FAIRY TAIL~水の滅竜魔導士~
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10秒
前書き
ギリギリ一週間スパンでの更新ということでいいですか?
ウェンディside
ガチャッ
しばらく進んでいくこと数分、どれだけの扉を開いたのかは覚えていないけど、今開いた扉の先はこれまでとは少し違っていました。
『ウェンディ選手!!ゴール到着ですカボ!!』
入った瞬間は今までの部屋でしたが、すぐにそこが光輝いたかと思うと先ほどまでの密室から突然開けた空間へと転送されます。そこが闘技場だと理解するのはすぐでした。
『ウェンディ選手は二位!!8ポイント獲得です!!』
そのコールと共に拍手に包み込まれます。どうやら一夜さんの方が先にゴールしていたようで、私は惜しくも二位になってしまったみたいです。
「ウェンディ!!」
残念な気持ちになっていたところ、後ろから聞き慣れた声が聞こえてきます。そちらを振り返るとそこには駆けてくる水髪の少年と、その後ろからは皆さんが小走りに来ていました。
「お疲れ様!!」
「きゃっ!!」
走ってきた少年は押し倒そうとしているのではないかというほどの勢いでそのまま抱き付いてきました。これにはさすがに踏ん張れずに倒れてしまいます。
「あ!!ごめんウェンディ!!」
「ううん。大丈夫」
彼も勢いが突きすぎたことに反省しているみたいだったので私は笑顔で返すと、彼はすぐさま起き上がり私に手を差しのべます。それを掴み私も身体をゆっくりと起こしました。
「ごめんね、負けちゃって」
本当は一位を取ってシリルに褒めてもらいたかったけど、結果は惜しくも敗戦となってしまいました。そのことに申し訳なさを感じていたけど、シリルは一瞬キョトンとした表情を見せたかと思うとすぐに笑顔になります。
「何言ってるの!?二位だよ!!さすがだよウェンディ!!」
慰めではなく本気で言っているであろう彼の姿に残念がっていた自分が間違っていたことに気付かされます。安堵していたところ、遅れてきたジュビアさんたちがさらなる朗報を持ってきてくれました。
「グラシアンさんも無事だそうですよ」
「ウェンディのおかげでね」
「ホントですか!?」
かなり危険な状態ではあったとのことですが、グラシアンさんも無事とのことで笑顔が溢れます。そんなやり取りをしていたところ、私たちのすぐ近くに魔法陣が現れたかと思うと、そこから現れた人物にギョッとしてしまいました。
『グレイティス選手ゴールです!!6ポイント獲得!!』
そこにいたのは狩猟豹の頭のグレイティスさん。ただ、その姿はボロボロで立っているのもやっとの状態。そして・・・
フラッ
彼はゴールしたのを確認したかと思うと、そのまま地面へと落ちていきます。
「「「「「あっ」」」」」
顔から地面へと落ちていく大柄の男性。当たりどころによっては大変なことになりかねないと思ったところ、それを二人の仮面の人物が支えます。
「気を失ってるな」
「全く・・・」
それは彼の仲間である二人の男性。彼らはグレイティスさんが気を失っているのを確認すると、背の高い方の男性が彼を肩へと担ぎます。
「治療しますよ!!」
思わずそう声をかけていた。その声に気が付いた手ぶらになっていた男性は振り返ったかと思うと、手を出して私を静止する。
「大丈夫だ、気にしないでくれ」
「「??」」
彼らなりの気遣いなのだろうかとも思ったけど、私とシリルは違和感を覚え顔を見合わせました。そのまま立ち去る二人の後ろ姿を見ていた時、ふとある光景がフラッシュバックしてきます。
「あれ?」
なぜその光景が蘇ったのかはわかりません。ただ、なぜか見覚えのあるその景色に困惑していた私でしたが、隣から肩を揺さぶられ意識を取り戻します。
「戻ろ。ウェンディの治療もしなきゃだもんね」
「うん。ありがと」
気になる点は多々ありましたが、それは気にしても仕方ないものと思い私たちはその場を後にし、グランディーネことポーリュシカさんの元へと向かうのでした。
シリルside
それからしばらくウェンディの治療をしていると、ようやく全員がゴールに辿り着けたようでアナウンスが鳴ったことを受けて待機場所へと戻る。幸い彼女は全てのバトルに完勝していたこともあり、多少の掠り傷があるだけだったのですぐに治療も完了でき、一緒に待機場所へと戻ってきていた。
