Fate/WizarDragonknight
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シスト
「さあ! 宝物を見つけよう!」
「おおっ!」
号令を上げるココアへ、可奈美が大きく頷く。
シストの地図を発見した数日後。
学校を終えたココアたちと合流し、ハルトと可奈美はそれぞれ私服で訪れていた。
可奈美たちから誕生日プレゼントということで受け取った上着。あれから外出するときは、ほとんどこの上着を着用している。
「ココアさん、少し落ち着いてください」
チノが宥める。
興奮したココアは、目を輝かせながらコピーしてきた地図を広げた。
ラビットハウスで悠久の時を共にしてきた地図は、少し手荒に使ってしまえばあっという間に粉々になってしまいそうで、手にするだけで神経を使う。
そのため、今回は写真で撮影したものをプリントして持ってきていたのだ。
「それで、宝物はこの地図に書かれているところにあるんだね」
ハルトは地図を覗き込む。
スタート地点だと思われるラビットハウスや、目印になっているのであろう甘兎庵。
「はい。それで、その中にある宝物と、自分で用意した宝物を交換するんです」
「宝物かあ……何があるのか、すっごいワクワクするね!」
可奈美が胸元で拳を握る。
「それで、皆は何か交換する宝物はあるの? 俺はこれだけど」
ハルトはそう言って、手製の指輪を差し出した。
以前、指輪を作ろうとした際にできた失敗作。魔法の力は宿っていない。だが、プラスチック製の指輪にも見えるから、玩具の指輪程度の役割は果たせるだろう。
一瞬可奈美がぎょっとしたが、咳払いをして自分のものを取り出した。
「私はこれ! 手製の剣だよ!」
それは、手のひらサイズの剣の模型だった。
材料は粘土だろうか。可奈美が手作りしたのだろうが、ところどころ拙い曲線が混じっているが、一見はミニチュアの剣に見える。
「すごい拘り……」
持ち手や柄には、若干粗削りではある。だが、その刀身部分だけは直線的に造形されており、もしや本物の剣で研いだのではと感じてしまった。
「可愛いね! これ、可奈美ちゃんが作ったの?」
「うん! それで、ココアちゃんは?」
「ティッピーの抜け毛で作った分身ティッピー!」
ココアはそう言って、指二本に挟んだ毛玉を見せつける。
(他人からしたら一番反応に困るやつだ……)
ハルトは思ったことを飲み込んで、チノへ視線を移す。
「チノちゃんは?」
「これです。難破船のボトルシップです」
そう言って、チノは手のひらサイズのボトルを見せた。
中には、とても細かく作られた難破船があり、荒れた海の中で航海を続けていた。
「細かっ! これ、チノちゃんが作ったの?」
「はい」
「チノちゃん、ボトルシップ大好きだからね」
「他にもパズルや小型チェスも考えました」
「老後も安心の趣味だね」
ハルトは「ほーっ」と感心して、チノのボトルシップを見つめる。
青い水面に白い波と、海を表現する条件を軽く満たしているそれは、果たして何で出来ているのかが気になってきたハルト。むしろ持ってきた指輪を彼女の難破船と交換したい欲求に駆られてしまう。
「そういえば、こういうの作ってるって言ってたね。もはや匠の技に見えてくる」
「さあ! それじゃあ早速、探しに行こう! シストスタートだよ!」
「全然全くこれっぽっちも分かんないよ!」
可奈美が叫んだ。
かれこれ三十分も木組みの街を練り歩いているが、地図が指し示す場所に辿り着かない。
ラビットハウスをスタート地点として、木組みの街を隅から隅まで進む。だが、地図に記されている次の目印が見当たらない。
「ブロックが…三つ、四つ……」
通過するブロックを何度も数え、ハルトは「やっぱりここだよね」と選んだ通路で足を止める。
