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IS《インフィニット・ストラトス》‐砂色の想い‐

作者:グニル
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クラス対抗戦

 あの特訓(地獄)の日から一週間。クラス対抗戦一回戦の日。

 その間に凰さんと一夏さんの間には何かあったようで、一夏さんからは負けられないという感じがヒシヒシと伝わってきます。
 結局凰さんはその間全然私たちのクラスにも来ませんでしたし、根本的な部分で何かあったのでしょうね。

 今は私、箒さん、セシリアさんはピットにいる一夏さんの様子を見に来ているところです。

 既に凰さんはアリーナの中央で待機していて一夏さんを待っている状態にあります。
 モニターに映し出されている『甲龍』は赤黒い装甲に特徴的な非固定浮遊部位(アンロックユニット)が両肩の上に浮いているISです。

「私のような射撃専門とは勝手が違います。お気をつけて」

「むしろカルラのような牽制で遠距離を使うタイプだろう。気を引き締めてな」

「練習どおりやればうまくいきます。基本を忠実に、ですよ」

「ああ、3人ともありがとう」

『それでは両者、規定の位置まで移動してください』

「行ってくる!」

 そう言って一夏さんはアリーナに飛び出していった。私たちも試合を見るために管制室へと移動します。
 管制室に着いてみると、既に山田先生と織斑先生が画面の前の椅子に座っていたので、私たちはその後ろから立って見る形になります。

『それでは両者、試合を開始してください』

 開始の合図と共に両者が武器を構え、ほぼ同時に前に出ました。
 一度交差した後、それぞれの得物を振りかざします。

 『甲龍』の武装は情報どおり一対の巨大な青龍刀。それを持つと上から一夏さんに向けて一気に接近し振り下ろしました。それをなんとか一夏さんは『雪片弐型』で受け止めます。

 そのまま鍔迫り合い状態で回転しながら上昇し、一夏さんが先に距離を取りました。
 
 正しい選択です。パワー型の『甲龍』に機動型の『白式』が付き合う必要はありません。わざわざ相手の土俵で戦わず本来の戦い方、高機動からの一撃離脱が最も効率のいい戦い方です。

 凰さんが積極的に前に出て一夏さんに襲い掛かる。左右の得物を使った見事な連続攻撃です。
 一撃が重く、その勢いを止めないように遠心力を持って左右の青龍刀を自由自在に振り回して威力を高めているため、その一撃を受け止めるごとに一夏さんは厳しそうな顔をしています。

 初速が速く突進力が高い。典型的な接近戦タイプのIS。各部のスラスターとブースターがそれを可能にしているのだと思いますが、先ほどから繰り出す回転連続攻撃は純粋な技術ということでしょう。相当な修練を積んでいるということですね。
 一夏さんも善戦していますが純粋な技術差と言うのは機体性能の差では中々埋まりません。

「一夏………」

「やはり純粋な戦闘技能という点でも鳳さんに分がありますわね。一夏さん! 私の教えて差し上げた三次元躍動旋回(クロス・グリッドターン)をお使いなさい!」

 箒さんが心配する声を上げると共にセシリアさんが山田先生の通信マイクを借りて一夏さんに指示します。

『む、無茶言うなよ!』

 防戦を繰り広げている一夏さんの声が響きます。それでも時折隙を見つけては凰さんに斬りかかっていくので気負いはしていないようですね。
 技術で負けているのならば気持ちで負けないことが重要です。負けと思えば勝てる勝負も勝てませんからね。一夏さんは剣道経験者ということでそこら辺のことはよく理解しているようです。

 それに凰さんにも弱点がないとは言えません。
 青龍刀は威力は大きいが取り回しが悪い。しかも二刀となると両手の負担を片手で受けねばならない分受けに回った時のリスクは大きいはず。『白式』の機動性と単一仕様能力の特性を考えれば十分に勝機はある。

 ……はずだったんですが、なんと凰さんは青龍刀を連結して攻撃してきました。これには一夏さんもたまらず回避に徹します。
 片手であれだけの威力を誇るのですから、両手持ちだとISごと弾かれかねない。

 そもそも二つを離しているときでもあれだけの連携を見せたのに、連結した今は青龍刀をバトンのように振り回しながら更に苛烈な連続攻撃を仕掛けてきている。

「カスト。この戦い、どう見る?」

「ひゃい!? わ、私ですか?」

 織斑先生にいきなり聞かれて戸惑ってしまいましたが、言わないのも怖いので自分の考えを伝えましょう。

「そう、ですね。スペック上、機動力では『白式』のほうが『甲龍』を上回っています。それだけならばいいのですがやはり一夏さんはまだまだ初心者です。連続稼働時間が凰さんに比べて圧倒的に足りないため経験が不足しています。そのせいで三次元躍動旋回のような複雑すぎる機動はできません。今も……」

