ウルトラマンカイナ
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過去編 ウルトラレグルス&ドクテラファイト
前書き
◇今話の登場ウルトラマン
◇鷹村隼人/ウルトラマンレグルス
別次元の地球を守護している宇宙警備隊の一員であり、ウルトラマンエナジーの師匠でもあるレッド族のウルトラ戦士。両腕と両脚に銀色のラインが入った真紅のボディの持ち主であり、必殺技は両手を合わせ腰に引いた後、両手を上下に開いた形で前方に突き出し、掌から光線を発射するレグルロア光線。かつて別次元の地球を救うために戦った際、依代にしていた大学生の姿を借りている。外見の年齢は21歳。
※原案はサンシタ先生。
◇三蔓義命/ウルトラマンドクテラ
別次元の地球を守護している宇宙警備隊の一員であり、ウルトラマンレグルスの師匠でもあるシルバー族のウルトラ戦士。他のシルバー族よりも銀の比率が高い身体であり、必殺技は左腰から手裏剣を投げるように、光輪状のエネルギーを放ち相手を切断するエクセシウム光輪。かつて別次元の地球を救うために戦った際、依代にしていた研修医の姿を借りている。外見の年齢は24歳。
※原案はX2愛好家先生。
テンペラー軍団の襲来から、約3年前。絶え間なく地球を襲う怪獣や異星人達の侵略を阻止するべく、覇道尊ことウルトラマンエナジーが先陣を切って戦っていた頃。
『よく見るがいい、地球人共! お前達の希望……ウルトラマンエナジーは、このラスヴァーダの前に敗れ去った! この地球はたった今、我々バルタン星人のものとなったのだッ!』
人類の希望を背負い戦い続けていたエナジーは、「宇宙忍者」の異名を取る伝説の宿敵――「バルタン星人」との戦いで、敗北を喫していた。ラスヴァーダと名乗るバルタン星人の戦士は、勝鬨を上げるように己の鋏を天高く掲げている。
夕焼けに彩られた東京の市街地を遥か上空から見下ろしている、ラスヴァーダ率いるバルタン星人の宇宙船団。その艦艇から逆さ吊りにされているウルトラマンエナジーは、全てのエネルギーを失い身動きひとつ取れない状態であった。
四肢を拘束され、十字架に縛り付けられているその姿は、誰の目にも明らかな「完敗」の2文字を突き付けている。
『明日には貴様らの頭上に、八つ裂きにしたエナジーの骸を叩き落としてやる! それが我々の勝利宣言となろう! せいぜい震えて待つがいいッ!』
絶望に打ちひしがれた表情で、その光景を仰ぐ都民に告げられた非情な予言。それを耳にした力無き人々の間には、どよめきが広がっていた。
逆さ吊りにされたエナジーを連れて、遥か宇宙の彼方まで飛び去ってしまった船団が姿を消した後。その動揺は、最高潮に達する。
「お、おい……どうするんだよ、どうなるんだよ俺達……!」
「BURKも負けて、エナジーまで倒れちまったら……もう、どうしようもねぇじゃねぇか……!?」
「……じゃ、じゃあ私達、ホントにあいつらに支配されるしかないってこと……!? 冗談でしょっ!?」
「と、とにかく今からでも逃げないと! 明日にはエナジーがバラバラにされて降ってくるんでしょっ!? ここに居たら危ないじゃないっ!」
「逃げるって……どこに逃げりゃいいんだよぉっ!」
際限なく広がり行く動揺はパニックを呼び、そのパニックがさらなる混沌を呼ぶ。やがて阿鼻叫喚の渦に飲み込まれた都民は、少しでも遠くに離れようと逃げ惑い始めていた。
空港に殺到した人々は冷静さを失うあまり、飛行機の翼や機体にまでしがみ付いている。船団が居た空域の真下に相当する地域は、10分も経たないうちに静寂に包まれていた。
「……」
その中央に位置する公園で独り、鋭い表情を浮かべて去り行く船団を見送っていた青年は。研ぎ澄まされた刃のような眼を細め、悔しげに拳を震わせている。
そんな青年の背に歩み寄る、白衣を纏ったもう1人の男性は、彼の後ろから優しげに声を掛けていた。