「でも、この通路行き止まりなんだよね……ねえ、チノちゃん。これってどこのことかわかる?」
「甘兎庵以外の手がかりが書かれていないので分かりません……」
ハルトへ、チノが答える。
木組みの街生まれの彼女でさえ、地図の地形にピンとこないようだった。
「地図の配置から、この辺りだと思うんですけど……」
「甘兎庵とラビットハウスから見て北側でしょ? これでいいはずなんだけどね」
「私もちょっといい?」
可奈美が声をかける。
ハルトは「はい」と、地図を手渡す。
「……あれ? ハルトさん、これ、こっちじゃない?」
可奈美は何度か地図と通路を見比べ、全く別の方角を指差す。
「え? そっち?」
「うん。だって、ここがこうで、あれがあの建物でしょ?」
可奈美は地図に一際大きく書かれているブロックと、少し離れた建物を指し示した。
ハルトは目を見開きながら可奈美が手にする地図を見下ろす。
ハルトから手渡された時の都合から、ハルトが見ていた時から九十度傾いている。
「この地図、上が北じゃないの!?」
「うん。私もちょっとわからなかったけど、こっちから見た方が、ラビットハウスからだと分かりやすくない?」
「地図って、東西南北方角が決まっているものだと……」
「でも確かに、子供が描いたものですからね」
チノはそう言って、可奈美が下した地図に視線を落とす。
「可奈美さんの話が正しいとすると、むしろ甘兎庵とは逆方面ですね」
「……ってことは、甘兎庵のマーク、そもそも目印でもないの!?」
「これまた子供が作ったものだから、好きなお店のマークを書き入れたんですね。ちょっと可愛いです」
チノがくすりとほほ笑む。
「それだとすると、もしかしてスタート地点のラビットハウス自体が気まぐれで描いたものである可能性まで浮上してくるんだけど……」
「それは大丈夫ですよ。地形から、ラビットハウスは間違ってなさそうですから」
チノが補足した。
危うく当てのない旅になるところだったハルトはほっと胸を撫で下ろす。
「それにしても、何でウチの額縁にシストの地図なんてあったのかな?」
ココアが頬に指を当てながら呟いた。
チノが「そうですね」と少し考えだす。
「現物はかなり古かったですし、あの絵が置かれたときに入れられたのでしょう」
「でも、私たちあの絵何度も掃除しているよ? よっぽど固定されていたんだね」
「そうですね。父に聞いたところ、あの絵は祖父が若いときに書いたそうです。もしかしたら、祖父の代のシストなのかもしれません」
「それじゃあ、もしかしたら何十年も前の人たちの宝物があるのかもしれないね!」
「何十年も前の人たちか……」
ハルトはココアの言葉を繰り返す。
「それは確かにロマンを感じるね。もしかしたら、今じゃ手に入らないお宝があったりして」
「そう考えると、ますます楽しみになって来たね! これまで止まっていた分、取り戻すよ!」
「あ、待ってココアちゃん!」
先にぐいぐいと急ごうとするココアを、ハルトが止める。
「これ……もしかして、道じゃなくて川なんじゃない?」
「ええ!?」
ハルトの指摘に、ココアは口をあんぐりと開けた。
「だって、よく見たらここ通路が塞がってるし。丁度逆側に川があるじゃん」
「え? でも、この道を追いかけてみれば……」
「子供の地図ですから……」
少し口をきっと結びながら、チノが擁護に走る。
つまり、これから先はこれを書いた推定少年期のチノの祖父の間違いも考慮しながら進まなければならないということになる。店のマークのみならず、地形までも。
「だったら、あっちが……いや、でも形が違う……それとも、この縮尺ミスも子供の勘違いで済ませていいのか?」
ハルトはぶつぶつと地図を見ながら周囲を探す。
やがて走り出し、壁にぶつかってはまた別の方向へ足を回転させる。
