魔法戦史リリカルなのはSAGA(サーガ)
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【第一部】新世界ローゼン。アインハルト救出作戦。
【第5章】第二次調査隊の艦内生活、初日の様子。
【第4節】陸士ら全員が談話室に集合。
一方、談話室の方では、16時をちょっと過ぎた頃に、ようやく「他6名の一等陸士たち」もやって来ました。
まず、ディナウドとガルーチャスが席を立って、自分たちと同室になった「先輩」二人を皆々に紹介します。その二人は、マチュレアやフォデッサと同様、普通に中等科まで卒業してから陸士訓練校に進んだ人たちでした。
ジェレミス・パデーリオは、色白で金髪で見るからに筋骨隆々とした美男子です。22歳で陸士7年目。原隊は旧都パドマーレ近郊の陸士159部隊で、相方の急な異動により、この4月から「独り者」になっていました。
一方、オルドメイ・ニドヴォレイグは、地黒で長身の、いわゆる細マッチョです。21歳で陸士6年目。原隊は西部区画・キルバラ地方の陸士368部隊で、年度末の不幸な事故により、ツーマンセルの相方は現在、入院中です。
残る四人は、互いに同室となった二組の十代コンビでした。
ジェレミスとオルドメイは、不意にディナウドとガルーチャスを訪ねて来た四名の女性陸士らに席を譲って、つい先ほどまで彼等四人の部屋の方に押しかけていたため、この二人が以下の四人を皆々に紹介する運びとなります。
中央区画・フォルガネア地方の陸士147部隊から出向して来たのは、ワグディス・ボルザーロとレムノルド・シェルガラムという、割と愉快な性格をした「18歳の凸凹コンビ」でした。この二人は、陸士6年目で、元機動六課のアルト・クラエッタも今は同じ部隊に所属しています。
一方、北部区画・トゥヴァリエ地方の陸士132部隊から来たのは、ドゥスカン・ヴァザムディとサティムロ・ハルドヴィスという、妙に外見の似かよった「17歳の赤毛コンビ」でした。この二人は、陸士5年目で、実は「母親同士が姉妹」というイトコ同士の間柄なのだそうです。
こちらの四人は、初等科を卒業して、すぐに訓練校に入ったので、13歳から陸士をやっており、やや年少ではありますが、他のメンバーと比べても、勤続年数の上では決して引けを取ってはいません。
こうして、ザフィーラも含めた計21名の男女は、談話室で少人数ごとに分かれて雑談などしながら、少しずつ親睦を深め合っていったのでした。
そして、17時すぎになると、談話室にはさらに、八神はやて准将とリイン二等空尉までもがやって来ました。総員が思わず席を立って敬礼しようとすると、はやてはそれを軽く手で制して、皆々をそのまま座らせます。
「わざわざ立たんでもええよ。……よぉし。八神家以外のメンバーは全員、揃っとるようやな。みんな、そのままでええから、ちょぉ私らの話を聞いてや」
「まず、明日の予定ですが、昼食後の1400時にはベルカ世界に到着します。そして、提督と私が事務的な手続きのために、少しだけ上陸しますので、その間、最大で5刻ほど、本艦は惑星ベルカの〈中央大陸〉の上空に停泊します」
リインは手荷物を持ったままで、そう事務連絡をしました。
「その間、ただ待っとるだけというのも、みんな、つまらんやろうからなあ。私の方からヴィクターたちに、ひとつお願いがあるんやけど」
名前を呼ばれたヴィクトーリアは、静かに立ち上がって応えます。
「はい。何でしょうか?」
「君らは古代ベルカの文化についても詳しいやろ? 明日は、広間のスクリーンに惑星ベルカのリアルタイム映像が出るようにしておくから、みんなで私の帰艦を待っとる間に、他のみんなにざっとベルカ文化の説明とか、しとってくれへんかなあ?」
しかし、ヴィクトーリアはそれを聞くと、やや言いにくそうな口調で、はやてにこう返しました。
「誠に申し訳ありませんが、提督。明日、その役はエドガーに任せるとして、私とコニィには上陸許可をいただけませんか? 良い新茶が手に入ったので、お茶好きの伯父にも早く持って行ってあげたいのです」
「その伯父さんと言うのは……フランツ・バールシュタイン博士のことかな?」
「はい。今は第五地区にいると聞いています」