そして現在の順位は以下の通りになっている。
1位 人魚の踵 22P
2位 青い天馬 21P
3位 狩猟豹の頭 20P
4位 剣咬の虎 18P
5位 妖精の尻尾B 11P
6位 四つ首の番犬 9P
7位 妖精の尻尾A 4P
8位 蛇姫の鱗 3P
先程の順位を受けて一日目の最終結果から順位の変動がいくつか起きている。
先程の競技では振るわなかったものの、昨日のリードを生かした人魚の踵が1位を死守。2位には先程リベンジを果たしつつ1位取った青い天馬が上がり、途中リタイアにより最下位扱いになってしまった剣咬の虎は二つ順位を落としている。
反対にうちとグレイさんたちは一つずつ順位を上げることが出来ている。ただ、こうしてみると少しずつ差が大きくなっていることもわかるため、そろそろ巻き返していかないと厳しいかもね。
「ウェンディのおかげで順位も上がってきたね」
「えへへ」
俺の言葉に嬉しそうにしているウェンディ。その可愛らしい笑顔にずっと癒されていたいけど、そうも言っていられない。
『それではこれよりバトルパートへと入りますカボ!!』
マトー君の声が響くと同時に魔水晶ビジョンにバトルパートの文字が映し出される。今年は変則的なバトルが入ってくるとのことだったからここでのルール説明は非常に重要になってくるので全員が次に放たれる声へと耳を傾ける。
『本日のバトルパートはシングルバトルとなっております!!試合時間は・・・』
チャパティさんの元気な声が響いてきたかと思ったら、突然その声が途切れる。マイクトラブルかと思っていたところ、何やら小さな声で話し合っているのが聞こえてくるためどうやらそういうわけではなさそうだ。
『あの・・・カミューニさん?』
『なんだよ、早く説明しろ』
『これ・・・合ってますか?』
何やら台本に不備があったのか確認している声が聞こえてくる。ただ、それを確認したと思われるカミューニさんは平然とした声で答えていた。
『あぁ、合ってるよ』
『いや・・・さすがにこれは・・・』
『いいから早くしろ、待ってるぞ』
この戦いは全世界に放送されている。そのためあまり時間を使って視聴者を待たせるわけにはいかないということなのだろうけど、果たして何が問題なんだろう。まさかコスプレしてバトルとか言い出さないよな?
『し・・・試合時間は・・・10秒・・・です』
「「「「「・・・は?」」」」」
ようやく解説を再開したチャパティさんの声。ただ、それを聞いた瞬間会場にいた全員が困惑の声を上げるのだった。
第三者side
チャパティからの解説によりざわつく会場。そんな中、例に漏れず顔を見合わせているギルドがあった。ただ、その内容は他のギルドとは違うようで・・・
「おい、このバトルは明日だったはず・・・」
「予定変更したのか?」
青年とショートヘアの女性が顔を見合わせている中、何も知らないと言わんばかりに首を横へと振るロングヘアの女性。ただ、彼女たちの横にいた長身の人物はわずかに見える口元が緩んでおり、それに全員が気が付くまで時間は要さなかった。
「お前か、犯人は」
「なんでこんな・・・」
事態を把握して切れていない面々は男を睨み付けていたが、彼はそれを全く気にする素振りも見せず平然としている。
「あいつと戦いたくなったからな」
「あいつ?」
そう言った彼の視線の先にいるのは水色の髪をした少女のような見た目の人物。ただ、これにはショートヘアの女性が目の色を変えた。
「あいつは私の担当のはずだ!!何を勝手な・・・」
そこまで言いかけたが、彼女は口を急に閉じた。わかっていたからだ、自分ではその男に歯が立たないということが。
「お前はあのガキで我慢してろ」
「・・・ったく、わかったわよ」
何も言い返すことができずに顔を俯け不貞腐れている女性。ただ、その隣にいたロングヘアの女性は冷静だった。
「それは良いけど、あの子の相手はどうするの?」
彼女がアゴをくいっとして視線を向けさせたのは金髪の青年の方角。それを受けた男は何食わぬ顔で返して見せた。
「あいつが協力してくれるということになった。だから明日も予定変更になる」
「なるほど、二人がかりで行くわけね」
