英雄伝説~黎の陽だまりと終焉を超えし英雄達~
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第33話(2章終了)
9月27日―――――
―――――数日後。七耀暦1208年9月27日 10:34―――――
数日後、ヴァン達は事務所の端末でジャックとハル、アシェンと通信でその後の煌都について聞いていた。
~アークライド解決事務所~
「―――――”メッセルダム商事”は完全撤退、煌都にも平穏が戻ったってわけだ。少なくとも、表面上はな。」
「でも黒月とアルマータの抗争はむしろこれからが本番みたい。メンフィル帝国からの”戒め”の件に対する汚名返上の意味でもルウ家が積極的にアルマータを潰す為に色々と動くようだし。長らくカルバードを離れていた”銀”も”エースキラー”という形で今後関わってくるだろうね。」
「”ラギール商会”の”銀髪の売り子”の”派遣期間”に関してはチョウがラギール商会の”商会長”と”アルマータを壊滅させるまで”という条件みたいだから、アルマータが壊滅するまでは”銀髪の売り子”はルウ家に協力してくれるそうよ。」
「”ラギール商会”の”銀髪の売り子”……確か名前はエリザベッタさん、でしたか?チョウさんが”伝説の凶手と称されている銀という存在の補填”と仰っていましたけど、エリザベッタさんはそんなに強い方なのですか?」
ジャックとハルの後のに説明したアシェンの話を聞いてある事が気になったアニエスは不思議そうな表情で訊ねた。
「ああ。見た目からしてとても考えられないが、ああ見えてもかつて”二大猟兵団”と恐れられていた片翼の猟兵団―――――”赤い星座”という猟兵団の団長の”赤の戦鬼”とも互角にやりあったとの話だからな。それを考えると少なくても戦闘能力は”銀”以上だろうな。」
「”赤の戦鬼”……アイーダさんからも聞いたことがあります。アイーダさんがいた伝説の猟兵団―――――”西風の旅団”と双璧を為す猟兵団の団長で、その戦闘力は”西風の旅団”の団長である”王”と言われた存在に次ぐ程と。」
「そんなに凄い強い方なのですね、エリザベッタさんは……」
ヴァンとフェリの話を聞いたアニエスは呆けた表情で呟いた。
「ま、そんなとんでもない使い手達も”槍の聖女という化物の中の化物”と比べれば霞むだろうがな。」
「いや、そもそも”槍の聖女を比較対象にすること自体が間違っている”でしょう。」
「”鉄機隊”もそうだが”槍の聖女”まで出張ってきたという話にはマジで驚いたが………確かに”槍の聖女”や”鉄機隊”も”裏”の世界でもその存在が恐れられているとんでもない使い手達だが、”槍の聖女”は高潔な性格で有名だし、その直属の部下である”鉄機隊”の連中は”槍の聖女”に絶対的な忠誠を誓っているそうだから、対応さえ間違えなければ連中は”裏”でも恐れられている存在でありながらも、良心的な存在にもなると思うぜ。」
「確かにメンフィル帝国――――――それも前皇帝と現皇帝からの指示があったにも関わらず、ヴァンさんの話に耳を傾けてその話の方がメンフィル帝国から受けていた指示よりも有効的と判断すればその場で採用した上、重傷を負ったアシェンさんのお爺さんの傷を治す為に貴重な霊薬まで譲ってくれるという寛大さもありましたね………」
肩をすくめて答えたヴァンにハルは呆れた表情で指摘し、苦笑しながら答えたジャックの話を聞いてフェリはリアンヌ達との出来事を思い返した。
「ま、そういう事だ。幸いにも連中も”エースキラー”の一員らしいから、この間のように行動を共にする機会があれば、アニエスが通っている学院の”初代校長”やその”同志”の事についても歴史の授業では出てこないような話を教えてくれるかもしれねぇぜ?」
「あ………”獅子戦役”は約250年前に起こった出来事ですから、約250年前から生き続けているサンドロット卿は約100年前に起こったカルバードの民主革命の中心人物である”シーナ・ディルク”や”アラミス”を直に知っている可能性がある”生き証人”という事にもなりますね。…………そういえばそのサンドロット卿の件で気になっていた件があるのですけど……アシェンさん、サンドロット卿と約束したシュバルツァー総督との縁談の件はあれからどうなったのですか?」