「何やら大きな仕事が一つ終わったところだとお聞きしましたので、お嬢様も『できれば直接に、労いの言葉を』と考えておられるのです。もし無理であれば、新世界からの帰途にでも、少しだけ立ち寄らせていただきたいのですが」
コニィも静かに席を立ち、そう言葉を添えました。
「ん~。私も、フランツ博士には以前、『あの件』で随分とお世話になったことやしなあ……」
はやては、「あの件」というのが具体的にはどういう件だったのかについては全く触れぬまま、たっぷり3秒ほど悩んでから、こう言葉を続けます。
「まあ、第五地区なら大した回り道にもならへんし、ええやろ。……ところで、ヴィクター。その用件は4刻もあれば済むかな?」
「はい。挨拶して茶葉を渡すだけですから、時間はその半分もあれば充分です」
「ほな、ベルカでは『最初に君ら二人を降ろした後、私がなるべく早く用事を済ませてから、最後にまた二人を回収する』という流れでええかな?」
「はい。御配慮いただき、感謝します」
こうして、明日の「解説」も、やはりエドガーの役となりました。
そこで、リインは次の話題に移りました。話の内容としては、こちらがむしろ「本題」となります。
「それでは、新世界ローゼンに上陸するための準備として、今から皆さんに『全自動翻訳機の上位機種』を配布します。一人ひとつずつ受け取って、左の耳朶の後ろの、髪の生え際の辺りに貼りつけていってください。軽く押さえ込んで、チクリと小さな痛みを感じたら、それで装着は完了です」
そう言って、リインは手際よく、手荷物の中から「七つ入りの小箱」を三つ取り出し、それぞれのテーブルに小箱を一つずつ置いて行きました。
翻訳機そのものは、大きさは十数ミリ四方で厚さも2~3ミリ程度の、まるで「小さな絆創膏」のような外見をしたコンパクトな装置です。
「ほら、こんな感じやで」
はやては皆々に背を向けて、右手で後ろ髪を右へ寄せながら、自分の左の耳朶の後ろに貼りつけた自動翻訳機を左手で指さして見せました。
「なお、安全に取り外すには、特別の装置が必要となりますので、最初から正確に、髪を巻き込まないように装着してください。自分で上手くできそうにない人は、他の人に貼り付けてもらっても良いですよ」
ザフィーラやヴィクトーリアたち三人にとっては、もう手慣れた作業でしたが、他の17名の陸士たちにとっては全く初めての体験です。その17名は全員が、その翻訳機をひとつずつ手に取って、はやての後ろ姿を見ながら、相方や隣にいる同僚の「所定の場所」にそれを慎重に貼り付けていきました。
ノーラはゼルフィから、フォデッサはマチュレアから貼り付けてもらう形となります。
「あ~。ちょっとチクッと来た~」
「え? これでもう、アタシら、現地の言葉とか話せるんスか?!」
「そうです。喉や舌から完全に力を抜いた状態で、『翻訳を意識しつつ、念話の要領で思考内容を明瞭に言語化』すれば、慣れるまでは多少のタイムラグが発生しますが、翻訳機が喉や舌の筋肉を勝手に操って、自動的に現地の首都標準語が発声されます」
【プロローグの「背景設定1」にも書きましたが……我ながら、かなりトンデモない設定ですね。(苦笑)】
「試しに、カナタ。ちょっと何か話してみてや。念話は全員に聞こえるようにして」
(ええ……。)
八神准将からの突然のムチャ振りに、カナタはやや途惑いながらも、喉や舌から余分な力を抜いた上で、肉声と念話で次のように話しました。
「じゃあ……そうですね……」
《こんにちは。ボクの名前は、カナタです。》
すると、一拍おいて、カナタの口から「カナタの知らない言葉」が飛び出しました。
「Salvete, nomen mihi KANATA.」
これには、カナタ自身も思わず愕然となります。
「うわあ、ホントだ! 確かに、ボクの声なのに、ボクの知らない言語だ!」
「知らない言語のはずなのに、事前に念話を聞くまでもなく、耳に聞こえただけで、脳内で意味が解りますね!」
ツバサも、さすがに驚きの声を上げました。
【いくら私が設定厨でも、『一個の言語を、具体的な語彙まで含めて丸ごと造り上げる』というのは、さすがに無理な話なので、この作品では「ローゼンの首都標準語」をラテン語で代用させていただきました。結果として、ローゼンの地名や人名も軒並みラテン語風になってしまいましたが、悪しからず御了承ください。】
双子の驚きようを見て、リインは何やら得意げにこう応えます。
