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DQ3 そして現実へ…  (リュカ伝その2)

作者:あちゃ
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町も人も

<エコナバーグ>

「お待たせリュカはん!…けど、あまり時間は無いねん!仕事が溜まっててな………で、急にどないしたん?」
リュカ達が待つ別室へと現れたエコナは、申し訳なさそうに謝ると席に座ることなく話を続けた。

「うん…これと言った用事があるわけでも無いんだけど、この近くを通りかかったからさ…様子を見ておこうかなと思って……忙しい所ゴメンね」
エコナはタイロン老人と視線を合わせることなく、リュカだけと会話している。
「気にしてくれてありがとうな!ウチがお相手出来へんけど、町の様子を見て行ってや!特産物のないこの町を有名にする為、娯楽施設を仰山建てるつもりやねんけど、その1発目の劇場が半月前にオープンしたんや!是非楽しんで行ってや!」
そう言って立ち去ろうとするエコナ…
「エコナ待って!…話したい事があるんだが…」
「………忙しいんで手短に…」

「…爺さんから聞いたよ。町民を働かせ過ぎてるって!」
「た、確かに…町全体が忙し過ぎやけど、ちゃんと給料は払ってるで!労働に見合う金額を!」
「エコナ…金を払えば何をやっても許されるわけじゃない!人間には休息が必要なんだ…金が有ったって使う時間が無ければ意味がない!」

「そ、そないな事は分かってる!でも、今は重要な時なんや!今を乗り越えれば必ず余裕が出来る!…その時までの辛抱や!」
リュカは優しく諭す様に話しているが、エコナの口調は荒くなっている。
自身のやり方を変える気は無さそうだ。

「…確かにエコナの言う通り、今を乗り切れば余裕が出来るのかもしれない…でも、その『今』って何時まで続くんだ?…町民達は我慢できなくなっているんだよ」
「そな事言うても仕方ないやん!町を大きくして、この町に住む人々の暮らしを豊かにしたい!その為には、今頑張らなあかんねん!文句を言う連中は、先が見えて無いねん!ウチには責任がある!」

「エコナは町を大きくすると言う意味を勘違いしてるぞ!今エコナが行っているのは、ただ町の規模を大きくしているだけで、町の質を考慮していない!其処に住む人々の心も一緒に成長させなければ、遠くない未来にこの町は崩壊する!」
「な………!!ウ、ウチの苦労も知らんくせに偉そうな事言うな!ウチは忙しいんや!さっさと出て行け!」
そう叫ぶエコナは、リュカから逃げる様に町の視察へと出て行った。

「あ!?あ~あ………行っちゃった…」
「行っちゃったじゃないですよ!エコナさんが怒るのもムリ無いです……そりゃエコナさんに不満が集まっているのは分かります!…けど頑張っている人に、あんな言い方は酷いと思いますよ。エコナさんの苦労も汲んであげないと…」
呆然とエコナを見送るリュカに苦言を呈したのは、息子のティミーだった…

「それは違うわ、お兄ちゃん!エコナさんの努力が間違っているから、お父さんはエコナさんに注意を促したのよ!」
「努力が間違ってる…?そ、それはどういう…」
リュカは悲しい瞳でティミーを見つめ、溜息を吐いた…
そして重い口調で語り出す。

「町を育てるという事と、町の規模を大きくするという事とは、大きく異なるんだ…町の規模を大きくするだけなら、金さえかければ誰にでも出来る。建物を建てて、商店を誘致して、人々を呼び込めば自ずと町は大きくなるだろう…今、エコナがやっている様にね」
みんなの視線がリュカに集まる。
誰も口を出さない…静かにリュカの話を聞いている。

「町を育てるという事は、其処に住む人々と共に育たなくては意味がない!住民が必要としている物を造り、その為に住民が自らの意志で努力する…そうでなければ本当に住み易い町は出来上がらないんだ!町民が望まぬ物の為に、休む間も与えられず働く…果たして出来上がった施設を、町民達は好きになるだろうか?」
リュカは幼い10年間、奴隷としてセントベレス山の頂上で神殿建設を行わされていた。
奴隷から解放された今でも、リュカにとってあの神殿は嫌悪の象徴なのだろう。
「………だとしても、エコナさんは頑張っています!他人に丸投げして、一人サボっている何処かの国王とは違います!其処は評価するべきでしょう…父さんも、町民の皆さんも!」