ヴァンの指摘を聞いてある事に気づいたアニエスは目を丸くした後アシェンにある事を訊ねた。
「”縁談”とはいっても、さすがに相手が相手だから、幾らルウ家でも”灰の剣聖”なんて大物を相手の縁談を何の準備もなくすぐに用意なんてできないわよ。話に聞いた所”灰の剣聖”の実家であるシュバルツァー家は元々は”温泉郷”として有名なユミルを治める小貴族だった事でシュバルツァー家よりも爵位が高い貴族やルウ家のような権力を持っている家から圧力をかけられてそれらの家の関係者と”灰の剣聖”や彼の妹の姉妹達との縁談を成り立たされてしまう事を危惧したメンフィル帝国の皇家であるマーシルン皇家自らがシュバルツァー家の”寄親”としてシュバルツァー家を”保護”しているらしいもの。」
「えと……”ヨリオヤ”とは一体……?」
「”寄親”というのは主に貴族が使う制度で、簡単に説明すると”寄子”である貴族が”寄親”の貴族に忠誠を誓ったり一定のお金を納めたりする事で、”寄親”である貴族が”寄子”になった貴族に様々な便宜を図る事―――――例えば”寄子”の貴族の親類縁者の就職先もそうですが縁談を用意したりすることもありますし、”寄子”の貴族が政治的な問題を発生させてしまったらその解決に力を貸したりすること等もあるそうですよ。」
「へえ……民主革命以降のカルバードは貴族制度も廃止されたのに、よく知っているじゃねぇか。」
アシェンの話を聞いてある言葉が気になったフェリの疑問にアニエスが答え、アニエスの説明を聞いていたジャックは感心した様子で指摘した。
「アハハ……カルバード両州がメンフィル帝国とクロスベル帝国――――――貴族制度がある国の領土となった事で学校も学生達に将来の為にも”貴族”に関して色々と学ばさせるべきと考えたみたいで、授業で教わったんです。」
「確かにカルバード両州には”貴族”はいないけど、両帝国の他の州には”貴族”がいるし、その貴族達が商談や旅行もそうだけど、場合によっては軍や政府にも派遣されてこのカルバード両州に訪れて滞在したりするから、カルバードの人達も貴族についての知識はある程度知っておいた方がいいだろうね~。」
ジャックの指摘に対して苦笑しながら答えたアニエスの話を聞いたハルは納得した様子で呟いた。
「……で、話を戻すがメンフィル帝国の皇家が”灰の剣聖”の実家を保護している事でルウ家でもそう簡単に縁談を用意できない以上、どうやって”代案”を実行するつもりなんだ?」
「昔から『将を射んとする者はまず馬を射よ』という諺があるでしょう?だからまずは”馬”――――――つまり、”灰の剣聖”の婚約者の人達と仲良くなって”灰の剣聖”を紹介してもらって、そこからヴァンさんが”槍の聖女”に指摘したように”灰の剣聖との絆を深める”―――――つまり、縁談でなく普通の恋愛のように交流を重ねて仲良くなっていく事よ。―――――実際”灰の剣聖”と親しい関係にある”エースキラー”の人達も縁談よりはそっちの方が初対面のあたしでも”灰の剣聖”と婚約者になれる可能性が高いって言ってたわ。」
「なるほど………それでアシェンさんは”灰の剣聖”のどの婚約者さんと仲良くなるつもりなんですか?」
話を戻したヴァンの疑問に答えたアシェンの説明に納得した様子で頷いたフェリは新たな疑問を口にした。
「”ミルディーヌ公女”よ。」
「ええっ!?”ミルディーヌ公女”と言えば……!」
「エレボニアの”三大名門”の当主の一人にして、エレボニアの貴族達の”筆頭”―――――カイエン公爵家の当主であり、3年前の大戦時”鉄血宰相によって支配されたエレボニアの暴走を止める為の組織”―――――”ヴァイスラント新生軍”を結成してメンフィル・クロスベル連合の勝利に貢献し、エレボニアの存続にも貢献した事からエレボニアの王家ですら頭が上がらないエレボニアの重要人物にして”灰の剣聖”の婚約者の一人でもある大貴族の若き女性当主か。―――――確かにエレボニアでもVIPクラスの上”灰の剣聖”とも婚約関係でもある公女なら、”灰の剣聖”のスケジュールを把握した上でお嬢さんとの面会の用意とかもできるだろうし、しかもミルディーヌ公女はアルフィン王女もそうだが数多くいる”灰の剣聖”の婚約者の中でも”正妻”になる予定のエリス嬢の後輩でもある事で二人とも親しい関係だから、その二人とも仲良くなる為にもミルディーヌ公女と仲良くなる事が一番現実的な方法だろうな。」