「……さすがは『宇宙忍者』の異名を取るバルタン星人。その中でも屈指の武闘派と恐れられた、侵略軍司令官ラスヴァーダ……と言ったところですか。あなたが直々に鍛え上げた愛弟子……ウルトラマンエナジーすらも破るとは」
「ドクテラ師匠……」
「ここでは三蔓義命先生、ですよ。鷹村隼人君」
振り返った青年の唇に指先を当てると、白衣の男性も神妙な表情で天を仰ぐ。孫弟子の窮地を目の当たりにした彼の心中も、決して穏やかではない。
ウルトラマンエナジーの師匠である、ウルトラマンレグルス。そのレグルスが師事していた、ウルトラマンドクテラ。
彼ら2人はこの時、かつて自分達が依代としていた青年の姿と名を借りて、この次元の地球に訪れていたのだ。愛弟子にして孫弟子である、エナジーの危機を予感していたが故に。
「……申し訳ありません、三蔓義先生。弟子の失敗は俺の失敗です。俺がもっと、あいつをしっかりと鍛えていればこのような事態には……」
「隼人君。過ぎたことを悔いては前に進むことも、今在る生命を守ることもできません。それはあなたを弟子に取った時、最初に教えたことですよ」
「……はい」
ウルトラマンレグルスこと鷹村隼人は、己の不甲斐なさを責めるあまり拳から鮮血を滴らせていた。
医師として、それを見過ごすわけには行かなかったのだろう。ウルトラマンドクテラこと三蔓義命は、自然な手つきで隼人の手を取り、流れるように応急処置を施して行く。
あっという間に彼の手を止血した命は、穏やかにして毅然とした面持ちで、隼人と向かい合う。すでに彼の意図を察していた隼人は、命がこの先の「作戦」を語るよりも早く、深く頷いていた。
「すでに力尽きている今のエナジーでは、自力であの拘束から逃れることは叶わないでしょう。それに本来、別次元の宇宙を守らねばならない立場にいる私達も、長くこの次元の地球には留まれない」
「早急に『持ち場』に戻らねばならない俺達が、最速でエナジーを救出するには、やはり……」
「『ウルトラの星作戦』しかない、ということです。……やるべきことは分かっていますね?」
「当然です。我々の力で、『ウルトラの星』を創りましょう」
――「ウルトラの星作戦」。
かつて初代ウルトラマンとウルトラセブンが、「帰ってきたウルトラマン」ことウルトラマンジャックを救出する際に実行したとされる作戦の名である。
迅速かつ確実に、愛弟子を救出するため。偉大なる先人の知恵を借りることを決意した命と隼人は、夕焼け空を睨み上げると、各々の「変身アイテム」を取り出して行く。
「レグルスッ!」
「レグリスト」と呼ばれるブレスレットを装着した右腕から、鋭い正拳突きを繰り出すと同時に、隼人が叫び。
「ドクテラッ!」
ナイフ状のアイテム「トリアージャー」を鞘から抜刀した命が、雄叫びを上げて刃を空へと掲げる。
その透き通るような叫びが引き金となり、それぞれのアイテムから放たれる光が、2人の全身を飲み込んでいく。やがて無人となった市街地の中央に、新たなる光の巨人が「ぐんぐん」と拳を突き上げ、降臨するのだった。
両腕と両脚に銀色のラインを描いている、真紅のボディ。そしてウルトラセブンに近しい顔立ちでありながら、ゾフィーの様な楕円形の眼を持つ――レッド族のウルトラ戦士「ウルトラマンレグルス」。
他のシルバー族より、銀の比率が高いボディ。それに加えて頭部の一部と、肩からカラータイマーを通って腰に続くラインに赤い差し色を滲ませている、シルバー族の戦士――「ウルトラマンドクテラ」。
『行きますよ、レグルス。シュアァッ!』
『はい、師匠! ……イヤァアーッ!』
彼ら2人は変身した瞬間、即座にマッハ9という超音速で地を蹴り、船団を追って宇宙へと飛び出して行く。
その際に発せられた絶大なエネルギーは、光り輝き天を衝く2本の巨柱となり、遠方から目撃した人々を驚愕させていた。
「な、なんだぁっ!?」
「光の、柱……!?」
