これが創り物の世界でも、僕らは久遠を願うのです
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ーカコンッ。
「…え、みんな静かすぎない?そんな、お茶飲んでるだけだよね?しゃべったりとか何もないの?」
「琴葉も少しくらい黙って景色や音を楽しんだらどう?」
「フィルくん…」
あれから少しして、杏香さんがお茶を点ててくれたので、みんなでいただいていた。
お茶を飲む間、フィルウさんと杏果さんは、再現された庭園を静かにながめていた。フィルウさんは洋風な見た目をしているため、和室とザ・日本庭園の背景に対して少し異質にも感じられたが、そこが逆に印象的で、とても絵になるなと思った。杏香さんは言わずもがなだ。
それに対して、琴葉さんはというと隣で「苦い、甘い、苦い…?」と繰り返しながら、すごく不思議そうな表情を浮かべながらお茶をすすっている。元いた世界で、外国人の友達に初めて抹茶を飲んでもらった時のことを思い出す。
琴葉さんはお茶を初めて飲んだのだろうか。あまり気に入ってなかったら少し可哀想だな、と思いつつ、私はその様子を見ていた。
「ハクネちゃん、これおいしいと思う?」
「はい!お抹茶好きなので」
「ほう…」
ふむ、と顎に手を添えて茶碗を眺める琴葉さん。やっぱり舌に合わなくて…
「ハクネちゃんの目、これとおんなじ色だね」
「…え?」
「同じ味がするのかな」
…一体、何を考えているんだろう、この人は。ニヤニヤと笑いながらそんな冗談を言ってくる。
琴葉さんは私が唖然としているのが面白かったようで、さらに上機嫌な表情を浮かべ、その後は私の懸念を吹き飛ばすかのように、おいしそうにお茶をすすった。
まあ、楽しそうだし、いいや。
カタン、と音がして、そちらを見てみると、杏香さんとフィルウさんが茶碗を片付けていた。
ハッとして自分の手元を見ると、気づかないうちに茶碗は空になっていたことに気づく。美味しさのあまり、無意識に飲みすすめてしまっていたようだ。欲を言えば、もう少し味わいたかったが、「すみません、私のもお願いします」と杏香さんたちの方へ茶碗を差し出した。今度自分でできるだけ再現してみよう。
「それで?今日はどうしたの」杏香さんが、琴葉さんに向けて問いかける。それに対して、琴葉さんは「へ?」と気が抜けた返事をした。
「へ?じゃなくて。今日は何か用があってきたんじゃないの?フィルウ様とハクネまで連れてきて…」
「用?ないよ?」
「…はい?」
…うぐ。
「強いて言うなら、神々廻ちゃんの笛聞きたかったし、珍しくフィルくん捕まえたから見せに来ようかなって!」
ここへ来る直前のことを思い出して、私とフィルウさんは頭を抱えた。
「ごめん、神々廻さん。この暴走猫、止められなくて…」
ここへ来る前、私とフィルウさんと琴葉さんで話していたところまでは正常だった。だけど、その後唐突に琴葉さんが「行きたいところがある」と言い出して…
「あ、フィルくんそういえば舌痛くない?気絶させた時、偶然舌噛んじゃってなかった?」
「痛いよ…」
フィルウさんに関しては、急に首元に手刀を当てて気絶させて、半ば強制的にここまで運ばれ。私は琴葉さんが「よーっし捨てにいくぞー!」と言うものだから、心配になってついてきてしまった。
本当に用なんてない。私とフィルウさんは、琴葉さんの気まぐれに巻き込まれて、今ここにいる。
「そう…あなたたち、ごめんなさいね。この阿呆は後でキツく叱ることにするわ」
「いえ!気にしないでください。美味しいお茶もいただけて、こんな素敵な景色が見れたんですから。来てよかったです」
「そうだね。まあ、だからといって…琴葉、お前調子乗るなよ」
「え?」
…話がいい方向に進んでいて自分は許される、と思ったのか、琴葉さんは座布団を積み上げて遊んでいた。
この後、フィルウさんと杏香さんによるお説教が始まったので、私は先にお暇させてもらった。
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