アシェンの答えを聞いたアニエスが驚いている中アニエスの言葉の続きを口にしたヴァンは納得した様子でアシェンに指摘した。
「ええ。まあ、”灰の剣聖”の婚約者の大半は”灰の剣聖”の傍やその周囲で様々な役目で”灰の剣聖”を支えている事で、接触自体が難しいという理由もある上ルウ家―――――”黒月”の令嬢であるあたしが交流を深めやすいのは実質ミルディーヌ公女が最も適しているという理由もあるのよ。」
「えと……どうして、アシェンさんが交流を深めやすいのはその”ミルディーヌ公女”という人物になるんでしょうか?黒月の令嬢とエレボニアの大貴族の当主………特に接点はあるように思えないのですが……」
「……恐らくですけどカイエン公爵家の本拠地にして西ラマール州の州都でもある”海都オルディス”に黒月の店舗を構える事で、ミルディーヌ公女との繋がりを作るつもりなのだと思います。黒月――――――カルバード最大のシンジゲートの令嬢が自分のお膝元で活動し始めたら、幾らミルディーヌ公女でも無視はできないと思いますし………」
「そんでもって”ラギール商会”以外での異世界(ディル=リフィーナ)の商品の仕入れルートを開拓する魂胆って所か?オルディスにはメンフィル帝国の大使館があることで大使館が誘致した異世界の商人達を集めたデパートがある上メンフィル帝国の大使自身に交渉するって手もあるからな。」
アシェンの説明を聞いて不思議そうな表情で首を傾げているフェリにアニエスは真剣な表情で自身の推測を答え、ヴァンはアニエスの推測を補足する説明を呆れた表情で答えた。
「二人とも正解♪今はチョウがオルディスで開く店舗の場所選びをしていて、正式に支店関連の契約が終わったらあたしがオルディスの”支店長”として配置される予定よ。ま、その前にミルディーヌ公女にアポを取っての”挨拶”をすることになっているけどね。」
「え……もう、ミルディーヌ公女とのアポイントも取れたのですか?ミルディーヌ公女はエレボニアの筆頭貴族の当主なのですから、そんな相手に対して何の伝手もないのに幾らアシェンさん――――ルウ家でも難しいと思うのですが……」
「”伝手”ならあるじゃねぇか。何せ煌都に訪れていた”エースキラー”の面々の中にはエレボニアの貴族―――――それもカイエン公爵家と同じ”三大名門”の当主もいるからな。」
アシェンの説明を聞いて目を丸くしたアニエスが不思議そうな表情で疑問を口にするとヴァンが苦笑しながら指摘した。
「あ……!」
「それじゃあ、アンゼリカさんにその”ミルディーヌ公女”という人物と会う約束を手配してもらったのですか?」
ヴァンの指摘にアニエスは呆けた声を出してアンゼリカを思い浮かべ、フェリはアシェンに訊ねた。
「ええ。来週にはチョウと一緒にオルディスに挨拶に行く予定よ。」
「ミルディーヌ公女か……ヨルムンガンド戦役時、当時14歳という若さでありながら”鉄血宰相”にも悟られないように、内戦終結の直後でありながら内戦で敗戦した貴族連合軍を短期間で纏め上げて”ヴァイスラント決起軍”を結成した上、メンフィル・クロスベル連合の”総大将”である英雄王達”ゼムリアの三皇”と接触してヴァイスラントと連合の同盟を結んだこともそうだが、戦後のエレボニアが存続できるように交渉し、更に公女自身は今では”伝説”として語られている”灰の剣聖”が率いた精鋭部隊―――――”灰獅子隊”の一員として”灰の剣聖”達とともに最前線で戦ったことから、連合もそうだが”灰の剣聖”自身からも絶大な信頼を寄せられて、その結果エレボニアは敗戦国でありながらも連合の属国になることにならないようにした立役者とも言われている事からエレボニアにとっては王家と並ぶかそれ以上の最重要人物になるだろうな。」