それがウルトラマンの出現に伴う現象であることなど、知る由もなく。逃げ惑っていた人々は騒ぐことすら忘れて、眼前に映る巨大な光の柱に、ただ目を奪われるのだった。
そして、2人の変身から10秒も経たないうちに。両手を広げて宇宙を飛翔していたドクテラとレグルスは、即座にラスヴァーダの船団を捕捉する。
船団に属しているバルタン星人の戦士達は、そのあまりにも早すぎる追撃に動揺しつつも、すぐさま迎撃に動こうとしていた。
『超高エネルギー反応接近! ウ、ウルトラ戦士ですッ!』
『何ィッ!? そんなバカな、ウルトラマンエナジーの他にも即応出来る戦士が居たとでも言うのかッ!?』
『ええいッ、各員戦闘配備ッ! 奴らの狙いはウルトラマンエナジーだ! 決して接近させるなッ!』
エナジーを拘束している十字架。それを牽引している宇宙船から、続々とバルタン星人が飛び出して来る。
彼らは鋏状の両腕から破壊光弾を連射し、ドクテラとレグルスを必死に牽制していた。だが、2人はその弾幕を軽やかに掻い潜り、瞬く間に距離を詰めて行く。
『イヤァアーッ!』
『シェアァアッ!』
レグルスの宇宙拳法が唸り、ドクテラの光線技が閃くと。彼らの行く手を阻むバルタン星人の群れは、紙切れのように吹き飛ばされて行った。
如何なる精強な戦士達の心も、一瞬にしてへし折るほどの圧倒的過ぎる戦力差。その隔たりの深さは、誰の目にも明らかであった。
『く、くそォッ! あんな雑魚1人のために、なんだってこんな奴らが出て来てやがるんだよッ!』
『……俺の弟子を愚弄するとは、いい度胸だ。エナジーを救出することだけが目的だったが……気が変わった』
『……全滅して頂きましょう』
2人の力を目の当たりにしたバルタン星人の1人が戦闘中に零した、失言。
それを聞き逃さなかったレグルスの眼に、殺意にも似た闘志が宿る。穏やかな口調を崩していないドクテラまでもが、その声色に確かな憤怒を滲ませていた。
それから、より2人の攻撃は激しさを増し。バルタン星人の宇宙船団は戦闘開始から2分足らずで、ドクテラの宣言通りに全滅してしまうのだった。
邪魔者がいなくなったことを確認したレグルスとドクテラは、互いに頷き合うと拘束されたエナジー目掛けて、それぞれ別方向から急接近していく。
『甦れ、エナジーッ!』
『あなたはまだ、倒れるわけには行かないのですッ!』
そして、×字を描くように双方がエナジーの傍らをすり抜けた瞬間。中心点から発生した膨大な光エネルギーがエナジーを包み込み――その赤い身体を、復活させて行く。
『レグルス師匠、ドクテラ師匠ッ……! う、おぉおおぉおッ!』
ウルトラ戦士達の故郷であり、生命の源でもあるウルトラの星。その星の力を人為的に再現するこの秘術を以て、エナジーはついに息を吹き返したのだった。
身体の中から噴き上がる凄まじいエネルギー。その余剰分を吐き出すかの如く、エナジーは自身を捕らえていた十字架の拘束を、力任せに引きちぎって行く。
『成功ですね……!』
『……ふん、つくづく世話の焼ける弟子だ』
『レグルス師匠、ドクテラ師匠……ありがとうございます! 俺が至らなかったばかりに……!?』
かくして、バルタン星人の拘束から脱出することに成功したエナジーは、師匠達との予期せぬ再会を果たしたのだった。だが、戦いはまだ終わっていない。
『貴様らァアッ!』
『ラスヴァーダ……! くそッ、今度こそ決着を付けてやるッ!』
『あの時、手も足も出なかった若造が何を偉そうに……! 貴様ら、よくも我が同胞達を可愛がってくれたな! もはやこの怒り、貴様らの首だけでは到底収まらん! 地球の人間全てを根絶やしにして、我がバルタン星人の植民地としてくれるわッ!』
初戦でエナジーを打倒し、十字架に張り付けたバルタン船団のリーダーこと、ラスヴァーダ。その男がついに、3人の前に再び姿を表したのである。
彼は宇宙忍者の異名に違わぬ影分身によって、無数の幻影を生み出すと、3人を完全包囲する。そして決して逃すまいと、全方位から破壊光弾を連射するのだった。
