イナズマイレブン~クロスライジング~
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雷藤 頼斗
「天地雷鳴!!」
ピーーーーーー!!
《決まったぁーーー!!雷藤頼斗ハットトリックだぁ!!日本代表候補にも選ばれている紫電のストライカーここにあり!!》
「また見てるのか真紅?」
「うん!父さんのシュートカッコいいんだもん!!」
俺がテレビを見ると、そこには俺がプロの時の映像が流れていた。
「毎日見てるじゃないか、飽きないのか?」
「全然飽きない!俺もこんなシュート絶対打つんだ!!」
そんな風に息子に言われるなんて父親冥利に尽きる。
「でもな真紅、このシュート未完成なんだぞ?父さんの本気はもっと凄かったんだからな!!」
「え、ほんと!?やっぱり父さんは凄えや!!」
俺が怪我でプロを引退してから一年くらいの月日が過ぎようとしていた。
今では時折解説で呼ばれたり、子ども達のボランティアに参加したりの日々を過ごしている。
「真紅!外でサッカーやらないか?」
「え!?するする!!」
こんな感じで俺と真紅は時間が合えばサッカーしたりと、そこらの公園じゃ有名な親子だ。
「そういえば父さん、次またこじいん?ってとこに行くんだよね?」
「ああ。そこは真紅と同い年くらいの子がいっぱいいる施設なんだ。サッカーを知らない子ばっかりだから、サッカーの楽しさを教えてやりたいんだ!」
「サッカー知らないなんてかわいそうだもんね!」
「だろ!?もしかしたら未来の日本を代表する選手がいるかもしれないしな!」
「俺だって将来日本代表になるもん!」
「じゃあまずは俺を越えないとな!」
そんなたわいもない話をするのが何より楽しかった。
「お世話になります」
俺は次の施設の視察に訪れた。
「お日さま園…か。いい名前だな」
俺はそうして館内を見学していく。
「ようこそいらっしゃいました。雷藤頼斗くんですね?」
「はい。次のボランティアでお邪魔させてもらいます」
「この孤児院の設立者、吉良星二郎です」
そう言って優しそうな表情の男性が頭を下げる。
「雷藤頼斗です。お日さま園の子ども達にサッカーの楽しさを伝えたくて来ました」
「…サッカー。サッカーは素晴らしいスポーツです。私の息子もサッカーが大好きでした」
…でした?俺はその言葉に引っ掛かったが追求しないことにした。
「吉良さん。ここの子どもたちの様子は見ることが出来ますか?」
「ええ、こちらへどうぞ」
俺は吉良さんの後ろについて行き、子ども達の様子を見守る。
「色んな子が居ますね」
「ここは孤児院。様々な理由でここにこの子達は来ているんです」
「…複雑ですね」
吉良さんは俺の方を見る。
「ですが、とっても可愛い私の自慢の子ども達です」
ああ。この人は本当にこの子達のことが大好きなんだな。
表情が本当の父親そのものだ。
「…俺にも息子がいるんです。この子たちと年も変わらないような。俺も心はガキのまんまなんですけど、いざ自分の子どもと関わっていると自分が父親なんだなって実感する時があるんです。吉良さんからも凄くそう言うのを感じて、この子たちは愛されているんだなって感動しちゃいました」
「ええ、愛していますとも。だからこそ雷藤頼斗くんにこの子達にサッカーを教えてあげて欲しいのです。私の息子が愛したサッカーを」
「サッカーは楽しい遊びってことを伝えてあげます!…では、来週お邪魔させていただきます!」
「はい、楽しみにしていますよ」
そうやって俺は孤児院を後にした。
「あら…あなた?」
「遥香じゃないか、買い物の途中か?」
俺は帰り道偶然遥香に遭遇した。
