに隠れ、月面大使館にやって来た。正規のルートを使うことなく、100式戦闘機に乗って。それは、キーマンの指示でだ。キーマンとは、旧地下都市で遭遇した。島と口論となったことで自分は行き先を定めないまま車を走らせ、気づけば旧地下都市にいた。そこで出会ったのだ、彼に。そして、静かにこう告げられた。―――月へ招待する、月面大使館に。

 「バレル大使は中で待っている。入れ」

 キーマンから声を掛けられたことで、追憶は終わりを迎えた。

 ガミラス帝国の紋章が印字されている赤色のカーテンは、床にまで届いていた。キーマンが先に入るのではないのか、古代は顔を向けたが無言で促されるばかりだった。入るよ、と視線を彼へ向けた古代はカーテンに向き直る。

 「失礼します」

 カーテンに手を掛けると、古代は部屋の中へ入るため足を踏み出した。部屋にはバレル大使がおり、彼はソファーに座って待っていた。座りなさい、と促された古代は彼の向かい側に腰を下ろした。

 古代が腰を下ろしたその時、突如として視界が暗転したのだ。身体を硬く古代の目の前に光が現れると、長い金髪の女性が見えてきた。一糸まとわぬ金髪の女性は跪き、天を仰ぎ祈っていた。その姿はまるで巫女のようで、そして神々しかった。黄金色の長髪が衣さながらに肌へ落ちている彼女は、闇の中で輝いていた。

 古代は思い出した。真田の研究室でデータが暴走した際、自分は彼女の姿を見ていた。ハっと我に返ると、視界はバレル大使に元通りとなる。

 「バレル大使、自分は彼女を…」

 「見たのだな?」

 「…はい」

 「…そうか」

 古代の反応を確認したバレル大使は、本題の説明を始める。

 「では、話が早いな」

 バレル大使の声に合わせ立体映像が展開されると、数多もの銀河系が浮び上がってきた。タイムスケールなのだろう。渦を成す銀河はゆっくりと回転し、星々は誕生と死を繰り返していた。

 惑星の画像や遺跡、出土品、廃墟、ありとあらゆるデータが立体映像に表示されていく。これらはガミラスの勢力圏に限られているものの、かなりの文明が存在していたと調査が教えてくれた。それは同時に、この宇宙には数多の文明が存在していることも教えてくれていた。
 
 「多くの文明が勃興しては、やがて滅亡していった」

 戦争、疫病、天変地異といった様々な滅亡の要因を挙げるバレル大使。だが、と彼は続ける。

 「その中で滅びなかった文明が存在する。その文明は、文明の頂点を極めたとされる。だがある日、突然と姿を消した。惑星ごと、だ」

 「惑星ごと、姿を消した…?」

 バレル大使は頷き、言葉を紡ぐ。

 「その星の民は人間の意思そのものを物理的な力へと変えて、利用することが出来た。人間の想像力に限界が無いように、精神から引き出されるエネルギーにも限界は無い。無限に等しい力を誇った彼等は、その気になれば星座の形を変えることすら出来た」

 それに似たようなものが、ギリシャ神話には存在する。主神ゼウスは英雄ヘラクレスの死を惜しみ、天へと上げた。彼の姿を星座として残し、いつまでもその存在を人々が語り継ぐようにする為に。それはつまり…。

 「神…」

 古代の呟きを、バレル大使は引き継ぐ。

 「そう、まさしく神の力。しかし、その力を持ってしまった故に彼らは肉体を必要としなくなった。生きながらにして、死後の世界に足を踏み入れたようなもの。精神だけの存在となった彼らは、生きた人間では決して辿り着くことが出来ない次元の果てで結晶化し、一つの存在となった」

 祈り続ける彼女の名を、バレル大使は告げる。

 「その名はテレサ。あの世とこの世の狭間であって、全ての平穏を願い続ける女神」

 お伽噺ではない、と断じたバレル大使は続ける。同時に、遺跡とテレサに関する情報が展開される。

 「テレザートが実在する逸話は様々な星間文明に残っている。神が伝説や伝承で語れるように、人々は実体を自身の瞳で見ぬまま、テレザートを語り継いでいる。そして、テレサに選ばれた者達の記録も。どれも1000年以上もの前だが」

