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魔法戦史リリカルなのはSAGA(サーガ)

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【プロローグ】新暦65年から94年までの出来事。
 【第8章】なのはとフェイト、復職後の一連の流れ。
   【第1節】新暦86年の出来事。(前編)

 
前書き
 この章の「主な」内容は……新暦86年に〈管21ヴェトルーザ〉でフェイトやなのはたちが活躍した〈ディファイラー事件〉と、新暦87年の春の、スバルやティアナを中心として意外な人物も参加した「カルナージでの合同訓練」と、同年に〈管9ドナリム〉でアインハルト執務官の最初の担当事件となった〈デムロクス事件〉と、同年の秋に〈管14シガルディス〉でギンガとチンクが活躍した〈ノグメリス事件〉、および、翌春の「ヴィヴィオとアインハルトの結婚」の、大まかな説明となります。
 同88年に〈管17イラクリオン〉で、ティアナたちが活躍した〈ペレクス事件〉は、特に内容を考えていないので、まあ、オマケということで。(苦笑)
 

 


 そして、新暦86年にも、またいろいろな出来事がありました。
 まず、1月の末日には、〈無128ドルバザウム〉で先代の長老ハドロの「20回忌」があり、今度はユーノ(30歳)も時間を取って試しに顔を出してみたのですが……ハドロの墓は、何故か「例の遺跡群」や「スクライア一族のキャンプ地」からは随分と離れた「丘陵の北側」にポツリと築かれていました。
 しかも、どういう訳か、『昨年に初めて発見された』はずの避難船からも、ごく近い場所です。もしかすると、ハドロは生前に「避難船の所在地」に関して何かをつかんでいたのでしょうか。
 避難船の隣には、今も現役の「例の小型艇」が停泊していました。もう随分と古びていますが、どうやら、今ではガウルゥの専用機(兼、住居)となっているようです。
 かつての従者ガウルゥ(58歳)が、今も一人で黙々とハドロの「墓守(はかもり)」を続けていましたが、ユーノが何か話を聞こうとしても、ガウルゥはただ『10年後に、長老の「(まつ)り上げ」が終わったら、私が彼について知る限りのことを、すべてお前に話す』と答えるばかりです。
 ハドロの話ならば、何ら急を要する話でもないし、今ここで押し問答をしたところで、どうにもなりません。ガウルゥの頑固さは、ユーノもよく知っています。
 ユーノは、ここは一旦、退()くことにして、おとなしく〈本局〉に帰りました。


 そして、3月には、スラウドル・ダヴァーリス上級大将(61歳)の「急死」により、ルクファノス・マグゼラスモ大将(56歳)が、中央評議会での推挙を受け、管理局第13代の「総代」となりました。ガウラーデ人としては初めての総代です。

【スラウドルは総代に就任した当時、まだ57歳だったので、長期政権が期待されていましたが、真面目(まじめ)すぎる性格がたたって、わずか四年で過労死(?)しました。
(しかし、一部では「腹上死」との不名誉な噂もあったようです。)
 なお、ルクファノスは、特定の派閥に肩入れすることの無い「調整型」の総代でした。就任後は新暦97年の秋まで、十年余に(わた)って安定した「長期政権」を築くことになります。】

 また、エルスとハリーはこの年の4月から〈本局〉の所属となりました。エルス(23歳)は査察官、ハリー(22歳)は広域捜査官です。
 ミウラ(19歳)も無事に士官学校を2年で卒業し、まずは准尉としてクラナガンの首都警邏隊に配属され、当分は警邏隊員専用の「単身寮」に住むことになりました。
 そして、メルドゥナ(24歳)も、新人執務官として正式にティアナの許から独立しました。


