FAIRY TAIL~水の滅竜魔導士~
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全力を打ち砕く者
前書き
夏バテで全然サイトに入る気力が沸きませんでした。
暑いというかムシムシするというか・・・
シリルside
「よし!!ギルダーツが出れたわ!!」
「これで流れが変わりますね」
今日のバトルパートのルールに乗っ取り次にバトルに参加になったのは俺たちがずっと願っていたギルダーツさん。彼の登場によりドムス・フラウは割れんばかりの大歓声となっている。
「2対1なら有利になるよね?」
「うーん・・・どうかな?」
「「「「「え?」」」」」
今日のバトルパートは先に二人を揃えることができた方が有利になることは間違いない。その認識は変わることはないんだけど、俺は一つだけ気がかりなところがあった。
「あの人の本気を、俺は今まで見たことがない」
スカイシーと名乗る狩猟豹の頭の人物。それが誰なのかは恐らくほとんどの人がわかっていないだろうが、その正体を把握している俺はその一点だけがネックだった。
「本気を見たことないって・・・」
「さっきまでのは本気じゃなかったの?」
俺の言葉に目を見開くカナさんとミラさん。二人だけではない、ウェンディたちもそれが信じられなかったようで困惑の表情を浮かばせている。
「俺が見たことがあるだけでも、あれ以上の戦いをあの人はできる」
何をしても通じない、どの攻撃も防げない、どう足掻いても抗えないと思わせるほどの力を見せつけてきたあの戦い。今のラクサスさんとの攻防はその時の足元にも及んでおらず、手を抜いているのは明白だった。
「どこまで引き出してくる?この状況で」
レオンside
闘技場に放たれた赤髪の男。彼の放つ雰囲気も魔力も今まで感じたことがある中で上位に入ってくるだろう。
「空気がぴりついてるね」
「あぁ。どんな結末になるのか、予想もつかない」
このまま行けばあいつが勝つことは明白だっただろう戦いだが、これはタッグバトル。しかも仲間が時間差で出てくるとなれば戦況は大きく変わる。なぜならこれから10分間もの間、スカイシーは一人で二人を相手にしなければならないのだ。
「ナメてたツケがここで来ましたね!!」
「先にラクサスを仕留めておけば、全く戦況は違ったのにな」
「おおーん」
全員が同じ感想を抱いている。自身が有利な時に攻めきらず、トドメを刺すこともせずに時間を浪費した狩猟豹の頭。ギルダーツさんが先に出てきたことによる結果論でしかないが、これはボーンヘッドと言われても仕方がない。
「表向きだけを見れば・・・な」
本来ならここからの10分をいかにしてやり過ごすのかが重要な項目になってくるのだが、恐らくあいつはそんなことはしないだろう。それどころか、この10分で仕留めに来るかもしれない。
「もしあいつがあえて2対1を望んだんだとすれば・・・」
あいつは多人数相手も苦にしない。それどころか力不足と判断すれば自身が楽しめるようにと不利な状況に自ら赴くことすらやりそうだから怖い。
(競技パートの時といい、あいつらは一体何を企んでいるんだ?)
狩猟豹の頭の狙いが分からずそちらに視線を向けるが誰一人として焦っている姿は見られない。それがますます不気味に感じ、この戦いから目を離すことができなくなっていた。
第三者side
睨み合う両者。傷だらけになっている金髪の青年の前に立った赤髪の人物は一切の隙のない敵を見て目を細める。
「ギルダーツ、気を付けろ。こいつはーーー」
「あぁ、わかってる」
ラクサスが何を言おうとしているのか察しているような反応を見せるギルダーツ。だが、二人の意志疎通が取れていないことを理解したスカイシーは鼻で笑っていた。
「何がおかしい」
「いや、別に」
必要以上のことは話そうともしない彼に苛立ちを覚えている様子のギルダーツだったが、彼はそれよりも確実に得ることができたこの有利な時間を生かすべく行動すべきだと頭を切り替える。
「まだ動けるか?ラクサス」
「あぁ。やられっぱなしで終われるかよ」
汗を拭いながら敵を見据えるラクサスと彼を見て笑みを見せるギルダーツ。そして対峙している人物もまた、不敵な笑みを覗かせていた。
「役者が揃ったな」
「あん?」
ボソリと呟いたその言葉の意味がわからなかった。しかし、スカイシーはすぐさま行動に出ると、ギルダーツはそれに反応しようと手を前に出した。
「ごはっ!!」