 「選ばれた…?」

 バレル大使が頷くと共に、言葉を紡ぐ。

 「君達かつての〈ヤマト〉の乗組員は、共通の幻―――故人を見た。古代、君は誰を見た?」

 「自分は、沖田艦長を見ました」

 「それが、テレサのメッセンジャーだ。我々よりも高い次元に存在するが故に、テレサはこの宇宙の始まりから終わりまで見通している。テレサに選ばれた者は、あるべき未来に従って為さねばならない」

 瞬間、バレル大使は軽く手を振る形でキーマンに指示を出した。すると、テーブルの上方に宇宙図が現れた。入れ代わった為、遺跡とテレサに関する情報は消えていた。上方に展開されている宇宙図は単純化された線と光点として浮かび、その中である一つの区画だけが点滅している。
 ガミラス本星が存在する大マゼラン銀河を起点としたもので、到来したエネルギー波を映していた。地球から南の方向―――オリオン腕方面。

 それを見ていた古代は告げる。

 「この座標は、我々に幻を見せたあのエネルギー波と方向が一致します」

 バレル大使は頷く。

 「これまで多くの文明が調査団を送り込んだが、未だテレザート星は発見されていない。おそらく、テレサは何らかの方法でテレザート星を封印しているのだろう」

 「封印?」

 古代の問いかけに、バレル大使はキーマンに視線を送る。

 「最近、この宙域でガトランティスの動きが目立っている」

 立体映像に、新たな点が現れた。分かりやすく、ガトランティスの紋章もある。

 「我々の銀河系への進出は端緒だ。今のところ、ガトランティスとの衝突は発生していないが……元々ガトランティスの勢力圏は小マゼラン銀河だ。ここしばらく、大マゼランに進入しようとしてはガミラス艦隊によって撃退しているが、まさか矛先を天の川銀河に向けて来ているとは我々としても予想外だった」

 古代の脳裏に、先日の作戦が過った。ガトランティスによる第八浮遊大陸の占拠は、ガミラスは想定していなかった。ガミラス艦隊の総戦力は一万隻を軽く超えるが、辺境には少なめの艦隊がいるだけ。ガミラスにとって、本拠地である大マゼランを除くと手薄に等しい。

 チラリと、バレル大使はキーマンへ視線を送る。その視線に気づいたキーマンは、口を閉じた。その視線には、こう含みがあった。―――引き継ぐ、と。バレル大使は口を開く。

 「彼らについての情報は少ない。強大な戦闘国家だが、未だに母星の位置を掴めずにいる。…もし、ガトランティスがテレサの封印を破ったとしたら―――」

 「仮にそうだとして、ガトランティスがテレザートを狙う理由は?」

 古代は遮り、問うた。いったい何の為に狙うのか、それが分からないからだ。問われたバレル大使は、返答する。

 「テレサに選ばれた者は、先に言った通り―――為すべきことを為す。その見返りに、どんな願いでも叶えることが出来る。金持ちは勿論、一国の王にだってなれる」

 お伽噺の続き、と言いたげの色を浮かべる古代。バレル大使は苦笑いする。

 「その気持ちは分からないでもない。だが、テレサが本当に高次元の存在なら、この宇宙において出来ないことはない」

 「こう言い換えることも出来る」

 キーマンが言葉を重ねる。点滅する宙域を見つめた後、古代へ顔を向けた。

 「封印を解き、テレサの力を手にした者は、あらゆる願いを叶えられる」

 「では、ガトランティスの目的は…?」

 問われたバレル大使は、既に苦笑いから真面目な色を浮かべていた。

 「封印を解くこと。だが、既に解かれている可能性も否定出来ない」

 やはり救難信号かと、古代は思う。真田や島に、自らがそれを口にした結論はやはり正しいのではないか。古代の瞳は、テレザート星があるとされる宙域付近に釘付けとなる。その付近には、白色のクェーサーが存在する。真田に見せられた宇宙図にも、これが表示されていたのだ。何か意味があるのか、それは分からないが見ているとゾッと震えそうになってしまう。

