ソードアート・オンライン~黒の剣士と紅き死神~
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フェアリー・ダンス編
世界樹攻略編
黒衣の来訪者
sideセラ
後ろから放たれる火属性の魔法を撃ち落としながら、空中で高速機動を続ける。追手はサラマンダー3人だ。
(……しつこい)
追いかけっこにも飽きてきたところなので、くるりと反転し腰の剣に手をそえる。
諦めたと思ったらしいサラマンダーはそのままこちらに突進してきた。どうやら斬り殺すつもりのようだ。
(……馬鹿ね。安全確実な魔法を使えば良いものを)
サラマンダー達が勝利を確信した次の瞬間、追っていたシルフの少女は消えていた。
ボッ、と音をたてて後ろでリメインライトになったサラマンダー達を気にも止めず、下を見つめる。その視線の先には仲間のシルフが2人、同じく3人のサラマンダーに追っ掛けられていた。
ポーチから風魔法の触媒の入ったフラスコを宙に投げ、呪文を唱える。
25ワードからなる風系統の最上位魔法を発動、眼科のサラマンダーは激しい風に飲まれ、一瞬にして消え去った。
「リーファ、レコン。大丈夫?」
「はぁー、助かった~。ありがとう、セラちゃん」
「……どういたしまして」
どうでもいいのだが、何となく『セラちゃん』って言いにくくないのだろうか。
「セラ、後の3人は?」
「斬ったわよ」
「そ、そう」
微妙な表情をするのはリーファ。彼女は現実では友人で、この世界ではパートナーだ。
「……レコン、他に敵は?」
「だいじょ……ぶじゃない!!右っ!!」
ホバリングを瞬時に止めて重力に身を任せて回避する。
さっきまで滞空していたところに重装備のサラマンダーがまた5人突撃してきた。
体勢を立て直したリーファが1人を引き付けてカウンター攻撃で倒す。
残り4人の内、1人がメイジのようだった。
「……やっかいね」
恐らく相当の手練れ。大魔法はさっき使ってしまったので、しばらく使えない。
リーファとレコンが大立ち回りしているので、こちらの動きには気づいていない。
3人の重戦士が突進を繰り返し、メイジが出来た隙を狙うという戦術はシンプルかつ弱点のないものだ。
レコンは頑張ってはいたが、ついにメイジの放った炎球に飲み込まれた。
「ごめぇぇぇぇん」
……さて、そろそろ私の存在を思い出させてあげる。
後方で控えているメイジに後ろから忍寄り、袈裟斬りの一閃で葬る。そのまま真っ直ぐ突き進んで3人を相手取っているリーファと合流する。
「リーファ、羽がもうもたない。一旦退避」
「でも、向こうはまだもつのよ?空から三方を囲まれたら……」
「空中で落とされるよりはまだいい」
うむを言わさぬ主張に渋々了承したリーファはセラと共に地上へ降下していった。
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樹海に逃げ込むと、丁度滞空制限が来たので、大きな木の下に伏せる。
「リーファ……」
「だめ、セラも一緒に隠れるの」
囮になろうという申し出を先回りされて却下され、苦笑いする。
《緑の双翼》として近辺のプレイヤー達に名が知れ渡ってからいくらか経つ。その間にリーファ/直葉は自分の考えていることを見透かされるようにまでなっていた。
隠蔽魔法が発動し、2人の姿が隠される。
やがて、サラマンダー特有の鈍い飛翔音が複数近づいてきた。
「このへんにいるはずだ!探せ!!」
「いや、シルフは隠れるのが上手いからな。魔法を使おう」
それを聞いた瞬間にセラは敢えて自ら隠蔽魔法を解いた。
「ちょ……セラ!!」
「あの数でバレないのは無理」
そもそも魔法スキルは大方戦闘系に振っているので、先程のような隠蔽はあまり得意ではない。
相手はこちらに気がついたが、セラは既に飛び出していた。
とっさの反応が出来ないプレイヤーを斬りつける。
だが、向こうもサラマンダーの精鋭だ。決まったのは一撃のみで後はかわされてしまった。
「ちっ……出てくるなら早く出てこいや!」
「あら、斬り殺されたいの?大したマゾっぷりね」
「この……!!」
怒り任せに突き出したランスを跳躍でかわすと上空の大上段から兜ごと頭を斬りつけた。
「があ!?」
着地と同時に他の2人の攻撃をひらりひらりとかわす。
「この……!!」
内1人が痺れを切らして空中に飛び上がった。
「……っ!!馬鹿やろう!!《セラ》相手に空中戦は…「遅いわよ」…」
土魔法の中級スペルである加重攻撃が飛び上がったサラマンダーを再び突き落とす。
MPの消費は激しいが対空戦用に覚えておいた取って置きだ。散々使っているのでばればれなのだが。
今対峙している1人を倒せば撤退は難しくない。だが、
どん、と突然背中が大きな樹にぶつかった。
(しまっ―――!?)