しかし、その反応速度よりも早く彼の拳はギルダーツの腹部へと突き刺さる。
「クラッシュ!!」
まさかの攻撃速度に対応が遅れたもののすぐさま反撃に出ようとした。しかし、彼はあろうことかその放たれた攻撃をまるで虫を払うかのように手を振るうと、その方向にあった闘技場の壁が粉々に砕け散った。
「なるほど。そう言う魔法か」
一瞬でギルダーツの魔法の特性を見抜いたのか、スカイシーは余裕の表情を覗かせる。そして自らの攻撃を意図も容易く弾かれたこの男の心は揺らいでいた。
「何者だ?こいつ」
シリルside
『スカイシー速い!!放出早々のギルダーツにその拳を突き立てたぁ!!』
全く予想ができないここからのバトル。これには実況席も気合いが入っているようでチャパティさんの声がいつもよりも大きくなっている気がする。
「ギルダーツさんのクラッシュも対処できるのか・・・」
触れれば粉々に砕け散るはずのギルダーツさんのクラッシュを一切のダメージも受けずに弾いたスカイシー。まるでソフィアの返し魔法のようだが、それを素でやってのけるのが末恐ろしい。
「しっかりしろ!!ギルダーツ!!」
遠目から見ていても動揺しているのがわかるギルダーツさんに対して娘であるカナさんが大声を張り上げる。その声が届いたのかどうかはわからないけど、ギルダーツさんの表情は冷静さを取り戻しているように見えた。
「大丈夫そうね」
「でも、ギルダーツさんでも苦戦するなんて・・・」
「本当に何者なの?あの人」
一気に形成が傾くかと思われたにも関わらず拮抗している戦況・・・いや、まだ余力を残しているスカイシーの今後の行動次第では番狂わせが起きかねない。そんな風に思わせてしまうような状況になっている。
「どうすればいいのかな?シリル」
隣にいるウェンディからの素朴な問い。それに対し俺は即答することができなかった。
「シリル?」
「あの人を倒せる方法なんか、ないのかもしれないね」
「え?」
真剣な顔でそんなことを言う俺を見てウェンディはキョトンとしているが、本当にそんな感情を抱かせてしまうほどにあの人は強い。そしてそれを覆すための術が今の俺には思い付かない。
(それでも、あの人はいずれ倒さなければならないと思う。それができるのは俺かレオンくらいのものだろう)
あいつがあの人に気が付いているかは不明だが、戦う時がくれば互いに削り合いになることは間違いない。だけど、あの時のあの人の行動を考えると、それをするのは得策じゃない気がする。
(力で及ばないのなら・・・奇策を展開するしかないか)
カミューニside
『はぁ!!』
魔水晶ビジョンから流れてくるバトルパートの映像。そこで展開されているのはフィオーレ最強と称されている妖精の尻尾のS級魔導士を一人で圧倒している男の姿。
「相変わらずあいつの上限が見えねぇなぁ」
強いのはわかっているがその限りが見えることがない男の姿にタメ息が漏れ出る。
「うむ。ラクサス殿とギルダーツ殿相手に互角以上に渡り合うとは・・・」
「それもまだ、全開じゃねぇからな」
横で試合を観戦しているジュラも同様の感想を抱いているらしい。ギルダーツは俺たちと同格かそれ以上の魔力を持っているものの、それをあいつは簡単にひっくり返してくるから嫌になる。
「まぁ、今回はそれに助けられてるんだけどな」
今の計画はあいつの力があることで成り立っているとも言える。もし万が一あいつが負けるようなことがあれば計画の練り直しが必要になるが、それはほぼないだろう。
「しかし、いいのか?カミューニ殿」
「あん?」
「明日の対戦カードを見たら観客が・・・」
「いいんだよ」
心配そうな表情を覗かせるジュラだが、俺はそんなことを気にすることはない。むしろ逆、彼の心配ごとは足のもっとも重要なパーツになる。
「絶対的な力に屈した仲間のためにあいつは出てくる。そこが狙い目なんだからな」
仲間が戦っているとあって時折妖精の尻尾の応援席や待機席が流れるが、そこに映る水色の髪の少年。彼のその目はあいつとの戦いを熱望していることが画面越しでもよくわかる。
「悪いな、シリル。お前の決意は報われない。お前は重要なピースの一人なんだから」
シリルside
「レイジングボルト!!」
「破邪顕正・一天!!」
ラクサスさんとギルダーツさんの渾身の一撃。しかしそれをスカイシーは軌道をズラす程度に弾くとそのまま突進し、拳を振り抜いていたギルダーツさんの顔面目掛けて膝蹴りを放つ。
「がっ!!」
「ギルダーツ!!」
