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ソードアート・オンライン~黒の剣士と紅き死神~

作者:ULLR
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フェアリー・ダンス編
世界樹攻略編
  焔の魔神、来る

 
前書き
ここからちょくちょく伏線も張っていきます。
「何のこっちゃ」でも我慢してネ! 

 



『城』の中の人工池、その畔で螢は佇んでいた。


「こちらでしたか、隊長」

「……ここで『隊長』は不適切ですよ、藍原()()

「細かいわね。相変わらず」


何時もの迷彩服ではなく、スーツを着こなす、藍原智代は普段の彼女なら決して見せないだろう表情をしていた。ここでの彼らの関係は上司と部下ではなく、先輩と後輩だった。


「例の司法取引の件、順調?」

「予定では明日か明後日……には解決するでしょう」

「フフ、義理堅いのね。お友達を待つなんて」

「お姫様を救い出すのは昔から勇者でしょう?途中で中ボスが助け出すなんて、それどんなクソゲーですか」


クスクスと笑い出す藍原から目を逸らし、本題を切り出す。


「そちらはどうですか?何か手掛かりは」


刹那の内に笑いを納めると、内ポケットから1枚の紙を取り出す。

それを受けとると中身を確認し、即座に握り潰した。


「どうする?一応、外務省に口利きして海外逃亡は止められるけど」

「……総帥に睨まれたくないから止めといて下さい」

「了解。あ、ついでにこれもあげる」


渡されたのは1枚の写真だった。男が1人写っている。


「こいつが……」

「そう。悪の大王様だね。藁人形と五寸釘とローソクはここに……」

「怖いわ!!」


写真の男の名前は須郷伸之。紙に書かれていたのはパイプがあると思われるアメリカの企業、グロージェン・マイクロ・エレクトロニクス―――






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アルヴヘイム《虹の谷》入口



「おお……」

「わぁ……」

「こいつが……」

「な、何よ!?私の『レックス』に何か文句でもあるわけ!?」


目の前にいるのは巨大な西洋竜だ。種族名《Sky rex》ラテン語で《空の王》を表す。


「……で、そのまま『レックス』ってどうのよ。女の子として」

「ぐ……うるさい!乗せないわよ!」

「「はぁ………」」


どうもこの2人は何かというとケンカする。個性が強すぎんだな。お互いに……。


「ほら早くしろ、ヴィレッタ。日が暮れる」

「うぅ………」


まあ、パーティーリーダーの俺の言うことを聞いてくれはするからいいや。

ヴィレッタの『使い魔』レックスは元々、《竜の谷》に生息する上位モンスターで、テイムすると自分より戦闘力の低いモンスターにタゲられなくなる。

それがパーティーならば、総合戦闘能力で考えられるので、この超人パーティーにケンカを売ってくるモンスターはいない。

故に、《ムラサメ》のデバフも関係ない―――訳がなかった。


「あーもう、鬱陶しい!レックス、速度上げて。突っ切るわよ!」

「わあああぁぁぁ!?ちょ、ちょっと待ってまだ掴まって……わあ!!」


ビュン、と落下しそうになったセインの襟を辛うじて掴んだ俺は申し訳なくってしょうがない。


「ははは、いいねぇ。その刀。虐殺系クエストではもってこいの武器だね」

「だろ?苦労したんだぜぇ、手に入れるの」


答えたのは《ムラサメ》をくれたハンニャだ。何故いる……。


「ハンニャ、あんたは戦力に入れて良いのか」

「旦那ぁ、その質問は野暮ってもんだぜ?良いわけねぇだろ」

「何威張ってんのよ……」


さっきから寄ってくる小型モンスターを器用にかわしながら、手に持った濁酒(どぶろく)で叩き落とすのはこの世界では戦力に数えないらしい。


「あ、見えた。あれがアルンの東高原だよ」


セインの指差した先には草原の大地が広がっていた。


「最近のアップデートでアルン高原にも強力なモンスターが出るようになったって聞いたわ。空中だと撃ち落とされるかもしれない。どうする、レイ?」

「レックスの地上戦闘能力は?」

「西洋竜よ?むしろメインは地上でしょ」

「おっけ、地上を行こう」


《空の王》なのに?というツッコミはとりあえず、言わないでおく。
