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モンスターハンター 〜故郷なきクルセイダー〜

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霊峰編 決戦巨龍大渓谷リュドラキア 其の十


 ラオシャンロンの突進により、木製の城塞ごと吹き飛ばされてもなお、そこに居たソラン達は屈することなく老山龍の背を追い続けている。防具もほとんど崩壊している満身創痍の身でありながら、彼らはそれでも歩みを止めていない。

 だが、彼らとて1人の生身の人間。何の希望もないのに、そこまでの気力を振り絞れるわけではない。
 城塞を破壊されてもなお、彼らにはまだ「一縷の望み」があったのだ。

「撃龍槍だ……! 撃龍槍さえ撃ち込んで仕舞えば、いかにラオシャンロンと言えどもタダでは済まないッ……!」

 その望みとは――城門の前に設置されている、超大型モンスター迎撃用兵器「撃龍槍」のことであった。
 蒸気機関により作動する巨大な4本の槍。古くからラオシャンロンに対抗するために用いられてきたその槍を使えば、必ず撃退に成功するはず。

 そこに最後の希望を託して。ソラン達は軋む身体に鞭打ち、軋む身体を引き摺るように走り出して行く。
 折れていない骨の方が少ないのではないか――という思いが過ぎるほどの重傷でありながら、彼らは痛みという本能すらもかなぐり捨て、ただひたすらに前進して行く。

「ま……不味いわッ……! あいつ、もう城門を攻撃してるわよッ!?」

 ――だが、精神が肉体の限界を超えることは叶わないのだ。ジェーン達がようやく城門に辿り着いた時には、一足早くそこに到達していたラオシャンロンが、攻撃を始めていたのである。
 しきりにその巨躯を城門に打ち付け、聳え立つ岩壁をも揺るがして行く老山龍。彼の巨龍の体躯が齎す絶大な破壊力は、堅牢なる最終関門の城塞すら、容易く打ち砕こうとしていた。

「あれは……ギルドから派遣された防衛要員!? 全員、落石に巻き込まれているのか!」
「そんなッ……! このままでは、やられる一方でしてよッ!?」

 城門付近に常設されている大砲での迎撃に徹していた、ギルドの防衛要員達。クサンテ達とは別にギルドから派遣されていた彼らは全員、ラオシャンロンの体当たりにより発生した落石の下敷きになっていた。

 この緊急事態に対応するべく急遽駆り出された彼らは、狩猟設備を取り扱う技量においては「カムラの里」に居る里守達には大きく劣る。ブリュンヒルトの出資により集まった彼らだが、その技量はまだ付け焼き刃の域を出ないものだったのだ。
 ハンターでなければモンスターとは戦えない、という道理はない。だがそれは、相応の技量があって初めて成り立つ言葉だ。

 辛うじて一命は取り留めているようだが、このままでは防衛戦の続行はおろか、命すら危うい。当然、撃龍槍のスイッチを叩きに行ける状態ではない。

「くそッ……! とにかく撃龍槍だ! まずは奴の攻撃を阻止せねば、救助活動もままならんッ! 急ぐぞ皆ッ!」

 アルター達は軋む身体にさらなる無理を強いて、城門の最上部にある撃龍槍のスイッチに向かおうと、そこに繋がる梯子に手を掛ける。だが、ラオシャンロンの体当たりによる衝撃に揺さぶられてしまい、上手く梯子に掴まることが出来ない。

「や、ヤバいッ……! もう門が壊されちゃうわッ! このままじゃ、撃龍槍を使う前にッ……!」

 その間も、老山龍が齎す災害の如き衝撃により、城門に走る巨大な亀裂はますます広がっていた。動揺しているリリィベルの言葉通り、このままでは最後の希望である撃龍槍が使えないまま城門が破壊されてしまう。

 ――その時だった。

「……待たせたな、お前達ッ! 我々もこれより、この城門の防衛に当たるッ!」
「エレオノール……!? それに、皆っ……!」

 彼らよりもさらに重傷を負っている満身創痍のエレオノール達が、この城門に繋がる別の通路から飛び込んで来たのである。深手を負いながらもドスイーオスの討伐を果たした彼らは、休息を取る間も惜しんで急行して来たのだ。

「ちょっ、あんた達……! 砲撃の手を止めてまで、一体今まで何してたのよッ!?」
「弾薬庫を上位種のドスイーオスが塞いでやがったんだよッ! おかげで砲弾の供給が追い付かなくてこのザマだ……! ここまで攻め込まれちまったからには、この最終防衛線だけでも守り抜くしかねぇってこったッ!」

 その先陣を切るアーギルは全身を襲い続ける痛みにも構わず、悲鳴を上げる足にさらに鞭打ち、城門の最上部へとよじ登って行く。老山龍の体当たりによる激震に何度揺さぶられても、その手は決して離れない。

「いい加減に……くたばりやがれぇえぇッ!」

 そして――今度こそ眼前の城壁を打ち砕いてやろうと、ラオシャンロンが大きく巨躯をくねらせた瞬間。
 ついに最上部へと辿り着いたアーギルが、ピッケルを振りかぶり撃龍槍のスイッチを渾身の力で叩く。

 刹那。城門の側にある「穴」から、4本もの巨大な槍が飛び出し――迫り来るラオシャンロンの全身に突き刺さるのだった。
 己の巨体に勢いを乗せた、老山龍の体当たりを迎え撃つかのように。この戦いに参加した全てのハンター達の希望を背負う、その槍の一閃が決まった瞬間。

「やったか!?」

 狩人達は険しい表情で声を上げ、その拳を震わせる。心の奥底では、理解していたからだ。

 ――まだ、終わりではないのだと。
 
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