「いや、こっちには確か……だから、この形の場所の候補は……」
「ハルトさん……一番張り切ってる……!」
ハルトを見ながら、ココアが唖然とする。
「とても楽しそうですね」
「うん! 今までは、私たちにちょっと遠慮しているみたいだったもんね!」
ココアとチノの反応に、ハルトは足を止めた。
そんなハルトの袖を、可奈美が引っ張った。
「ハルトさんハルトさん。良かったね、前から変わったって」
「……そうだね」
ハルトはほほ笑む。
ココアとチノ。
聖杯戦争に決して関わることのない彼女たちは、それぞれ他愛のない話をしている。
「……やっぱり、二人には隠しておくの? ファントムのこと」
「そうだね」
ハルトは静かに頷く。
やがてココアは叫び出し、チノに抱き着いている。チノが呆れた顔をしながらココアを抑えているが、満更でもないようで、それほど強くは抵抗してない。
「二人……というより、聖杯戦争に関わりのない人にとって、俺はただの喫茶店の店員だよ」
「そうだね。私も刀使じゃなくて、ただのサバ読みのフリーターだからね」
実年齢十四歳、ラビットハウスの経歴書記載年齢十六歳の可奈美が言った。
「そろそろ行くよ、二人とも」
ハルトが声をかけると、二人は慌ててハルトへ駆け寄ってくる。
「うん! 行こう!」
「ココアさん、ちゃんと探してください」
「まあまあ。折角だし、ゆっくりやろうよ」
ハルトは改めて地図の道に指を当てる。何度も今いる道と地図の道の形を確認し、やがて「こっちだ」と急ぎ足で曲がり角を曲がる。
そのとき。
「きゃっ!」
丁度、曲がり角から来ようとしていた人物とぶつかりかける。倒れかけた相手の手を取り、何とか支える。
「ご、ごめんなさい!」
「こちらこそ……松菜さん?」
自らの苗字が呼ばれると同時に、相手の長いウェーブかかった髪が手首に触れる。
「紗夜さん?」
聖杯戦争の元参加者、氷川紗夜。
ラビットハウス付近にある甘味処で住み込みのバイトをしている少女。
もう少しでハルトの背丈に届きそうなほどの長身の彼女は、その長い前髪をくるくると指で弄び始めた。
「お、お久しぶりです」
「そうだね、久しぶり。元気?」
「は、はい……」
彼女は、ハルトと目を合わせてくれない。一方、彼女の視線は逃げるように可奈美やココア、チノに注がれていた。
「保登さんに衛藤さんも……ここで何を?」
「シストだよ!」
ココアが明るくハルトが持つ地図を指差す。
「私たちやったことなかったから、チノちゃんに可奈美ちゃん、ハルトさんと一緒に回ってるの!」
「シスト、ですか……」
紗夜は顎に手を当てながら頷いた。
「紗夜さんはやったことある?」
「幼い頃に何度か……でも、日菜がすぐに見つけるから、経験と呼べるほどではありませんね」
「ああ……」
彼女の返答に頷きながら、ハルトは紗夜の妹を思い浮かべた。紗夜と同じ顔ながら、紗夜とは真逆に明るさが服を着たような少女、氷川日菜。彼女ならば、子供向けの謎解きなどあっという間に解けるだろう。
そんなハルトと紗夜の間に、ココアが顔を入れた。
「ねえ! 紗夜ちゃんも一緒にシストに参加しようよ!」
明るい笑顔のココア。そんな笑顔に迫られれば、きっと紗夜もはっきりと断りを突っぱねることはできないだろう。
「まあ、今日は急ぎの予定もないですし……夕方までに帰れればいいですよ」
「やった!」
手を叩くココアが、紗夜に抱き着く。
「それで、場所はここなんだけど、紗夜さん分かる?」
ココアがハルトの手にある地図を引っ張り、紗夜の目の前に押し出す。
少し考えた紗夜は、「そうですね」と頷いた。
「まあ、見当は付きますけど……しかし、参加するなら、私も宝物が必要ですね。何かあったかしら……?」