 なお、管理局が正式にカルナージの「首都ベルーラ」への移民を募集し始めたのも、この「86年4月」のことです。
 同時に、ベルーラには「本局直轄」の組織として正式に「カルナージ地上本部」が設立されました。
 地上本部とは言っても、その中に、実動部隊はまだ「首都警邏隊」と「離島警邏隊」があるだけです。実際、「ベルーラ市内」と「アルピーノ島」以外の土地には、人間などまだ誰ひとりとして住んでいないのですから、それも仕方の無いことでしょう。
 そして、ルーテシア(21歳)は、あくまでも「形式的に」ではありますが、「離島警邏隊」の隊長となりました。
(そもそも、84年のうちに捜査官の資格と准尉の階級を取得しておいたのは、このためだったのです。)

 また、この4月から、戸籍の上で『カルナージを「本籍地」として選択する』ことが一般に可能となり、メガーヌとルーテシアとファビアは即座に、「ホテル・アルピーノが建っている土地」をそのまま自分たち一家の「本籍地」にしました。
(なお、バムスタールも、この時点で本籍地をアルピーノ島に移しました。)


 一方、同4月には、ヴィヴィオ(17歳)が大学に進学して特待生専用の学生寮に入り、コロナは高卒で管理局に入って技官となり、また、昨年の春に結婚していたミカヤ(25歳)は早速、長女を出産しました。
 そして、ジャニス(20歳)は、何と「名門中の名門」サラサール家の「第二分家」の御曹司(おんぞうし)であるスラディオ(23歳)と結ばれます。

【なお、スラディオとジャニスの結婚式には、コロナも新婦の友人として招待されましたが、ジョルドヴァングも新郎の友人として招待されていました。
(この時点で、コロナとジョルドヴァングは、実はすでに婚約しています。)
 また、スラディオの母方祖母はテオドールの下の妹であり、系譜の上では、スラディオは「ハロルド・ダールグリュンのハトコ」に当たる人物なので、ヴィクトーリアも父親の名代(みょうだい)として出席していました。
 そのために、屋外での披露宴における「余興」は、ほとんど戦技披露会のような代物になってしまったのですが、それはまた別のお話です。(笑)】


 また、翌5月になると、コロナ(17歳)がいきなり結婚し、周囲を驚かせました。
 お相手は、もちろん、婚約者である「クヴァルニス地方の名家の末子」ジョルドヴァング・メルドラージャ三等陸尉(23歳)です。
 見るからに野獣(けだもの)のような風貌の、上背(うわぜい)が2メートルにも達する巨漢で、小柄なコロナとの身長差は、実に40センチあまり。筋肉質で横幅も広いので、体重比に至っては、軽く2.5倍を超えています。
 ヴィヴィオたちは当初、『これって、何かの犯罪なんじゃないの? もしかして、家族ぐるみで弱みでも握られたの? 事実上の人身売買とかじゃないよね?』などと、大いにコロナの身を案じたのですが……。
 実際には全然そんなことはなく、ただ単に『ジョルドヴァングが、IMCSにおけるコロナの果敢な戦いぶりに惚れこみ、以後、積極的な求婚(プロポーズ)を続けた結果、コロナもついに(こん)負けして、それを受け入れた』というだけのことでした。

【婚約が済んで『そろそろ友人たちにも打ち明けておかなきゃ』と思っていた矢先のことで、予定よりも随分と挙式の日程が早まってしまったのは、もっぱら「一足先に結婚したスラディオ(実は、ジョルドヴァングの親友)とジャニス(実は、コロナの親友)のせい」だったのですが、それはまた別のお話です。(笑)】

 なお、その結婚式には「新婦の友人」として、ヴィヴィオたち同級生だけではなく、ジャニスやヴィクトーリアも招待されていました。
 両家の「家格」には相当な差があり、世間的に見れば、この結婚は完全に「玉の輿(こし)」です。そのため、メルドラージャ家の側の「遠い親戚たち」は皆、最初のうちは、コロナに対してやや冷たい視線を向けていたのですが、新婦の友人代表としてヴィクトーリアがスピーチをすると、『ダールグリュン本家の(かた)が、あそこまで()めるのならば』と、コロナに対する態度をくるりと改めました。

