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Fate/WizarDragonknight

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手がかり探し

 「大学に、フロストノヴァのマスターがいるのかもしれない」

 ハルトと共通して得たその懸念は、コウスケが大学にいる限り、永遠に頭から離れることはない。
 コウスケが見滝原大学の学生である限り、すれ違う学生が参加者(マスター)かもしれないという疑惑を拭うことができないため、同じ講義に出席する学生一人一人に警戒の念を抱かなくてはならない。

「ハルトの奴、探してみてくれとか簡単に言ってくれちゃいやがってよぉ……」

 午前の講義を終えたコウスケは、頭を掻きながら空を見上げる。
 フリーターとしての一面を持つハルトの場合、大学にいられる時間は教授の手伝いの夜だけ。昼間、もっとも学生が多い時間帯はコウスケが探すこととなる。
 だが。

「どっから探せってんだよ……このクソ広い大学を……」

 見滝原大学の在籍学生は一万人前後。その中で、フロストノヴァのマスターという特徴を持つのはたったの一人。
 しかも大学の講義はそのシステム上、同期の同じ学部生であったとしても、講義で出会うことなく在籍期間を終えることも珍しくない。
 そんな圧倒的母数からフロストノヴァのマスターを手がかりもなく探すのは雲を掴むような話だと感じ、コウスケは再び大きなため息を付いた。
 昼下がりの見滝原大学。昼食を終え、多くの学生が次の移動先を定めて足を動かしている最中、コウスケはキャンパスに設置されている椅子に腰を落としていた。

「あ! 先輩いたっす!」

 突然、そんなコウスケへかけられる声があった。
 見てみると、背が低くて髪が短いながら、活発そうな顔つきの女性が走り寄ってきていた。

「宇崎……若者はいいねえ」
「何ジジ臭いこと言ってるんスか先輩」

 宇崎は目を細める。
 一万分の一のマスターを見つけ当てる前に、一万分の一で面倒な後輩に見つかってしまった。
 そんなことを憂いているとは露知らず、宇崎は話を続ける。

「あ、それよりも先輩聞きました?」
「ああ? 何を?」
「昨日、見滝原大学(ここ)でなんでも怪物騒ぎがあったそうッスよ」
「……」

 怪物騒ぎ。
 疑いようもなく、ネクロマンサーのサーヴァントであるアウラとの一戦によるものだろう。
 夜間とはいえ、大学には研究室やサークル活動で帰宅が遅くなる者も多い。あの戦いに目撃者がいたところでおかしくはない。

「へ、へえ……?」
「何でもゾンビみたいだったって話ッスよ!? 最近あちこちで騒ぎが起こってますけど、とうとうここでも巻き込まれてしまいましたね! これは映画でも見て、ゾンビに襲われる対策立てなくちゃいけないッスね! 先輩んち行っていいッスか?」
「オレ今テント住みだからテレビなんざねえよ。っつーか、映画見て対策なんざ出来るわけねえだろうが。映画関係者に一人でも実在のゾンビを見たことあるやついんのかよ」

 そこまで言ったコウスケは、ふと誰かが映画と飯と寝ることで強くなれると豪語した存在がいたような気がした。
 「それに先輩!」と、宇崎はまだこの怪物騒ぎの話題を続けるつもりらしい。このまま話を続けられると、自らの戦いのことにも言及されるかもしれない。
 そう危機感を抱いたコウスケは、宇崎へ話を切り替えた。

「なあ、宇崎。……最近さ、周りに変わった奴いなかったか?」
「ん」

 コウスケの質問に、彼女は堂々とコウスケを指差す。

「先輩」
「オレじゃねえよ! つーか、そもそも失礼だろうが!」
「えー? だってー? 先輩って、不景気が服着て歩いているようなモンじゃないッスか?」
「お前のオレへの侮蔑のボキャブラリーどうなってるんだ……」

 コウスケは肩をぐったりと落とした。
 その時。

「多田君」
「お?」

 宇崎とは打って変わって、コウスケへ好意的な声が降りかかる。
 振り返れば、宇崎と大よそ近しい背丈の女子大生がコウスケへ手を振っていた。

「こんにちは。何しているの?」
「シノアキじゃねえか」
「シノアキはやめてよ」

 いつものやり取りをこなして、シノアキはコウスケへ歩み寄って来た。コウスケと宇崎の顔を見比べ、苦笑する。

「もしかして、お邪魔だった?」
「いや、行かないでくれ! 宇崎よりも天使なシノアキのがまだいて欲しいんだよ!」
「ひどいッスよ先輩!」

 去ろうとするシノアキを引き留めたコウスケは頭を掻いた。

「ああ……なんつーか、変なこと聞くけどよ。最近、周りに様子がおかしな奴いなかったか?」
「様子が変な人?」

 シノアキはオウム返しで聞き返す。

「どうしたの? 何でそんなざっくりな範囲の人を探しているの?」
「色々野暮用でよ。絶対に様子が変わるようなことが起こった奴を探してんだ」
「なんスか先輩!? もしかして彼女さんいたんスか!? 私とは遊びだったんスか!?」
「だああああああああ宇崎うるせぇッ! 今シノアキに聞いてんだからお前は引っ込めよシッシッ!」