「翻訳機ですからね。もちろん、話す方も聞き取る方もできますよ」
「慣れれば、念話から発声までのタイムラグもほとんど無くなるはずやからな。現地に着くまでの間に、各自、よぉ練習しといてや」
八神准将は、さもそれが「簡単な作業」であるかのように言ってのけました。
すると、一拍おいて、今度はエドガーがそっと席を立ちながら右手を挙げ、発言の許可を求めました。
「ところで、提督。ひとつ、よろしいでしょうか?」
「ええよ。何かあったかな?」
「私たちは、このまま親睦を深めるためにも、夕食はこちらで揃って取りたいのですが、そういうことは可能でしょうか?」
「なるほど。確かに、親睦を深めるには、その方が良さそうやな」
「いっそのこと、皆さんにはこれから、三食とも必ずこちらで取るようにしてもらいましょうか?」
リインの提案に、周囲からは思わず歓迎の声が上がります。
「それでは、念のためにお訊きしますが、『三食ともこちらでは、ちょっと困る』とか、『自分は個室で静かに食べたい』とかいう人はいますか?」
リインは軽く右手を挙げて、そう感じている者は素直に手を挙げるよう促しましたが、それでも、手を挙げるような非社交的な者は一人もいません。
「では、そういうことにしましょう。機械人形たちには、私の方からそのように命じておきます」
「私ら六人は、まだしばらくいろいろあるから……少なくとも今日明日のところは、個室の方で食事を取らせてもらうわ。……ザフィーラは、こちらで皆々と親睦を深めておいてな」
はやての言葉に、ザフィーラは席に着いたまま深々とうなずきました。何かしら念話のやり取りもあったようですが、八神家以外の者たちは誰もそれに気づいていません。
そこで、リインはふと思い出し、とても不思議そうな口調で皆々にこう問いました。
「あ。それから、昼食は誰も『おかわり』をしなかったみたいですけど、皆さん、本当にあの量で足りましたか?」
「え~? しても良かったんですか~?」
「そりゃ、そうやろ。普通」
ノーラの今にも泣き出しそうな声とは対照的に、はやては思わず、半ば呆れたような声を上げてしまいました。
はやてはもう次元航行部隊での勤務が長いので、『そんな当たり前のコトは、わざわざ言うまでもないだろう』と思っていたのですが、ノーラたち一般の陸士にとっては、そもそも「次元航行艦の中で生活をすること」それ自体が初めての体験だったので、どうやら「そうした当たり前の話」が今ひとつよく解ってはいなかったようです。
「献立の都合で、夕食のメニューは一部が『昼食の余りの再加工品』になりますが、皆さん、おかわりは自由ですから、存分に食べてくださいね」
「現地に着くまでは事件とか何も無いはずやけど……それでも、特別給与が日割りで計算されとる限り、建前としては、君らは今もあくまで『勤務時間内での休憩中』という扱いやからな。いくら美味しくても、お腹パンパンで身動き取れなくなるまで食べたりしたらアカンで」
リインの朗らかな口調に、はやても笑ってそう付け足しました。料理の内容は、はやて自身が監修したものなので、かなりの自信があるようです。
「それから、出されたモノは、なるべく残さずに平らげてな」
「もちろんですよ~」
ノーラが元気よく応えると同時に、彼女のお腹が盛大に鳴り、総員、あまりのタイミングの良さに思わず笑ってしまいました。
そこで、今度はマチュレアが思い切って、『部屋割りの変更は可能か否か』について八神准将に質問をしました。相手が「憧れの人物」だからでしょうか。口調は普段よりもかなりぎこちない代物になってしまっています。
すると、はやては一瞬だけ考えてから、こう答えました。
「うん。私ら八神家は、引き続き奥の二部屋を使わせてもらうけど、こちらの五部屋は、お互いの同意さえあれば、自由に入れ替わってくれて構へんよ。ただし、男女はなるべく別々にしてな。念のために言うておくけど、一応は勤務中やから、飲酒や性行為は禁止やで」
「まさか、こっそりとお酒を持ち込んで来ている人とか、いませんよね?(ジト目)」
これには、全員が揃って首を横に振ります。
「それでは、明日の朝食もこの談話室で7時には始めますから、皆さん、あまり夜更かしや寝坊はしないでくださいね。……では、何事も無ければ、また明日の昼食後にお会いしましょう」