『……フン。どれが幻か実体かなど、瑣末な問題よ。俺の前には、そのようなまやかしなど通用しないと知れッ!』
だが、レグルスは全く動じることなく、エネルギーを充填させた両手を合わせ腰に引き、より力を凝縮させて行く。
『レグルロア……光線ッ!』
やがて、両手を上下に開いた形で前方に突き出した瞬間。その掌から、眩い光線が発射されるのだった。
レグルロア光線と呼ばれるその閃光は、迫り来る光弾を瞬く間に撃墜してしまう。さらにレグルスは発射体勢のまま身体を回転させ、全方位の幻影を光弾もろとも、一気に薙ぎ払っていた。
『おッ……おのれぇえぇッ! 我が侵略を阻むウルトラ戦士共めがッ! こうなれば、1人でも多く道連れにしてくれるわァアッ!』
その掃射から唯一逃れていたバルタン星人は、レグルスを避けるようにドクテラとエナジーに迫る。それは紛れもなく、幻影ではないラスヴァーダの「本体」であった。
『……あなた達の野望に「侵略」の2文字がある限り。その願いが叶う日は、未来永劫訪れないでしょう』
破壊光弾を連射しながら、猛接近して来るラスヴァーダ。その仇敵を討つべく、ドクテラはエネルギーを充填させた両腕を左腰に当て、腰だめの姿勢に入る。
『エクセシウム光輪ッ!』
そこから、右手で手裏剣を投げるように。「エクセシウム光輪」と呼ばれる光輪状のエネルギーが、勢いよく放たれたのだった。
『が、ぁッ……!?』
『エナジー、今ですッ!』
『はいッ! ……エナジウム光線ッ!』
悲鳴を上げる間も無く、ラスヴァーダの身体が真っ二つに両断される。そして寸断された半身は、復活したエナジーによる「エナジウム光線」によって、跡形もなく消し飛ばされたのだった。
かくして、ラスヴァーダ率いるバルタン星人の宇宙船団は全滅し。今回の事件は、3大ウルトラマンの完勝に終わったのである。
『レグルス師匠、ドクテラ師匠……ありがとうございました。俺が未熟だったばかりに……』
『ふん。これを貸しだと思うのなら、この先の戦果で返して行くのだな。鍛錬を怠るなよ』
『さぁエナジー、あなたも地球に帰りなさい。早く人々に、元気な姿を見せてあげるのです』
『……! はいッ!』
その後、エナジーはドクテラに促され、すぐに地球に向けて飛び去って行くのだった。これから逞しく成長していくであろう孫弟子の背を、ドクテラは宇宙の彼方から穏やかに見守っている。
一方で、レグルスは神妙な様子でドクテラの横顔を見遣っていた。その胸中には、とある「懸念」が渦巻いている。
『……ドクテラ師匠、本当によろしかったのでしょうか。エナジーの奴に、何も伝えないままで』
『ラスヴァーダの船団が、たったあれだけの規模で地球を征服しようとしていたことですか』
『えぇ。……恐らく奴らの目的は、自分達の移住先に適している地球が「終末」を迎える前に、侵略を終えて来るべき「決戦」に向けた準備を進めるためだったのではないかと。そうでなければ、機動力にのみ特化した船団で地球に現れたことへの説明がつきません』
今のこの瞬間も、刻一刻と地球に迫りつつある「終末」。それを齎す絶対的破壊者達の影は、2人もすでに感知しているのだ。
『テンペラー軍団……この次元の宇宙における、最強最悪の殺戮集団。奴らは近いうちに必ず、地球に現れるでしょう。エナジー達にもその存在を教えておくべきでは……?』
『今知らずとも、いずれは知ることになりますよ。……私は信じています。あなたが育てた彼ならば、必ずやこの地球を守り抜いてくれると』
『ドクテラ師匠……』
その脅威を知る上で。孫弟子達の勝利を疑うことなく、ドクテラは悠然と腕を組み、蒼い星を静かに見つめている。
◇
それから、約3年後。
彼の予言通り、ウルトラマンエナジーを含む新世代の若獅子達は、その成長を証明するかの如く、テンペラー軍団を打倒するのだった――。
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