ソードアート・オンライン~黒の剣士と紅き死神~
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フェアリー・ダンス編
世界樹攻略編
聖譚歌の奏者達
前書き
まあ、題名でネタばれだけどね……。
様々な機械が並べられた研究室風の部屋。その部屋に居るのは彼女を合わせて22人と広さの割には狭い。誰もが何かしらの端末に張り付いており、互いに議論を交わしていた。
「笠原主任」
彼女は奥の方にいる無精髭面の男性に話し掛けた。
「おや、藍原さん。何か?」
「総帥からこの間の試験機の稼働データの開示を求められています」
「……試験機?……ああ、隊長の妹さんがぶっ壊してくれたアレかな?……おーい、曰野坂。モデル『エレファント』の稼働データってうちにあったけ?」
呼ばれた男性は不健康そうな目を向け、「ちょっと待って下さい」と言うと、脇の書類を漁り始める。しばらくして出てきたのは『機密』と判子の捺されたA4の紙だ。
「んーと、自衛隊からはリークされてないっすね。副隊長、うちには無いみたいですよ?」
「……それはおかしいわね。ちょっと総帥に確認するわ」
電波の悪い研究室から出て通信専用の部屋に入る。コールは僅かで目的の人物が出た。
『どうした藍原』
「第三部隊は自衛隊から情報をリークしてもらって無いようです。幕僚長に聞いてみたらいかがでしょう?」
『……何?2ヶ月も前の話だぞ?まだ情報が共有されていないのに騒いでいないのは何故だ』
「……恐らく、主任のせいかと……。主任はモデル『エレファント』を『近年希に見る駄作だ。サバンナに捨ててこい』と言っておりましたから、視界から消えた瞬間に記憶から消去したのかと……」
『あいつは私が予算をケチったのをまだ根にもってるのか……』
「ケチったんですか……。それは総帥の落ち度では?」
『まあ、な。ふむ……それにしても妙だな。藍原、多忙なところ悪いが、至急モデル『ナイト』、『アマリリス』、それと『トライデント』のデータを探してくれ』
「もしや、それらも……?」
『ああ、無い。どこにもな』
「………っ!!そ、総帥!!『トライデント』まで無いのですか!?それは……!!」
『分かっている!!落ち着け藍原。取り乱すな。お前らしくない。……言いたいことは解る。アレが他国、特にお隣さんに渡った暁には目も当てられない。分かった、『トライデント』はこちらで調べよう。君は他の二機を当たってくれ』
「……了解」
水城螢、藍原智代、そして稀代の天才技術者『五賢人』が1人笠原達也が率いる第三部隊――別名次世代兵器開発・試験運用部隊の最高傑作にして最悪の兵器を搭載したモデル『トライデント』。
その行方は長い間、知られることはなかった。
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Sideセラ
「うう、いててて……」
リーファに思いっきり張られた頬を涙目でさすりながらキリトがとぼとぼ歩く。
「さっきのはパパが悪いです!」
「本っ当。失礼しちゃうわ」
「……弁護のしようがありませんね」
口々に言われた非難の声にキリトは何やらぶつぶつ言っていたが、ルグルーの大門をくぐるとあまりの賑やかさに注意を奪われた。
リーファも似たようなもので、吸い寄せられるように武器屋へ赴く。
……女の子としてどうなのかとは思うが、突っ込みはしない。
「そう言えばさー」
キリトがのんびりとした口調でリーファに話し掛ける。
「ん?」
「サラマンダーに襲われる前のメッセージって何だったの?」
「あ、忘れてた」
ガクッ、と力が抜けるが、何とか直立を維持する。
一応、現実で連絡を取ってみるということでリーファはログアウトしていった。
その間、キリトは露店商へ、私はユイと一緒にリーファのアバターの近くにいた。
不意にユイが聞きづらそうに声を発した。
「ねぇ。1つ、聞いてもいいですか?」
「ん、何?」
「……私を作った、『水城雪螺』さんについてです」
「…………」
彼女の育て母は医者、とは言っても専門は無い。謂わば、『医療』そのものが専門だ。
某T大学医学部を首席卒業後、外国へ留学。各地で医療を学び、帰国後、結婚し、一子をもうける。