そう言って彼女は青年の方へと視線を向ける。それを受け青年は深いため息をついた。
「どうした?荷が重いか?」
「いや・・・」
明らかに気乗りしないといった表情を見せる青年に男は問いかけたが、彼はしばしの沈黙の後、顔を上げる。
「ここまで来たらやるしかない。あの二人も耐えてくれたしな」
「ふっ、ならいい」
これまでとは違う反応を見せた彼に笑みを浮かべる男。彼らは話し合いが終わるとそのまま困惑に包まれている会場へと視線を戻した。
シリルside
「10秒って・・・」
「短すぎない?」
至るところから上がってくる困惑の声。ただ、実況席もそれは同様のようで、チャパティさんの声にいつもの張りがない。
『ルールは通常のバトルパートと同じく相手を戦闘不能にすれば勝利となります』
基本的なルールは変わらないのはわかってる。ただこれだと・・・
「引き分けになるのが目に見えてるよね?」
「そうね。普通に戦ったら10秒なんて・・・」
「よっぽどの力の差がないと無理よ」
カナさんたちの言う通り、引き分けで両チーム5ポイントになることが容易に想像できる。となるとここはそこまで重要な場面ではないのかと思っていたけど、そうは問屋が卸さない。
『そして本日の特別ルールとして、引き分けはありません!!相手を戦闘不能に双方ともにできなかった場合は敗戦扱いとし0ポイントとなります!!』
このルールが現れたことにより一気に状況が変わってしまう。引き分けが必然の制限時間で勝利を掴むための戦略を見つけなければならなくなってしまったのだ。それが出来なければもし仮にどこかのギルドが勝利をした場合、一気に独走を許す可能性すらある。
「つまりできるだけ強い人出すべき?」
「でもそれは相手も同じことを考えるよね?」
「一撃必殺がある方が有利ということでしょうか?」
無難な戦い方はあるが現状の俺たちにはそれをすることができない。反対に上位のチーム同士が当たった場合は引き分け狙いでポイントを逃してもそこまでのダメージはないかもしれないし、だからこそ勝ちにこだわって一気にリードを広げたいとも考えられる。
(何か作戦を考えないといけないというわけか)
ただ戦うだけでは勝機は薄い。となると重要になるのはこの10秒でいかにして戦うかということ。
「あとは対戦カード次第か・・・」
一応攻め方はあることはあるけど、それをするべき場面がこのバトルパートなのかはわからない。そのため今日の対戦カードを確認しようとまずはそちらに思考を切り替える。
『本日は一試合ごとに対戦カードを発表いたします!!まず第一試合はこちらのチームです!!』
魔水晶ビジョンに映し出される二つのギルドの名前。それを見た瞬間、俺は驚愕した後すぐに笑みを溢した。
「勝った」
レオンside
バトルパート一試合目の対戦カードが発表されると観客たちのざわめきがさらに大きくなる。その理由は誰の目からも明白だった。
「また狩猟豹の頭と妖精の尻尾?」
「ガールズチームの方だけどね」
「一人男混ざってるけど」
その理由は一日目も対戦したこの二つのギルドが再びぶつかり合うことになったからだ。もちろん妖精の尻尾が二チーム出ている以上ありえない話ではないのだが、やはり勘繰ってしまう。
「まさか運営も絡んでいるのか?」
「そんなこと・・・」
「ない・・・とは言い切れないのがなぁ・・・」
エクリプスのこともあるし仕込みがないとは言い切れないのがこの大会の悪いところ。もっとも、それを知っているのは少数なのだからそこまで大きな問題では決してないのだが。
「もし運営があいつらを先導しているとなれば、全ての辻褄が合うな」
大会へと運営側からの参加の直接的な依頼。しかも本選出場の権利を最初から与えられた状態からわずか一ギルドのみの本選参加。そしてその本選参加チームの快進撃・・・怪しい要素しか揃っていないと言われてもおかしくないここまでの状況に俺たちは押し黙ってしまう。
「まぁ今はいいか。問題は誰が出てくるかだが・・・」
ルールがルールなだけに慎重な人選が必要になる。そう思っていたところで実況席からさらなる追加ルールがアナウンスされた。
『選ばれたチームは5分以内に参加者を選んでください。ただし、相手が先に参加者を決めた場合はその10秒後までの時間制限となります。時間制限を越えると自動的に参加者が選出されますのでご注意ください』
