鷹党爺ちゃん絶叫
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第一章
鷹党爺ちゃん絶叫
大阪の船場で老舗の料亭の主である池田興正は八十を越えている、だが今も矍鑠たるものであり店の主として頑張り。
「今日もじゃ」
「えっ、今日もですか」
「応援されるんですか」
「そうじゃ」
孫の忠と美樹に答えた、忠が兄で美樹が妹だ。二人の下にもう一人弟の伊三美がいる。
「わしにとってホークスはな」
「生きがいですよね」
忠は曇った顔で応えた、端整な眉と目鼻立ちでやや面長である。黒髪を奇麗にセットしていて一八〇近い長身を和服で包んでいる。家の料亭で働いていて跡継ぎだ。
「まさに」
「それはいつも聞いてますけれど」
美樹も言ってきた、やや面長でかなり整った上品な目鼻立ちで長い黒髪を後ろで束ねてうなじを見せていて和服を着ている。やはり家の料亭で働いている。
「最近特に」
「優勝するからな」
それでとだ、祖父は孫達に言うのだった。
「だからな」
「あの、優勝って」
「まだ六月ですよ」
「それで優勝って」
「幾ら何でも」
「何を言う、今のホークスは敵なしじゃ」
祖父は孫達に強い声で言葉を返した、髪の毛は殆どなくやや面長の顔にはかなりの皺がある。やはり着物を着ていて背筋はしっかりとしている。
「工藤監督の下でな」
「連覇してますね」
末の孫の伊三美も言ってきた。穏やかな顔立ちで眼鏡をかけ黒髪を左で分けている。中背で痩せていて彼はスーツである。家の料亭で経理をしている。
「秋山さんの頃から」
「そして今年でな」
「三連覇ですか」
「今の圧倒的な戦力に工藤監督の采配」
興正は強い声で言った。
「誰が勝てようか」
「そう言われても」
「私達阪神ですから」
「大阪ですからね」
孫達はどうかという顔で祖父に返した。
「ホークスが昔大阪が本拠地だったことは知ってます」
「南海時代ですね」
「その頃はそうでしたね」
「わしがもの心ついた頃にホークスが創設されてな」
そうしてとだ、祖父は虎党だという孫達に話した。
「その頃からのな」
「鷹党ですよね」
「大阪人として大阪のチームを愛する」
「そうされてますね」
「そして福岡に移ってもな」
ホークスがというのだ。
「応援を続け今もじゃ」
「続けてますね」
「南海からダイエー、ソフトバンクになっても」
「それでも」
「このことは変わらん、あの長い暗黒時代も乗り越えて」
二十年以上に渡るそれもというのだ。
「そして今また強くなりな」
「滅茶苦茶強いですね」
「シリーズで阪神も破っていますし」
「本当に強くなりましたね」
「その愛するチームの活躍を見ずしてじゃ」
それでというのだ。
「何がファンか、では今宵も観戦じゃ」
「八十超えてあまり激しい応援は」
「止めた方がいいですが」
「それでもですか」
「わしは応援するぞ」
こう言って実際にだった。
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