「ヨルムンガンド戦役もそうだけど、その後の立ち振る舞いからしても、下手したらあのチョウよりも相当なクセ者なんじゃないの?」
「そうかもしれないわね。実際チョウ自身も、『決して油断できない相手だ』って言っているくらいだし。ま、偶然にも年齢はあたしと同い年の上、学生時代は東方文化も関係する部活に入っていた上ミルディーヌ公女自身、東方の流れを汲む衣服や茶の収集を趣味にしているみたいだから、仲良くなれる要素はあると思うわ。」
「ま、公女の良いように利用されないように気を付けておいたほうがいいぜ。ミルディーヌ公女は親しい連中からも相当な腹黒娘と言われている上、”灰の剣聖”との婚約関係に関しても世間的に見れば政略的な意味合いが強いように見えるが、本人自身にとっては”灰の剣聖”は”本命”だからな。間違っても公女にとっての愛しの”灰の剣聖”を利用するような事は言わないことをお勧めするぜ。」
ジャックはミュゼに関する情報や推測を口にし、ハルの指摘に同意したアシェンは口元に笑みを浮かべ、ヴァンはミュゼを思い浮かべて苦笑しながらアシェンに忠告した。
「ええ、その点については”エースキラー”の人達からも忠告されているから、重々気を付けておくわ。」
「ふふっ、相変わらず事情通だね。」
「クク、そう言いつつも毎度首を突っ込むからチョウあたりに付け込まれるんだろうが?」
「うるせえよ!にしても、どうも煮え切らねぇぜ。最後までヤツの掌の上だったような……」
忠告にアシェンが頷いた後ヴァンの事情通にハルが苦笑している中からかいの表情で指摘したジャックの指摘に思わず声を上げたヴァンはチョウの顔を思浮かべて疲れた表情で呟いた。
「ま、今回の件は黒月の世代交代を印象づけるものだっただろ。ファン大人は亡くなった若者たちへの弔いと家族への見舞いをした上で―――黒月に引き渡された生き残りの半グレたちについても、全員煌都の警察に引き渡した。完全に民衆の支持を得たってわけだ。」
「で、それを支えるのがチョウと。元々クロスベル方面の利権を握っている上、今回の結末も全て導いた上、新たにエレボニア方面の利権の開拓もそうだけどルウ家の令嬢と”灰の剣聖”の婚約の足場作りも任された。早くも次期長老入りが囁かれてるみたい。」
「クソ……!やっぱり利用されただけじゃねーか!」
「フフ、さすがあのツァオが自分に何かあった時に残していた”切り札”よね。あ、そういえばアニエス、結局学校には間に合ったの?」
ジャックとハルの話を聞いてチョウを思い浮かべて悔しがっているヴァンを見て苦笑したアシェンはあることを思い出してアニエスに確認した。
「あはは……やっぱり遅刻しちゃいまして。」
「当たり前だろ……だから夜行で戻れっつったんだ。」
「ヴァンさん、それは水臭いです。」
苦笑しながら学校には間に合わなかったことを報告するアニエスに呆れた表情で指摘するヴァンにフェリが指摘した。
「あの夜の後始末は大変だったもんねぇ。ギルドに警察、海軍まで出張ってきて。」
「結局夜行に間に合わず、早朝の未明にヴァンさんたちと一緒に車で戻りました。一応、午後から出席しましたけど。」
「真面目ねぇ……なら午後も休んじゃえばいいのに。」
「ふふ、アニエスさんらしいです。」
「そっか―――最後まで見届けたかったんだね?」
アニエスの真面目さにアシェンが苦笑している中フェリは感心し、アニエスの意図を悟ったハルはアニエスに確認した。
「はい……大した力にはなれませんでしたが。それでもこの目で見届けて、自分にできることを最後まで。」
「ハン……」
「フッ……いい助手たちに恵まれたじゃねえか。ま、エレイン嬢ちゃんは気が気じゃないかもしれんがな。」
「……だからうるせぇよ。そういやまた釘を刺されたな。」
アニエスの答えに口元に笑みを浮かべていたヴァンだったがジャックの指摘を聞くと僅かに複雑そうな表情を浮かべて煌都から去る前のエレインとの出来事を思い返した。
……私の見ていない所で今回も色々あったみたいね。無事だったのは何よりだけど……”綱渡り”は何時までも続かないわよ?
