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帝国兵となってしまった。

作者:連邦士官
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 あの後は事後処理に追われ、事務作業をマドリッドーリでやっていた。たったの数週間の占領作業であったが比較的市民は友好的だ。帝国側が食料などの物資を配っていたり、各国の記者や義勇兵にプロパガンダをするためか急ピッチで復興をしていた。

 その指揮下に居て炊き出しが終わった後に、指揮車に戻って、たまたま手元にあった新聞を広げる。それは麦の会の新聞である。初期からイスパニアの新聞社を買い、イスパニアに根ざして出版をしている。今やこの新聞はイスパニアでは大手だった。イスパニア教会やイスパニア民族主義者やイスパニアの文化人と帝国の文化人の対談の他、多数の記事に渡る。

 イスパニア内ではカルターニャからガスコなど帝国側勢力を代表する新聞社となっていて前線などにも緩衝材として一緒に入れられて流通しているらしい。というのも、こちらには緩衝材ではない新刊が毎回届くので見たことはない。

 この新聞社は、登記簿上は森林三州誓約同盟に本社を持ち、中立を謳っている。国民の麦の会の支社は今やイルドアから秋津島などにもあるらしく、帝国らしい論調を広めるロビー団体じみている。

 記事によるとあの急報は首都であるマドリッドーリを戦いもなく無傷のままに明け渡したイスパニア共同体。様々な暴露により共同体の地に落ちていた評価だったが、それは今回の首都を特に市民を巻き込まないというやり方により一定の評判を得た。

 その通りかもしれないが、とはいえ、この退去は合理的な判断であったのは間違いはない。抵抗もできない戦力と突出した土地であり、内陸ゆえの流通の悪さ、それに万が一にでもクーデター軍が首都を取ってしまえば名分が強化される。クーデター軍よりもイルドア軍よりも名分が薄い帝国とダキアに渡したほうがイルドアとクーデター軍との対立する切っ掛けになると判断したのだろう。実際はそうなっている。ただ帝国が受け入れた訳でもない。実際は政治的な判断であろう。

 そして、イスパニアに呼ばれてきてイスパニア派遣軍の最高司令官となったバークマンは早々にクーデター軍と対立することを選び、イルドア軍と協力するのを選んだ。

 その理由としては何より、イルドア国王は十数年前に父親を無政府主義者に殺されており、今回の騒動では自らも無政府主義者に狙われた経験を持つイスパニア国王夫妻に深い同情をして居たのがスパイからわかっていた。

 社会主義者でもない無政府主義者とレッテルを貼られた共同体政府に対して、その無政府主義への怒りを元にと言うのと、国王としてイルドアを強化するために列強間の切り分け配分を求めて強くこの戦いを支持している。その上で同じ戦いに鞍を並べた帝国やダキアに対しては強い共感と関心を持っており、これらをうまく使いたいのが帝国皇帝派としてのバークマンなのだろう。

 現在の議会や参謀本部との対立も皇帝の力を復権させれば、現状閉塞感のある決められない縦割り議会制と官僚制を打破し、皇帝派として中央集権化させバークマンが常時語っている強い政府、国民を守れる中央政府の設立ができるというやつなのだろうが凄くファシストの気配か皇帝親政の維新を感じるが政治のことはよくわからん。わかることはイルドアと握れば地中海はイルドア、帝国、ダキア、こちらに降伏したイスパニア海軍の連合で過半数を占めるわけになる。こうなると運河や海峡の維持に共和国と連合王国の海軍力を割かねばならず、相手を苦しめる一因になると同時に連合王国側の帝国の脅威度が跳ね上がるのでは?

 外交が下手故に強い軍を持たざる得なかった帝国が今や大した大戦もせずにイスパニア連邦政府、イルドア、ダキア、秋津島と事実上の陣営を築いている。それに秋津島の便乗参戦により、太平洋は秋津島と合州国の二分がされ、俺の世界で言うところのインドネシアあたりまで侵攻を広げており、かつ独立運動をやっている。帝国も独立運動としてこの戦いをしている。イルドアもそれに乗っかっている形であり、植民地支配をする側は更に脅威を感じるのが現状だ。

 「記事では勝利と書いてはいるが‥‥。」
 そして、首都明け渡しの余波で、今度はこちら側である帝国・ダキア反共同体側が困っていた。別に共同体の評判が上がったからではない。今居る首都なのにこんなに立地が悪すぎるマドリッドーリを手にしたからだ。その内訳だがインフラが陸路のみで工業力もそれに従い、そこまで高くはない。

 逆にイスパニア共同体の新たな首都はイスパニア西海岸であり、商業都市として栄え、工業化も済んでいる地域だ。伸び切った戦線を整理して、部隊を再編成をして圧迫していたマドリッドーリの維持費や輸送にかかるコストが減り、更に今までの合間に後方地帯として作られていた塹壕などが観測できるだけで無数にある。たこつぼ型塹壕や塹壕で繋がっていないトーチカなど直撃さえ食らわねば問題ないという設計思想がよくわかった。それに加えて他国からの援助をもらうための西海岸の港はすぐ近くであり、補給線は縮まっている上に、スパイによると、かの到着したばかりのルーシーと連合王国の兵士たちが山のように詰めていたとある。