以後、国内のあちこちでゼロコンマ以下の成功率の難手術、治療を成功させ、『神医』と言われるようになった。現在は治療不可能な病気について研究していると聞いたが、詳細は知らない。
知りたくもない。自分の子供を含め、私達兄妹達を人と思わぬあの女のことは。
「……ねぇ、ダメでしょうか……?」
「ごめんね、ユイ。いつか、私かお兄様が話すよ」
「……はい。待ってます……」
時が来れば直葉にも話さなければならないだろう。それは螢もまた同じ。
「……願わくは、ずっとこのまま……」
「ねぇ?」
不思議そうに顔を覗き込むユイに笑って何でもない、と返していると、リーファが急にガバッ、と顔をあげた。
「セラ!」
「何かしら」
「サクヤ達が危ない!」
「知ってるわ」
途端に驚愕に顔を染めるリーファ。
「レコンに調べさせてたの。さっきのメッセージはそれだろうとは思ったけどね。……依頼主の私じゃなくてリーファに連絡したレコンが悪いわ」
「あんの、バカッ!!」
キリトが帰ってきて、リーファの剣幕に驚き、訊ねる。
「どうかした?」
「キリトさん、私達は急な用事が出来ました。故に、あなたをアルンまで連れていくことが出来ません」
「キリト君、ごめんなさい。どうしても行かなきゃいけないの。多分、ここにも帰ってこれないかもしれない」
キリトは2人を交互に見つめ、頷いた。
「そうか。じゃあ、移動しながら話を聞こう」
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キリトにシルフとケットシーの同盟の件を話し、それをサラマンダーが襲撃するつもりだということを話した。
彼は全てを聞いた上で言った。
『仮想世界だからこそ、どんなに愚かしく見えても、守らなきゃならないものがある』
それを大切な人に教わったと……。だから、自分の利益のために相手をないがしろにすることはない、と。
――彼女の兄はかつてこう言った『俺は目標のためには如何なる犠牲も払うし、障害は乗り越える。邪魔立てするやつは誰だろうと斬って捨てる』、と。
(……この人達がかえてくれたのか)
痩せ細り、目だけがギラギラして貪欲に力を求めていた兄はやがて、事故により、全ての可能性を砕かれた。それからは感情が消え、やがてその姿を見なくなってしまった。
それを、今のように変えてくれたのがこの人達だ。
「「……ありがとう」」
奇しくも、リーファとお礼の言葉が重なった。意味は違ったが、そこに込められた感謝は一緒だった。
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Sideレイ
状況は絶望的だった。防御主体の立ち回りで戦ったのにも関わらず、敵の猛攻にこちらのHPは冗談のように削られていく。
「ぐぁ……!!」
強烈な前足パンチをくらい、後方に激しく吹き飛ばされる。
目の焦点が合っていない。痛みは無いとはいえ、衝撃はあるので、脳が脳震盪を錯覚しているのだろう。
「セイン、アルセ!!一旦、《虹の谷》まで引くぞ。そこまでは追ってこないはずだ!!」
「……っ、そうするしかないね。アルセ、後退するよ!!」
「《虹の谷》!?そこまで逃げれるの?」
彼女の言うことはもっともだ。その前に壊滅する可能性は大きい。だが、このままでは全滅する。
ヴィレッタ、レックス、そしてハンニャの援護を受けながら前線が後退をする。
「ガウッ!!」
そうはさせまいと2匹はAIだとは思えない見事なコンビネーションで追撃してくる。
「……ああもう!焦れったい。皆、20秒死ぬ気で稼ぎなさい。あたしが何とかしてあげる!」
「……何とかできんのか?」
「知らないわよ」
ばっさり言い捨てるヴィレッタに苦笑し、2匹の狼に向き直る。
「セインとアルセは《ハティ》の方を抑えてくれ!」
「わかった!」
「任せて!」
少し離れた所にいる2人から気持ちのいい返事が帰ってきた。
武器を再び、大太刀に持ち帰ると、《スコル》に向かって疾駆する。
「グルオッ!!」
斜めに斬りつけた大太刀を僅かなステップでかわすと、反撃の体当たりをしてくる。
「………っ!」
巨体の下をくぐり抜けるように回避し、側面を取る。
「たぁ!!」
起き上がって反転する勢いのまま足を斬りつける。素早く反応した《スコル》は後退するように反転し、再び対峙する。
その時、《スコル》が、ぐっ、と前傾したと思ったときには、既に後ろに回り込まれた後だった。