「では、またな」
二人は最後にそう言って、退室しました。
ふと気が付けば、もう夕食まで30分ほどしか時間がありません。
男性陸士らのうちの何名かは、夕食前に湯を浴びるのが習慣になっているようで、急いで自室に替えの下着を取りに行き、そのままシャワー室へと向かいました。
(残念ながら、肩まで湯につかることができる「浴場」のような設備は、この〈スキドブラドニール〉には最初から搭載されていないのです。)
一方で、マチュレアとフォデッサは早速、ヴィクトーリアとコニィに相談を持ち掛けました。ゼルフィとノーラも連れて来られたので、結果として、右のテーブルには(カナタとツバサも含めて)女性陣が8名、勢揃いした形となります。
もちろん、相談の内容は部屋割りの件なのですが、何しろ相手は自分たちよりも「ずっと目上の存在」ですから、まさか馬鹿正直に、面と向かって『あなたたちの隣では、私たちの方が安眠できそうにないので』などと言う訳にもいきません。
そこで、二人は「あからさまな嘘」にはならない範囲内で、少しばかり事実を誇張して理由づけをしました。要するに、『私たちは二人ともイビキが激しいので、同室は御迷惑だろうと思う』という、思いっきり下手に出た言い方です。
しかし、コニィはそこで、慎重にもこう言葉を返しました。
「交代すること自体は、別に構いませんが……そうなると、問題は『他の四人が、本当にあなたたち二人よりも静かなのかどうか?』ということですねえ」
そう言って、ゼルフィとノーラとカナタとツバサを、今から尋問でもするかのような鋭い目つきで睨みつけます。
その眼光に、ゼルフィとノーラはあっさりと日和りました。(笑)
ゼルフィ「いやあ。自分ではよく解らないんですが、私たち二人は、随分と寝言がやかましいそうですよ」
ノーラ「恥ずかしながら、結構ベラベラと喋ってるみたいですね~」
コニィ「なるほど。それなら、なまじ意味のある寝言よりは、ただのイビキの方がまだマシかも知れませんね。声量にもよりますが、要は、単なるノイズな訳ですから」
マチュレア《この裏切り者~。》
ゼルフィ《いや。別に、最初から何も約束なんてしてないし。》
そして、ツバサは、マチュレアとフォデッサの「助けを求めるような視線」を浴びながらも、冷静にただ事実のみを語りました。
「えっと。私はともかくとして、カナタは相当に寝相が悪いですよ。昔、祖母の家で昼寝をしていた時の話ですが、『目を覚ましたら隣の部屋にいた』ということもあったぐらいですから」
「ちょっと待って! 隣の部屋って、それはもう寝相じゃなくて、夢遊病か何かなんじゃないの?」
ゼルフィの何やら狼狽えたような声を聞いて、ツバサも今の言い方がかなり拙かったことに気がつき、慌ててこう言葉を足しました。
「いえ。隣の部屋と言っても、二間続きの和室で……。ところで、『ワシツ』って、解りますか?」
ヴィクトーリアとコニィと四人の女性陸士たちは、揃って首を横に振ります。
「何か映像でもあれば、説明も簡単にできるのですが……」
ツバサが少し困っていると、思わぬところから「助け舟」が来ました。
「横から失礼するよ。『ワシツ』って、こういう部屋のことだろう?」
ジョスカナルザードが不意にこちらのテーブルにやって来て、自分のデバイスで奥の壁に「二間続きの和室」の映像を大写しにします。
それは、東側の八畳間の北東の角から西側の八畳間の南西の角を斜めに見た形の映像でした。曇り空ではありますが、季節は夏のようで、襖や障子はあらかた取り外されています。
「はい。正にこういう感じの部屋です」
ツバサは、ほっとした口調でそう答えました。
それでも、ヴィクトーリアたち六人は、揃って『ええ……。何、これ? これでも、家なの?』と言わんばかりの表情をしていたので、ジョスカナルザードはごく簡潔に説明を加えました。
「高床式の木造建築でね。板張りの床の上に『草を編んで作った敷物』を隙間なく敷き詰めているんだよ。部屋の間仕切りも、浅い溝の上に引き戸を滑らせているだけだから、必要に応じて、それらをすべて取り払って、二つの部屋を『事実上の』一つの部屋として使うこともできる、という構造なのさ」
「え? でも、これ、冬はメッチャ寒いんじゃないっスか?」