 「無論、推測に過ぎん。だが〈ヤマト〉のクルーが選ばれたのは事実だ。地球やガミラス、ブリリアンスではなく、君達を」

 瞬間、テーブルの上に浮かぶ立体映像が消えた。古代の顔を、バレル大使は真剣な眼差しで見つめている。そして彼は、顔を動かさないまま控えているキーマンの名を呼んだ。

 「彼を連れて地球に降りろ。行き先は分かっているな」

 「はっ!」

 バレル大使へ振り向くと、キーマンはガミラス式の敬礼をした。

 「その目で、地球の真実を見ろ」

 ソファーから立ち上がると、バレル大使は背を向け地球を見つめた。同じくソファーから立ち上がった古代は、キーマンに先導されながら出口へと向かった。



 ―――地球。

 バレルの命令を受けたキーマンに連れられた古代は、標準的なガミラス艦で地球へと降下した。その途中、搭載していた偵察機《スマルヒ》で船を発ち、目的地である某砂漠地帯へと向かった。

 某砂漠地帯はコスモリバースシステムにより流星爆弾の影響が無いものの、今のところ使い道が無いという理由で復興計画から外されている地域である。その為、立入禁止区域と指定されている。
 しかし、目的地である立入禁止区域は、ただの立入禁止区域では無い。標準の監視カメラとフェンスの他、他の立入禁止区域には絶対に存在しない無人戦車と無人警戒機に、NASAが開発した人型機動兵器―――【戦術機】が目を光らせているのだ。これが、ただの立入禁止区域であるほうがおかしい。

 つまり、この某砂漠地帯の立入禁止区域は、それだけの価値があるということ。

 厳重な警戒が敷かれている某砂漠地帯の立入禁止区域に偵察機《スマルヒ》を確認すると、直ぐさま警告が送った。無人警戒機が近づいたと同時に、監視カメラ・無人戦車・【戦術機】の視線がたった1機の偵察機《スマルヒ》へ殺到する。

 偵察機《スマルヒ》に乗るキーマンがコードを送信すると無人警戒機は去り、監視カメラ・無人戦車・【戦術機】の視線も無くなった。進入が、認められたのだ。

 《スマルヒ》は高いフェンスに囲まれた施設の側に着陸すると、機体から古代とキーマンが降り施設へと向かった。施設は、ガミラスのガミロイドに似たドロイドが警備していた。先と同様、キーマンが流れるように身分証明を示すカードを提示すると、道を開け施設への入りを許可された。古代はそれに、ガミラスの軍施設なのかとキーマンへ尋ねたが、首を横に振っただけだった。ただ首を横に振っただけだったが、古代は言外に告げられているのだと感じた。―――見れば分かる、全てはそれからだ。首を横に振ったキーマンのそれは、言外でこう告げていたのだ。

 古代とキーマンは施設に入った。この施設は1年と新しい為、汚れが一切無い。職員はいなく、2人だけだ。

 キーマンから防護服を着るように促された古代は怪訝な色を浮かべたが、促された通りに着用する。2人の出で立ちは、地球上に居るとは思えない程に物々しい。宇宙空間での船外作業に使う船外作業用の宇宙服以上で、厳重な防護服を纏い気密式ヘルメットを装着していた。着終えると、2人は施設内部に存在する立坑へと向かった。真っ直ぐと地下へ伸びる巨大なトンネルで、一定間隔で置かれた照明がどこまでも続く。

 地下へ行くカプセル型のエレベーターに乗ると、エレベーターは降下していく。立坑は想像以上の深さがあり、地下都市の最深部と同等かそれ以上の深さであった。エレベーターが停止し扉が開かれると、目を見開く光景がそこにはあった。左右に巨大な滝が壁のようになっており、さながら海が割れたかのような光景。しかも、その滝は”下から上へ移動している”。

 驚きを隠せない古代は、キーマンが前の通路へ足を踏み出したことで我へと帰り、彼に続く。一瞬とはいえ、天井方向へ”落下”してしまうのではと恐れたが、それは杞憂のようだった。2人は1つの通路の奥にある扉へ一歩一歩と近づく。

 そうして、突き当りの扉まで来たところで、キーマンが口を開く。

 「1時間のツアーだ。それ以上は身体が保たない」

 キーマンは装着している腕時計の時刻を、グローブに包まれた太い指先で操作しアラームをセットする。それがどういう意味なのか気になる古代だったが、その問いかけを飲み込む。答えはこの扉の先にある。ならば自分はそれを見なくてはならない。必ず、答えを見るのだ。古代も、キーマンと同様にアラームをセットした。

 眼前の扉には、この施設が地球連邦政府の関与するものであると示す―――「UNCF」の文字が印字されていた。キーマンは、扉の脇に位置する操作パネルに手をやると、ロックされていた扉が開いていく。扉の先には黒基調のシリンダー状通路が続いており、通路の幅は人間で例えると2人分であった。湿度が高いのか、水滴が至るところに存在しており、天井から水滴がポタポタと振って来ている。