そしてアニエスさん―――やっぱり民間人の貴女が危険に近づくのは見過ごせないわ。例え”力天使”という強力な護衛がついていたとしても。”相談事”についても……そのうちギルドに切り替えることを検討してみて。
「―――てな話だったがどうよ?」
「……エレインさんは尊敬できる、とても信頼できる方だと思います。でも、今回も酷い事件でしたけど……だからこそ得られた経験や絆がありました。」
エレインとの出来事を思い返したヴァンに確認されたアニエスは答えた後ヴァンやフェリ、端末に映るアシェン達を見回して答えた。
「ですから……引き続きお願いします。」
「そうか。」
「えへへ……」
「ふふ、応援してるよ。」
「頑張ってね!」
「はい……!」
アニエスの答えにヴァンとフェリがそれぞれ相槌を打った後に声をかけたハルとアシェンの応援の言葉にアニエスは力強く頷いて答えた。
「うーん、しかし問題はアーロンよねぇ。マザコンでシスコン気味だから年下にちょっかいは掛けないと思うけど、風紀は乱しそうだし。ユエファ小母さんは”そっち”方面に関しては割と放任主義みたいだし、マティ姉さんも何だかんだ言ってもアーロンには甘いのよねぇ。」
「あはは……アーロンさんたちに悪いですよ。」
するとその時ることを思い出したアシェンは気まずそうな表情を浮かべて指摘し、アシェンの指摘にアニエスは苦笑しながら答えた。
「風紀、ですか?」
「……?って待て。どうしてあのガキの名前が出てくる?そういやアイツ、例の軟膏の反動で速攻ブッ倒れてやがったが……たしか半月は動けないんだったか?」
二人の会話が気になったフェリは首を傾げ、ヴァンは戸惑いの表情でアシェンに確認した。
「あ、うん、それがね―――」
「ハッ……オッサンと違ってまだ若いんでなァ。」
そしてヴァンの確認にアシェンが答えかけたその時青年の声が聞こえた後事務所の扉が開かれ、アーロンとマルティーナ、ユエファが事務所に入ってきた。
「……………………」
「お疲れ様です、アーロンさん、マルティーナさん、それにユエファさん。」
「迷いませんでした?」
アーロン達が自分の事務所に現れたことに驚いたヴァンが口をパクパクしている中、アーロン達の訪問を予め知っている様子のアニエスとフェリは落ち着いた様子でアーロン達に声をかけた。
「地下鉄っつーのは初めてだが迷いはしなかったぜ。さすが旧首都―――アがるデカさとは思ったけどな。」
「フフ、その言い方だと”田舎者”であることがバレバレよ、アーロン♪」
「まあ、それに関しては私やユエファも他人のことは言えないけどね…………」
アーロンの答えを聞いてからかいの表情で指摘するユエファにマルティーナは苦笑しながら指摘した。
「なんだ、もう着いたんだ。」
「それにしても決めるの早かったね?」
「レイたちの弔いは爺さんと済ませた………街の連中にも挨拶して義理は通したしな。ああ、部屋の契約もさっき下で済ませてきたぜ。」
「ちなみに私とマティは下のビストロで”アルバイト”として働くことになったわ♪」
「はあああっ!?どういうことだ―――――!?」
アーロンとユエファの話を聞いたヴァンは困惑の表情で声を上げてアーロン達に訊ねた。
「アンタがしゃしゃり出てきたおかげで俺は”居場所”を無くした。いや―――改めて見つめなおすきっかけになった。爺さんやオッサン、チョウや姉貴、オフクロとも話してしばらくの間、煌都を離れることにした。代償としてしばらく厄介にならせてもらうぜ。元々、旧首都には興味があったし、アルマータにゲネシスってのも気になる。大体のコツは掴んでるし裏解決屋も気が向いたら手伝ってやるよ。」
「私とユエファは普段は下のビストロで働いているけど、アーロンが裏解決屋の仕事を手伝う時は最低でもどちらか片方はアーロンの”守護天使”かつその”使霊”としてアニエスのメイヴィスレインのようにアーロンの身体に宿って貴方達に協力するようにシフトをポーレット達に調整してもらうことになっているわ。」
