イナズマイレブン~クロスライジング~
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太陽
「……………………」
あの一件から三日が経った。
俺の脳内は全く整理出来てはいなかった。
絶望とはこのことなのだろう。
一瞬。一瞬だったのだ。
幸せな時間から叩き落とされた。
「…頼斗くんここにいらっしゃったんですか」
「……吉良さん」
病院の外のベンチ。
俺が一人で座り込んで居ると見舞いに来てくれていた吉良さん。
「……何と声を掛けて良いのか」
「………。初めてです、憎しみで前が見えなくなったのは……」
「……私にも…わかりますよ」
その言葉に俺はカッとなり、何がわかるんだ!と言いそうになる。
しかし、俺は吉良さんの顔を見て喉まで出かかった言葉が抑えられる。
「……私にも……私にも息子が居たのです」
「………」
その言葉から先は察しがついた。
先日訪問した時から引っ掛かってたんだ。
「……私の息子は海外留学中に事故で亡くなりました」
「……そう…だったんですね」
その言葉を聞いて俺が先に考えたのは同情ではない。
息子が亡くなった。この言葉は俺の心をえぐりそうな痛みを与える。
遥香だけじゃなく…真紅まで死んでしまったら…………。
「私の息子…、ヒロトはサッカーが大好きでした。それこそサッカーを教えていた貴方の様にサッカーに向き合っている時は目が輝いていました」
「……………何が言いたいんですか」
俺は思わずそんな冷たい言葉が出る。
決して本心ではない。だが、そんな他人に気を使うほど俺の心は強くない。
「お日さま園にまた来てくれませんか…?子ども達が待ってますよ」
「…ふざけるな」
俺はその言葉に遂に口を開く。
「自分の子どもが死にかけてるのに、他所の子どもと遊べだと…?あんた狂ってるぜ…!」
「……軽率な言葉で申し訳ありません。でも、どうかもう一度だけで良いのです」
俺はスッと立ち上がる。
「真紅の様子見に行きます」
立ち上がりここを後にする俺に吉良さんは声を掛ける。
「…みんな待っていますから」
何故かはっきりとこの言葉が聞こえた。
俺は歩みを止めず病室へと向かった。
ピ…ピ…ピ…ピ…
「真紅………」
俺は真紅の横に座り頭を撫でる。
触れればそこに居るこの子が居なくなることを考えたら……。
もう…俺に生きる意味はあるのだろうか…?いや、もう笑って暮らす事なんて出来ない。
「真紅…。少し外の空気感じたいよな?今日はサッカーするのに良い天気だぞ…?早く…はやく…おきろ…よ……!」
俺の目から涙が溢れる。
「遥香………!何で逝っちまったんだよ………!お前が居なきゃ俺は何も…何も…出来ねえよ……!」
俺は窓側に行くと、そのままズルリと疼くまる。
「…何で……俺だけ無事なんだよ……」
ふわっ…………。
「……!?」
俺は立ち上がる。
「…遥香!?」
俺の視線の先にはカーテン。
だが俺の肌で感じたのは、温かくて優しくて大好きな彼女に感じたのだ。
窓を開けていないから、風でカーテンが揺れることはない。
「……はは、情けないよなお前の前でこんな姿見せたことないもんな」
俺はカーテンに近付き、優しく撫でる。
そして窓を開けた。
「…あたたかいな」
程よい風にあたたかな気温。
俺の身体を包み込む様にお日さまがあたたかく差す。
「……お日さま。お日さまって凄いよな。たった一個でみんなを照らすんだぜ…?……遥香」
ふわっ………。
風か何なんのかわからない。
しかしカーテンは俺の身体を包む様にふわりと包んだ。
「遥香……、居るんだな?ありがとう…。お前が残した真紅は絶対に守るよ」
その言葉を聞いて安心したのか、カーテンは俺から離れ動かなくなった。
「俺がお日さまになってみんなを照らす…。真紅を照らして見せる」
俺は真紅の手を握る。
「俺はお前の太陽だ……。絶対照らしてやるからな」
「頼斗くん!?」
俺はお日さま園に来ていた。
吉良さんが迎える。
「…お邪魔します」
俺が園に踏み入れ、入った時だった。
「あれ!?おじさんじゃん!!みんな!おじさん来たぞー!!」
俺の姿を見た晴矢が元気そうにみんなを呼ぶ。
「え、本当!?おじさん!上手くなったよ見て見て!!」
玲名もそう言いながら駆け寄ってくる。
玲名を皮切りにみんなが駆け寄って来て瞬く間に俺を囲う。
「「「おじさん!!サッカーしよ!!」」」
俺を見たヒロトが不思議そうな顔をする。
「…何で泣いてるのおじさん??」
「…‥えっ?」
ヒロトに言われるまで気付かなかった。
俺の目からは涙が流れていた。
「大丈夫ー?ぐあいわるいのー?」
「おじさん泣き虫だなぁ!」
俺は目頭を抑える。
「…違うよ…。またみんなと会えて嬉しいんだよ…」
そんな俺を遠くから見守る吉良さん。
そうか。ここは……子ども達がお日さまなんだ………!
「おじさん!面白かったぁ!!」
「次はいつ来るのー!!」
みんなが終わりが残念そうに集まる。
「………おじさんね、ちょっと遠くに出掛けるからしばらく来れないんだ…」
「「「えええーーー!!」」」
子ども達が「何で何で!!」と大合唱をする。
「みんなサッカー面白かったかい?」
「「「うん!!大好き!!」」」
俺はその言葉に笑顔を浮かべる。
「だろ?こんなに楽しいサッカー他の子にも教えてあげたくないかい?」
「「「教えてあげたい!!」」」
「代わりに今度サッカーが大好きなお友達をここに呼んであげるからね…!」
「「「楽しみーー!!」」」
俺の心は決まっていた。
「「「じゃあねーー!!」」」
「ああ!元気に育てよ!!」
俺は帰り道、吉良さんと話す。
「頼斗くん…キミは……」
俺は吉良さんに笑顔を返す。
「…やっぱりサッカーって楽しいですね!!俺…やっぱりこの最高なサッカーを真紅にもっと経験させたいんです!」
「……そうですか。いえ、貴方が決めた事ですね」
「真紅を…よろしくお願いします…!」
「0%じゃないんですよね?」
俺は先生達と話す。
「しかし!危険な賭けになります!!」
俺を止めようとする先生。
「だけどこのままじゃ真紅は…。ドナーは間に合わない」
この三日で一度だけだが、真紅が危ない状態になる夜があった。
時間がないと悟った俺は少しずつこの考えを考えていた。
そしてお日さま園に行き、決めた。
「しかし子どもに大人のを移植となりますと……」
「だから…0%じゃないんだろ?」
「………はい。僅かですが」
「じゃあそれに賭ける」
ピ…ピ…ピ…ピ…
(麻酔で体の感覚がねえ。…ははっ、最後の景色が手術台の明かりなんてな……)
俺は目を閉じる。
(遥香、もうすぐそっちに行くよ。…ああ。真紅は駄目だ。まだあいつは連れて来ないさ。そっちに逝ったら久し振りにデートしよう)
目を閉じたのに瞼が眩しい。
俺はもう一度、目を開ける。目に映るのは手術台の明かり。
しかし目にはその明かりが太陽に見えたのだ。
「……真紅…。俺がお前の太陽になるからな…」
ピーーーーーーーーーーーーーーーーーー
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