あらゆる惑星に生きる怪獣や異星人達の住処を破壊し、地球への「侵略」……という名の「逃亡」を招いたテンペラー軍団。この次元の地球における最大の脅威である、その軍勢が滅亡してから、すでに3ヶ月が過ぎていた。
『――では、次のニュースです。東京都、大阪府、兵庫県における復興事業の進捗について、政府は本日の作業を以て都市機能の9割が回復するという見解を示しており、多々良島及び竜ヶ森湖の観光施設が被った損害についても各国からの支援が――』
壊滅的な被害を受けた東京をはじめとする、戦場と化した都市の機能は現時点で9割近くも回復している。早ければ来月には、全ての都市が「元通り」になる見通しだ。
アメリカ支部をはじめとする、5ヵ国のBURKによる全面援助がなければ、これほどの早さにはならなかっただろう。そのニュースを報じているラジオの声にも、希望の色が滲んでいた。
皮肉なことに、6年間にも及ぶ戦争で得た修復作業のノウハウが、迅速な復興に一役買っていたのである。駒門琴乃隊長を筆頭とする新生BURKが主導しているその事業は、戦闘の余波で職や住まいを失った人々を救うための新たな雇用を生み出していた。
「オーライ、オーラーイ! ……ふぅっ、早く終わらせて一杯やりてぇぜ」
「ぐちぐち喋ってばっかりだと、いつまで経っても終わらねぇぞー!」
「わかってらァ!」
休む暇などない激務の日々。それでも仕事の終わりには、笑顔が広がっている。戦争という悲惨な歴史を目の当たりにしてきた記憶が、人々をそうさせているのかも知れない。
あの絶望の淵に比べれば、どうということはないのだと。この平和を掴み取るため、散っていったBURKの隊員達を思えば、へこたれてはいられないのだと。
「……逞しいな、この星の人々は。一度はウルトラマンになった身だからこそ、そう思うよ」
「えぇ……俺達もです」
そんな彼らの逞しさが垣間見える、作業現場を見上げながら。復興作業の最中である、東京の街道を歩む5人の青年達は、歌舞伎町の外れにあるという小さな喫茶店を目指していた。
「それにしても、5人全員が休日だったなんて珍しいこともあるもんだなぁ。雄介達も元気そうで良かったよ」
「嵐真先生も御壮健で何よりです。確か辻凪先生は、今日が当直でしたかな?」
「あぁ。帰りに何か美味いもん買って、差し入れにするよ。……『新作』がバズってるみたいだし、近いうちにお祝いもしないとなぁ」
椎名雄介の言葉に空を仰ぐ暁嵐真は、今も小学校で仕事に励んでいる同僚の女性に思いを馳せている。その女性――辻凪あやめがネットで公開した「新作」のWEB漫画は、SNSで密かに人気を集めているらしい。
「分析官殿。来年の慰霊祭には、俺も参列致します。……此度の戦いに身命を賭したBURKの方々の御霊には、俺からも感謝を捧げたい」
「尊……ありがたい限りだが、その気持ちだけ貰っておこう。今のお前は『世界最優のボディガード』として、引く手数多な身だ。身辺警護課の人間ならば、今生きている人々のために時間を使え。彼らへの感謝なら、俺が纏めて持って行く」
「分析官殿……」
テンペラー軍団との戦闘で命を落とした、BURKの隊員達。その慰霊碑に眠る魂を思い、覇道尊は神妙な表情を浮かべていた。
「ウルトラマンの依代だった俺達は、『人』でありながら『神』であることを求められていた身だ。確かにその重荷は、ただの人間に戻ったからと言って容易く降ろせるものではない。……だからこそ、俺達『兄弟』が分かち合わねばならんのだ」
「……ありがとうございます、分析官殿。あなたがそう仰るのであれば、俺は従うのみです」
「これくらい言わねばならんような男であることは、今さら分析するまでもないからな。……お前はやはり、独りで背追い込み過ぎる」
そんな彼も雄介の言葉に心を救われたのか、普段の仏頂面に反した笑みを僅かに零している。
「そうそう。三蔓義先生のおかげで、部下の人達も無事に退院できたことですし。肝心な時に尊さんがいないと、皆も困っちゃいますって。今度の休みは大阪で、皆にたこ焼き奢ってあげるんでしょう?」
「……ふっ、確かにな。お前の言う通りかも知れん。しかし要、今日はあの猫島という娘との予定があったのではないか?」
「今度のコミケに全日付き合うなら許す、って言われちゃいましたよ。またコスプレさせられるんだろうなぁ、俺……」