フォデッサは元々が寒がりなので、この映像を見れば当然にそう感じます。ジョスカナルザードは、その疑問にも簡潔にこう答えました。
「もちろん、これは、ミッドで言えば南岸部アラミィ地方のような『冬でもそこまで寒くはならない気候の土地』で発達した、昔ながらの建築様式だよ。昔、まだ電気を使っていなかった時代には、冬の寒さに対処することよりも、夏の暑さに対処することの方が、重要な課題だったからね」
「え? それって、どうしてっスか?」
「電気が無くても、重ね着をしたり、火を焚いたりすれば、冬の寒さは凌げるけれど、エアコン無しでは、夏の蒸し暑さを凌ぐことは難しいだろう?」
「ああ、そうか。電化製品が何も無いと、そういうコトになるんスね」
ノーラ「あ~。それで、こんな風通しの良さそうな構造なんですね~」
ジョスカナルザード「うん。それで、夏場には、この『畳』という敷物の上にそのまま横たわって昼寝をしたりすることもあるんだよ。大方、先程の話も、『畳の上をゴロゴロと転がって隣の和室まで行ってしまった』ということなんだろう?」
ツバサ「はい。そのとおりです」
ゼルフィ「なるほど……。でも、やっぱり、それはそれで、スゴい寝相だわ。(笑)」
カナタ「それ、5歳の時の話ですから! 今はもう、そこまでヒドくありませんから!(力説)」
ツバサ「でも、あなたは今でも時々、ベッドから床に落ちますよね?」
《カナタ、ここで下手に抗弁すると、本当に部屋を替えられてしまいますよ。》
カナタ《いや。別に、ボクはそれでも構わないんだけど……。》
コニィ「なるほど。ベッドから床に落ちてしまうというのは、確かに、ちょっと対処が面倒そうですねえ」
コニィは少しだけ考えて、結局は「様子見」を選択しました。
「しかし、正直なところ、こうして話を聞いただけでは現実的な比較ができません。どのみち、新世界に着くまでは艦内で3泊もするのですから、往路は試しに『日替わり』にしてみましょう。その方が、全員と同じように親しくなれるでしょうし、復路は『その結果次第』ということで良いのではないでしょうか?」
後半は、ヴィクトーリアに向かって提案をする口調になります。
「そうね。私はそれで構わないわ」
「それでは、わざわざ手荷物を動かすのも手間ですから、今夜はひとまず『予定どおり』ということでよろしいですか?」
コニィはそう言って、マチュレアとフォデッサに、にっこりと微笑みかけました。
フォデッサ《ええ……。アタシら、もう「逃げ場ナシ」っスかあ?(泣)》
ゼルフィ《今夜だけで済んで良かったじゃないの。》
「解りました。それでは、今夜はお耳障りになるかも知れませんが、よろしくお願いします」
マチュレアが努めて平静を装い、そう応えると、今度はエドガーがこちらのテーブルにやって来て、全く別の話を始めました。
「ところで、ジョーさん。私は、『畳を隙間なく敷き詰めるのは、アラミィ式ではない』と思っていたのですが……この映像は一体どこのものですか?」
「ああ。よく御存知ですね!」
ジョスカナルザードは思わず感心の声を上げると、さらにこう言葉を続けます。
「オレの生まれ故郷は、アラミィ地方のヴィナーロという港町なんですが、その都市の東側では、地球とかいう名前の管理外世界から来た移民たちが独自のコミュニティを築いていましてね。
まあ、独自と言っても、移民一世の人たちがミッドに来たのは、もう八十年も前のことですから、今ではほとんど同化していて、オレたちと同世代の移民四世は最初からミッド語を母語として育っている訳ですが……。そんな四世たちの中に、タカシ・ナカジマというオレの友人がいましてね。実は、この家、タカシの実家なんですよ」
「ああ。それで、畳の形や並べ方が、まるっきり地球式なんですね」
ツバサも何度か小さく首を縦に振りつつ、そう納得の声を上げました。
そして、当然のごとく、ノーラはその「特定の固有名詞」に食いついて来ました。
「え~。出身が地球で、苗字がナカジマって、もしかして、スバルさんと何か関係があるの~?」
「地球では、とてもよくある苗字のひとつですから、これだけでは何とも言えませんが……ジョーさん。『このナカジマ家から管理局に入った人の話』とか、聞いたことはありませんか?」
