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機動6課副部隊長の憂鬱な日々

作者:hyuki
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第49話:なのは、動く


5分ほどして俺が店を出ると,なのはが待っていた。

「ごめん,待たせちゃって」

「ううんいいよ。それよりいいの?払ってもらっちゃって」

「いいんだよ。俺の方が給料はいいんだし」

「そっか。じゃあごちそうさま」

「いいえ,どういたしまして」

それから,俺となのはは俺の通っていた学校や子供のころよく遊んだ公園を
歩いてまわり,そろそろ日も落ちようかという時間になった。

「あー。今日は楽しかった。ありがとね,ゲオルグくん」

「いや。ほんとにこんなのでよかったのか?」

「いいんだよ。ゲオルグくんのことがまた少し解ったし」

なのははそう言って,俺に笑顔を見せた。
俺は時計を確認すると,あと一か所だけ回ることにした。

「なのは,もう1か所だけいいか?見せたいもんがあるんだよ」

「え?うん,いいよ」

なのはの答えを聞いた俺は,なのはを伴って歩き出した。
住宅街のはずれにある丘にある砂利道を少し早足で上がっていく。
丘の頂上につくと,そこには東屋が一つあった。

「よかった,間に合った。ほらなのは」

「ちょっと・・・ゲオルグくん・・・待って・・・,あ!」

そこからは,夕暮れでオレンジ色に染まるクラナガンの街が一望できた。
俺が子供のころから嫌なことがあるとよく来た場所だった。

「きれい・・・」

なのはは景色に見とれていた。

「なのは」

俺はなのはをベンチに座らせると,俺もなのはの隣に座った。

「食べようぜ」

俺はそう言うと,バッグから1包みの袋を取り出した。

「何それ?」

「昼に行った店でさ,ラスクを作ってもらってきた」

「え?それであんなに時間がかかったの?」

「そ,ごめんな待たせちゃって」

「ううん。頂くね」

なのはは俺が持った袋からラスクを一枚取り出すと,口に運んだ。

「甘くておいしいね」

「だろ?ガキの時からの好物なんだよ」

俺も一枚かじって,そう言った。
しばらく,2人でラスクを食べながらだんだん夜景へと変わっていく
クラナガンの景色を見ていると,なのはがあっと声を上げた。

「そういえば,これを渡そうと思ってたんだ」

なのははそう言うと,バッグからきれいにラッピングされた
小さな箱を取り出し,俺に手渡した。

「え?なんで?」

「だって,今日ゲオルグくんの誕生日でしょ。プレゼントだよ」

なのはの言葉を聞いて俺は慌てて時計のカレンダーを見た。

「すっかり忘れてた・・・」

「にゃはは。らしくないね」

「最近忙しかったもんな・・・。それより,何で俺の誕生日を知ってんだ?」

「友達だもん,当たり前だよ・・・って言いたいところだけど,
 前にはやてちゃんにゲオルグくんの人事記録を見せてもらったから」
 
「そっか。ありがとな」

「ううん。大したものじゃないから」

「開けてもいいか」

「うん」

俺は丁寧に包装紙をはがして,箱を開けると銀色の羽根の形をした
飾りのついたネックレスが入っていた。

「ゲオルグくんがどんなものが好きかわかんなかったんだけど,どうかな?」

「気にいったよ。ありがと,なのは。大事にする」

「どういたしまして」

なのははそう言って笑った。

「この羽根,なのはが魔法で飛んでる時の羽根に似てるな」

「そうかな?自分じゃよくわかんないや」

「似てるよ」

俺はそう言うと,正面に見えるクラナガンの街に目をやった。
日も落ちて結構時間がたち,すっかり夜景になっていた。

「なのは,聞いてほしいことがあるんだけど」

「ん?」

「俺さ,情報部にいる時にいろいろやったんだ。
 なのはには言えないようなことをいっぱい。
 犯罪者とはいえ人を殺したこともある。この手で」

「・・・そう・・・なんだ」

なのはが息をのむ音が聞こえた気がした。

「情報部に行く前にもいろいろ失敗して,仲間を殺しちゃったこともあるし,
 いろんなものを犠牲にしてここまで来たんだ」

「うん・・・」

「だから,自分は人並みな幸せとかを望んじゃいけないと思ってるんだよ」

「ゲオルグくん?」

「それが俺の犯した罪に対する罰なんだと思ってる」

「それは違うよ。ゲオルグくん」

「なのは?」

「ゲオルグくんの言うとおりゲオルグくんはいっぱい失敗したんだと思う。
 でも,ゲオルグくんはそれを反省して,自分だけじゃなくて
 スバルたちやシンクレアくんにゲオルグくんと同じ失敗をさせないように
 一生懸命頑張ってるもん。
 犯罪者を殺しちゃったのだって,そもそも犯罪を犯す人が悪いんだから
 それはしょうがないと思うの」

「ありがと,なのは。でも俺は・・・」

その先は言えなかった。なのはが自分の唇を俺の唇に押しあてていたからだ。
なのはは唇を離すと,俺の顔を見つめた。

「私ね,ゲオルグくんのことが好き。だから,ゲオルグくんには幸せに
 なってほしい。ううん,できればいっしょに幸せになりたい」

「なのは・・・」

「さっき言ったように,私はゲオルグくんが幸せになっちゃいけない理由なんて
 全然ないと思ってるよ。でも,どうしてもゲオルグくんが自分を許せないと
 思うんだったら,私が半分ゲオルグくんの罪を背負ってあげるよ。
 1人じゃ重くても2人なら少しは軽くなるよね」

なのははベンチから立ち上がって少し歩くと俺の方を振り返った。

「ごめんね,いきなりこんなこと言って。でも,どうしても
 言いたくなっちゃったんだ。じゃ,もう遅いし帰ろっか」

なのははそういうと俺に背を向けて,歩き出した。
俺は,ベンチから立ち上がると,なのはを後ろから抱きしめた。

「ずるいぞ。自分だけ言いたいこと言って」

「ゲオルグくん?」

「ありがと。なのはの言ってくれたこと嬉しかった。
 でも,まだ俺は自分を許せそうにないんだ。
 だから,まだなにも約束なんてできないけど・・・」
 
俺はそこで一旦言葉を切った。
なのはは一言も発しないが,少し震えているように感じた。

「俺もなのはのことが好きだよ。友達としてとか同僚としてとかじゃなく,
 一人の女の子として,なのはのことが好きだ」

俺はそういうと,なのはを抱きしめる力を少し強くした。

「ほんとに?」

「うん」

「ありがと」

俺がなのはを離すと,なのはが振り返って抱きついてきた。

「うれしいよ,私」

「俺も」

「浮気はだめだよ」

「そんなことしないよ」

「そっか」

しばらく俺達はそうしていたが,夜風がさすがに冷たくなってきて俺は,
なのはを抱く手を離した。

「帰ろっか」

「そうだな」

俺はそう言うと,なのはの手を握って丘を降りはじめた。

「あったかいね。ゲオルグくんの手」

「そうか?」

「うん」

車に戻り,隊舎に向かって走らせている間,俺となのははずっと無言だった。
隊舎に到着して,車を降りると俺となのはは並んで寮への道を歩いた。
寮に入り,男子寮と女子寮の分かれ道で俺となのはは立ち止まった。

「じゃあまた明日ね」

「おう,また明日」

そうして俺達はいつものように別れた。

 
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