「残念だったな、お嬢さん」
リーダー格の男がランスを突き出す。
が、それは横から飛び出したリーファによって弾かれた。
「もう!!勝手に飛び出さないでよ。1人で敵うわけないでしょ!!」
「……ごめん」
何で逃げないのよ!?とは思っても言わない。助けに来てくれたのは嬉しいことだった。
「お二方、もう諦めたほうがいい。土魔法はもう使えないだろう?こっちはまだ飛べるぞ」
私とリーファは答え代わりに剣を構える。
「気の強い子達だな。仕方ない」
後の2人も寄ってきてリーダー格の男と共に浮き上がる。
その時、後ろの灌木ががさがさ揺れると、黒い人影が飛び出てきた。空中でぐるぐる錐揉みし、派手な音をたてて墜落した。
……始めたばかりの初心者がよくやる『墜落事故』のすごい版だ。タイミング的にお兄様が言っていた、あの人だと思われるが、何とも不安にさせられる登場だ。
「うう、いてて……。着陸がミソだなこれは……」
初期装備から見て間違いなく《キリト》だと確信を持つが、タイミングが悪かった。
「何してるの!早く逃げて!」
リーファがそう警告するが、黒衣の少年は動じる様子はない。
「重戦士3人で女の子2人を襲うのはちょっとカッコよくないなあ」
「なんだとテメエ!!」
いや、まさかカッコいいと思ってるわけ?
(……仕方ないわね)
自らに禁じた《本気》を解放しようとした時、信じられないことが起こった。
必殺の威力をはらんだランスの先端を掴み、ランスごと背後の空間に放り投げた。
(……これが、お兄様の認めた)
黒衣の少年は背中の剣に手をかけ、こちらに向かって訊ねる。
「ええと……あの人たち、斬ってもいいのかな?」
「……そりゃいいんじゃないかしら……。少なくとも先方はそのつもりだと思うけど……」
リーファが呆然として答える。無理もない。事情を知らなかったら私も呆然としていたに違いない……。
「じゃ、失礼して……」
剣を抜くとだらりと下に垂らす。
(………っ!無形の構え)
重心を倒していき、次の瞬間―――ズバァン!!という衝撃音共に少年の姿が掻き消える。
剣において、水城家最速の使い手、蓮の太刀筋すらまだ見ることができる。仮想世界だからといって、それより遥かに速いなどということはあるのだろうか……。
「どうする?あんたも戦う?」
あまりにも緊張感のない少年の言葉に、我に返ったサラマンダーが苦笑する気配がした。
「いや、遠慮しとくよ。アイテムを置いておけというなら従う。もうちょっとで魔法スキルが900なんだ、デスペナルティがおしい」
「正直な人だな」
少年も短く笑う。
サラマンダーが去っていくと、自分の長刀を腰に戻し、少年に向き直る。
「……で、あたし達はどうすればいいのかしら。お礼を言えばいいの?逃げればいいの?それとも戦う?」
……ガクッ!