彼を励ましている八月朔日要も、猫島菜緒との「約束」の内容に肩を落としていた。彼の夏休みは、過酷な宿命を帯びてしまったらしい。
「ま、まぁまぁ。俺もネットで見ましたけど、要さんのコスプレって結構イケてたじゃないっすか。去年の銃剣男子コスも好評だったみたいですし、俺はカッケーって思いますよ」
「……じゃあ磨貴、お前も来るか? あの茹だるような炎天下の会場にさ」
「お……俺は遠慮しときます」
その地獄を知る者ならではの目には、フォローしていた荒石磨貴もたじろいでいる。この後、彼もカメラマン役に連れ出されてしまったことは言うまでもない。
「……はぁ。せめて嵐真先生達みたいに足が長けりゃあ、もうちょい映えるんだろうけどさ……」
「心配するな、要。そのコミケ……とやらのことはよく分からんが、お前はどのような格好でも男前だ。俺が保証する」
「あーもう、尊さんまで茶化さないでくださいよ!」
「茶化してなどいない。俺は本気で言っている」
「なおタチ悪いんですけど!」
「ははっ、要も青春してるなぁ。……思えば、この6年間の中にもそんな『息抜き』があったから、俺達もここまでやって来られたのかもな」
「嵐真先生。そのような甘いことを仰っていては、また巻き込まれてしまいますよ。……磨貴。先に言っておくが、今年はお前がカメラマンだ。俺達はもうやらんからな」
「えぇーっ!? 雄介さん、そりゃあないっすよッ!」
そんな他愛のない言葉を交わし、笑い合いながら。かつてウルトラマンという「神」だった男達は、束の間の休日を穏やかに過ごしていた。
「ねぇ見て、あそこの5人……レベル超やばくない?」
「映画の撮影かな? でも、雑誌とかでも見たことない顔だよね……?」
「写真撮ったら怒られるかな?」
「あんた、ちょっと声掛けてきてよ」
「やだよぉ、ホントに撮影だったらマジで恥ずいやつじゃん」
「ていうかあそこの1人、去年のコミケにいなかった?」
カジュアルな私服に袖を通した彼ら5人は、その颯爽とした容姿もあり、すれ違う女性達の視線を絶えず集めている。だが、それは彼らが美男子だからという理由だけではない。
他の男達とは、全ての「格」が違う。理屈ではなく本能で、そう感じさせるほどの「何か」が、女性達の視線を無意識のうちに集めていたのである。
「……!」
彼らとすれ違った、とある巨乳美女達も。その「何か」を本能で感じ取り、豊穣な乳房を揺らして振り向いていた。
アメリカ支部の戦闘機隊隊長、アメリア。ロシア支部の戦車隊隊長、イヴァンナ。中国支部の爆撃機隊隊長、凛風。イギリス支部の艦隊司令官、オリヴィア。そして、フランス支部の歩兵隊隊長、エレーヌ。
彼女達5人は互いに顔を見合わせて、その瞳に「女」としての「本能」を滲ませている。強く逞しい男の遺伝子を欲する、「女」としての「本能」を。
「ねぇ、イヴァンナ。さっきの男達……」
「……あなたも感じていましたか、アメリア」
「めちゃくちゃ男前な連中だったわね、さっきの奴ら。……でも、なんだろう。それだけじゃないような……」
「アメリア様もイヴァンナ様も、凛風様も……なのですね。実は私も、あの人達のことが気になっていて……」
「い、一体……どうしたというのでしょう。あの人達を見ていると、胸がどんどん……高鳴っていくのです」
今まで、誰の甘言にも耳を貸したことがない「鉄の女」だったはずの彼女達は。嵐真達の横顔に「面影」を重ね、頬を染めていたのである。
かつて自分達の祖国を、怪獣の脅威から救い。3ヶ月前の決戦においては、共にテンペラー軍団とも戦っていた、ウルトラ戦士達の「面影」を。
◇
やがて青年達は狭い路地の奥に進み、ひっそりと開店の日を迎えていた喫茶店の姿を目にする。「カフェ・アルティメットファイヤーウルトラバークワダツミ」と書かれたその店前の看板に、5人の青年達は苦笑を浮かべていた。
「……よぉ、久しいな。お前ら」
扉を開けた先では、すでにコーヒーを淹れ始めていた店長が不敵な笑みを溢している。数多の死線を潜り抜けてきた者にしかできない、優しげでありながらも鋭さを秘めた笑顔だ。
「弘原海隊長、お久しぶりです。……相変わらず、ネーミングセンスは壊滅的ですね」
「本当ですよ。何なんですか、アルティメットファイヤーウルトラバークワダツミって」