なんとか踏み留まってはいるものの既に二人はボロボロ。対するスカイシーはわずかに服は裂けたりしている箇所があるだけで全く外傷は見受けられない。
『し・・・信じられません!!あのラクサスが!!あのギルダーツが二人がかりでも全く歯が立たないなんて!!』
『彼の実力・・・今まで見たことがないほどに早く、そして鋭いね』
『そうね。しかも二人の攻撃を難なく弾いているのが彼の強さをより引き立てているわ』
実況席の言う通り、彼の強さは目を見張るものがある。そしてこうなってくると会場の歓声が二通りに分かれてくる。
「あいつすげぇ!!」
「ジュラを破ったラクサスをあんな簡単に・・・」
「頑張れ!!狩猟豹の頭!!」
一方は今大会初出場、全くの無名のギルドということもあり誰も応援していなかったものたちが期待以上の戦いをしていることにより、そのものたちの魅力に惹かれ声援を送るもの。
「負けるなラクサス!!」
「頑張れギルダーツ!!」
「ここから逆転してくれぇ!!」
もう一方は幾度となく死線を乗り越え、他国の襲撃を打ち払い、そして何よりもこの国を代表する魔導士ギルドの逆転劇を信じ懸命に声を張り上げるもの。まだバトルパートの一試合目・・・何ならまだ大会すら一日目だと言うのにこの盛り上がり方はまるで最終日のあの時を思い出させるほどだった。
「すごい・・・」
「この後に戦うのが嫌になるね」
「しかもこれが世界中で起きていると考えると・・・」
「震えちゃうわね」
歓声により揺れるドムス・フラウ。そしてこれを見ているであろう世界中の人たちもこれほどに盛り上がっているのだとすれば、この大会の目的である世界復興記念のお祭りとしても大成功と言えるだろう。でも、まだこれは一日目。
「まだまだもっと盛り上がりますからね、ここから」
これから運営側も色々な競技を考えているだろうし、何よりこの勝負がいかなる結果になろうとも会場が沸くのはわかっている。だからこそ、この戦いは勝ってほしい。それができれば一気に流れを取り戻せるはずだから。
レオンside
震える会場。もしかしたらあの時の戦いの時も、会場はここまでの熱気に包まれていたのではないかと思うと全身に鳥肌が立つ。
「す・・・すごいですね、これ」
「そ・・・そうだね」
サクラとシェリアもこの雰囲気に飲み込まれているのか、顔色が悪く見える。でもその気持ちはわかる。きっとあの時の俺もここまでの盛り上がりを先に見せられていたら、きっと緊張していただろう。
「よく見ておけ。俺たちのことをこれだけの人が期待して見てくれているのだということを」
二人の頭に手を置きながらそう言ったのは氷の造形魔導士。彼は俺にも目配せしてきたので、わかっていると頷いてみせた。
第三者side
「今までにないね、これは」
「まだ一日目だって言うのに」
「別にビビってなんかねぇからな」
「ちょっと興奮しちゃうわね」
青い天馬の待機場所。ここでも異様なまでの盛り上がりに各々が感想を漏らしていた。
「メェーン。確かに彼らの実力は評価するに値する。だが・・・」
タクトの不在によりリザーブ枠の使用が確定的なためすでに待機場所へといる一夜。彼のその目は普段からは想像できないほどに鋭いものへとなっていた。
「私は必ずタクトの仇を取ってみせる」
そう言った彼の声には決意と覚悟が深く刻まれていることをすぐ隣で聞いていた仲間たちも感じ取り、真剣な表情へとなっていた。
「はぁ・・・いいなぁ」
盛り上がるドムス・フラウ。だが、ある一ヶ所だけ暗く沈んでいるところがあった。まるでそこだけが何か違うものを見ているのではないかというほどに。
「いつまで落ち込んでるんだゾ?スティング」
「今度ナツくんに対戦してもらいましょう」
「きっとみんなも協力してくれるよ」
「フローもそうもう」
そのどす黒いオーラを放っているのは剣咬の虎のマスターであるスティング。彼はいまだに大会に出れない絶望に苛まれているようで、後ろにいるギルドの仲間たちも沸くに沸けない状況になっている。
「それじゃダメなんだ。みんなのためにギルドを背負って戦うことに意味があるんだ」
以前からは想像もできないような台詞に戸惑う剣咬の虎の面々。だが、事情を知らないソラノだけは冷静だった。
「お?まるでマスターみたいなこと言ってるゾ」
「マスターなんだよ!!俺は!!」
「わぁ!!いじけ男が怒ったゾ!!」
「あ!!待て!!」
ソラノの挑発に怒り心頭となったスティングは彼女を追いかけ回している。そのマスターとは思えない行動に仲間たちは顔を見合わせた後、爆笑するのだった。
