機動6課副部隊長の憂鬱な日々
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第48話:7月19日
・・・翌朝。
普段から1時間ほど遅く起きた俺は,身支度を整え私服に着替えると
格納庫へ向かい,自分の車に乗り込むと寮の玄関前に車を止めた。
5分ほど待つとなのはが現れた。
「おはよう,ゲオルグくん。待たせちゃった?」
「おはよ。そんなに待ってないよ。5分くらいかな」
「そう?よかった」
パンツルックに身を包んだなのはは,にっこりと笑った。
「どうぞ,お嬢様」
俺は助手席のドアを開けると,少し芝居がかった仕草でなのはを
車の中へ誘った。
なのはは苦笑しながら俺の手をとると”どうも”と言いながら,
助手席に身を滑らせた。
俺は車を発進させると,クラナガンに車を向けた。
「なのはの私服姿って初めて見た気がするよ」
「そうだっけ」
「うん。よく似合ってるよ。なのはらしいと思うな」
「私らしいって?」
「健康的というか,活動的というかそんな感じがする」
「そう?ありがと」
なのははそう言うと,少し頬を赤く染めているように見えた。
「ところで,どうする?」
「そうだね,どうしよっか・・・。
そういえば,ゲオルグくんってクラナガンで育ったんでしょ?」
「そうだよ」
「じゃあ,ゲオルグくんがどんなところで子供時代を過ごしたのか
見てみたいな。ダメ?」
「俺は構わないけど,そんなのでいいの?」
「うん」
「じゃあそうしようか。でも,実家は勘弁しろよな。絶対誤解するから」
「あ・・・うん」
なのはは小さな声でそう言うと,俯いてしまった。
俺は,実家の方に進路を向けた。
1時間ほどのドライブの後,俺は実家近くのコインパーキングに車を停めた。
俺は車を降りると大きく伸びをした。
そんな俺を見てなのはは苦笑していた。
「なんだよ」
俺がちょっと不満を込めてそう言うと,なのはは声を上げて笑った。
俺はそんななのはにむくれた表情をして見せるが,なのはは相変わらず
笑っている。
「ごめんごめん。でもゲオルグくんがちょっとだけ年寄り臭いと思ったの」
しばらくして笑いが落ち着いたなのはは,俺に向かってそう言った。
「はいはい。どうせ俺はおっさんですよ」
「機嫌悪くしないの」
なのははそう言うと,道路に向かって歩きながら周りを見回していた。
「なんか大きい家が多いね」
「そうかもね。この辺は結構古くからの住宅地だし」
「そうなんだ。ゲオルグくんの実家もこんな感じ?」
「大きさはこんなもんだ」
「・・・見てみたいな」
なのはが俺を見てそう言った。
「実家は勘弁しろて言ったの聞いてなかったのか?」
「えーっ,いいじゃん外から見るくらい」
俺は手を振り回しながらそう言うなのはを見ながら,小さくため息をついた。
「・・・外からだけだぞ」
「やった!」
パーキングから10分ほど歩いて,俺の実家の前に来た。
なのはは,興味深そうに俺の実家を見ていた。
「おしゃれな家だね」
「そうか?」
「うん。素敵な家だと思う」
「そりゃどうも」
俺はなのはにそう言葉を返しながら,家の中から母さんが出てこないか
心配していた。
なのはは,へーだのふーんだのと言いながら,家の周りを歩きながら,
俺の実家をいろいろな方向から見ていたが,しばらくして俺の方に歩いてきた。
「ね。中も見てみたいな」
「ダメだって言ったろ」
「どうしてもダメ?」
「ダメ」
「けち」
「ダメっつったらダメ。もう行くぞ」
俺は,踵を返して実家に背を向けた。
「あ。ゲオルグくん,待ってよ」
なのはは小走りで先を行く俺に追いついてきた。
「怒った?」
「少し」
「・・・ごめん」
「別にいいよ」
俺となのはは並んで住宅街の中を歩いて行く。
しばらくして,なのはが話しかけてきた。
「ねえ,ゲオルグくん。今どこに向かってるの?」
「腹減ったろ?昼飯食いに行こうよ。近くにいい店があるから」
「いいね。行こ行こ」
5分ほど歩くと,目指すレストランが見えてきた。
入り口のドアを開けて入ると,店の中は7割くらいの席が埋まっていた。