背中に感じる圧迫感のみを頼りに横へ跳んだが、噛みついてきた牙がかすり、イエローだったHPがついにレッドになる。
他の2人も視界の端で確認すると、似たようなものだった。
「いいわよ、離脱しなさい!!」
3人が言葉と共に後退し、同時に2匹を中心に巨大な氷柱と火柱が突きだし、熱波と冷気が周囲に吹き荒れる。
「な……何あれ」
「初めて見る魔法ね?」
3人が合流し、杖に寄りかかって汗を流しているヴィレッタに声を掛ける。
「火属性と水属性それから風属性の系統を完全習得で出る《氷炎地獄》よ。全40ワード。使ったのは初めてね……」
「「「……………」」」
魔法の修練は過酷だと聞いたが、目の前の小さなメイジには埒外ののことのようだった。
疲労感はあるようだが、口調に『大したことじゃない』という感じがある。
「でもまあ、これで――――」
安心しかけたその刹那、巨大な2つの影がヴィレッタに向かって飛び出してきた。
「飛べぇぇぇぇぇぇっ!!」
叫ぶと同時に大太刀を抜き放ち、彼女と影の間に割って入る。間髪いれず、これまでにない衝撃。
防御をとっていなかったら確実に死んでいた。
「ぐ………っ!!」
庇ったはずの彼女も決して無傷ではない。硬直した彼女もまた後ろにいたハンニャが引っ張っていなかったらHPがレッドになっていただろう。
そして、セインとアルセは俺と同じく防御をとっていたお陰で事なきを得たようだ。
だが、
(……状況は依然として変わらんか)
確かに《スコル》と《ハティ》の3段のHPバーは最後の一本に突入している。前半に殆どダメージを与えていなかった事を加味すると、《氷炎地獄》は敵に十分に効いたことになる。
されど、倒せてはいない。
ヴィレッタはハンニャに抱えられ、レックスに乗って狼が跳躍で届かないほどの高空に逃げている。セインとアルセは必死に立ち上がって後退し、回復を図ってる。
よって2匹の狼のターゲットは俺に移行した。
「はっ……」
立ち上がると、大太刀を構えて鼻で笑う。SAO時代にもなかった絶望的状況の中、俺は妙に冷静だった。
命が掛かってないのもあるだろう。
だが、この感じはそんなものではない。そう、この気持ちは『信頼』。もちろん、アイツらとは連絡を取っていない。しかしだからこそソレは確信へと変わる。
――旋律が流れる。
途端に俺とパーティーメンバーのHPが回復し始める。現れたのは金管楽器の『ホルン』を模した楽器を吹く音楽妖精。
――2匹の狼が頭上からの強襲に気がつかず、地にひれ伏す。
巨大な剣を肩に担ぐ土妖精の剣士、そして自らの身長より長いクウォーター・スタッフを脇に抱える風妖精。
そして俺を庇うように目の前に立ちはだかった火妖精と水妖精の刀使い。
その内、サラマンダーの方が俺を振り向くとニヤリと笑い、声を発する。
「よお、レイ。苦戦中かい?」
そう言って差し出された手を握って立ち上がる。
「馬鹿め、んなわけないだろ。休憩中だ」
地面に転がっている大太刀を拾うと彼らに並ぶ。言葉は要らない。彼らが何をしに来たかは分かっている。
「浮気か?カイト」
「ば、バカ。仲間を助けに来ただけだ!断じて違う!!」
どうやらホルンに散々何か言われたようだ。
「レイさん、そんなことよりとっととこいつらを片付けましょう。おちおち話してもられません。それに……」
ユウリが指差した先には暴れたくて仕方なさそうなアードとリオがいる。
「そうだな。先に片付けてしまおう」
「よっしゃ、待ってました!援護は任せて!」
ただ1人、支援武器に持ち換えたホルンの奏でる旋律がフィールドに響き渡る。
「行くぞ!!」
カイトの号令で全員が動き出す。狼達は急に増えたプレイヤーにどれをターゲットにすればいいのか迷っているようだった。
「はぁっ!!」
大太刀の全力の一撃が狼の鼻を切り裂いた。
後書き
というわけでオラトリオ・オーケストラが合流です。
ああ、登場人物が莫大なことに……。
さて、早くも物語は佳境に。ん?まだあるだろって?
すいません。ユージーンとトンキーは省略でお願いします。トンキーとの出会いはいつかやるんで許して!
ユージーンはセラが空気になるのでやりません!
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