 ヴィクトーリア「これで、あなたも『名家』の仲間入りね。(満面の笑顔)」
 ジャニス「今後も『家族ぐるみの付き合い』とかがあると思いますので、よろしくお願いしますね。(満面の笑顔)」
 コロナ「ええっと……どうぞ、お()柔らかに。(困惑苦笑)」

【その後、コロナは「外見に似ず、メチャメチャ甘々な夫」とともに(見た目は完全に「美少女(ロリ)と野獣」で、あからさまな「犯罪臭」がしましたが)とてもとても幸福な夫婦生活を送り、最終的には2男2女の母になりました。】


 そして、翌6月になると、現地では今も語り継がれる、あの〈ディファイラー事件〉が起きてしまいました。
【defileは、「(よご)す」とか「(けが)す」とかいう意味の他動詞です。】

 第一級指定ロストロギア〈ディファイラー〉は、大きさこそ〈ジュエルシード〉よりも少し小さいぐらいですが、或る意味では、それよりもはるかに危険な「自己増殖型のエネルギー結晶体」です。
『人間の「心の闇」に付け()って、その心を惑わし、操り、(むしば)んで、一時的に強大な魔力と欲望を与えつつ、その人間の「歪んだ精神エネルギー」を(むさぼ)(くら)って、遅くとも数日後には、その人間の自滅とともに分裂増殖をする』というのですから、これはもう「精神寄生タイプの文明破壊兵器」と呼んでも過言ではありません。

 実際、これは『もし完全に放置すれば、その惑星はほんの半年ほどで「無人の世界」と化す』というほどの危険なロストロギアです。
(ディファイラーは、平均6日ほどで二倍に増えますが、2の30乗は10億を超えてしまうので、周囲に充分な数の人間さえいれば、たとえ最初はほんの数個でも180日(6日で倍増 × 30回)で「理論上は」数十億個にまで増えてしまうのです。)
 しかも、『大半の者は適合せずに、ただその場で死んでしまうだけ』というエクリプスウイルスとは違って、〈ディファイラー〉は対象を選ばず、誰にでも簡単に「精神寄生」をしてしまうのですから、ある意味では、これは『エクリプスウイルスよりも、さらに性質(たち)が悪いロストロギアだ』と言って良いでしょう。
(ディファイラーは、「先史バログドゥ文明」の負の遺産で、それ故、カリムにも予見することはできなかったのです。)

【実際、新暦38年には、〈管40グザンジェス〉で第三大陸が丸ごと滅び去りました。
 その際、管理局は相当の戦力を()いて大陸各地の〈ディファイラー〉を封印して回り、それらを破壊して、最後に残った「次元航行すら可能な巨大融合体」をも〈アルカンシェル〉を使い、莫大な犠牲を払って完全に虚数空間へと消し飛ばしたはずだったのですが……この新たな〈ディファイラー〉たちは一体どこから来たのでしょうか?】


 その時、フェイト執務官(30歳)は二人の補佐官とともに、主要な管理世界を巡る「通常の巡回任務」に就いていたセディール・ブロスカン提督(39歳)の御座艦(ござぶね)〈バゼムラート〉に同乗していました。
『本局を出て、まず東側のルーフェンとセクターティとデヴォルザムを巡り、無人世界経由で少し南下してから、かつての「四世界同盟」を東から順に、ハドマンド、ヴェトルーザ、ゲルドラング、ザウクァロスの順で巡り、また少しだけ北上してから、今度は西から順に、パルドネア、モザヴァディーメ、シガルディスを経て、最後はミッドチルダ経由でまた本局に戻って来る』という、主要な22個の管理世界のうちの半数を一度に巡る予定の航海です。
(次元航行部隊では、俗に「東南方面、()回り」と呼ばれている、まったく「お定まり」の巡回コースです。)
 それは、何事も無ければ一月(ひとつき)たらずで済む程度の、ごく単純な任務のはずでした。