やれることが限られている中でさらに時間を狭めてくる運営。これではおずおずと戦略も組めないし戦い方も考えられない。そう思っていたのに、ここで早々に闘技場へと降りてくる小さな魔導士が現れ、思わず口を大きく開けてしまった。
『フェアリーガールズからはシリル・アデナウアー!!狩猟豹の頭は10秒以内に参加者をーーー』
まるで事前に参加者を決めていたのではないかというほど早々に降りてきたシリル。選手選考のタイマーもほとんど起動していない上に第一試合、全くと言っていいほど戦い方を思考する間もなく参加を決めた彼に驚きを隠せなかったのに、さらにそれに拍車をかける事態が起きる。
『し・・・失礼しました!!狩猟豹の頭からはスカイシー!!両チーム参加者は中央のラインまで進んでください』
こちらも間髪入れずに降りてきたのは昨日妖精の尻尾の最強候補二人を一人で圧倒した男。示し合わせたかのような二人の早い登場に会場は沸き上がるというよりもどよめき、さらなる混乱の渦へと落とされているように感じた。
ウェンディside
「ちょ・・・ちょっとシリル!!」
選手選出時間に入るや否やすぐに闘技場へと飛び降りたシリル。彼のことを呼び止めようとしますが、彼は聞こえているはずの私の声に振り向くこともせず中央へと向かって歩を進めていきます。
「もう遅いよ、ウェンディ」
「カナさん」
なんとか彼を呼び戻そうとしている私ですが、それをカナさんに止められます。それはそうですけど、無策で挑んでは相手にならないんじゃ・・・
「あっちはまたあいつだよ」
「ラクサスとギルダーツでも歯が立たなかったのに、どうやって・・・」
狩猟豹の頭から出てきたのは昨日のバトルパートでも出てきたスカイシーさん。残り一回しかない参加資格を躊躇いなく使ってくるところを見ると、10秒のバトルといえど勝算を持っていると考えざるを得ません。
「せめて何か対策を考えておければよかったんだけど・・・」
「そんな時間もありませんでしたし・・・」
「いえ・・・もしかしたらシリルはもう考えるのかもしれません」
「「「「え?」」」」
敗戦濃厚かと思われた戦い。しかし、ジュビアさんは何かに気が付いたのか、そんなことを言い出しました。
「シリルは昨日、狩猟豹の頭と戦う機会があれば自分が出るといってましたよね?」
「そういえば・・・」
「確かに言ってたわね」
急に笑いだして自信満々にそんなことを言っていたのが記憶にある。もしそれがこの戦いで有効なら、もしかしたら・・・
シリルside
闘技場の真ん中に引かれている二つの線。それがこの戦いの始まりの場所なのだと思うとワクワクする。
「近いな」
所定の位置について前を見上げると、すぐ目の前に敵の姿がある。確かにこの距離なら一瞬で勝敗がつく。恐らくは力の差がある戦いになった際、逃げられることを防止する意味合いも込められているのだろう。
(でも・・・この距離ならよりあの策が生きる)
対戦相手、間合い、そして試合開始までの時間の短さ・・・全てが俺に味方をしている気がする。それほどまでに条件が整っており、笑みが抑えきれない。
「ずいぶん余裕だな、シリル」
俺にしか聞こえないような小さな声で話しかけてくるスカイシー。いや、もうその名で呼ぶのはいいだろう。
「はい。この前あなたの戦っている姿を観察させてもらったので、対策が練りやすかったです」
「ほう」
挑発しているにも関わらず彼はそれに乗ってこない。むしろその言葉を待っていたかのようにすら思えた。
「なんであなたがこんなことしてるのかは知らないですけど、せっかくの機会ですからね。その仮面、剥ぎ取ってやりますよ、ヴァッサボーネ」
「その名で呼ぶな。だが、楽しみにしているよ」
周囲に聞こえないほどの小さな声で言葉を紡ぎ合った俺たちは笑みを浮かべ、戦いのための姿勢へと移った。
後書き
いかがだったでしょうか。
もう気付いていたと思いますがスカイシーはエドラスのヴァッサボーネこと天海さんです。天=スカイ、海=シーと安直な偽名になってます。
次は二人のバトルです。といってもものの数秒で決するバトルですが・・・
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