ウルトラマンカイナ
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過去編 ウルトラピルザファイト
前書き
◇今話の登場ウルトラマン
◇ウルトラマンピルザ
別次元の地球を守護している宇宙警備隊の一員であり、遥か遠くの世界から新人ウルトラマン達を見守っていたシルバー族のウルトラ戦士。初代ウルトラマンを想起させつつも非常に恰幅の良いボディの持ち主であり、得意とする防御技は巨大なバリヤーを形成するピルザウォール。
※原案はリオンテイル先生。
テンペラー軍団が地球に襲来し、この次元における「6兄弟」との決戦が始まった運命の日から、約5年前。
怪獣や宇宙人による侵略が活発化し始めていた、この当時。ウルトラマンカイナに続き、地球を守護していたウルトラアキレスこと暁嵐真は――最大のピンチを迎えていた。
『くそッ! こいつッ……俺のパワーでもびくともしないなんて、一体どんな重さなんだよッ!』
巨大な2本の角を備え、のしのしと緩慢な動作で山岳地帯を進行している巨大な怪獣。「メガトン怪獣」の異名を取るその怪獣――スカイドンは、アキレスに角を掴まれながらも全く意に介さず進み続けている。
2本の角を握り締め、押し返そうと踏ん張るレッド族の巨人は、20万tという規格外の重量を前に完全に押し負けていた。アキレスの足元は土や岩を抉るばかりであり、スカイドンの進行を全く阻止出来ていない。
BURKの戦闘機隊も上空から激しく爆撃しているのだが、どれほど頭上から爆弾を落とされても、当のスカイドンは何の反応も示してはいなかった。
「クソったれ……! 20発以上の爆弾を叩き込んだってのに、傷一つ付いてねぇなんてッ……!」
「隊長、このまま奴の侵攻を許せば街が……!」
「分かってらァッ! 畜生め……! アキレスのパワーでも押し返せないような怪獣なんて、一体どうしろってんだよッ……!?」
上空からその戦況を見詰めていた弘原海隊長と駒門琴乃は、スカイドンの進路上にある都市に目を向け、焦燥を露わにしていた。
アキレスやBURKに対する攻撃の意思を示していないスカイドンは、一見すれば無害なようにも見えるが。ただ前進するだけで地響きを起こすその巨体を放置しては、周辺の市街地に甚大な被害を及ぼしてしまうのだ。
特に、アキレスの背後にある市街地への侵入を許せば、街はスカイドンによって踏み荒らされてしまうことになるだろう。その時の物的、人的被害の大きさは計り知れない。
地球人類の守護を担うBURKとウルトラマンの誇りに賭けて、この怪獣だけは絶対に阻止しなければならないのだ。
その焦りゆえに勝負を急いだアキレスは、敢えて一度、角から手を離して距離を取ると。左腕のブレスレットから、三又の槍――「ウルトライデント」を顕現させる。
『これで……どうだァアッ!』
そして、勢いよくスカイドンの眉間目掛けて投げ付けたのだった。三又の切先は怪獣の角をへし折り、そのまま顔面に突き刺さって行く。
だが。悲鳴を上げながらも侵攻を止めようとしないスカイドンは、自分に痛手を負わせたアキレスをついに「敵」と認識したのか。怒りの咆哮を上げると、凄まじい火炎放射を浴びせて来た。
『うおわぁああッ!?』
直撃すれば、アキレスの全身を固めるプロテクターすらも溶かしてしまうほどの火力。その勢いを目にしたアキレスは、咄嗟に横に転がり退避する。だが、炎は地を転がるレッド族の巨人を執拗に追いかけていた。
(やられるッ――!?)