「そう言えば、確か……タカシの祖父の『コウタ爺さん』の弟が、管理局員だとか……。ああ、思い出した! オレたちが13歳の時、同じ地球人街のカワハラ家で、タカシの『同い年のハトコ』に当たる女の子が、親兄弟を事故で亡くして一人だけ満身創痍で生き残っちまった時のことなんだけど、首都の方からいきなりその人がやって来て、彼女を引き取って行ったことがあったそうだよ」
「それなら、その人は、間違いなく『スバルさんのお父さん』ですね。以前、その話は、メグミさん本人の口から直接にお聞きしたことがあります」
それほど深い絡みではありませんが、ツバサもカナタも、メグミやトーマとは一応の面識があります。
カナタ《うわあ。世間って、ホンットに狭いんだなあ……。》
ツバサ《マティカさんの件はともかくとして……こちらの件は、もしかすると、八神提督の「未必の故意」によるものなのかも知れませんね。》
カナタ《え? それって、どういう意味?》
ツバサ《必ずそうなるという確信は無いけれど、『そうなるかも知れない』とか、『そうなったら良いなあ』などと考えて、わざとそうすることを「未必の故意」と言います。
三人の陸曹を選ぶにしても、候補者はもっと何人もいたはずですから、『誰を選んでも大差は無い』という状況であれば、『取りあえず、身近な誰かと何かしら縁がありそうな土地の出身者を、優先して選抜しておく』というのも、それほど不思議な行動原理ではないでしょう。
エルセア地方は、ティアナさんの出身地。アラミィ地方は、ナカジマ家の故地。クルメア地方も、確か『フェイト母様の、実の母親か誰か』に縁のある土地だと聞いたことがあります。》
カナタ《なるほどネ。ジョーさんの友人のことまで調べがついていた訳じゃないけど、『もしかしたら、そうしたつながりも何かあるかも知れない』という可能性は想定していた、ってコトか。》
【本来、「未必の故意」は純然たる法律上の概念なのですが、ここでは、この用語をもう少し日常的な状況にまで拡大解釈して使わせていただきました。
なお、実際にクルメア地方に縁があったのは、プレシアではなく、リニスなのですが、ツバサはその件に関して、あまり詳しいところまでは聞いていなかったようです。】
ふと気が付くと、ノーラが嬉々として、今の話を手帳にメモしていました。視線が合うと、すかさずツバサにこう質問をして来ます。
「じゃあ~、その『メグミ』っていうのが、引き取られた女の子の名前なの~? スバルさんの、イトコメイに当たる女性なんだよね~?」
「はい。女の子と言っても、実際には、ジョーさんと同い年の女性ですから、今ではもう普通に結婚して、幸せな家庭を築いている訳ですが……。彼女は局員ではありませんが、やはり、これ以上は『個人情報の漏洩』になってしまうので……この件に関しては、『今回はここまで』ということにしておいてはもらえませんか?」
「う~ん。確かに、それもそうか~」
ノーラは、ちょっと残念そうな表情で手帳を閉じました。
そして、何名かの男性陸士たちがシャワー室の方から戻って来た頃には、定刻となり、機械人形たちが談話室に21人分の夕食を運んで来たのでした。
夕食では、ほぼ半数の陸士が元気に「おかわり」をしましたが、食後は、ザフィーラの発案で『しばらく現地語の練習をしよう』という話になりました。『今日はもう、この談話室では、ミッド語は一切しゃべってはいけない』という、なかなか厳しいルールです。
実際に会話をしてみて解ったのは、まず当然ながら『固有名詞は翻訳されずにそのまま発音される』ということ。そして、『現地に存在していないモノを表現しようとすると、かなり面倒な言い回しになる』ということでした。
例えば、「全自動翻訳機」の現地語訳は、ミッド語に再翻訳すると「全く自動的に言葉を翻訳する装置」という、随分と長い用語になります。
また、全員が揃って驚いたのは、ただの「犬」という単語が、「家畜化されて雑食性となった狼」と翻訳されたことでした。どうやら、ローゼンには「犬」という生き物が全く存在していないようです。
そして、20時を過ぎ、各人とも少しずつ現地語に慣れて来た頃、まずヴィクトーリアとコニィが退室しました。
ヴィクトーリア「何だか今日はもう疲れたから、早めに休ませてもらうわ」
コニィ「それでは、皆さん。今日のところは、お先に失礼させていただきます」
二人の現地語は、早くもなかなか流暢なものとなっています。
