昔の男
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第二章
「私は私で」
「そう言うのか」
「お母さんは今盲腸で入院してるしね」
「ここで母さんに頷いて欲しいならか」
「お母さんが退院してからね」
「それからか」
「そうしてね」
父に素っ気なく言った。
「悪いけれど」
「悪いと思っていないな」
「どうしてそう思うの?」
「その手にあるのは何だ」
スマートフォンを持っていることを指摘した。
「一体」
「だって友達とラインで話してるから」
「それでか。お前もデジタルか」
「悪い?」
「世の中今はそうか」
「これ位出来ないとね」
さもないと、とだ。娘は答えた。
「駄目だからね」
「それでか」
「だからお父さんもどう?」
「わしはわしだ、あとこうした時はビールだな」
父は飲む酒の話をした。
「それが何でワインだ」
「だってビール痛風になるから」
「それでか」
「そうなったら大変でしょ」
「仕事帰りで風呂から上がった後のビールのよさがわからんか」
「私飲まないからね」
それでというのだ。
「だからね」
「それでか」
「そう、そんなことわからないし」
「健康の為にか」
「そう、それでね」
「今は風情がないな」
「そう?あるでしょ」
娘の返事はまたしても素っ気ないものだった。
「今は今で」
「そう思うか」
「お父さんがそう思うだけでね」
「やれやれだな」
「というかそんな昔気質も流行らないでしょ」
「そう言うのか」
「もうね、ちょっとはデジタル化すればいいわよ」
こうも言うのだった。
「お父さんも」
「メールを送ったり相手先のサイトはチェックしているぞ」
「それをもっとね」
「それ以上必要か」
「さもないと課長さんにもっと馬鹿にされるわよ」
「そう言うか」
「馬鹿にされたくなかったらね」
自分よりずっと若い部下にというのだ。
「ちょっとは現代に適応した方がいいよ」
「仕事は脚じゃないっていうのか」
「そうかもね」
「なら見せてやる」
ワインをこれは違うだろと思いつつ飲んで言った。
「そのことをな」
「私に?」
「湯舟君にだ」
彼にというのだ。
「そうしてやる」
「そうするの」
「この世には変わらないものがある」
父は言い切った。
「それは何かというとだ」
「歩いてお仕事すること?」
「人と会って話してだ、ましてわしは入社して三十年だ」
それだけの歳月をというのだ。
「ずっとそうしてきた、そして経験もだ」
「積んできたのね」
「だからな」
それでというのだ。
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