 画面を見ると凰さんの攻撃を避け、一夏さんが攻撃を仕掛けようとした。しかし既に凰さんは一夏さんの間合いの外に逃げてしまっています。

「あんな感じで動きを読まれます。勝率が無いとは言いませんが、良くて2割程度でしょうね」

「ああ、私もそう思う」

「そんな! 二人は一夏に勝ってもらいたくないのか!?」

「そんな訳はありません。ですが、状況分析からいってそう見積もるしかないんです。練習でも結局私たちには近づけませんでしたし。何か奥の手があれば……」

 そう、結局最終日の特訓、一夏さんは回避が精一杯で私たちに迫ることが出来ませんでした。当然といえば当然ですがあの特訓から何か得ることがあれば、と思ったんですけどこう接近戦が主体では遠距離攻撃を掻い潜って隙を突く、ということができません。

 消耗戦になると思ったのか一夏さんは距離を取ろうとしているようですね。
 確かに『白式』の機動ならば引き離すことは容易です。現に二人の距離はどんどん離れていきます。

 その途端、一夏さんの背中を何かが掠った!

「な!」

「今のはまさか!」

 今、弾丸も何も無い空間が爆発しましたよ!

「山田先生。今の攻撃は分かりましたか?」

「衝撃砲ですね。空間自体に圧力をかけて砲弾を打ち出す武器です」

「あれが……」

「『龍咆』……ですね」

 箒さんが強く拳を握り締めているのが見える。

 なんとか起き上がった一夏さんにまたも衝撃砲が連射される。一夏さんはそれを感じ取ったのか素早く回避を行います。
 見えない弾を不規則な機動で避けつつ『甲龍』を中心に縦横無尽にアリーナを動き回っています。前情報のお陰で焦ることはないようですね。

「弾が見えないというのは予想通りでしたけど……まさか砲身も見えないというのは……」

「しかも砲身の射角がほぼ制限無しで撃てるようですわね。先ほど真後ろと真上への攻撃を確認しましたわ」

「そういうことに……なりますね」

 私の言葉にセシリアさんが答えてくれた。
 その間も一夏さんへの射撃は続いていて、必死にそれを避ける一夏さんが画面には映し出されています。

 でも……これは当初の予定通り……これでようやく、ということですね。

「あとはチャンスだけですね」

「そうだな」

「ええ」

 箒さんとセシリアさんは既に声だけでこちらを見ておらず、画面を凝視している状態です。
 砲身、砲弾は見えない。射撃角度は無制限。弾切れもない。これだけ見れば分かっていても無敵の兵器です。
 だけど……

「ふむ」

 なるほど。

「山田先生、少しよろしいですか?」

「あ、はい。どうぞ」

 山田先生に許可をとって一夏さんへの通信機を借ります。

「一夏さん、聞こえますか?」

『カルラか!? 今それどころじゃ……!』

「あの衝撃砲の弱点が分かりました」

『エ!?』

 内容を素早く頭でまとめ説明を開始する。

「あの衝撃砲は見ている限り砲身は肩部のユニットにひとつずつで計二門。つまり一度に撃てる数は2発まで、発射まで一瞬ですがタイムラグがあります」

『それのどこが弱点なんだ!』

「ここからです。あの砲身の射撃角度は無制限らしいですけど、それはオートロックではなくあくまでも操縦者が相手をロックしてから射撃をする普通の射撃兵器です。360度確認できるISで死角にというものはありませんが、凰さんの意識の外に行けば撃たれるラグは大きくなります。ただ不規則に動いても意図が読まれれば弾幕を張られてしまいます。しかし『白式』の機動性なら、認知される前に離脱することが可能のはずです。とにかく常に動き回って相手に攻撃されるかも、という意識を植え付けてください。そうすれば後は最終日と同じですよ」

『わ、分かった! やってみる!』

「ただしこれは今の段階で分かっていることです。隠された能力もあるかもしれませんからお気をつけて」

『了解だ!』

 通信を終えて再び画面に目をやると私のアドバイスを早速生かして戦い始めていた。フェイントを入れたり、後ろに回り込んだり、高速で旋回したりととにかく引っ掻き回す戦法を取っています。『白式』の機動力があればこそ、ですね。

 それ以降は明らかに凰さんの撃つ場所がずれています。これならあの射撃はもう当たらないでしょう。意識の外って結構難しいと思うんですけど、これも一夏さんの才能でしょうか?