 「行くぞ」

 キーマンが進み、古代は彼に続いた。背後で扉が閉まると、絞り羽根さながらに分割された壁が回転し始めた。フライホールを想起させる動きで、回転は徐々に速くなっていた。

 ふと、古代は水滴の動きを見て異変に気づいた。これは、明らかに”遅くなっている”。

 「リバースシンドローム。此処は、そう呼ばれている」

 今も異様な光景があるというのに、キーマンは冷静だった。
 
 「リバースシンドローム…?」

 リバースだけを日本語に訳すと逆転する・反転する、という意味。何故、此処はそう呼ばれているのだろうか。オウム返しする古代に、キーマンは振り向くことなく問うた。

 「ガミラスの流星爆弾により破壊と汚染されたこの星を、甦られさせたものは何だ?」

 今更だな、と思いつつも返答する古代。

 「コスモリバース―――」

 システムを言おうとした時、ハッと気づく。古代は今、自分が口にした単語に驚きのあまり声が出ない。彼に対し、前を向いているキーマンは目を細める。

 「未知の技術には副作用が付き物だが、こいつは度を越している」

 その時だ。音が止み、回転が停止した。それだけではない。ポタポタと降る水滴や舞う水滴もが、まるで時が止まったかのように静止していた。だが、目を凝らせば僅かとはいえ動いていることから完全静止ではないようだ。

 「このスケールシリンダーが無ければ、人間は10分と保たない」

 古代とキーマンは、突き当りに達した。眼前には、入口と同じタイプの扉がある。この扉の先に、地球の真実がある。直感的に、古代はそう感じた。扉は汚れ、腐蝕すらあった。つい先程に潜った入口には無かったものだ。手入れがされず捨て置かれたかのようだが、装置―――開閉パネルのボタンは生きていた。キーマンが人差し指でタッチすると、開閉パネルが点灯した。

 ゆっくりと、扉が開かれていく。

 「…!」

 瞳に映る光景に、古代は扉を完全に開くのを待てなかった。キーマンを押し退け、左右に開く扉の隙間を通り抜けるや駆けた。

 古代の瞳に映る世界は、組み立てかけの立体パズルを思わせる世界だった。複雑な形状をする巨大な建造物と切り立つ海面が、それぞれの面にテクスチャのように存在していた。海面は先程の滝のように逆流している訳ではなかった。面に沿って時には横、時には縦に這うような動きをしている。

 スケールシリンダーの出口に続くのは長いキャットウォークで、それは巨大な建造物に向かって繋がっていた。

 「これは、いったい…?それに、此処は…?」

 唖然とする古代に、無理はないといった顔を浮かべたキーマンは告げる。

 「地球だ。此処は、甦った地球が美しい自然の裏で密かに抱え込んだ闇。コスモリバースシステムというブラックボックスが生み出した特異点だ」

 そう告げたキーマンの瞳に、とある構造物が移動するさまが映った。

 「あれは…!」

 古代も同様だが、その構造物を見た彼には見覚えがある。いや、あり過ぎる。間違いない、あれは…波動エンジンだ。
 それだけではない。あらゆる方向に造船設備が展開しており、乾ドッグが置かれ、建造が完了した艦船と建造途中の艦船が鎮座していた。
 古代とキーマン以外の人間はいない。代わりに、ガミラスのガミロイドをベースに作られた作業用のドロイドがいる。

 鉄製の欄干(らんかん)に手をやる古代は、あまりの光景に唖然としていた。建造されている艦船は全て戦艦であるが、それは金剛型改ではなく共通して波動砲を搭載した戦艦だ。

 「なんで、なんで…」

 無意識に握る手が強くなる古代。内側の憤りが込み上げ怒りの色を顕わとした古代は、キーマンへ勢いよく顔を向ける。

 「なんで、こんなことに!」

 キーマンは答えない。ただ、古代に向けていた視線を鎮座する複数の戦艦へ向けていた。

 「いつからだ、いつから…」

 古代のそれは、キーマンへ向けた問いだった。キーマンならば、知っているだろうから。戦艦群へ向けていた視線を、古代へ戻したキーマンは静かな声音で告げる。その声音は、怒りで震える古代とは対照的だった。