雷藤遥香。俺の自慢の嫁さんだ。プロ時代も支えてもらったパートナーだ。
「荷物持つよ」
「助かるわ、ありがとう」
そうやって俺が遥香の荷物を持つ。
「あれ?父さんなんでいるの!?」
「孤児院の帰りさ」
活発な真紅は草むらから飛び出して、俺を見るや否や駆け寄る。
「この子ったら、買い物について来たと思ったらサッカーチップス買いに付いてきただけなのよ」
「真紅。女性に重いもの持たせるなんて男として最低だからな?今度からお母さんの荷物持ち手伝うんだぞ?」
「俺、最低になりたくない!荷物頂戴!!手伝う!!」
「よし!それでこそ男だ!」
こんな家族で幸せな日々。
ずっと続くと全く疑うことなんてなかった。
「父さん!!こじいんから何時くらいに帰ってくるのー!?」
「夜の6時くらい迄には帰ってくると思うぞ?」
「じゃあさじゃあさ!終わったら3人でご飯食べに行こうよ!!角煮食べたい!!」
「その年で角煮って…、お前も変わってるなぁ」
「いいじゃないの。じゃあそれまでお母さんと一緒にいようね?」
「うん!!楽しみだぁ!」
「お母さんに迷惑掛けちゃダメだぞ?じゃあ時間になったら連絡するから、近くの駐車場まで向かってくれ。そこにタクシー呼ぶからそこでタクシーに乗ってお店に向かおう」
「わかったわ、じゃあ気を付けて行ってらっしゃい」
「じゃあね父さんー!!」
「おう!行ってくるな!」
ガチャン…………
スタスタスタ……
俺はお日さま園に到着した。
「よく来ましたね、どうぞ」
「お言葉に甘えて」
俺は吉良さんに案内され進んでいく。
きゃきゃ…きゃきゃ…
ざわざわ…ざわざわ…
館内に色んな声が響いている。
「おじさん、だーれ?」
色んな子どもが俺のもとに集まってくる。
俺はしゃがみ、子ども達の目線に合わせ話し始めた。
「おじさんはね、色んなところを回って色んな遊びをしてるんだ」
そんな俺の言葉に惹かれたのか子ども達はキラキラと目を輝かせ話す。
「そうなのー!?どんなお遊びするのー?鬼ごっこ?かくれんぼ?」
俺はその言葉に首を振ると立ち上がり、施設の幅を見る。
そして子ども達に目線を向けた。
「違うよ、もっと楽しい遊びさ。みんなで協力して戦う世界で一番面白い遊びさ!」
そんな俺の言葉を受け子ども達がはしゃぐ。
「そんな遊びがあるの!?教えて教えてー!!」
子ども達が俺の足元にしがみつく。
そんな子ども達の頭を撫でながら、指を差す。
「その遊びの名前はサッカー!」
「さっかー?」
この施設にはテレビが今度追加されると言うことで、サッカーの存在を知らなかったのか。
「ああ。サッカーだ」
俺はバックからボールを取り出した。
「さっかーってボールを相手に当てるのー?」
「まあ見てな…、よっと…」
ポンポン…ポンポン…
「よっ…!」
俺は頭、胸、膝、足、踵。
色んなところでボールを操り子ども達に見せる。
「うわぁ、すごぉい!!」
「ボールがくっついてるみたーい!!」
子どものキラキラした表情が眩しい。
俺はリフティングをやめると子ども達に話す。
「サッカーはこのボールを11人で操りながら相手のゴールにボール入れる遊びなんだ。最高に楽しいぞ!」
「やりたいやりたい!!」
「おじさん教えてー!!」
子ども達を見ながら、施設の芝生を指差す。
「じゃあ向こうでやろう!みんなついておいで!あ、あとおじさんじゃなくてお兄さんな。俺まだこう見えて28だから」
「あはは!おじさん行こ行こ!」
全く聞いてないなぁ。
俺はそんな子ども達の無邪気さに自然と笑顔になる。
「おじさんこれどうやって蹴るの?」
俺は赤髪の少年にそう聞かれ少年の身体を使い蹴り方を教える。
「こう…か!?」
バシッ…!!