(パシン!!)
「ティミー!貴方はリュカの事をそんな目で見ていたの!?」
突如ビアンカが立ち上がり、ティミーの頬へ平手打ちを喰らわせ叫ぶ!
「か、母さん…!?」
「ビアンカ、落ち着いて…ともかく座って…」
母に叩かれた左頬を押さえ呆然とするティミー…
そして涙を浮かべながら怒りを露わにするビアンカ…

リュカは二人を座らせ、優しく語り続ける。
「ティミー…憶えているかい?何時だったか、子供達全員でクッキーを作ってくれた時の事を?」
「…はい、憶えてます…」

「ふふ…じゃぁその時お前は、リュリュのクッキーをどのくらい食べてあげたんだ?」
リュリュのクッキー…
アルル達には何故その話題が出てきたのか分からない…
リュリュのクッキーが何なのか、皆目見当もつかない。

「………父さんの5倍は食べました」
「凄いな…あのクッキーをそんなに………じゃぁ次の質問だが、あのクッキーがポピーの作品だったら、お前は僕の5倍もの量を食べたかい?」
「いえ、ポピーの手作りだったら絶対に食べません!アイツに其処までしてやる義理はありませんから!」

「…お前…双子の妹なんだから、もう少し優しくしてやれよ………まぁいい…つまり、そう言う事だよ」
「はぁ?何がですか!?」
「エコナは町が大きくなる事を楽しんでるんだ!寝る間も惜しんで働いて、町が大きくなる事で喜びを得てるんだ。不味くても大好きなリュリュの笑顔を見たいが為に、お前がクッキーを食べ続けるのと同じ理由さ!…だが住民達は違う!町が大きくなる事よりも休息を欲しがっている…」
リュカは一旦口を閉じ、目を瞑り思いを馳せる。

「自らする必要のない苦労を勝手にして、それを認め敬えなんて都合(ムシ)が良すぎでしょ!他のみんなは休みを望んでいるのだから!そう思わない、お兄ちゃん?」
事態の深刻さを憂い悩む父に代わり、マリーが兄へと問いかける。

「エコナちゃんは実質この町の長よ!この町を牛耳っているのは彼女なのよ!上に立つ者は、常に皆の心に留意してなければならないの…民が何を望んでいるのかを把握し、そしてそれに応える様努力する。それが町長であり国王なのよティミー!貴方は知らないでしょうけど、貴方のお父さんはそれを実行しているわよ!」
母の厳しい口調に思わず父を見るティミー。

「リュカは常々城を抜け出し、市井の生活を観察してるのよ。そして民に気さくに話しかけ、国民の生活状況を把握し、何を求めているのかを理解しようと勤めてる!その結果、大臣や官僚達が推進する政策は遅らせてるけど、国民が望む政策は優先的に推し進めているのよ!貴方にはそれがサボっている様に見えてたの!?お母さんは悲しいわ…」
ビアンカの言葉にティミーは顔を上げられなくなる…
自分は父の事を少しも理解していなかった…
その思いが彼の心を重くする。

「お母さん、お兄ちゃんを責めちゃダメよ!結果的に国民の思いを理解する事が出来ただけであって、最初はサボってただけなんでしょうから!ね、お父さん!」
暗くなった雰囲気を、マリーの明るい声が塗り替える。
「まぁ…結果的にはそうなるかなぁ…」

「ほら!お兄ちゃんは最初の頃の行動だけを見て、サボっている物と思い込んじゃってるのよ!オジロンさんが常日頃から『あのボンクラまたサボって遊びに行きおった!』と、嘆いてるのを目の当たりにしているのも原因かしら?」
マリーが兄を気遣い、可愛らしく皆の心を軽くする。
ティミーもそれを理解し、苦笑いしながらマリーの頭を撫で感謝した。


「なぁ旦那…今此処で悩んでいても、あのネェちゃんが頑なになってるん、じゃどうしようもないだろう…ともかく今は気分を変えて、劇場にでも行ってみないか!?あのネェちゃんが躍起になって誘致したみたいだし…どんな物か見学しようぜ!」
「良いアイデアねカンダタさん!私も見てみたいし、劇場へ行きましょうよ!」
珍しく思い悩むリュカを気遣い、カンダタが気分転換を提案する。
そして同じくリュカが心配なハツキが、カンダタの案に便乗し観光する事を薦めた。

「良いねぇ!みんなでパーッとやりますか!」
リュカも皆が気遣ってくれてる事を察し、心配させぬ様に何時もの調子ではしゃいで見せる。
思い悩むのはリュカらしく無いから…
だから取り敢えずはしゃいで見せる。
それがリュカらしいから!



 
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