 「〈ヤマト〉が帰還して直ぐだ。リバースシンドロームの実態把握に5年。ドッグの建設に10年」

 「…は?」

 古代は、キーマンへ顔を向けた。何を、言っているんだ。〈ヤマト〉の帰還から、まだ3年しか経過していないじゃないか。そう思う古代に、キーマンは言葉を紡ぐ。

 「《時間断層》」

 「時間、断層…?」

 「この真相を知る者達は、そう呼んでいる」

 その意味を、古代は理解が出来なかった。出来るとすれば、反芻して訊き返すことだけだ。

 「外で1日が経過する間に、この《時間断層》は10倍―――10日分の時間が流れる。コスモリバースが発生させた《反重力特異点》。それが、この空間の時間の流れを狂わせている。《時間断層》で30年を掛けて大軍事工廠を作り上げようとも、外で流れた時間は3年。〈アンドロメダ〉の異常な速さの完成を、お前も疑問に思っていた筈」

 「……」

 「地球連邦政府は、この《時間断層》を中心に波動砲艦隊を作ろうと計画し今に至る。磯風型・村雨型・金剛型以下の主力を後方に下げ、波動砲艦で艦隊を形成する。これなくして、復興政策はあり得なかっただろう」

 「…復興、だと?ハハ…これのどこが復興だ!」

 キーマンは、涼しげに目を閉じる。

 「ガミラス・ブリリアンス・地球の連合艦隊に、軍事同盟」

 そう口にしたキーマンは目を開け、その1点を見るよう古代へ促した。

 「もう、お前達の問題だけでは無い」

 キーマンが見つめている1点を、古代も見つめる。巨大な建造物の一角から、深海魚を彷彿させる深緑色を持つ艦船が現れた。その艦船は、ガミラスの改メルトリア級であった。1隻ではなく、何隻も。

 「あれも見てみろ」

 キーマンは、もう1点を見るよう促した。古代は、それを見つめる。

 「あ、あれは…!」

 すると、ブリリアンスの艦船―――アクラメータ級Ⅰ型戦闘航宙艦1隻が現れた。

 「地球連邦政府は、《時間断層》の使用権をガミラスとブリリアンスに売った」

 「売った、だと?」

 信じ難い古代は、キーマンに食い掛かった。彼は、無表情のまま言葉を紡ぐ。

 「見返りとして、ガミラスからは持て余している幾つかの植民惑星とそこに住まう人間、ブリリアンスからは大量の資源を。拡大政策を維持出来ないガミラス、地球の軍事力を増強させたいブリリアンス」

 政治と経済は宇宙共通だな。キーマンは最後に、皮肉めいた笑みを浮かべてそう付け加えた。古代は、握りしめていた拳を手すりへ叩きつける。
 
 「これが、〈ヤマト〉が航海の末に持ち帰った未来か…」


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 《ある日のギルド長》

 大量の資源を渡して、波動砲艦隊を実現してもらおう。波動砲艦隊の完成が待ち遠しいものである。いやぁ、それにしても、《時間断層》が使えるというのは嬉しいものだ。 
 

 
後書き
現状公開可能な情報:《時間断層》

概要:
 遊星爆弾によって荒廃しきった地球の環境を蘇らせ、美しい緑と水の惑星に戻したコスモリバースシステムの副作用で発生した。この時間断層内部では通常の空間と比べて、時間の流れの速さが10倍早くなっている。つまり、外で1日経ったとき、時間断層内では10日が経過する。調査したところ、深部に行けば行くほど時間の流れは速くなる。

 時間の流れの違いの影響か、人間はこの空間では生身で10分、防護服に身を包んでもせいぜい1時間程度しか保たない。したがって、ドロイドを工員代わりとしている。機械なら即座の影響はない。それでも10倍の速さで老朽化することにはなるが、それは取替更新すればよいだけ。

 西暦2199年に、ヤマトがコスモリバースシステムを地球へ持ち帰り、ガミラス侵攻前の環境を取り戻したものの、副作用によって局地的に時間の流れが異なる空間が生まれてしまった。これが、《時間断層》である。

 時間断層の存在に気づいた地球連邦政府は、この事実を公には公表せず一部の政府関係者や軍の高官のみ《時間断層》の存在を発表した。

ーーー

さてさていかがだったでしょうか。至らないところもあるかと思いますが、温かい目で観ていただけると嬉しいです。ご意見、ご感想お待ちしております。次回もお楽しみに!  
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