Fate/WizarDragonknight
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触手の猛攻
「来たっ!」
「ぜっ!」
ウィザーソードガンとダイスサーベルが、それぞれ触手を弾き返す。だが、たった二本だけだというのに、みるみるうちに追い込まれていく。
触手はそれぞれ読み切れない動きをしながら、二人を部屋の対角線上に追いやっていく。
「おいこれ、本当に不味いんじゃねえのか!?」
「俺もなんかそんな気がする……! っ!」
『バインド プリーズ』
魔法陣より発射される無数の鎖は、触手を捕え、縛り上げる。
「よし!」
「サンキューハルト! 次はオレだッ!」
『バッファ ゴー』
コウスケは息巻いて、指輪を装填。
赤い指輪は、彼の背中に牛の装飾とマントをもたらす。
勢いを付けての体当たり。牛の力を秘めたそれは、触手に打撃、大きく打ち倒した。
「うっしゃあっ!」
「……! いや、ダメだ!」
『エクステンド プリーズ』
触手が、まだ動いている。
いち早く指輪の能力を発動させ、腕を伸縮自在に動かす能力を得て、コウスケの足を引っ張る。同時に、自力で捕縛の魔法より脱出した触手が、コウスケがいた空間を貫いた。
「あ、危ねえ……」
コウスケが青い顔を浮かべる。
ハルトは彼を隣に下ろし、目を合わせる。
互いに頷き、それぞれベルトに指輪を当てた。
『ドライバーオン プリーズ』
『ドライバーオン』
それぞれの詠唱とともに、二人の腰にベルトが現れる。
ハルトには銀の。そしてコウスケには古代の。
ハルトは即座にベルトの端についているつまみを動かす。すると、銀のベルト、ウィザードライバーのバックル部分が反転し、詠唱を開始する。
『シャバドゥビダッチヘンシーン シャバドゥビダッチヘンシーン』
「変身!」
「変~身!」
ハルトのルビーの指輪にカバーがかけられると同時に、コウスケが両手を回転させる。彼はそのまま、獣の顔をした指輪をベルトの左側のソケットに装填した。
そのままソケットを捩じると、バックルに内蔵されているカラクリが動く。
カラクリはそのまま、バックルの扉を開けた。扉より、獣の顔が現れる。金色のライオンの顔は、そのまま『オープン』と叫んだ。
それこそがコウスケのベルト、ビーストドライバーの本当の姿である。
『L・I・O・N ライオン』
『フレイム プリーズ ヒー ヒー ヒーヒーヒー』
赤と金。二つの魔法陣。
それは、ハルトがウィザードに変身するのと同様、コウスケを金色の魔法使いに書き換えていく。
ビースト。
ライオンの顔をした古の魔法使いは、ウィザードとともに相槌を打つ。
「行くよ!」
「ああっ!」
ウィザードとビーストは、それぞれの武器を起動させた。
『キャモナスラッシュシェイクハンド キャモナスラッシュシェイクハンド』
ウィザーソードガンの手のオブジェ、そしてダイスサーベルのスロット。一から六の数字をランダムに表示させるダイスサーベルへ、ビーストは右手に付けたままの指輪を装填する。
『フレイム スラッシュストライク』
『5 バッファ セイバーストライク』
炎と猛牛。
二つの赤い斬撃が、それぞれに対立する触手へ放たれる。炎と五体の牛たちの大暴れにより、触手たちの動きが封じられていく。
だが、触手は即座に体勢を立て直し、またウィザードたちへ攻め立てていく。
『ランド プリーズ』
だが、ウィザードは即座にトパーズの指輪を使用。
ウィザードの足元より、黄色の魔法陣が現れた。
『ド ド ド ド ド ドン ドン ド ド ドン』
魔法陣はゆっくりと地上からウィザードの体を上昇していく。赤から黄へとその姿を変え、機動性、および魔法の能力を犠牲に、物理能力に秀でた形態。その最も得意とする魔法は。
『ディフェンド プリーズ』
防御の魔法。
触手の前に発生した分厚い土壁。
頑丈さが取り柄のそれは、触手に貫通される。だが、その動きを食い止めることができた。
だが、即座に触手の先端が開く。まるで口のような造形をしている先端から、黄色の光線が放たれる。
「っ!」
ウィザードは慌てて回避。発射された黄色の光線が室内を切り刻むのを見て、ウィザードはデジャヴを感じた。
「これ……見滝原南にいた、あの怪鳥と同じ……!?」
光線の音は、あの超音波メスと全く同じものに思える。
ウィザードは改めて触手を睨み、同時に数日前遭遇した赤い怪鳥を思い浮かべた。
攻撃手段そのものは共通している。だが、怪鳥と触手。両者の形状に共通点が皆無である。
「ハルト! ぼさっとしてるんじゃねえ!」
怒鳴られたことによって、ウィザードは我に返る。同時に、ウィザードを薙ぎ倒そうとした触手に蹴りを放ち、相打ちとなってバランスを崩しかける。
一方、ビーストは右手に指輪を付け替える。
『カメレオン ゴー カ カ カ カメレオン』
黄緑色の魔法陣とともに、ビーストの右肩にカメレオンのオブジェが装備される。
長い舌が伸び、それは触手を打ち付けていく。
だが、その間にウィザードは気付くことがなかった。触手のうち一本が、その背後に回ったことに。
「しまっ……!」