 状況はダンケルクに近いが、連合王国はイスパニア共同体をアカとして見ているためにダンケルクのように助ける気はサラサラないのはよくわかる。むしろ、連合王国兵が撤退するまでの肉壁程度にしか彼らを見てない。

 ルーシーはというと粛清の疑惑を晴らすために送られてきた兵士ばかりで彼らは死守命令が出ているようで、先行したイルドア軍は「ウラーー!」と叫ぶ人の波により、手ひどい被害を受けていた。だが、航空戦力が劣勢なイスパニア共同体側に火の雨を振らせてルーシー軍の余力を削っているとのオルトーからの報告書だ。そして、呼び出しの電話が鳴った。



 「議会や参謀本部はイスパニア共同体が降伏をすると見ている。しかしだなジシュカ大佐、どう思う?」
 呼び出されてすぐに、双頭の竜が刻印されたタバコと双頭の竜が印字されたウィスキーを双頭の竜が金で装飾されたガラスのグラスに注いでいる。どんだけ下賜品あるんだよ。そんなリラックスしてるのだろうバークマンとは違い、俺はというとバークマンに圧力をかけられていた。

 「わかりませんが各国大使を解放した今、共同体を無理に攻める必要はなく、クーデター軍を鎮圧して早く終わらせたいというのが参謀本部ではありませんか?小官としましては、イスパニア共同体の降伏はありえません。わざと守りやすく補給がすぐ届く西海岸に根拠地を移したのにわざわざ今更降伏しますか?もう降伏する地点を通り越していると思います。それに、もうイスパニア共同体がやめたいと思ったところで彼らのパトロンの連合王国とルーシーが辞めさせないでしょう。確かにベットした掛け金は失ったかもしれませんが帝国の力を削ぐことに目的を変更させれば、自分たちの兵士は死なずに帝国を効率的に痛めつけれますから。」
 簡単な話なのだ。最初は違ったかもしれないがもう代理戦争となってる以上、イスパニア共同体の意志は介在していない。マドリッドーリを放棄したのも守りづらいから2カ国に圧力をかけられたのだろう。それか補給線を伸ばさせることにより反撃を開始するのだろうか?

 「そうだろうな。帝国軍の実力をある程度知れた上に帝国兵も減らせるわけだ。今のところはルーシーに動きはない。連合王国にもだ。今ある捨てた戦力でどこまで効率よく帝国を苦しめようかと考えているのだろう。もう帝国の勝利はほぼ決まっているからな。だからこそだ。」
 バークマンがウィスキーを一気に飲んでいた。そんな飲み方するやつじゃないと思うが。なぜだろうか?すごく嫌な予感がする。これは良くないと思う。俺が悪い訳では無いがこの感覚はデジャヴュだ。脳裏に光が見えた。

 「再編期間も1ヶ月あったわけだ。今から2週間後の1922年12月13日今日一日を持って、フリードリヒ・デニーキン・ジシュカ上級大佐に任命をする。そして、近衛本部で考えた作戦。クリスマス作戦を開始する。期間は2週間で敵根拠地の撃滅である。ロメールなども部下に組み込んでいる。存分に戦い給え。この戦争は勝って終わらせねばな。議会を黙らせるには年明けで終戦だ。帝国も選挙が近い、議会には恩を売っておいても損はない。それにだ、予算も次々に湧くわけでもない。官僚たちの役目も作らないと拗ねるからな。」
 そんな無茶を言うなよ。あの在イスパニア全権大使ぐらい無茶言うなよ。いや、もうダキアあたりから無茶に次ぐ無茶で、ヨーロッパ大陸打通作戦してるんですけど。なんか、俺を便利ユニットかなにかかと勘違いしてないか?そんな勝ってこいとか言われて喜んでと言えるジャパニーズビジネスマンはバブルのときに死滅しただろ。こっちが現場にいるんだよ。

 そもそも、上級大佐ってなに?また訳の分からない階級が出てきたよ。昇進スピードバグってるんですけど。デバッグ誰もしてないのか?イカれてるぞお前。なんでも上級とか特務とか着ければ良い訳じゃないからな!