ズシン、と音をたてて着陸し、陣形を作る。

ほぼ近接特化型のセイン、アルセを前衛、魔法、火力支援の後衛にヴィレッタ、レックス。

俺は大太刀に武器を持ち変えると、ハンニャと共に中間に入る。実は支援魔法のスキルが高いハンニャはヴィレッタがカバーしきれなかった時の緊急要員だ。


「ほう……」

「ああ、これか?」


ハンニャが『狒々ノ太刀』と『白蓮妖ノ刀』に興味を示す。

自分でも数ヵ月ぶりのその相棒達を見る。

しなやかな反りを描く紅蓮の刀身、刃の部分だけは銀色に輝いている。

逆にやや直線的な刀身を持つ白い太刀はまるで自ら発光しているかのように眩しい。

俺は無意識に、『両刀』の発動体勢に刀を持っていく。


「……『八葉蓮華』」


当然、何も起こらない。不思議そうにするパーティーメンバーに適当に応じながら、草原を歩き始めた。








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巨大な岩男が拳を振り上げてアルセを叩き潰そうと迫る。


「遅いよ!」


自己強化MAX+ヴィレッタの支援魔法によりステータスが普段の何倍にも上がっているアルセにとってその動きは止まっているに等しい。


「たあぁぁぁぁ!!」


岩男が空ぶった拳に逆に拳を叩き込む。


「グオォォォォ!?」


激しい打撃エフェクトが迸り、岩男の拳が半分砕け散り、弱点の皮膚部分が露出する。


「いくよ!!」


すかさずセインが飛び込み、二刀の連撃を見舞う。驚いたことに、セインの剣捌きには無駄がない。これを我流で修めたというのだから凄いことだ。

肉が弾け飛び、岩男のHPバーが赤くなる。


「レックス、《ファイアブレス》!」


ファイアブレスは炎弾型のブレスだ。スピードと打撃力が高い。

ブレスは岩男の顔面に当たり、顔の皮膚が露出する。

岩男はそこを隠そうとするが、関係ない。


「はぁ!!」


大太刀の強力な振り下ろしがクリーンヒットし、岩男は消滅した。


「だっはー、まさか邪神型が出てくるなんて……」

「普通、さっきの岩男だって大パーティーで狩るもんだからな。お前さん達が規格外過ぎるのさ」

「……世界樹攻略するんでしょ。邪神一匹程度倒せなきゃ」

「だな……」

「でも、パーティーって楽で良いね。回復道具使わなくても回復出来るしね」


確かに、SAOでも仲間を回復する手段は幾つかあったが、どれもアイテム由来のものなので、専門の治療師(ヒーラー)は居なかった。それに比べてこのパーティーにはALO最強クラスの万能メイジがいる。邪神が相手でもさして苦労はしなかった。


「……それにしても、よく広域回復なんて覚えてるね?ずっとソロだったんでしょ、あなた」

「べ、別にいつかパーティーに入った時のためじゃないし!レックス用だし!」


そういう事らしい。


「まぁ、何はともあれやっとこさ半分だ。中央周辺にはヨツンヘイムの級のボスが出るって聞いたぜ」

「ヨツンヘイム?何だ、霜の巨人族でも出るのか?」

「ん、いける口かい?旦那」

「いや、朧気だから何とも……確かオーディンがイミルってやつを倒して流れ出た血が霜の巨人族を飲み込んで滅ぼしたが、ベルゲルミルとその妻だけは生き残って端っこに住みかを与えられた、だっけ?」

「それが朧気なの……?」

「いんや、大体合ってる。そもそもALOは神話の世界をモチーフにしたものだ。世界樹(イグドラシル)があればヨツンヘイムもあるさ」

「なるほど……」

「「「いや、全然解んないから」」」


世界樹(イグドラシル)の根っこの1つはヨツンヘイムに垂れていると言われている。


「ま、幸いここはその話しで言う妖精郷(アルヴヘイム)そうそう強力な敵は………」


ズドオォォォォォォォォン!!


地面を突き破って出てきたのは焔を纏った巨人―――《The Surtr》


「……強力な敵は、何?」

「で、出ないといいなぁ……」

「アホやってる場合か確か、コイツは……」



火焔界ムスペルヘイムの支配者―――《スルト》








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Sideセラ



アルンへ続くルグルー回廊の道すがら出会った敵を力押しで倒し続けるキリトにリーファと共に唖然とする。先程、シルフ領で買い揃えた武器や防具、特に彼の身長に迫ろうかという巨大な両手剣を片手で振り回すのは圧巻だ。