ウィザードが気付くももう遅い。足を縛り上げた触手は、そのままウィザードを床へ叩き落とした。そのまま無数の床を貫き、ウィザードはどんどん下降していく。
もう何階まで落とされただろうか。
瓦礫を退け、ウィザードは周囲を見渡す。
この部屋も、ウィザードたちが入った部屋と同じく踏み荒らされていた。
色とりどりの家具だったのであろう物体が、これまた同じく原型を残さないほどに破壊されている。割れた窓から差し込む夕日が、部屋の惨状をより一層際立たせていた。
そして、なにより。
部屋の主と思しきミイラもまた、木材だったものの下敷きとなっていた。
「……っ!」
ウィザード仮面の下で唇を噛み、今落とされてきた天井を見上げた。
ビーストが戦っている階から、トンネルのように開けられた穴。そこから見える部屋には、どれ一つとして無事だと思える部屋が見つからない。
おそらく、他の部屋もここと同じく、犠牲になっているのだろう。
その時。
「ワン! ワン!」
「うわっ! い、犬!?」
ウィザードの足元で、吠える愛玩動物の姿。
柴犬が、ウィザードへ唸り声を上げながら、ミイラの足元にその姿を現したのだ。
「数少ない……生存者か」
ウィザードは犬に接近する。
だが、犬はその場から動かない。何度も何度も、すぐ背後で倒れているミイラ___おそらく飼い主___を守ろうとしていた。
「っ!」
そして、ウィザードを追いかけて、それは現れる。
触手。
筋肉質の塊は、ウィザードを突き飛ばし、無力な餌へ放たれた。
「やめろぉ!」
ウィザードは叫ぶが、もう間に合わない。
犬に巻き付いた触手の先端が、犬の体に突き刺さる。犬が悲鳴を上げると、ぐったりとその体から力が抜けた。
「っ!」
ウィザードが、仮面の下で顔を歪ませた。
ウィザードの前に落ちてきた、犬だったもの。白と茶色の愛らしい色合いは、生気のない黒一色となっていたのだ。
「そんな……」
犬の体液を吸収しきった触手は、そのまま天井に空いた穴から戻っていく。
「待て!」
ウィザードはジャンプして、触手を追いかける。
土から風となったウィザードは、ジャンプで数フロアを飛び上がり、ビーストが戦う七階に戻って来た。
「はああっ!」
着地と同時に、ウィザードは触手を斬り弾く。
だが、ウィザードとビーストの攻撃に対して、触手たちの攻撃能力は下がることがない。
「埒が明かねえ! ハルト! 一気に決めるぞ!」
ビーストの合図に、ウィザードは右手の指輪を入れ替える。
ウィザードが指輪をベルトに読み込ませるのと同時に、ビーストも変身の時に使った指輪を再びソケットに装填していた。
『チョーイイネ キックストライク サイコー』
『ゴー キックストライク』
そして発動する、それぞれの最強の魔法。
そのまま、両者の右足に宿る風と獣の力。
それは、群がる触手を弾き飛ばし、爆発させる。
爆炎が晴れたころには、もう、触手の姿は、床に空いた大穴に消えていた。
「倒した……のか?」
ビーストは、大穴を覗き込みながら呟いた。
ウィザードも、彼に続く。
「そもそも、アイツは何だったんだ? この事件の犯人だってことには間違いないと思うけど」
ウィザードは先ほどの犬のことを思い出した。
あの触手が、犬を瞬時にミイラにした。体液を吸い上げる能力など、人間が食らえばと考えるだけでおぞましい。
「つうことは、どっちにしろ奴をしっかりとやっつけねえといけねえわけだ」
「……一度降りて、追いかけてみよう」
「そうだな。そうするしかねえよな」
『ファルコ ゴー ファ ファ ファ ファルコ』
ビーストも頷いて、オレンジの魔法を発動した。
オレンジの風が彼の方に、ハヤブサのオブジェを付ける。
風を纏いながら、飛び上がった二人。
だが。
「な、何だ!?」
その異変がマンション全体に走る。
揺れ。
だが、それは地震のような自然現象ではない。
どんどん震源が近づいてくるそれ。
「おいおいおい! これやべえんじゃねえのか!?」
ビーストの言葉に、ウィザードも頷く。
もう、マンションも持たない。グラグラという揺れと、部屋中に走る亀裂。
そして。
背後の室内の景色が、変わった。
壁や床を突き抜けたのは、銀色の生物。
「なっ!?」
「コイツが、触手の本体かっ!? こんなデカブツが、マンションに物理的に潜んでいたってのか!?」
生物___その巨体から、もう怪物と呼称するのが相応しい___が、胎動を始める。
頭部らしきところに、黄色の球体。そして、それを円錐のように、銀色の骨格が覆っている。
「___」
その顔を見た時、一瞬。ほんの一瞬。
見滝原南で遭遇した怪鳥と、その顔の形が似ていると、ウィザードは思ってしまった。
怪物が、唸り声を上げながらその球体を光らせる。
ウィザードとビーストが反応する間もなく、怪物が叫ぶ。
超音波にも匹敵する音声に、三半規管が狂いだす。
そして。
怪物___ムーンキャンサー。
その特徴である触手から、あらゆる角度へ超音波メスが放たれた。
戦場である普通のマンションを、無数に貫く黄色い光線。そんな攻撃を受ければ、普通の建造物が絶えられるはずもない。
コンクリートのマンションは、溶けるようにゆっくりと崩壊していった。
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