回避すら間に合わないほどの速さで迫る炎に、アキレスは死を覚悟する。
だが、次の瞬間。
『ピルザウォールッ!』
『……ッ!?』
炎からアキレスを庇うように現れた巨大な影が、彼の視界を塞いだかと思うと。炎の勢いは、謎の声の主が発生させたバリヤーによって、完全に防がれてしまうのだった。
『フッ……どうやら今回ばかりは、この私の手助けが必要だったようだな!』
『あ、あなたは……!』
やがて出し尽くされた炎が消えて行き、役目を果たしたバリヤーも霧散して行く。そして、その防壁を作り出していた「シルバー族の巨人」の勇姿も、ついに露わになるのだった。
「あれは……! アキレスと同じウルトラマン……なのか!?」
「いえ……しかし、あの姿は……!?」
だが、上空を飛行している戦闘機のコクピットからその姿を目撃していた弘原海と琴乃は――なんとも言えない表情を浮かべていた。
ボディの模様をはじめとする基本的な外観は、初代ウルトラマンに非常に近しい。だが、問題はその恰幅の良過ぎるボディにあった。
太い。凄まじく太いのである。間違いなくウルトラマンなのだが、ただひたすらに太いのだ。筋肉質かつ均整の取れている体型がほとんどであるウルトラ戦士の中において、そのシルエットは一際異彩を放っていた。
「……デブ過ぎない?」
それが、間一髪のところでアキレスの窮地を救った巨人――「ウルトラマンピルザ」に対する、弘原海と琴乃の第一印象であった。
一方、当のピルザ自身はそういう眼で見られることなど、とうに慣れているのか。地球人達の視線を気にすることなく、肩越しにアキレスの方を見遣っていた。
『久しぶりだな、アキレス! 見ない間に随分と立派になったようだが……少しばかり肉付きが足りていないようだな? 鍛えることはもちろん大切だが、しっかり食べることも忘れてはいかん! それでは一流のウルトラ戦士にはなれんぞッ!』
『ピ、ピルザ先輩は食べ過ぎなんですよ……』
『ハッハッハ、おいおい褒めても何も出ないぞ! 私の腹は出ているがな!』
かつての後輩の成長ぶりを豪快に喜ぶピルザは、微妙な反応を示しているアキレスの様子も意に介さず、ふくよかな腹をだぷんだぷんと揺らしている。一方、火炎放射を出し尽くしてしまったスカイドンは、ピルザを無視して進行を再開しようとしていた。
『あいつ、炎を切らしてるのにまだッ……!?』
『なるほど、スカイドンか……確かに今のお前には荷が重かったかも知れんな。良かろう、ここは私に任せておくがいいッ!』
その様子を目にして立ち上がろうとしていたアキレスを片手で制すると、ピルザは得意げに腹を揺らしながらのっしのっしと歩み出し、スカイドンの前に立ちはだかって行く。
『ピルザ先輩、ダメです! そいつの重さはッ――!?』
身を持ってその圧倒的な重量を理解していたアキレスは、制止しようと声を上げるのだが。
彼が言い終えないうちに――ピルザは軽々と、20万tもの巨大怪獣を持ち上げてしまうのだった。自分より軽い怪獣を担ぐことなど、彼にとっては朝飯前なのである。
『う、うそーん……!?』
『……ふむ。この怪獣、どうやら元々地球人らに対する害意はなかったようだな。ならば、このまま宇宙に送り返してやるのが筋というものであろう! シュウゥワッチッ!』
その光景に瞠目するアキレスやBURKの面々を尻目に、ピルザはスカイドンを持ち上げたまま素早く地上を蹴ると、マッハ2.5という疾さで宇宙の彼方に飛び去って行く。
『ハッハッハ! 我が誇らしき後輩・アキレスよ! 君がこの地球を救えるような戦士に成長してくれる日を、心から楽しみにしているぞッ! ハーッハッハッハー!』
自分自身の重量に縛られないほどの膂力を持っているためなのか。スカイドンの巨体を、さも通常の怪獣のように持ち上げたまま翔ぶピルザの姿は、「動けるデブ」という一言に尽きるものであった。
「あんな外見であれほど速く飛べるのか……しかも、あの怪獣をああも容易く持ち上げてしまうとは……」
「でも……一体何だったのでしょう。あの異様に太いウルトラマン……」
「あぁ……何だったんだろうな、あの腹……」
嵐のように現れては去って行く。そんなピルザの立ち回りを目撃した弘原海と琴乃は、顔を見合わせて微妙な表情を浮かべていた。
それはアキレスも同様だったらしく、彼は紅い手で顔を覆いながら天を仰いている。
『……全くもう、いきなり来たかと思ったらすぐに帰っちゃって。見た目の割にフットワークが軽いのは、相変わらずなんだからなぁ』
助けられた礼を言う間も無く飛び去ってしまった先輩に、苦笑するアキレスは。ピルザが去っていった方向を見遣ると、その空に向かって手を広げ、自身も飛び上がって行く。
そして明日も、地球を襲う怪獣や宇宙人との戦いに臨んで行くのだ。ピルザが期待していた通りの、ウルトラ戦士に成長するために。
◇
その日から、約5年後。
数々の戦いを経て「一流のウルトラ戦士」へと成長したアキレスは、ついにテンペラー軍団との最終決戦に望むことになる――。
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