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第52話「素晴らしい!」

 
前書き
ネオ・代表05−1です。第52話「素晴らしい!」となります。
どうぞ、ご覧ください。 

 
 ―――《ブリリアンス星》。

 ギルド長スヴェートの私室で瓜二つの女性同士が会話をしていたが、それは終わりを迎える。

 『―――以上が、転生者テレーゼ・ドルクマスについてだ。太陽系全域に生じた通信障害の件と並行して、引き続き調査する』

 「よろしく頼む」

 通信を切るとホログラムが揺らぎ、2号と名付けられたリンガルの姿が消え始める。黒サングラスを掛けた彼女の姿は、やがて消えていった。

 入れ代わるように、テレーゼの写真と情報が展開される。それを観ていたスヴェートは、呆れた顔となった。

 「馬鹿かな?」

 目を擦っても、目を閉じてカッと目を見開いて見つめても、そこに映る情報は変わらずだ。

 いやだって、呆れてしまうのも仕方ないというもの。自分は転生者です的な文章が、至るところに存在しているのだ。掲示板だけならどんなによかったか。掲示板以外にも、そういった文面と発言がある。よく精神科に連れて行かれなかったなと思うし、よくNASAに入れたなとも思う。おそらく相手も「そうなんだねぇ」のていで、話を受けていたのだろう。

 だが、テレーゼが転生者であるのは本当の事だ。自宅で、ブリリアンス艦船を興奮気味で一人独白していたくらいなのだから。

 「写真でいっぱいだったな」

 転生者関連で関係はない事だが、自身の後輩が超タイプなのか部屋一面に彼の写真が貼られていた。確か、クロノアだったか。見た目はまんま男の娘。勤務姿に寝顔に料理姿にお風呂など、ありとあらゆる写真がそこにはあった。好きなのだろう、抱き枕にもメイド姿のクロノアがある程なのだから。

 付き合っているのだろうか、と2号に調べさせたところ、バッチリ付き合っているようだ。であれば、これは普通で健全なのだろう。「あぁ愛しのクロノア、愛しのクロノア!」と写真に向かった頬を擦りつけていたのは不思議ではあるが。
 
 「懐かしいな。テレーゼを見ると、誰もいない学校の教室の事を思い出す」

 それは、スヴェートがまだ高校生の時だった。部活に所属していない彼女は授業が終わると真っ先に帰宅するが、ふと声が聞こえたことで帰宅はせず学校に残った。声の発生源であろう使われていない空き教室を覗くと、一人の女子生徒がテレーゼと同じ事をしていた。

 「夜遅くの教室で、カップルがいたのも懐かしい」

 翌日の夜遅く、忘れ物を取りに学校へ行き教室の扉を開けようとした時、年若い男女の声が聞こえた。男は悲鳴交じりの声、女のほうは嬉しそうな声だった。大丈夫か大丈夫かと扉を開けると、学校の制服を乱れている男女がいた。床に仰向けである下級生の少年と、同級生の少女が彼の上に跨る。
 どういう状況だ、と「??」を浮かべたものだ。2人の視線が向けられる中、私は探し求めていた忘れ物を発見し、「元気でいいね」と告げた後に帰宅した。よかった、事件が無くて。それにしても、2人が顔を赤らめていたのは何故だろう。

 う〜んと首を傾げるが、満足する答えが出そうにない。後で我が娘に聞いておこう。あ、そういえば司令部に行かねばいかなかったな。

 スヴェートは席を立ち、私室を後にした。


 ―――司令部。

 現在、スクリーンには資源産出についてのデータが展開されていた。深海の資源収集プラットフォームが、稼働を開始したのだ。

 「資源、資源の回収量、…素晴らしい!」

 席に座るギルド長スヴェートは、上昇している生産量グラフを観て喜んだ。彼女の前に立つ漆黒のコスチュームを着用している宰相スラクルは、その様子に微笑みながら報告を続けた。

 深海に建造された巨大な採掘機械が、今も海底を削り取っている。周囲の海水、堆積物をまるごと吸引し、資源のみを選り分け、資源以外の物質は排出。

 採掘による汚染は最低限に抑えられているが、流石にプラットフォーム周辺は撹拌されてしまう。周囲への拡散は、設定した閾値を下回っている。

 海底に堆積している各種鉱物を回収するという性質上、単に削り取るだけでは、周囲へ大量の有機堆積物、土砂が拡散されてしまう。

 そのため資源回収プラットフォームはゆっくりと移動し、資源以外の有機物はペレット状に押し固めて排出しているのだ。

 その甲斐もあり、水の濁りや有機物の飛散は最低限に抑えられている。

 移動に伴う海水撹拌も最低限に抑える為、非常に生物的な見た目となっていた。

 海底を移動しつつ、堆積している鉱物資源を吸い込んでいくのが、海底プラットフォームである。

 「―――また、発見された熱水口周辺には、大量の希少金属が堆積しています。これらを回収する専用装置も稼働を開始しました。現在も、耐腐食性を高めたプラットフォームにより採掘を行っております」

 熱水鉱床と呼ばれるこれらは、金属が溶け込んだ状態で海底より噴出することで生成される。地下を含め、熱水噴出孔周辺では希少金属元素を大量に回収できる可能性があり、非常に有望な鉱床といえる。

 「海底は宝の山だな」

 資源を回収し、回収資源を生産設備や兵器に回し、一部は備蓄資源として溜め込んでいく。惑星破壊兵器を建造するプロジェクト―――《スターダスト計画》へ資源を回していたこともあり、マイナスとはならないものの生産量は下降傾向にあった。しかし、海底プラットフォームの稼働により生産量は拡大しつつある。順調である。

 頃合いだろう。スヴェートは、スラクルに問いかける。

 「《ギルド長級 建造計画》の運用データは、集まっているか?」

 「はい、ギルド長閣下。試作艦のテストは問題なく完了。仮想空間シミュレーターへ反映済みです。設計および仮想試験シミュレーションも、同様です」

 満足げに頷いたスヴェートだったが、突如としてホログラムが手前に投影される。

 「このあからさまな建造開始ボタンは、もしや…」
 
 「ご覧の通りです。ギルド長座乗艦《スヴェートⅠ世》のプロジェクト開始でありますので、承認をお願いします。貴女は、このあからさまな建造開始ボタンが好きでしょう?」

 宰相であるスラクルへは、かなりの権限を解放している。それは、代理ギルド長も兼ねているからでもある。しかし基本的には全ての行動に対し、最終としてギルド長スヴェートの許可を必要とする。

 「よく分かってるじゃないか。流石は、我が娘だ。では、始めよう。…ギルド長座乗艦《スヴェートⅠ世》のプロジェクト開始を、この私―――ギルド長スヴェートが許可する」

 彼女は、<建造開始>ボタンをポチっと押した。 
 

 
後書き
さてさていかがだったでしょうか。至らないところもあるかと思いますが、温かい目で観ていただけると嬉しいです。ご意見、ご感想お待ちしております。次回もお楽しみに!  
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