「お!やるな!センスあるよ、キミ名前は?」
「俺は南雲晴矢!」
「晴矢!いいシュートだ!!」
色んな子と一つのボールだけで繋がれる。
本当にサッカーは素晴らしいスポーツだ。
「風助上手いぞ!そのままシュートだ!」
「やああ!!」
「ナイスだ!!」
時間を忘れてこの子たちとのサッカーに夢中になってしまう。
惜しいが時間となってしまった。
「…時間か。楽しかった人ー!?」
「「「はーーーーーーーーい!!!」」」
「それは良かった!」
「また来てねおじさん!!」
「おう!孤児院にも俺がボールをいっぱいあげたから、いっぱい遊んでくれよな!!」
「ありがとうおじさん!!」
「おじさーんまたねー!!」
子ども達が俺に大勢で手を振る。
俺は笑顔で手を振り返し返事する。
「ああ、またなー!」
吉良さんも顔を出し俺に声をかける。
「頼斗くんありがとう。子ども達に楽しい遊びを教えてくれて」
「いえ、俺が教えられるのはこの遊びくらいですから。俺はサッカー一筋でしたからね」
「とんでもない元プロ選手の頼斗くんから直接サッカーを教えてもらえるなんてあの子達も嬉しいと思いますよ」
「そうでしょうか…」
俺は照れたように頬をかく。
「あの子達には俺が見れなかった景色を見て欲しいんです」
「景色?」
俺は吉良さんの言葉に頷く。
「俺は確かにプロ選手でした。あの子達の中からもしプロサッカー選手が産まれたら俺の見れなかった世界を見て欲しい」
吉良さんは俺の言葉に微笑む。
「あの子達なら見せてくれますよ夢を。あなたの息子さんもそうでしょう?」
吉良さんの言葉に頷く。
「ええ、俺の息子…真紅にもこれから辛いことが沢山待っているだろうけど、あの子達と世界を見て欲しい。いや、世界を取って欲しい!」
「世界を取るですか…!大きく出ましたね!」
「俺は怪我で現役を引退してしまったんで、無理しない程度に頑張って欲しいですね」
そんな会話をしながら俺は孤児院を後にした。
「楽しい時間とはあっという間だ」
俺はふと呟く。
「父さーん!!」
「待たせたな」
俺は家族の元へと着いた。
「あら?何か楽しいことがあったあなた?」
遥香も温かい言葉で俺を迎える。
タクシーを拾い、道を走って行く。
「真紅も負けてられないぞ?孤児院の子たちすっごく上手くなってたんだからな!」
「ええ!?俺ももっと練習しなきゃ!!」
「そんなに騒いだら運転手の方も迷惑でしょ!?すみません本当に…」
遥香が申し訳なさそうに運転手に謝る。
「いいんですよ、楽しそうに家族で乗って下さるほど、年寄りのタクシードライバーにとって微笑ましいことはないですから」
タクシーの運転手も微笑ましそうに俺たちと話す。
赤信号で止まり、青になったのを確認。
運転手がアクセルを踏み進んでいく。
いつになっても、事故というものは突然なのだ。
グァァァァン!!グジャ!!パリィィィン!!
一瞬のことだった。
俺の視界には運転席が凹んだ跡。
足元が光る。………血だった。
そこから先は気を失ってしまった。
俺は病院で目覚めた。
全身の激痛。
だが、そんな痛みより先に俺を動かしたのは。
「真紅は!?遥香は!?」
バッ!!っと起き上がりナースコールを押す。
「目が覚めたんですね」
先生と思われる髭に生えた男性。
俺は二人に安否を尋ねる。
「………………………」
「お、おい…。何でそこで黙るんだよ…?」
俺の心臓がざわつく。
「…奥さまは即死でした」
「…………………は…?」
嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ。
「嘘だ!!は…、遥香が…そんな…………。し、真紅は!?真紅は無事…なんだよな…?」
「………………生きてはいます」
何だよ、その含んだ言い方。
ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな!!
「ふざけるな!!はっきり言え!!」
「心膜損傷、心膜炎です」
「な、何だよそれ…………」
「心膜損傷は、交通事故や高所からの転落により、相当大きな外力や剪断力が胸部に動いた時に発症します。今回の凄まじい衝撃で心膜に炎症が起き、心膜炎と呼ばれる症状になっています。…しかも相当ひどい」
「…………何でこうなった」
「相手トラックの飲酒運転です…」
「……殺す。殺してやる…!!連れてこい!!」
俺はもうそれしか出来なかった。
初めてだった。憎しみで前が見えなくなったのは。
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