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昔の男

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第一章

                昔の男
 この時中田善一は自宅でコップでワインを飲みつつ言っていた。
「全く、湯舟君ときたら」
「課長さん?」
「そうだ」
 娘の小雪に答えた、見れば長方形の顔で黒髪を短く刈っていて顔には皺が多くあり苦みばしった感じの顔立ちで小さな目で眼鏡をかけている。背は一七五程でしっかりとした体格であるが腹が幾分出ている。
「彼がまたこれからはだ」
「インターネットでっていうのね」
「メールだのアプリだので仕事をしていくとな」
「今はそうよね」 
 小雪は夕食の後枝豆を肴に飲む父に応えた、黒髪をロングにしておて顎の先が尖った面長の顔で目が大きくきらきらしている。唇はピンクで一五八程の背で地味な服装でも胸がかなり目立っている。肌はかなり白い。
「お仕事も。高校でもね」
「何だ、高校でもか」
「何かとね」
 小雪は父のコップにワインを入れつつ答えた。
「お家でもラインとかでお話するし」
「そうなのか」
「そうよ、今じゃ常識よ」
「そうか、しかしな」 
 父は焼酎を飲みつつ苦い顔で述べた。
「わしが高校大学の頃はな」
「その頃もうインターネットあったでしょ」
「いや、まだだ。就職してからだ」 
 父はそれはと答えた。
「そういうのが出たのは」
「そうなの」
「デジタル化とか言われる様になってな、二千年問題とかあってな」
「そういうのもあったの」
「しかしわしはこの足で歩き回って営業をしていってだ」 
 そうしてというのだ。
「今は営業部長だ」
「お仕事は動いてこそよね」
「書類仕事もある、しかし第一はな」
 何といってもというのだ。
「歩いて人と会ってだ」
 そうしてというのだ。
「それでやっていくものだ、しかし彼はな」
「課長さんよね」
「わしより十八も若いな」
「その人がなのね」
「いつも遅れてますねっていう煽ってくる笑顔でだ」
 それでというのだ。
「言ってくるんだ」
「今はデジタルだって」
「ネットを使いこなして仕事するものだってな」
「けれどお父さんは違うのね」
「だから仕事は脚だ」
 それだというのだ。
「歩いて人と会って話をしてな」
「やっていくものなのね」
「それは変わらない、ハイテクだの何だのだ」
 そうしたことはというのだ。
「わしは知らん、知りたくもない」
「頑固ね、お父さんも」
「ずっとそうしてきたからな、中学の時からな」
「野球部でもよね」
「そうだ、動いてどれだけだ」
 野球でもというのだ。
「全く、湯舟君のあのドヤ顔は見ているだけで腹が立つ」
「けれどお父さんが上司でしょ」
「上司でも腹が立つものは立つんだ」
「やれやれね」
「母さんはこうした時そうねと頷いてくれるんだがな」
 ここで父は娘にこうも言った。
「お前は違うな」
「お母さんはお母さんでしょ」
 娘の返事は素っ気ないものだった、見れば父の相手をしつつも自分の席でスマートフォンを触っている。 
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