「勿論この間のようにどこかに”出張”する時は二人とも貴方達に協力できるように配慮もしてもらえることになっているから、これからよろしくね♪」
「戦力的には頼もしいですっ。」
「ふふっ、よろしくお願いしますね。」
「だから勝手によろしくすんじゃねえ!!――――あのジジイにチョウの野郎………くそっ、出やがらねえ!」
アーロン達の話を聞いたフェリとアニエスがアーロン達の加入を嬉しそうな様子で受け入れている中、ヴァンは疲れた表情で声を上げて反論した後ザイファを取り出して文句を言いながら自分からの通信に全く出ない様子のチョウに何度も通信し続けた。
「往生際が悪いなァ、オッサン。」
ヴァンの様子をアーロンは苦笑しながら見つめて呟き
「クク………ま、しっかりやれよ。」
「あんたなら大丈夫でしょ。」
「あ、でもこっちみたいにあんまり傍若無人に振る舞わないのよ?マティ姉さんもそうだけど、ユエファ小母さんもあんまりアーロンを甘やかさないでよ?」
「フフ、わかっているわ。」
「あー、わかってるって。ったく、オフクロもそうだが姉貴もわざわざ仕事を辞めてまでついて来なくていいって言ったんだがな…………」
ジャック達の応援や注意の言葉にユエファと共に答えたアーロンは僅かに苦笑を浮かべてマルティーナとユエファを見つめて指摘した。
「あら、”守護天使”である私が導く貴方と離れ離れになる訳にはいかないでしょう?それにホテルの方はファンさんの配慮で『休職』にしてもらっているから、辞めた訳ではないわよ?」
「当然、マティの”使霊”である私が”主”であるマティと別の場所で生活する訳にはいかないし、そもそも私は”戸籍上では死んでいる”のだから、マティと違って私がどこで何をしようと誰も気にしないでしょう?」
「よく言うぜ…………煌都を離れる時の挨拶でオフクロのことを知った華劇場の支配人のオッサンから、役者としての復帰を望まれていただろうが。」
「現役時のユエファ小母さんの実力や器量もそうだけど煌都での知名度を知っている支配人からしたら、アーロンが抜けた穴の代わりが欲しかったというのもあるでしょうけど、昔と違って導力通信が発達している今の時代なら、”アルカンシェル”の”舞姫”達や女優の中でもトップクラスのジュディス・ランスターとも並ぶくらいにユエファ小母さんが有名になってユエファ小母さん目当てに華劇場にたくさんの客が来てくれる事が目に見えているものねぇ。」
マルティーナと共に答えたユエファの答えを聞いたアーロンは呆れた表情で指摘し、アシェンは苦笑しながらある人物のことについての考えを推測した。
「ま、役者に戻るのも悪くないけど、しばらくは”母”として大切な息子の人生を見守らせてもらうわ。あ、”夜の街を楽しみたい時”はマティ共々ちゃんと空気を読んで貴方の身体から離れてあげるから、私達のことは気にしなくていいわよ?」
「余計なお世話だっつーの!ったく、オフクロが形は違えど生き返った事は嬉しいのは事実だが、やりにくいったらありゃしないぜ…………―――そんじゃあ留守中、そっちは任せたぜ。」
からかいの表情でウインクをしたユエファに声を上げて反論したアーロンは疲れた表情で呟いた後気を取り直して映像端末に映るアシェン達に声をかけた。
こうして…………アークライド解決事務所は”3人目の押しかけ助手”とその守護天使と使霊が加わることとなった―――――
後書き
というわけで予想はしていたと思いますが、アーロンに加えてマルティーナ&ユエファも事務所側のプレイアブルキャラとしてパーティーインですw
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