「リーファ、何故あなたはそんなに好戦的なの……」
「う……ごめん」
少年は背中の鞘に剣を納めると、にやりと笑って言う。
「うーん、俺的には正義の騎士が悪漢からお姫様を助けた、って場面なんだけどな。……感激したお姫様が涙ながらに抱きついてくる的な……」
「ば、バッカじゃないの!!」
……照れてる。
「なら戦った方がマシだわ!!」
「あなたにはお礼を言って普通に接するという選択肢がないのかしら……」
「ぐぬ………」
「ははは、冗談冗談」
ギリギリと歯軋りして、にやにやする少年を睨むリーファ。せっかくの綺麗な顔が台無しだ。その時、不意に声がした。
「そ、そうですよ、そんなのダメです!!」
音源は少年の胸ポケット。そこから小さな小妖精が出てきた。
「パパにくっついていいのはママと私だけです!」
「ぱ、ぱぱぁ!?」
リーファがすっとんきょうな声をあげる。やれやれ、女の子はもっとおしとやかにしなさい。
私が言えたことではないけど。
とまあ、螢兄から聞いた情報から類推するにあれがお母様が造った『メンタルヘルスケアプログラム』の《ユイ》なのだろう。
「ともかく、助けていただいてありがとうございました。私はセラといいます。こちらはリーファ。パートナーです」
「あ、ありがとう……」
「……俺はキリトだ。この子はユイ」
ピクシーがペコリと頭を下げる。その後、お礼と言うことで初心者な少年に色々レクチャーすることになった。
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移動ついでに随意飛行を習得した(確か、螢兄は『やだあれめんどい(泣)』とか言ってた)キリトは着地の際にスイルべーンの風の塔に激突するという事態になってたが、生きてたのでまあいい。
「リーファちゃ~ん、セラちゃ~ん」
この世界でその呼び方をする人物は1人しか知らない。
「あ、レコン。ただいま」
「すごいよ2人とも、アレだけの人数から逃げきるなんて流石《緑の……って……」
今更、傍らに立つキリトに気がつく。
「な、スブリガンじゃないか!?なんで……!?」
「この人が助けてくれたの。あやしい人じゃないわ。私が保証する」
リーファは唖然とするレコンを指差し、キリトに言う。
「こいつはレコン。キミに出会うちょっと前にサラマンダーにやられちゃったんだ」
「そりゃすまなかったな。よろしく、俺はキリトだ」
「あっ、どもども」
挨拶が済んだとこで、未練がましくリーファを見るレコンを実力行使込みで追い返し、2人が贔屓にしているレストラン、《すずらん亭》に入った。
そして、キリトの話、世界樹に行きたいという話を聞く。
『あいつは大事な人を助けに行くんだ』
螢兄は自分に彼を助けるように頼むとき、そう言った。
『あいつと、その人は俺をたくさん助けてくれた。俺はあいつの力になりたい。だから沙良、お前も手伝ってくれないか?』
断る理由はない。兄が自分に助けを求めた。それは彼女にとって至上の喜び。以前の兄からは考えられないことだった。
「―――じゃあ、あたし達が連れていってあげる」
故に、勝手に頭数に入れられても文句は言わない。呆れはするが。
「え……いや、でも会ったばかりの人達にそこまで世話になるわけには……」
「いいの、もう決めたの!!」
「異存はありません」
まったく……これでキリトが自分の兄だと知ったらどうなるだろうか。
「あの、明日も入れる?」
「あ、う、うん」
「じゃあ午後3時にここでね。あたし、もう落ちなきゃいけないから、あの、ログアウトには……「リーファ」…ん?」
「私が説明する。早くなさい」
「え……あ、よ、よろしく」
リーファがログアウトしていくと、ため息をついて髪を振り払う。キリトは不思議そうな表情でこちらを見ている。
「やっと本題に入れるわ。『桐ケ谷和人』君」
「なあっ!?」
ガタッ、と立ち、剣に手をかける。
「……落ち着いて。私は貴方の味方です。お兄様……水城螢、レイに貴方の助太刀を頼まれました」
「……レイの……妹?」
「義理ですが、お兄様は私の家族です」
「……証拠は」
「お兄様は貴方に『結城明日奈』さんの所在の手掛かりを渡し、先にアルンに向かっております。貴方と同行できないのは諸々の事情と、そして世界樹攻略のために有志の手練れを集めているためです」
「そう……か。ユイ?」
「大丈夫です。ねぇは嘘ついてませんよ」
はて、ねぇとは誰ぞや?
「ねぇ……ああ、レイの義妹だもんな」
「ああ……そういうことですか。初めまして、ユイ」
「初めまして。ねぇ」
ペコリと互いに深々と頭を下げるのは中々にシュールだ。
「あ、でだ。セラも協力してくれることでいいんだな?」
「はい、微力ながらお手伝いいたします。……さて、キリトさん。ログアウトには上の宿を使ってください」
「ああ、ありがとう。レイによろしくな」
「伝えます。では」
こうして、物語は動き出す
後書き
無事に合流。レイの描写とは交互にこっちも入れていきます。
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