 ただやはり決定打がありません。近づけないんです。

 凰さんは時折接近戦を行ってきますがそれもほとんど反撃されないタイミングで切りかかってくるし、反撃しようとするとやはり間合いの外に出て衝撃砲を撃つ。

「消耗戦ですわね」

「ああ、長引きそうだ」

「はい」

 お二人の言うとおり、消耗戦になれば『白式』は特性のせいで不利です。そうなれば……

「いや、そうでもないぞ」

「「「え?」」」

 私たち三人の言葉を織斑先生が否定しました。

「織斑君、何かするつもりですね」

 ずっと画面を見ている山田先生が呟きました。一夏さんは先ほどの戦法を取りつつも一定の距離を保とうとしています。
 私たちとの訓練の時あんな動きしませんでしたよ?
 何故そんな動きをするのか考えていると、その疑問に織斑先生が答えてくれました。

「瞬時加速(イグニッション・ブースト)だろう。私が教えた」

「瞬時加速?」

 ええっと、確か本国で訓練しているとき聞いたような……

「一瞬でトップスピードを出し、敵に接近する奇襲攻撃だ。出しどころさえ間違わなければあいつでも代表候補生と渡り合える。ただし……通用するのは一回だけだ」

「あっ!」

 思い出しました。確か後部スラスター翼からエネルギーを放出、それを内部に再度取り込み、それを圧縮して放出することで、一瞬で最高速へと到達する加速方法。

 なるほど、『雪片弐型』のバリア無効化攻撃を確実に当てるための『瞬時加速』。
 決まれば必殺の組み合わせですけど、一度でも失敗すると相手にそれを警戒させてしまいます。絶妙な距離と相手の次の動きを読めていないと出来ない芸当ですね。
 それこそ動物的勘と言い換えてもいいくらいに。

 しばらくは回避に徹していた一夏さんがアリーナの地面ギリギリを旋回し始めます。外れた衝撃砲の弾丸が地面に当たった瞬間、一夏さんが更に加速して凰さんの視界の死角へ入り込みました。
 舞い上がった砂煙のせいで凰さんが一夏さんを見失い、探すために一瞬動きが止まる。

 仕掛けるなら今しかない!

 私がそう思った瞬間『白式』が猛スピードで『甲龍』に突っ込みました!

「決まった!」

 箒さんが叫びました。間違いない。絶妙な間合いで凰さんも反応が間に合っていません。
 これこそ確実に決まったと誰もが思わずにいられなかった。


ズドオオオオオオオオオ!!!!!


 すさまじい衝撃と轟音が管制室まで響き渡りました。

「ひゃう!」

 アリーナの一部が……爆発!?

 管制室に緊急事態を知らせるアラームがけたたましくなり響き、部屋の中が非常灯に切り替わります。

「な、何? 何が起きましたの!?」

「一夏!」

「システム破損! 何かがアリーナの遮断シールドを貫通してきたみたいです!」

 山田先生が状況を簡潔に知らせてくれましたけど……
 シールドを貫通!? そんな馬鹿な!
 IS学園に攻撃をしてくるなんてそれこそ世界に喧嘩を売るのと同等のことを誰が!?
 いえ、それ以前にアリーナのシールドはISと同じものを使っているはずですよ!? そのシールドを突破って……

 そんなことを考えていると織斑先生がマイクを取って緊急事態を告げました

「試合中止! 織斑、凰! 直ちに退避しろ!」

 物凄い判断力です。この人が一介の教師なんて信じられません。引退したとは言え流石世界の頂点に立った人です。

「アリーナ中央に……所属不明機を確認!? 織斑君と凰さんがロックされてます!」

「そ、そんな!?」

 山田先生が焦った声を上げ、箒さんも信じられないと叫びます。
 実際私も信じられません。この場で冷静なのは織斑先生くらいです。
 未だに砂煙の中にいるはずの所属不明ISからアリーナにいる二人に攻撃が飛んでいきます。

 あのピンク色の……ビーム兵器!?

 一夏さんが当たりそうになった凰さんを抱えて何とか回避しました。
 ほっと胸を撫で下ろした所に山田先生が今の攻撃の解析結果を伝えてくれます。

「ビーム兵器!? しかも……『ブルーティアーズ」の『スターライトmkⅢ』よりも出力は上です!」

「そ、そんなことが……」

 現在の採用されている最先端武装はイギリスなどのエネルギー兵器であり、まだビーム兵器の実用までは至っていない国が大半です。それなのにビーム兵器って!?
 煙が晴れゆく中、その機体の姿が見えました。

 それは……

「全身……装甲?」

 ISにはほとんど見ない全身装甲(フルスキン)タイプ、異形の黒いISでした…… 
 

 
後書き
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