 このままのスピード行くと来年の末までに軍にいたら中将になってるだろこれ。おい、誰も人事に口出さないのかよヤン・ウェンリーの出世スピードも越えたわ。あの末期終末ボコボコ出世乱打マシーン同盟より上とかおかしいよ。不正な出世スピードだろ。バスの下の床を外してエスケープするぞ。というか俺どこに所属してるんだろうか?近衛下なのか?参謀本部下なのか?謎すぎる。

 不満しかないがバークマンは決裁印をこちらを無視して押してしまった。頭の中に浮かぶなんで?という感情を置き去りにして、決裁印が示すのは出世だ。従って俺はこの瞬間に2個師団を指揮する立場になった。

 「上級大佐、貴官も飲むか?」
 ウィスキーを注いで俺の前に置くが、そんなものはいらない。

 「バークマン近衛大将。酒は判断を鈍らせます。小官は控えておきます。それに、飲むのならば自ら功績を立てて貰って味わうのが筋でしょう。私は飲むべきではないです。しかし、クリスマス作戦ならば部下には酒を貰いたく。小官の功績はすべて部下のものですので。」
 もうこれ以上、出世してたまるかと固辞するとバークマンが大声で笑っていた。頭狂ったのかな?原因はじゃがいもの食い過ぎか?

 出世についてイスパニア本部でいろんな将校と話してこの理不尽な出世に抗議してもらう為にも、自分はそんな力がない、皆のほうが力がある、俺の功績はすべて部下のものと言うとバークマン将軍ほどの軍人が言うなら当然だろうやそういう配慮も出来るなら政治が出来るのだから出世も納得だとか何とか言われて終わった。みんな認識バグってるんじゃないか?これが認知バイアスか?俺は言われたことを部下に任せて言われた通りにやっただけだぞ。

 

 それから、たったの2週間で俺は演説台に立つ羽目になった。

 「諸君ら、これより第3次イスパニア共同体攻勢を行う。この戦いは勝ち戦だと思っている諸君らに新たな事実を伝えるためにある。敵は我々の寛容な降伏勧告に対し、例え一人でも戦う意志を見せるならばそれを叶えるのがこの国だと返してきており、司令部は奴らの心を折るには塹壕を叩き潰さねばならないという合理的見解に至ったようだ。そして何よりもだ。」
 俺は空を見た。イルドアと帝国とダキアの航空機がクーデター軍討伐のために別方向に向かうところだろう。

 「知っての通りだろうが、モーゼル少将とバルブ将軍がクーデター軍をもう少しで降伏させるところまで追い込んだ。でだ、問題なのは諸君らの目線の先にあるわずかに残った西海岸ということだ。ルーシーの野砲と連合王国の航空機、そして、国民皆兵として6歳までの子供も70歳以上の老人も動員されていると聞く。そして、軍服や腕章がないらしい。条約違反であるが彼らは軍人ではない。絶望的な不利になれば降伏するのも間違いはないだろう。それにどうあれ、彼らは保護すべき市民の一人だ。我々軍人は市民を保護するためにやってきたのだ。それが自国民であっても、敵国民であっても出された手はすべて掴むべきなのだ。我々の戦いはこれで最後なのではない。これが始まりなのだ。これこそが我々の軍人の道なのだ。平和なときには邪魔や税金泥棒と罵られるのが最善の職業であるのが戦争屋の我々なのだ。」
 まだ続きそうな感じがあるがもう終わりである。変な間が出来たためにとりあえず話を続ける。水差しの水を飲むか考えるがやめておいた。

 「この戦い、つらく長いものだ。しかしだ。人類の歴史から見れば短く、帝国の歴史から見ても短いだろう。しかし、我々は帝国の最大版図を更新している。今に旧大陸は帝国が抑えるかもしれない。それは良いことかはわからない。我々には未来がないのだ。このままでは‥‥。何故ならば隣にはルーシーがいる。彼らは我々と違う価値観を持っている。それのぶつかり合いだ。近い内に世界は大戦へとなるだろう。その時に生きるのが今の経験だ。この世界において戦いは多い。きっと役に立つだろう、この世界から国家が無くならない限りはだが。諸君らが望むものは何だ!」
 とりあえず、リーデルとオルトーを見た。話せと言われたと思ったのか二人が声を出した。

 「出撃であります!出撃こそが我が職務なのです!」
 リーデルはやっぱりキマってるんだな。すぐさま、オルトーに切り替えた。

 「クリスマスプレゼントであります!クリスマスツリーにはイワンとライミーの飾り付け、プレゼントの中身は究極の酒であります。特に勝利の美酒を片手に新年を得られるのは至高と言えましょう。」
 至高と究極とか美味しんぼかよ。みんな戦いたい奴らばっかりか?もうネタ切れだがあるものを思い出した。

 すぐさま、水差しのグラスを掴むと水を入れて飲み干した。

 「ならば決戦だ!奴らが寝静まる夜にシンタクラースのように帝国の旗をプレゼントしてやろう。全軍前進!プロージット!」
 グラスを叩きつけて割った。そして、少しスカッとしたあとに大歓声があがる。帝国国歌をこの軍勢が歌い上げていた。

 俺は最前線に部隊を進めたもはや海が見えている。異常な速度の進撃というより、熱意によりそこまで行くしかなかったのだ。ヘスラーなどの部隊長が戦車により蹂躙し、航空機部隊は機銃を放ち、航空魔導兵が次々に突入を繰り返す。しかし、それはあれが出てくるまでのことだった。
  
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