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DQ3 そして現実へ…  (リュカ伝その2)

作者:あちゃ
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歌う人

<エコナバーグ>

エコナの屋敷を出たアルル達は、町の状況を見回る様に歩き劇場を目指した。
途中、小さな道具屋の前でタイロン老人が別れを告げる。
「ワシ、疲れた…、お前達、劇場、楽しめ…、今日は、ありがとう」
そう言い残し、寂しそうな背中を向けアルル達から遠ざかって行く…
道具屋の中からは、老女が出てきて彼を優しく迎え入れる。
「奥さんかしら…?」
「愛人かもよ!」
「リュカさんとは違います!」

「いやいやアルル…あの爺さんも男だからねぇ………気を抜いてるとティミーも愛人作るよ!」
「「作りません!!」」
キレイに声を揃えるカップル!
そんな二人を尻目に、リュカ等は笑いながら劇場へと歩み出す。
皆に笑われた事に、多少憤慨しながらもアルルとティミーはリュカ達について行く…互いに手を繋いだまま。


辺りを黄昏が染める頃、アルル達は『エコナバーグ劇場』へと辿り着く。
入口から入ると中には受付があり、若い女性が快く迎え入れてくれた。
「いらっしゃいませ!本日は超美形デュオ『カノーツ&エイカー』の歌謡ショウを行っております。存分にお楽しみ下さい!」
皆が『カノーツ&エイカーって誰?』と顔を見合わせる。

受付を抜け更に奥へ入ると、ステージ付きの酒場を豪華にした感じの造りになっている。
ショウを観ながら飲食…主に飲酒をする為の施設の様だ。
偶々なのか、あまり客は入って居らず、カノーツ&エイカーの熱狂的ファンの女性 (ケバ目の中年)等が居るだけ…
従ってアルル達はステージ前の最前列に座る事が出来た。

ステージには、中央やや右にグランドピアノが配置してあるが、誰も演奏してはおらず飾りと化している。
そしてその横には、多少美形の男二人が歌を歌い酔いしれている…お世辞にも『超美形』とは言い難いし、歌も今一である。

そんな『カノーツ&エイカー』を見たアルル・ハツキ・ビアンカ・マリーが、一斉に大声を上げたではないか!
「「「「あー!!何時ぞやのナンパ男!!」」」」
あまりの大声に歌は止まり、熱烈なファンの方々から殺意を込められた目で睨まれる。

「な、何!?ビアンカ達のお知り合い?」
いきなりの出来事に流石のリュカも戸惑い、身内女性4人を見回した。
「「ロマリアで、「「ダーマで、ナンパしてきた勘違いバカよ!」」」」
声のボリュームを下げることなく、カノーツ&エイカーを指さし罵声を浴びせる4人。

「何が『超美形デュオ』よ!大して美形じゃないじゃない!歌も下手だし!」
マリーの言葉に他3人も大きく頷く。
彼女等の価値観は、リュカ・ティミー・ウルフが基準となっている為、評価が辛くなるのだが、一般的に見ればカノーツ&エイカーは美形である…『超』ではないが。
また歌唱力については水準以下であるのだが、ファンの方々からすると『可愛いから許しちゃう♥』と言う事であり、異様に上手いリュカと比べるのは酷な事であるのだ!

しかし熱烈なファンにしてみれば、憤慨するのに十分な状況であり、一斉に彼女等の元へと集まってきた!
「ちょっと!私達の『カノーツ&エイカー』ちゃんが、美形じゃないってどういう事よ!」
これまた美形とは程遠いファンの一人が、更に遠退く様な顔つきでマリーに詰め寄り脅し出す。
「美形じゃないわよ!この人の方が遙かに美形だし、歌だって超上手いのよ!」
そう言って『ドルイド』の親戚の様な顔の女性に、リュカを付き出して勝ち誇った様に言い放つ!

「くっ………た、確かに良い男だけど…う、歌は聴いてみないと分からないじゃないのよ!言うだけなら何とでも言えるわ!歌ってみなさいよ!」
「望む所よ!リュカ、アナタの歌声を披露してあげてよ!私、貴方の歌を聴きたいの♡」
自分の夫を自慢したいビアンカは、リュカに擦り寄り可愛くお願いする。

当初は戸惑っていたリュカも、ビアンカのお願いである事と、元来のノリの良さでステージに上がる事に…
身内以外からは強烈に睨まれながらも、リュカは意に返さずピアノの前の椅子に座り、ピアノを弾き始めた!
妻も驚くその行動…つまり弾き語りである!
流暢なピアノのメロディーと共にリュカが歌うは『瞳を閉じて』…
ピアノの甘い音色と、切ない歌詞…
リュカの絶世とも言える容姿に、そして喩えようのない歌唱力。

そして気付けば、先程まで敵意丸出しだった女性方が、皆一様に聞き惚れてるではありませんか!?
リュカは歌い終わり立ち上がる…と、会場内からアンコールの声が響き渡る。
最初は流石に遠慮しようとしたのだが、うっとりする妻の表情が目に入り、またピアノに向かい直した。
そして次の曲目は『どんなときも。』…更には『少年時代』と歌い上げ、ステージを後にする。

ステージを下りたリュカは、先程までは『カノーツ&エイカー』のファンだった女性達に囲まれ、揉みくちゃにされている。
一人としてリュカの好みの女性が居ない為、心底困っていると妻が人垣を掻き分け近付き、熱烈な口吻を披露する。
「流石、私の旦那様!最高のステージだったわよ!」
何の事はない、自分の夫であると自慢したかった様だ。

皆の元に戻ってきた父にマリーが…
「ピアノを弾けたの?…何でもアリなのね…か、格好いい…」
リュリュやリューナがリュカを見る時と同じ瞳で見つめてる。
それを目の当たりにしたウルフは、リュカに対し、

「ズルイよリュカさんは!美人の奥さんに愛人も何人か居るのだから、マリーの心まで持って行くのは止めてよ!」
と、嫉妬心を露わにした。
それを見て苦笑するリュカ…

ティミーなどは不安になりチラリとアルルを見ている。
それに気付いたアルルは、ティミーの手を取り囁いた。
「安心してティミー。私にはアナタの方が格好良く感じてるから♡」
アルルの言葉にホッとするティミー。
「良かったなティミー!僕は血の繋がらない娘に言い寄られたら、手を出しちゃうからね…注意してないと、自分の弟か妹を子供と勘違いして育てる事になるぞ!」
息子をからかい笑うリュカ…
本気で青ざめアルルの手を握り締めるティミー…
見方によってはラブラブなのだが、まだまだ先は長そうだ。



因みにステージ上ではカノーツ&エイカーが、ショウの続きを行っているのだが、ほぼ誰も興味を示していない。
彼等はこの日を境に、この劇場から姿を消した…



 
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