それでいてあの超人的なスピードは健在なのでもはや防御は意味を成さない。

現在、相手取っている《イビルグランサー》もただの雑魚ではないのだが、全て一撃で葬られる。
逃げ出した一匹をリーファが魔法で仕留め、戦闘は終了した。


「おつかれー」

「援護サンキュー」


ちなみに私は何もしてない。役回りが無かったのだ。

その後、モンスターに出会うことなく、《ルグルー回廊》がある山岳地帯に入った。


「ここがアルンへ向かう一番の難所です。洞窟は長いですが、途中の鉱山都市で休憩が出来ます」

「あたしはここからは初めてね。セラは?」

「洞窟ルートは使ったことがない。ところでリーファ、ここらで一度ローテアウトした方がいいわ」

「ろ、ろーて……?」

「交代でログアウトし、しているアバターを他の人が守ることです」

「なるほど、2人からどうぞ」

「では、私から」


ウインドウを操作してログアウトする。

大した用事はないのだが、トイレぐらいは行っておこう。

用事をすませると、ついでに螢兄の部屋に入る。螢兄のナーヴギアはモニターに接続されていて、2人で決めたコードを打ち込むと、見ているものを映し出すことが出来る。

カタカタと打ち込むと、ロックが外れ、画面に映像が出る。

戦闘中のようだ。


「これは……?」


巨大なモンスターと螢兄達が激しい戦闘を繰り広げていた。場所はアルン高原のようだが、どうにも腑に落ちない。アルン高原にはこんなモンスターは出なかったはず……。


「……まさか!!」


傍らのPCに飛び付き、同時にある所へ電話を掛ける。


『お嬢様?どうかしましたか?』

「仙道さん、至急レクトプログレスが運営する《アルヴヘイム・オンライン》のプレイヤー以外の通信ログを調べてください」

『承知しました』


何故とは訊かない。主人を疑うことをせず、迅速に命令を実行するのが仙道の優秀な面だ。
2分ほどで、答えは返ってきた。


『恐らくこれでしょう。管理者が強力なモンスターを別の場所に強制的に配置替えしています。10分前のことです』

「ありがとうございます」

『いえ。お気をつけて』


そして主人が知りたいであろう情報を正確に見抜く技量。世界広しといえど、彼ほど優秀な人間は中々いない。









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「ただいま」

「あ、お帰り。じゃ、次あたしね」


そう言うと、リーファはログアウトしていった。


「今、話していいか?」

「手短にお願いします」


一番先にログアウトしたのは実はこのためだったりする。


「何で君はレイに協力するんだ?」

「家族だからです。何より、お兄様がそう私に頼みましたから」

「聞きにくいこと聞くけど……血が繋がっていなくても、家族だってそこまで言えるのは、何故なんだ?」

「……詳しくは言えませんが、私は身体的な理由で世間から疎まれていました。お兄様を始め、水城家の人達は私を認めてくれた……それだけです」

「そう、か」

「失礼ながら、貴方の事情も多少把握しています。私が思うに『家族』とは形であり、血縁関係ではありません。私達はまだ子供です。難しく考えることはせずに、今は目の前の問題を解決しましょう」

「……すまない。セラの言う通りだ」


何となくうつむいていた目に光が戻る。と、ここで1つ警告しておく。


「キリトさん、実は……」


話したのはさっき調べてもらった内容。恐らく、レイがこの世界に来たのがばれてしまったこと。


「な、何で!?」

「原因は不明です。できるだけ早く原因究明はしますが、キリトさんも気を付けて」

「分かった……」


リーファが戻ってきてからキリトがログアウトし、準備を整えると、一行は《ルグルー回廊》に入っていった。

出発の直前、


「ん?」


キリトがふと森の方を向いた。


「……?どうかしたの?」

「いや……誰かに見られてた気が……。ユイ、近くにプレイヤーはいるか?」

「いいえ、反応はありません」

「……追跡魔法、って線は?」

「それならあり得るか……」

「ともかく、早いこと行きましょう。こんなところで足止めは食らいたくないわ」

「そうね」







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回廊に入ってしばらくすると、リーファがはっとし、立ち止まった。


「あ、メッセージ入った。ごめん、ちょっと待って」

「ああ」


立ち止まってリーファがウインドウを操作しているのを傍目に後ろを向く。


「なんだこりゃ」


リーファのフレンドは2人、私とレコン。つまりメッセージはレコンだ。

そして内容も大体分かる。


「……やるじゃない。レコン」


領地をたつ前、彼に依頼したある事。

剣を抜いて構えるのとユイがプレイヤーの接近を知らせるのはほぼ同時だった。






 
 

 
後書き
北欧神話で人間たちが住むミズガルズ(ミッドガルド)はALOではアインクラッドのようですね。 
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