『狩猟豹の頭のスカイシー強い!!妖精の尻尾のラクサスとギルダーツは防戦一方だぁ!!』
懸命に攻めに出ようとする二人の男。しかし、それをスカイシーは許さない。次々に攻撃を繰り出してくる彼に二人はボロボロになっていた。
「「はぁ・・・はぁ・・・」」
二人で相手にしているにも関わらず息が上がっているのは妖精たちの方。対する敵は仮面のせいで完全には把握できないが、汗一つかいていない。
「マジかよ・・・こいつ・・・」
「とんでもねぇ野郎だな、全く・・・」
普通の魔導士だったらここで心が折れていただろう。しかし、二人の瞳には炎が宿っていた。それには彼ら自身の想いと目の前にいる敵の行動が関係していた。
「相変わらずナメた真似しやがって・・・」
スカイシーはトドメを刺す機会が何度もあったにも関わらずそれを見過ごし、攻めきらずに時間を消費していた。仲間の合流を待っているのかとも思えたが、自身が優勢なうちに仕留めなければ取り返しがつかないことになる可能性もある。しかしそれをしないのは、自分たち二人がそれに値する敵ではないと思っているからなのだと彼らは理解していたのだ。
「妖精の尻尾の看板背負って、これ以上無様な姿は見せられねぇ」
汗を払いながら立ち上がったラクサス。彼は横目で顔を歪ませながら声援を送り続けてくれる仲間たちと、それに負けないくらいの歓声で自分たちの名前を呼び続けている観客たちの姿を確認する。
「もう俺たちが勝つにはこれしかねぇな」
「あぁ。そうだな」
二人の表情は真剣そのものだった。明らかに雰囲気が変わった敵を見てスカイシーの口元は真一文字へと結ばれる。
「普通にやったら勝てねぇ」
「ならここは・・・」
「「一発逆転を狙う!!」」
追い込まれた二人はすでに覚悟はできていた。最後の一人が参加するまでまだ数分の猶予がある。彼が合流すればもう逆転することはできないと悟った彼らはまだチャンスがある今のうちにと、お互いに魔力を高めていく。
「ほぅ。これはこれは・・・」
これから放たれる一撃に全てを賭けようとしているのはこの場にいるすべての人間がわかっていた。そしてその殺意が向けられているはずの男もそれを理解すると、閉じられていた口が緩み、口角が上がる。
「「うおおおおおお!!」」
アイコンタクトもなしに二人が息ピッタリで飛び込んでいく。そのスピードは彼らから目を離さないようにしていたはずの観客たちですら視認が遅れてしまうほどに速かった。
「雷汞・赩御雷!!」
「破邪顕正・絶天!!」
赤い雷を纏った拳を義手を強く握り締めた渾身の拳。左右から迫ってくるそれにスカイシーは回避行動を取ろうともしない。
「そうだ・・・それでいい」
最強ギルドにおいて最強と語られ続ける二人の魔導士。その一撃が迫ってきているにも関わらず、彼は焦りなど一切なかった。
「そうじゃなければ、お前たちを引きずり出した意味がないのだから」
むしろその一撃を待ち受けていたような、望んでいたような反応を見せた彼は二人の拳を掻い潜るように両方の手で拳を握り締め、それを振り上げる。
「まぁ、それも俺が粉砕してやるだけなんだか」
一切の予備動作もなく、ましてや両手を同時に振り上げたことにより威力は本来のアッパーパンチよりも落ちているのは言うまでもない。それなのに、渾身の一撃を打ち出してきた二人を彼はあっさりと宙へと打ち上げた。
『え!?』
『なっ・・・』
『ウソッ!?』
これには実況席の三人も何が起きたのかと困惑を隠せない。無防備に宙を舞う二人の身体。スカイシーはそんな二人の真上に飛び上がると、二人の顔面へとそれぞれ足を踏み出し、その勢いと重力を生かして地面へと叩き付ける。
「これで終わりだ」
砂煙が舞い上がりしばらくした後、徐々にそれが晴れていく。そこから出てきたのは全身血塗れになり白目を向いている二人の妖精と、彼らに背を向けすでにその場を後にしようとしている仮面の男の姿だった。
『しょ・・・勝負あり!!勝者!!狩猟豹の頭!!』
決した戦い。それを見届けた観客たちは歓声とどよめきに包まれていた。
後書き
いかがだったでしょうか。
これにて第一試合終了です。
第二試合と第三試合はチャッチャと行っちゃう感じになるかもしれません。そこまで重要なバトルではないので( ̄▽ ̄;)
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