モンスターハンター 〜故郷なきクルセイダー〜
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霊峰編 決戦巨龍大渓谷リュドラキア 其の九
前書き
◇今話の登場ハンター
◇ソラン・ハーシャル
「伝説世代」の1人であるナディア・ゴーシュの後輩であり、負傷により引退した同期の無念を晴らすために強さを追い求めている、寡黙な青年。武器はデルフ=ダオラを使用し、防具は増弾のピアスとグラビドDシリーズの混合装備を着用している。当時の年齢は19歳。
※原案はエイゼ先生。
◇イヴ・オーマ
「伝説世代」の1人であるシン・オーマの妹であり、兄に対しては強烈なコンプレックスを抱えている女ハンター。武器はアルクセロIを使用し、防具はリノプロシリーズ一式を着用している。当時の年齢は19歳。
※原案はカイン大佐先生。
◇ブリュンヒルト・ユスティーナ・マルクスグラーフィン・フォン・ホーエンブルク
ギルドに出資している大貴族の当主であり、自らもハンターとして前線に出ている、高貴にしてワイルドな美少女。武器はカムラノ鉄弓を使用し、防具はギルドクロスシリーズ一式を着用している。当時の年齢は16歳。
※原案はG-20先生。
ラオシャンロンの急速な侵攻により破壊された、木製の城塞。その残骸の山を自力で突き破り、老山龍の背を追い続けるハンター達は皆、殺意にも似た苛烈なる闘志をその双眸に灯していた。
例え防具がその意味を成さなくなるほどにまで損傷していようとも、彼らは躊躇うことなく歩みを進めている。理由は各々違えど、老山龍を討ち上位に昇格する――という目的だけは共通しているからだ。
「俺は……こんな、ところで……屈するわけには、行かないんだッ……!」
その1人であるソラン・ハーシャルも、デルフ=ダオラを杖代わりにしながら身を引き摺るように歩み続けている。グラビドDシリーズの防具はほとんど崩壊している状態だが、増弾のピアスを付けている彼の眼は、それでも闘志の炎を燃やし続けていた。
かつては「伝説世代」の1人であるナディア・ゴーシュの後輩として、ポッケ村に所属していた過去を持つ彼には――決して負けられない理由があるのだ。
(サリア……俺は、絶対に諦めないからなッ……!)
同期の中でもトップクラスだった少女――サリア・フローティア。彼女と共にポッケ村で活動していたソランはある日、G級相当の「炎王龍」テオ・テスカトルに襲撃され、サリアと共に瀕死の重傷を負ってしまった。
幸いにも、事態を察知して駆け付けて来たナディアによって炎王龍は撃退され、2人は辛うじて一命を取り留めたのだが――特に傷が深かったサリアは、引退を余儀なくされたのである。
(サリア……君とはもう、一緒に冒険することは出来ないけれど……せめてあの頃のように、心から笑ってくれるようになって欲しい。だから、あの炎王龍だけは……アイツだけは、俺が狩る! 俺達が、前に進むためにッ……!)
上位昇格の試験に臨むべく、ポッケ村からドントルマに発つ前日。メランジェ鉱石をベースとする婚約指輪をサリアに贈った時から、彼はその心に決めていたのだ。
「伝説世代」のナディアでさえ仕留め切れなかった炎王龍。その討伐を果たすまで、胸を張って彼女の元には帰れないのだと。
「……おっ、と。気負うのは勝手だが、まだ戦いは続いているんだ。こんなところで倒れている場合じゃないぞ、ソラン」
「あぁ……済まないな、イヴ。しかし、君が女性だと知った時は驚いたよ。あの『伝説世代』のシン・オーマの妹君だったことにもな」
アルクセロⅠを背負いながら、そんな彼に肩を貸している、リノプロシリーズの防具を纏う女性――イヴ・オーマ。「伝説世代」の一角であるシン・オーマを兄に持つ彼女は、ソランの言葉に顔を背けながら不遜に鼻を鳴らしていた。
「別に……自分が男だと言った覚えは無いぞ。それに……今の自分はオーマ、ただのオーマだ」
「そうか……そうだったな」
兄への憧れと劣等感故に、「伝説世代」の妹という色眼鏡で見られることを嫌っている彼女は、普段からリノプロシリーズのずんぐりとした防具で全身を覆い尽くしている。そのため、女性であることすら仲間達にもほとんど知られていなかったのだ。
母譲りの赤い長髪に、年齢以上のグラマラスな肉体。兜や鎧の下に隠された、その女性らしい真の姿を知っている者は、特に親しい仲であるソランを含めてごく僅かだ。
「それにしても……さっきの『訛り』、久々に聞いた気がするな。いつ聞いても素朴な響きで、可愛らしいものだ」
「……お前、いつかサリアに刺されても知らんぞ。この生粋の女誑しめ」
兄譲りの「訛り」を指摘された彼女は、半壊した兜の下で可愛らしく頬を膨らませている。素顔がほぼ露わになっている今ならば、きっとこれから多くの仲間達が、彼女の美貌を知ることになるのだろう。
――そして。木製の城塞で迎撃に当たっていたガンナー達の中で、最も深傷を負っている身でありながら。なおも気品に溢れた佇まいと優雅な笑みを維持している1人の美少女が、額から滴る鮮血にも構うことなく、そのわ口角を吊り上げていた。
「……ふふふっ。さすがは私と共に、このクエストに臨んで下さった強者の皆様ですわ。それでこそ、このホーエンブルク辺境伯……ブリュンヒルト・ユスティーナの同期! 実に誇らしい限りですことッ!」
ハンターズギルドに出資している大貴族の当主でありながら、自らもハンターとして前線に出ている、高貴にしてワイルドな女傑――ブリュンヒルト・ユスティーナ・マルクスグラーフィン・フォン・ホーエンブルク。
その華奢な身体で背負っているカムラノ鉄弓も、ギルドクロスシリーズ一式の防具も、すでに傷だらけだというのに。それらを纏っている彼女自身は、傷も汚れも一切顧みることなく、大貴族としての気高い笑みを浮かべているのだ。
「あぁ、情けなや情けなや……! 老山龍ともあろう者が、下位ハンターすらも殺し切ないとは! これは私達の手で、然るべき引導を渡すより他ありませんわねッ!」
狩猟は単なる「趣味」。そう公言して憚らない彼女が、それでもこの大事件に自ら先陣を切って参加しているのは――命を賭けてモンスターに挑み続けている、全てのハンター達への「敬意」故のことなのである。
この場に居る誰よりも、傷だらけだというのに。煌びやかなギルドクロスシリーズも、見る影もなくボロボロになっているというのに。それでも彼女の絶対的な気品と美しさは、微塵も損なわれてはいない。
痛みも苦しみも決して表に出すことなく、仲間達を懸命に鼓舞するブリュンヒルトの勇姿は――どんな装飾よりも、彼女の美貌を艶やかに彩っている。
「さぁソラン様、イヴ様……立ち止まっている暇はありませんのよ! 我々ハンターに必要なのは、『前身』の2文字のみですわッ!」
「……ブリュンヒルトはこんな時でも相変わらずなんだからなぁ。敵う気がしないよ、全く」
「あの強さで『狩りは趣味』だと言われたら、私達の立つ瀬が無いな……」
どんな状況下でも決して折れない、不沈艦の如き女傑。そのオーラに当てられたソランとイヴは、顔を見合わせてため息をつきながらも――ブリュンヒルトからの「刺激」を受けて、己の眼にさらなる輝きを灯していた。
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