紗夜はそう言いながら、自らの腰に付けたポーチを探る。やがて、ゴソゴソと中を掻きまわしていた彼女は、「ありました」と何かを取り出した。
「それは?」
「ピックです」
紗夜が手にしているのは、黒い三角形に近い形をしたプラスチックだった。とても小さなそれは、ハルトには全く見当の付かない物だった。
「ピック?」
「なにそれ?」
ハルトと可奈美が同時に首を傾げた。
「ピックって、ギターのピック?」
ココアが紗夜の指を覗き込みながら尋ねた。
「ギターのピック?」
「ほら、ギターって、鳴らす時手に小さいパーツをもってやるでしょ? あれ、ピックって言うんだよ」
「……ギターって、指でやっているんじゃないんだ」
ハルトは自らの無知を思い知りながら、紗夜のピックに手を伸ばしてみる。
紗夜からピックを借りたハルトは、その表裏を眺めてみる。
「ギターって、これで奏でるんだね。それじゃ、音楽好きな人とかにとってはお宝かも」
紗夜へピックを返しながら、ハルトは頷いた。
受け取った紗夜は、ピックをポーチに入れ直す。
「松菜さん、少し変わりましたか?」
「へ?」
その問いに、ハルトは思わず素っ頓狂な声を上げた。
「そう?」
「どうしてでしょう……何か、明るくなったような……?」
紗夜の発言に、ハルトはどこか胸の内が熱くなるような感じがした。
表情が変わってしまう前に、ハルトは口走る。
「そ、それじゃあ紗夜さんを加えて、シスト再開といこっか!」
誤魔化した。
そんな顔をしているのは、クスクスと肩を揺らす可奈美だけだった。
後書き
ハルト「さてと。それじゃあ、この道はこのまま真っすぐでいいのかな」
ココア「あ!」
ハルト「お? 何か手がかりが……」
ココア「美味しそうな和菓子屋があるよ!」
ハルト「っておおい! 寄り道候補かい! しかもこれ、和菓子じゃなくて洋菓子じゃない?」
可奈美「これは見逃せないね!」
ハルト「今じゃなくても良くない?」
チノ「全く。ココアさんも可奈美さんも仕方ないですね」
ハルト「そうだよねえ。
チノ「敵情視察です。早速入りましょう」
ハルト「……チノちゃん結構ココアちゃんに似てるとこあるよね」
チノ「え」
ココア「わあああ……チノちゃああああん!」ムギュッ
チノ「やめてください、抱き着かないでください」
可奈美「私もー!」ギュッ
ハルト「おしくらまんじゅう……で、行くの? 行かないの?」
三人「「「行く!」」きます!」
ハルト「猛烈な勢いで息合ってる……じゃ、入るよ。えっと、ストレイキャッツか……何の猫だ?」
ココア「私達はウサギ代表として、猫ちゃんに挑戦だよ!」
___チリーン___
???「いらっしゃいませ」
___はっぴい にゅう にゃあ はじめまして キミにあげる 最初のオーバーラン 逃げるから 追い掛けて まぁるい世界___
ハルト「すごい耳に残るBGMだな」
可奈美「このお店のテーマソングかな?」
???「まあ、そんなところです。ご注文はいかがいたしますか?」
ココア「ウサ……猫ちゃんで!」
???「ああ、それでしたら……」
ハルト「いるの!?」
???2「二回死ね!」
ハルト「うわビックリした!」
???「ああ、すみません。ウチの店員がモノに当たり散らしているんです」
ハルト「な、なんてやりすぎな……」
???「素直じゃないひとなんで。あ、そうそうそろそろ紹介か」
ハルト「無理矢理路線変更したな……」
???「迷い猫オーバーラン! 2010年の4月から6月放送!」
ハルト「こんな洋菓子店に勤める二人の幼馴染と、拾われてきた猫みたいな女の子の話か……」
???2「百回死ね!」
???「そしてこれは、その幼馴染が本当に怒った時の声です」
ハルト「古き良きツンデレ……」
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