 セディールは、まだ一昨年に昇進したばかりの「新人提督」ですが、一介の艦長だった頃から、クロノ提督の許で相当な実績を積んで来た人物です。今では、クロノ(35歳)にとっても「頼りになる友人」といったところでした。
 そのため、フェイト執務官とセディール提督は、仕事の上では今回が「(はつ)顔合わせ」だったのですが、以前からクロノを(かい)して『お噂はかねがね』という間柄です。
〈本局〉を出航してからおよそ十日後、当初の予定どおりに〈管22ハドマンド〉を後にした頃には、二人はまるで旧友のように、もう互いにすっかり打ち解けていました。
 ハドマンドは昔から何かと問題の多い世界で、一昨年には、ティアナも〈ゾグリモッド事件〉で長らく足止めを()らったりしましたが、今回は幸いにも、何の事件にも遭遇すること無く、管理局直轄の次元港で普通に補給を済ませただけで、また出航することができました。
 ハドマンドとヴェトルーザをつなぐ航路は、いわゆる〈聖十字航路〉の東西路で、通常の巡航速度では約12時間の距離です。
 本局標準時で18時過ぎにその航路に入り、夕食後、しばらくしてから8時間たっぷりと睡眠を取って、いつもどおり朝6時前に起床。フェイトが朝食前に艦橋(ブリッジ)に顔を出した時には、もうヴェトルーザは目の前でした。

 いつもの朝の挨拶の後、フェイトはふと、セディールにこんな話題を振りました。
「そう言えば、提督。あなたはヴェトルーザの生まれだそうですね」
 ミッドを始めとする多くの世界には、ヴェトルーザ人に対して「保守的で、頑固で、(ぶん)不相応にプライドばかりが高い」という負のイメージがありますが、セディールを見ていると、それが単なる偏見でしかないことがよく解ります。
 セディールは、いつもどおりの「必要以上に丁寧な口調」でこう語りました。
「ええ。とは言っても、私はもう20年前には〈本局〉の次元航行部隊に転属していますからね。正直なところ、最近の現地の事情には、さほど詳しくないんですが……。
旧暦の〈統合戦争〉の時代には、ハドマンドと組んで最後まで戦い続けていた世界だったから、なんでしょうか? ほんの30年ぐらい前までは、まだ『戦時体制』のようなノリが随所に残っていましてね。
 我が()でも、私が幼い頃は、元軍人で『お堅い性格』の曽祖父がまだ生きていましたから、『家庭では、歌舞(かぶ)音曲(おんぎょく)(たぐい)は一切禁止』だったんですよ。(苦笑)」
「ええ……。(絶句)」
「実のところ、当時はヴェトルーザ全体で見ても、音楽などの芸能方面はまだあまり発達していませんでしたからね。その方面で生計を立てようと思ったら、他の世界へ行った方が早い、というほどの状況でした」

「まあ、妹たちから伝え聞くところによると、10年ほど前からは、デヴォルザムで名を上げた連中が『凱旋(がいせん)』して来たりして、その方面の状況も随分と改善されたらしいんですけどね」
「あのデヴォルザムで、ですか?」
「もちろん、第三大陸〈カロエスマール〉での話ですよ。『一つの太陽、二つの月、三つの大地』という、あの世界の売り文句は伊達(だて)ではありません。あそこは、大陸ごとに住民も文化もまるで違っていて……という話は御存知ありませんか?」
「聞いたことはありますが、私は以前、第一大陸の方で仕事をした時、どうにも堅苦しい雰囲気で困り果てたことがあったので、どうしても、その時の印象の方が強くて……」
「ああ。確かに、第一大陸の方はデヴォルザム人ばかりの、昔ながらの『尚武の国』で、今も男性優先主義がまかり(とお)っており、芸能関係などは、昔のヴェトルーザと比べても大差が無いような状況だと聞いています。
 しかし、クレモナ系移民ばかりの第三大陸では、一転してその方面が不道徳なまでに発展を遂げているのだそうですよ。……私も個々のアーティストの名前は〈オルヴァとジャーディカ〉ぐらいしか解りませんが……ともかく、あの大陸で名を上げたのなら、凱旋して来た連中の実力も確かなモノなのでしょう」

