ある白猫の生涯
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数日後、俺が散歩から帰ってくると、俺の小屋の中から2本の生脚が伸びていた。ミナツちゃんであろうことは、直ぐにわかったのだけど・・・何してんだ? それに、何て恰好なんだ!
俺は構わずに ミナツちゃんのお腹に飛び乗っていた。
「うっ 岩 痛いよー いきなり なによー」
『なにが なによーだ! そっちこそ 勝手に俺の小屋で・・・何してんだよー』
「あー 寝てしまった ここ 木の香りがして 風も来るし 快適なんだよねー そうだ ダニ除けも置いといたからね」と、俺を胸の上まで引き寄せて抱きながら、頭を撫でてくれている。
ミナツちゃんの弾力があって柔らかい胸の膨らみが心地よくって、俺も手でモミモミしながら ゴロゴロと喉を鳴らせていた。
夕方のご飯の後、俺は 又 見張り小屋に向かった。今夜は、現れるような予感をしていたのだ。小屋の入り口近くで、直ぐに飛び出せるように待機していると、案の定 獣の気配を感じたのだ。
納屋の角から顔を出して様子を伺っている。あいつだ! おれは、もっと出てくるタイミングを見ていた。数歩 乗り出しては 辺りを伺っている。そして、菜園近くまで来た時に 俺は シャーァ と叫んで 飛び出して行った。あいつは、素早く 納屋の物陰に逃げて行った。その隙間に俺には入れないのだ。
でも、これで しばらくはあいつは警戒してしまって来ないだろうと、安心して、本家に戻ろうと・・・でも、2階のベランダまでは上れないのだ。だから、1階の屋根に上って、明かりが点いていたのでミナツちゃんの部屋の下から叫んだ。
『おぉーい 俺だよー 入れてくれぇ~』反応が無いので、寝てるのかなーと 何度も『にゃーぁ』と鳴いていたら ようやく、窓の網戸が開いて
「岩! そんなとこで何してんのよー うるさい! 近所迷惑だよー」
『なんだよー 早く 入れてくれてぇーの!』
「入りたいの? ここまで 跳べる?」と、俺は目いっぱい窓枠に跳んでいった。
「まぁ でかい割には 身軽なのね やっぱり 猫なんだー」
『てやんでぇー 俺はな 今 イタチを追い払って 仕事をしてきたんだぜー もっと ご苦労さんとか 言い方があるだろう』・・・『ニャー にゃーぁ』と、抗議のつもりだったんだけど
「丁度良かったわ これから お風呂入るから 岩も一緒ね しばらく 入って無いからネ! 汚い子は 私の部屋には入れませんからね」
お風呂に連れて行かれて、ミナツちゃんが髪の毛と身体を洗っている間、俺は洗い場の隅から逃げ出そうと扉をカリカリしていたのだけど、ミナツちゃんが俺の頭をコツンとしてきて
「観念して おとなしくしていなさい」と、俺が 『シャーァ』と、反抗すると
「なによー その反抗的な態度は・・・ いつも ご飯 用意してるのって 私じゃぁない 私のこの美しい身体に少しでも傷をつけたら 放り出すわよー わかったぁ!」
すごーい剣幕だった。俺にも、彼女が何を言いたいのかわかったのだ。初めて、人間の言葉が理解できたのだ。その後は、渋々とおとなしく身体中を石鹸だらけにされて、顔も嫌というほど擦られて、シャワーを浴びせられていた。
「お母さん 岩が出るから お願いネ」と、バスタオルにくるまれてリビングに抱きかかえられて、身体をゴシゴシと拭かれながらと
「岩は 今日は おりこうさんだったみたいね 鳴き声が聞こえなかったわよー ミナツのこと お気に入りみたいネ」
「そりゃー 岩 だって 男だから若いほうが良いに決まってるよー」
「こらぁー 仁 なんてことを・・・」と、男の子が窘められていた。
ミナツちゃんがお風呂から出てきて
「岩 身体 拭いてもらったぁ? 耳ン中の水をきれいにしょうね」と、俺を抱きかかえて、顔を押さえて耳に何かを突っ込んできたのだ。俺は『シャァー』と・・・
「なによー シャーッてぇー おとなしくしてなさい! 耳にお水が入ったままだと病気になっちゃうの!」
俺は、何故かミナツちゃんの言うことに逆らえなくなっていたのだ。
「あらっ 岩って やっぱり ミナツの言うことはおとなしく聞くのねー」
「う~ん わかってくれているみたい ねっ 岩ぁー」
その後、ミナツちゃんは自分の部屋に連れて行ってくれて、ベッドで
「いい? 岩のご主人様は お父さんだけど 私は岩の相棒だからね わかったぁ!」と、教え込まれたのだ。
その夜はミナツちゃんのベッドで ゆっくりと朝までゆっくりと寝たのだ。人間に寄り添って寝るなんてこと 今までは 考えられなかったことだ。
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