「いらっしゃい・・・あら?あんたは確か・・・」
店のおばさんがそう言って少し考え込んでいた。
「覚えてないの?エレーヌさん」
「思い出した!シュミットさんちのゲオルグくんだね。
久しぶりじゃないの,ちっとも顔を出さないで」
「仕事が忙しくてね」
「そういえば,管理局に入ったんだったね。大変ねえ」
エレーヌさんはそう言うと,俺の後ろにいるなのはに気がついた。
「あら,可愛い子。ゲオルグくんの彼女?」
エレーヌさんはニヤニヤと笑いながら聞いてきた。
「違うよ。友達で同僚。たまたま近くを通りかかったからさ」
「そうなの?お名前は?」
「あの,高町なのはといいます」
なのははエレーヌさんの勢いに押されたのか,少し小声になっていた。
「なのはちゃんね。いいお名前ね」
「ありがとうございます」
「そうだ,ゲオルグくん。席は窓際でいい?」
「うん」
「じゃあこちらにどうぞ」
そう言ってエレーヌさんは店の隅にある窓際の席に俺達を案内してくれた。
俺は奥側の席の椅子を引くと,なのはに座るように促した。
「ほら,座りなよ」
「え?うん。ありがとう」
なのはは俺の行動に驚いたのか,おずおずと俺の引いた椅子に座った。
俺がなのはの向かいに座ると早速なのはが話しかけてきた。
「すごい人だね。あの人」
「だろ?昔っからよくしゃべる人なんだよ」
「知り合いなんだよね?」
「うん。子供のころから家族で食事会をするときはいつもここだったから」
「そうなんだ」
なのははそう言うと,店の中を見まわしていた。
「いい雰囲気のお店だね」
「そりゃどうも,ありがとうね」
声のした方を見ると,水の入ったグラスを持ったエレーヌさんが立っていた。
「エレーヌさん。今日のランチは何?」
「今日は,ビーフシチューだよ」
「お,ラッキー。じゃあ俺はランチで。なのははどうする?」
「えーっとどうしようかな・・・じゃあ同じで」
「はいはい。じゃあランチが2つだね」
エレーヌさんはそう言って店の奥に消えて行った。
「ねえ。ビーフシチューだとなんでラッキーなの?」
「ん?俺がこの店で一番好きなメニューだから」
「なるほど」
俺となのはが話をしながら15分ほど待っていると,エレーヌさんと
白いコック服の男がトレーを持ってやってきた。
「はい。お待ちどうさま」
エレーヌさんは手際よく俺となのはの前にビーフシチューとサラダを並べ,
最後にバゲットの入ったバスケットをテーブルの真ん中に置いた。
「はい,どうぞ召し上がれ」
俺はエレーヌさんにお礼を言おうと振り返ったときに,
コック服姿の男と目があった。
「よ,ゲオルグ」
「え!?マルタン?なんで?」
「今,店の手伝いをしながら色々覚えてるとこなんだよ」
「継がないって言ってなかったか?」
「気が変わった」
俺が茫然としていると,マルタンはエレーヌさんに呼ばれて店の奥に消えた。
「どうしたの?」
なのはが怪訝な顔で俺を見ている。
「いや,ちょっと意外な奴に会ったもんだから」
「それってさっきのコックさん?」
「うん。俺の幼馴染でここの一人息子なんだけどね」
「じゃあ,ここにいてもおかしくないんじゃない?」
「いや,あいつこの前まで店なんか継がないって言ってたんだけど・・・」
「そうなんだ。ま,いいじゃない。それより食べよ」
「そうだね」
俺はそういうと,シチューに手を伸ばした。
「うーん,この味だよ。うまい」
「うん。すごくおいしいね」
「だろ?」
俺となのははビーフシチューに舌鼓を打った。
20分ほどかけて食べ終わった俺となのはは,食後のコーヒーを飲み終わると,
店を出ることにした。
俺は,店のレジに向かうと,バッグから財布を出そうとしているなのはを
手で制し,先に出ているように言った。
なのはは,納得いっていないようだったが,しぶしぶ先に店を出た。
俺はなのはが店を出たのを確認するとカウンターの向こうにいるエレーヌさんに
話しかけた。
「エレーヌさん,ごちそうさま。あと,例のやつを一袋頼むよ」
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