「ところで、話は変わりますが、首都次元港の脇に、ひとつ良い店がありましてね。こちらの標準時で7時からの予約を入れてありますから、補佐官のお二人も御一緒に、そちらで朝食を取りませんか? 船内での食事ばかりでは味気(あじけ)ないでしょう」
「そうですね。では、折角(せっかく)ですから、そうさせていただきましょうか」
 そんな会話の後、〈バゼムラート〉は亜空間から通常空間に降りて、ヴェトルーザの周回軌道に入ったのですが、現地の地上本部と回線を開くなり、〈バゼムラート〉は唐突に「緊急支援要請」を受信しました。
 なんと、『あの〈ディファイラー〉が、首都圏に出現した』と言うのです。

 この世界の首都圏は、本局標準時との時差が実に10時間。現地時間は、もう17時に近くなっており、ぼやぼやしていると、すぐに日が暮れてしまいます。
 封印作業は、夜になったら格段に面倒なものになってしまうので……そして、いくら夏至が近いとは言っても、緯度からして現地は20時にはもう真っ暗になるはずなので……時間的な猶予は、最大でもあと3時間ほどしかありません。
 そこで、フェイト執務官は提督からの要請に基づき、アインハルト補佐官(19歳)とともに転送で急ぎ現場(首都ザハロームの旧市街)に降り、そこで〈ディファイラー〉に取り憑かれた人々に遭遇しました。
 すでに、相当な人数となっています。
《現実には朝食(ちょうしょく)前なんだけど、どうやら地球の慣用句で言う『朝飯(あさめし)前』とは、いかないみたいね。》
 フェイトやアインハルトほどの実力をもってしても、これは苦しい戦いになりそうでした。

 一方、セディール提督は、『これは、さすがに手が足りない』と考え、即座に〈本局〉へ増援を要請していました。
(もちろん、予約していた店の方には、やむを得ず、キャンセルの連絡を入れます。)
 しかし、生半可(なまはんか)な魔導師では、ただ(いたずら)に「ディファイラーの(えさ)」にされてしまうだけです。「自身(みずから)(うち)なる闇」とも「心静かに」向き合うことができる強靭な精神力の持ち主でなければ、〈ディファイラー〉の精神寄生をはねのけることはできません。

 そこで、30分ほど()って、〈本局〉からようやく「少数精鋭の武装隊」が「第一陣」として〈バゼムラート〉に転送されて来たのですが、臨時にそれを指揮していたのが、偶然にも高町なのは一等空尉でした。
 結果として、この事件は「本局の〈エース・オブ・エース〉の健在ぶり」を世に知らしめることになります。
(一方、アインハルトも大いに活躍はしたものの、なのはやフェイトに比べれば、自分はまだまだだと痛感したのでした。)

 さらに1時間半後、より規模の大きな第二陣が〈本局〉から到着した時には、すでに現地の状況はかなりの程度まで収束に向かっており、あとは「落穂(おちぼ)拾いも同然」といった状況になっていました。
 ザハロームには、すでに夕闇が迫っています。
 なのはたち第一陣は、第二陣と交代して〈バゼムラート〉に帰艦し、休息を取りました。いくら精鋭の空士たちでも、『90分間、ほぼ全力を継続する』というのは、さすがに厳しいものがあります。
 そして、現地が完全に夜になる頃には、状況もほぼ収束しました。〈ディファイラー〉関連の事件としては、史上最速の収束だったと言って良いでしょう。
 ヴェトルーザの地上本部からは、セディール提督とフェイト執務官となのは一等空尉に「特別の感謝」が贈られる結果となりました。