 コウスケは手で宇崎を追い払おうとする。
 だがよりエスカレートした宇崎は、そのままコウスケの背後に回り、その首を絞め上げた。

「なんスか先輩! だったらこっちは、意地でも何してるか教えてもらうッスよ……!」
「あががががが! 首がッ! く、首がッ!」
「あはは……えっと……変な人、だよね?」

 シノアキは苦笑しながら、顎に指を当てる。

「いやシノアキ、教えてくれるのはありがてえんだが、その前に宇崎を止めてくれねえか……?」

 だがシノアキは一切助け船を出してくれない。コウスケの耳が体から「ゴキッ」という音を判別したのと同時に、シノアキが返答した。

「あっ! 変というか、変わった人ならいたよ」
「おっ? 何……いい加減放せ宇崎!」
「嫌ッス! 捨てられるッス!」

 より一層誤解が広まりそうなことを口走る宇崎を振りほどこうとしながら、シノアキに続きを促す。
 一瞬真顔になったシノアキは、一度咳払いをした。

「ほら、岡部君」
「シノアキすげえなお前、この状況で話続けられんのかよ」
「はは……」

 目を泳がせながら、シノアキは「ほら」と少し古びた学舎を指差す。

「さっきもあっちの方で何だか難しいこと言いながら走ってたよ」
「アイツの頭がおかしいのは前からだから気にしねえよ。それより、他に最近変わった奴いねえか?」
「うーん……」

 シノアキは目を細める。やがて彼女の頭に電灯がともった。

「なら、瀬川君は?」
「瀬川……ああ、祐太のことか?」
「うん! そう、瀬川祐太君。最近彼女さんが出来たころから、ちょっと変わってきてない?」
「ああ、アイツ彼女できたのか。確かに彼氏彼女が出来たら人は変わるっていうしな」
「それと、花園さん……知ってる?」
「花園? いや、知らねえな」

 コウスケは眉をひそめた。
 すると、代わりに宇崎が「ハイッ!」と挙手し、その余波でコウスケの頭が叩かれた。

「痛ッ!」
「私知ってるッス! 私と同じ一年ッスよ!」
「お前、手伸ばしてぶつけんじゃねえよ……! 一年っつーことは後輩か」
「多田君も見たことない? いつも大学にすごい恰好してくる人」
「大学意外と変な恰好の奴多いからなあ……」
「ダメッスね先輩、もっと色んな人に興味持って見ないと。ほら、眼帯ツインテの女の子っす」
「ああ、ゴスロリの奴か。見たことはあるな」

 コウスケは頷いた。

「あと私が知ってる範囲だと……あ、ちづるちゃんも最近変わったかな」
「ちづる……一之瀬か?」
「そうそう」

 コウスケに掴みかかろうとする宇崎の頭をホールドしながら、コウスケは尋ねた。

「最近アルバイト始めたって聞いたけど、なんか最近疲れてるのよく見るかな」
「疲れてる?」

 コウスケは首を傾げた。

「慢性的に疲れてるみたい。私もちょっと心配だけど、本人が大丈夫って言ってたからそれ以上は触れなかったなあ」
「ふんふん。他にはいたか?」
「うーん……変な人って範囲がざっくりすぎるからね」

 シノアキはこれ以上絞ってもなにも出てこないらしい。
 「そうか」と彼女へ感謝し、コウスケはとりあえず腕にしがみついている宇崎を振り払った。

「とりあえず、今の手がかりは瀬川に一之瀬に、その花園ってヤツか……瀬川には後で連絡飛ばすとして、一之瀬は今日いたかな」
「ちづるちゃんならさっき見かけたよ?」
「マジで?」
「マジっすか」
「……何でお前まで乗っかるんだよ」

 コウスケは宇崎の頭を上から押し、シノアキへ続きを促す。

「……今日はまだ講義があったはずだけど、大学から出て行ったんだよね」
「マジか……足取りは分かんねえよな」
「うん。ちづるちゃん、バイト先教えてくれないからね」
「なら、別日だな」

 コウスケはそう言って、シノアキへ「サンキュ」と礼を言った。

「瀬川はオレが連絡先持ってるから今日中に確認できるとして……問題はその花園か」
「その子に聞いてみたら?」

 シノアキが宇崎を見つめる。
 この中で唯一の一年である宇崎は、コウスケへ自らに注意を向けるようにまくし立てている。

「多田君も、あまりその子のことイジメちゃダメだよ?」
「そうッスよ先輩! 私みたいな後輩に構ってもらえるだけで幸せだと感じて欲しいッス」
「お前はいい加減に離れろおおおおおおおおおおおッ!」
「嫌ッス! さあさあ! 神戸を垂れて教えを乞うッス! 情報源は私ッスよ私!」
「……やっぱ花園とやらは後回しにしようかな」
「何でッスか!?」

 その後、コウスケはシノアキとともに騒ぐ宇崎の口を紡ぐのに数十分の時間を要し、終わったころにはコウスケは講義への遅刻が確定してしまった。 
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