皆々が、口々に『お疲れさまでした』とか、『また明日』などと挨拶を返す中、カナタはもう少し砕けた口調で、普通に『おやすみなさい』と言ったつもりだったのですが、実際に口から出てきたのは、直訳すると『どうぞ、良い夢を』となる言葉でした。
どうやら、これが現地での慣用句のようです。
そして、じきにカナタとツバサも退室することにしました。
ゼルフィ「え? まだ早くない?」
ツバサ「いえ。私たちは『夜は21時前に寝て、朝は6時前に起きる』というのが、毎日の習慣になっておりますので」
フェルノッド「9時間睡眠! それは健康的だ!」
ジョスカナルザード「寝る子は育つ、と言うからな。たくさん眠って大きくなれよ」
ゼルフィ「じゃあ、先に寝てて。私たちはあと2時間ぐらいしたら、あなたたちを起こさないようになるべく静かに部屋に入るから」
マチュレア《あああ。それ、私たちも気を付けないと!(不安)》
フォデッサ《早めに熟睡していてくれると、助かるんスけどねえ。》
そんな会話の後、カナタとツバサはまず四人部屋まで替えの下着を取りに行ってから、二人でシャワー室へ向かいました。
しかし、実際に入ってみると、いわゆる「脱衣所」が見当たりません。
二人は「使用上の注意」をよく読んだ上で、ずらりと並んだ小部屋の中から適当なものを選んで各々そこに入りました。幅は2メートルほど、奥行きは3メートルほどで、最初から暑く感じるほどに暖房が効いています。
手前の籠に衣類を置き、全裸になって、奥にある「排水と排気の機能を備えた、円形の低い台座」の上に立つと、天井の側から降りて来た「底の抜けた円筒形のカプセル」がそのまま台座に接続し、空間を密閉しました。円筒の側面部分は「かなり透明に近い半透明」となっており、その内側には「コース設定」のための操作パネルが設けられています。
《髪は昨日も洗ったから、今日は体だけでいいかな?》
《そうですね。今日は特に汗もかいてはいませんし。》
二人はそのコースを選び、一度は全身を泡だらけにされてから、最後は「ぐるぐると方向を変えながら斜めに降りそそぐ温水」に身を委ねました。
《何だか、洗濯機に入れられた衣類のような気分だよ。(笑)》
《水を細部まで管理しようと思うと、こうなるんでしょうね。》
装置は二人の体を洗い終えると、今度は上から温風を吹き付けて、二人の体を乾かしていきます。
そして、コースが終了し、円筒形のカプセルがまた天井の側へと戻っていくと、二人は台座から降り、籠に備え付けのバスタオルで、まだ乾ききっていない髪や股間や足の裏をよく拭いてから、替えの下着と衣服を身に付けました。
使用済みの下着は、使用済みのバスタオルで包んで、ずらりと並んだ個室の外にある専用の箱に投入しておくと、自動的に洗ってもらえるようです。
【バスタオルの端にはチップが内蔵されており、『誰がそれを使ったか』が(つまり、『包まれた下着が誰のものか』が)自動的に記録される、というシステムです。】
そうして、二人は四人部屋に戻り、カナタは「向かって左側の二段ベッド」の下の段で、ツバサはその上の段で、いつもどおり早々と眠りに就いたのですが……その夜、カナタはまた久しぶりにベッドから床の上に転げ落ちてしまったのでした。(笑)
後書き
最後の二節は、当初の予定(1万字以内)よりも少し長くなってしまいましたが……ともあれ、これにて、毎日の連載を一旦、お休みさせていただきます。
仕事も少し早めに辞めたし、「老々介護」の危機も無事に回避されたし、『あとは悠々自適の余生が待っている』と思っていたのですが……ホント、人生って、計画したとおりにはなりませんよねえ。(トホホ)
そんな訳で……もちろん、最大の原因は「本人の遅筆」なのですが、それ以外にも、リアルで私生活の方がちょっと面倒な状況になってしまいまして……執筆がロクに進んでいません。
「週一回の掲載」というのも、かえって読みづらいでしょうから……誠に申し訳ない話になってしまい、恐縮なのですが……「第一部・後半」の掲載開始までは半年ほどお待ちいただきたいと思います。最悪でも、年内には何とかする所存でおりますので、どうか気長に待っていてやってください。 (2024/ 04/ 14)】
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