 一方、艦内では、セディール提督らの賞賛に対して、なのははあくまでも謙虚な態度を崩しませんでした。
「今回は、発見と報告が早くて本当に助かりました。正直なところ、それらがあと一日でも遅れていたら、ザハロームが夜の間に、もっともっと大変な事態になっているところでした。
 それと、当然ながら『48年前のデータ』は大変に役に立ちました。相手がどういう存在なのかがあらかじめ解っているのなら、作戦の立てようもあります。私たちも、もしこれが初見だったら、危なかったでしょう」
 セディールは、会食の機会を失ってちょっと残念そうでしたが、その程度のことは仕方がありません。

【なお、全くの余談ですが、ヴェトルーザ共通語は「各管理世界の公用語」の中ではかなりの少数派となる「発音の上でLとRを区別しないタイプの言語」です。
(主要な22個の管理世界における公用語に限って言うと、そうした言語は、他にはドナリム標準語とセクターティ共通語とゲルドラング標準語しかありませんが、主要な世界に限らずに言えば、スプールスやダムグリースで用いられているテルマース語など、それなりの数の言語が「発音の上でLとRを区別しないタイプの言語」となっています。)
 ヴェトルーザ人は一般に、同じ「ラ行音の子音を表わす文字」を、全く無意識のうちに、それが語頭や音節末にある時にはL音で読み、それ以外の場所にある時にはR音で読んでいるのです。
(つまり、「セディール」の方はL音で、「ブロスカン」の方はR音です。)】

 さて、〈ディファイラー〉を封印する作業は、すべて完了しましたが、まだどこかに隠れている個体がいないとも限りません。第二陣のおよそ半数は、引き続き現地に残って警戒に当たることになりました。
【そして、実際に、これから何日かの間に、首都近郊の各地でまた何個かの〈ディファイラー〉が回収されました。】

 なのはとフェイトは、艦内で「朝食なのか昼食なのか、よく解らない軽食」を取りながら、少し二人だけで話をします。

「朝ごはん抜きだなんて、体に悪いよ。フェイトちゃん。(笑)」
「文句は〈ディファイラー〉に言ってちょうだい。……と言うか、なのはだって、多分、似たような状況よね?」
「あはは。それもそうか」
 二人でひとしきり笑いあってから、フェイトは不意に真顔に戻ってこう語りました。
「今回は、舞台がたまたま〈本局〉と一等航路で結ばれた世界だったから初動が間に合ったけど、『もしも、これが辺境の世界だったらどうなっていたか?』と思うと、ぞっとするわ」
「うん。極端な話、もしも新暦65年の地球で同じことが起きていたら、さしものクロノ君も完全に『お手上げ』だっただろうね」
「ええ。〈ディファイラー〉は、ジュエルシードよりも、ずっと性質(たち)の悪いロストロギアだからね。……でも、〈ディファイラー〉は48年前に、グザンジェスで一度、完全に滅ぼしたはずだったのに……」
「まさか『虚数空間から舞い戻って来た』という訳でもないだろうし……。もしかしたら、エクリプスウイルスのように、どこかに『母体』があるのかな?」
「だとしたら、今後もまだ同様の事件は起こり得る、ということよね?」
「もちろん、そうなってほしくはないんだけどね」

【なのはとフェイトが懸念したとおり、これからまた24年も先の新暦110年には、ついに〈ディファイラー〉の母体が「人知れず」パルドネアの上空に出現してしまうのですが……それはすでに「この作品の守備範囲」ではありません。】


 その後、なのはと武装隊は、また即時移動で〈本局〉へと戻り、フェイトたちを乗せた〈バゼムラート〉も、また「通常の巡回任務」に戻りました。次の寄港地は、『地上では自分の体重が15%も軽くなったように感じる』ことで有名なゲルドラングです。
 そして、セディール・ブロスカン提督の率いる一行は、それ以降の寄港地では何の事件にも遭遇すること無く、〈ディファイラー事件〉のおよそ半月後、7月になってから、ほぼ予定どおりの日程で〈本局〉に帰投したのでした。


 
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