「普通、喫茶店にそんな物騒な名前付けます?」
「……お前らなァ、再会早々に文句ばっかり並べるんじゃねぇよ。それに、俺はもう隊長じゃねぇって何度も言ってんだろうが」
「その割には、看板の主張が激し過ぎるのですが」
開店祝いを兼ねて、とある「報告」のために訪れた5人の英雄。そんな彼らの戦いを支え続けてきた、歴戦のBURK隊長……だった男は、ため息混じりに鼻を鳴らしていた。
「それに、今さら他の呼び方なんてしっくり来ませんよ。……そうですね、強いて挙げるなら『おやっさん』なんてどうでしょう」
「いいな、俺も同意見だ。よし、今後はその呼称で統一するとしよう」
「急速に馴れ馴れしくなりやがって……俺本人の意向は無視ってかぁ? へっ……まぁ、おやっさんってのも悪くはねぇがよ」
ウルトラマンと一体化し、共に命を賭け地球を守るために戦う。そんな過酷な宿命を背負いながらも、最後まで投げ出すことなく超人としての責務を完遂した彼らは、弘原海にとっては息子同然の存在であった。
そんな彼らから、「おやっさん」と呼ばれるようになる。口先では文句を言いつつ、そんな第2の人生も悪くないと、弘原海は微かに笑みを溢していた。
自分達にとっては父のような存在だった、弘原海のその横顔を一瞥する嵐真は。他の4人と頷き合うと、1枚の手紙を彼の前へと差し出す。
「……これ、弓弦さんからです。今日は復興現場が忙しくて来れなかったみたいですけど、そのうちここにも『挨拶』に来ると思いますよ」
「あぁ、そうかい……じゃあ、今度会ったら祝いに1発ぶん殴ってやらなきゃな。お嬢様を……若奥様を、よろしく頼むってよ」
その手紙を開いた弘原海は、僅かに涙ぐみながらも朗らかに口元を緩めていた。華やかなウェディングドレスに彩られた風祭梨々子と、その隣に立つ風祭弓弦の写真が、2人の幸せを艶やかに写し出している。
まるで愛娘の晴れ舞台を想像しているかのような彼の涙に、5人の青年達も目を見合わせて微笑を浮かべていた。
――この次元における、ウルトラマンと侵略者達との戦いは、完全に終結したのかも知れない。
だが、これから何年も、何十年も、何百年も、何千年も。地球の平和を守り抜くための、人間達の物語は続いて行くのだ。
それを紡いで行くことができるのは、この星で暮らす地球人達だけなのだから。
『……シュワァッ!』
それ故に。遥か上空から地球人達の営みを見守っていた6人のウルトラマンは、未練を振り切るように宇宙の彼方へと飛び去って行くのだった。
今回の戦果を認められ、正式に宇宙警備隊へと入隊した彼らは、これから様々な惑星に派遣されて行くことになる。もう、この地球に現れることはないだろう。
ここから先の「物語」に、ウルトラマンの力が求められることはない。これからの未来は、人間達の力でしか築き上げられないのだ。
それを理解していたからこそ。彼ら6人も、地球から旅立つ道を選んだのである。
『……ありがとう、ユズル。ありがとう、皆!』
そして、その筆頭であるウルトラマンカイナは。風祭弓弦をはじめとする全ての地球人に、別れの言葉ではなく――感謝の思いを、告げるのだった。
◇
「しかしおやっさん、このコーヒーほんっとに不味いですね」
「逆にどうやればここまで不味く出来るのですか」
「最優先すべきはバリスタの雇用では?」
「よくこれで営業許可が降りましたね」
「シンプルに不味いっす」
「……帰れお前らァアァア!」
今回の特別編「ウルトラカイナファイト」はこれにて完結となりました!(*≧∀≦*)
本章を最後まで見届けてくださった読者の皆様! おかげさまで、ウルトラマンカイナを巡る物語も真の完結を迎えることが出来ました! 誠にありがとうございます!(๑╹ω╹๑ )
この次元の地球におけるウルトラマンの英雄譚は終焉を迎えましたが、別の次元では他のウルトラマン達がこれからも頑張っていくのでしょう。私も今後は読者側として、色々なウルトラ小説を読んでいければなーと思っております(о´∀`о)
次回作については今のところ特に予定はないのですが、またこういう企画を開催できる機会がありましたら、お気軽に遊びに来て頂けると幸いです(*´ω`*)
ではではっ! またいつか、どこかでお会いしましょう〜。失礼しますっ!٩( 'ω' )و